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おいこら、毛玉。
なんでそんなに寛いでるのかな?
わたしはフェルくんの背中から降りると、だらしない顔のアセナさんに詰め寄る。
"おお、ユウリ。遅かったではないか"
当のアセナさんから帰ってきたのは呑気な返事だった。
はぁ!?こちとら拘束されたって聞いてあの世一歩手前の死に物狂いで来たんですけどっ!?
"そ、そうだったのか"
そんな怒りMAXのわたしとわたしの勢いに圧されまくりのアセナさんの間に小さな影が割り込んだ。
「アセナをいじめないで!」
小さな影はいつぞやの夢で見た小さな英雄くんだった。
さらにその後ろには2人の英雄さんたちが身構えている。
え?これ完全にわたしが悪じゃない?
全くもって解せんぞ。
しかも英雄さんたちが身構えたことでシルバくんとフェルくんが臨戦態勢をとる。
ちょ、待って、待って。
一触即発な雰囲気になってしまったのでなだめようとしたその時だった。
小さな英雄くんがとんでもない一言を発した。
「アセナが言ってた鬼ばばめ!」
・・・鬼、ばば?
小さな英雄くんの発言により部屋の気温が一気に下がり誰も動くこともできず、部屋を恐怖が支配する。
アハハ。ごめんねぇ。
良く聞こえなかったから、もう一度言ってくれるかなぁ?
本来ならここは大人しく沈黙を貫くか誤魔化すところだが、11才のお子ちゃまにはそんなことができるはずもなく、英雄くんはビビりながらも叫ぶ。
「や、やっぱり鬼ばばだぁ!」
・・・
だ・れ・が
鬼ばばじゃあっ!!!
突如暴れ出したわたしを先程まで臨戦態勢だったシルバくんが前から、フェルくんが後ろから羽交い締めにする。
ええい!離さんかい!
いくらお子ちゃまでも言っていいことと悪いことがあるだろがい!
そんなわたしに向かっていく小さな英雄くんは半泣きになりながらも鬼ばばを連呼してくる。
そんな大暴れするわたしの前にこれまた小さな影が飛び出してきた。
それはジャンヌちゃんで、
「おにばば、ちがうっ!ゆうりさま、ごめんなさい、してっ!」
と今にも零れんばかりに目に涙を浮かべて小さな英雄くんにくってかかった。
その姿にわたしは感動して、普段ではあり得ない力でシルバくんとフェルくんを振りほどくと、ジャンヌちゃんを抱き締めた。
「くるちい」
ああ、またやってしまった。ごめんよ。
と言って今度は優しく抱き上げる。
「ゆうりさま、おにばば、ちがうもん。」
そう言って胸にすり寄ってくるジャンヌちゃんに母性が爆上がりしているすきに緑木さんが英雄たちを説得。
シルバくんとフェルくんがアセナをボコボコにし、ハンサ親子は我関せずと隅で寝ていた。
そんな混沌と化した部屋に遅ればせながら到着した教皇様と聖女様方が懸命に事態を収拾してくれたおかげで、ようやく話ができる状態になった。
・・・・・
しかし、気まずい空気の中が漂うなか中々話そうとするものはおらず、仕方なくわたしが仕切ることにした。
えー、まずは自己紹介から。
わたしの名前は鬼ばばではなく、咲来結織と申します。
ちなみに皆さんと一緒に召喚されました。
この度、緑木さんからの要請により英雄の皆さんを助けるべくアセナを派遣した者です。
そんなわたしの大人げないトゲトケしい自己紹介に申し訳なさそうにしていている英雄さんたちを改めて見る。
皆さんが無事に教国に辿り着けて、本当に良かった…
その言葉は嗚咽で上手く言えず、わたしは無事に再会できたことに安堵してその場に泣き崩れたのだった。