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声が聞こえる…
真っ暗闇のなか、微かに聞こえてくる声に耳を傾ける。
だんだんと鮮明になる声。
「ーー様っ!聖母様っ!」
はっきりと聞こえた言葉にわたしは反射的に叫んだ。
わたし、聖母じゃありませんっ!
はっ!
ここはどこ?わたしはだれ?
バチンっ。
頬に衝撃がはしり、その場に屈みこむ。
痛っっっ!めっちゃ痛い!
誰だ殴ったのは!?親父に殴られたときとよりも痛いわっ!
頬を押さえ涙目になりながら、殴った人物を見れば案の定シルバさんだった。
文句を言おうと開いていた口を慌てて閉じる。
うん、なんとなく分かってたけどね。
でもさ、他にも方法あった気がするんだ。
肩揺するとかさ…
いや、前後不覚になったわたしが全ていけませんでしたね。
モウシワケゴザイマセンデシタ。
しぶしぶ、痛む頬にヒールをかけて何事もなかったように立ち上がる。
「だ、大丈夫でごさいますか?」
誤魔化すために何のことでしょうと笑顔で返す。
「えっ、でも、その、頬を、えーと…」
全てを無かったことにしようとして必死に考えたわたしの取り繕いの態度に王女様は少々混乱していた。
「・・・」
視線を感じてそっと横目で視線のもとを辿れば物凄い形相でこちらを見ているシルバさんがいた。
うん、この返答はダメだったか。
すぐさま混乱している女王様に大丈夫です、ご心配ありがとうございます。と言ってシルバさんの顔を再度横目で見れば笑顔で頷いていた。
こっちが正解か…
いやいや、正解ってなんやねん。
でも、これで外したらどんな仕打ちが待ってるか…
考えるだけで冷や汗が止まらないぜ。
わたしの葛藤に気づかない女王様は
「本当に、その、大丈夫でしょうか?」
と心配してくれたのだが、視線が頬じゃなくて頭を見ているのは気のせいということにしてあげよう。
とりあえず何も問題ありませんと何もの部分を強調して返事をしておいた。
とまぁ、お戯れもここまでにして本題に入りましょう。
そもそもこの国に王女なんてもんがいるなんて今まで聞いてませんけど。
「どこからご説明いたしましょうか…」
その昔ペシルマシーネは国王がすべてを取り仕切っていたそうだが、およそ200年前にその当時の国王が国民に政権譲り今のかたちになったそうだ。
別にクーデターが起こったわけでもなんでもなく、国の主導が国王から国民に移ったわけだが、何故譲ったか等は全く不明。
そして国王は表舞台から姿を消したのだが、その後も血脈は受け継がれ共和国の国民達の心のよりどころとして存在し続けているそうだ。
「今では王女と申しましても、名前だけのお飾りでございます。」
オ、オウ。ソウナンデスネ。
今回わたしたちが共和国で色々とゴタゴタに巻き込まれたことによって、全てがブラックシャドウである王女様の知るところとなった。
表だって出るつもりは全くもってなかったそうだが、陰ながら自分にも手伝えることがないかと思って代表者を訪ねてくれば、下手をすれば国そのものがなくなりかねない状況にいてもたってもいられなくなって、後見人を申し出てくれたそうで。
確かに、国民に慕われてる王女様がバックに着いてくれれば心強いけど、その前に一つ気になるのだけど王女様よ。先程から何故そんなにお目めがキラキラしてるのかな?
「だって試練を乗り越えようと奮闘する若者を陰ながら支えるなんて、まるで物語の登場人物みたいではありませんか!なんて素敵なんでしょう!」
・・・・・
使用人の人たちの過保護ぶりをみるに、よっぽど刺激に飢えていたんだろう。
ま、本人がノリノリだからいっか!
それじゃ、お言葉に甘えてお願いします。
「お任せくださいませ!悪の手から若人達を必ずやお守りいたします!」
こうして、そっくりさんたちにはこの国である意味一番最強の後ろ楯ができましたとさ。
めでたし、めでたし。
でいいんだよね?