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わたしはあまりの衝撃にフラフラと歩きながら進む。
衝撃の原因であるゆみちゃんはニコニコしていた。
それは小悪魔的な笑みではなく優しい微笑みだった。
広い部屋を進みだんだんと距離が近づいていくにつれて歩が早くなっていく。
そして駆け足くらいまでスピードアップしたわたしはその勢いのままゆみちゃんに抱きつこうとして失敗した。
自分の足を踏むという失態をおかして床に倒れこんだのだ。
倒れた瞬間顔面を打ち付けたわたしは床を転がった。
打ち付けてさらに擦りむいた顔面がめっちゃ痛い。
若干痛みが引いてくると今度は空気が痛々しくて、明らかにみんながドン引きしているのをヒシヒシと感じる。
手で顔を覆いこの状況をいかに打破するかを必死に考え、うつ伏せのまま動かなくなったわたしを温かなものが包んだ。
その温かなものはゆみちゃんはが発動したと思われる『ヒール』だった。
もうこれ以上うつ伏せでいるのは無理と判断したわたしは、恐る恐る顔をあげる。
顔をあげたわたしの視界に、少しだけ目に涙を浮かべた笑顔のゆみちゃんが映る。
「せんぱい、大丈夫ですか?」
あの頃と変わらない声にわたしは溢れる出るものをそのままにゆみちゃんを力一杯抱きしめ、その温もりを感じて号泣した。
久しぶりにギャン泣きしたわたしは、現在ゆみちゃんの後ろに隠れている。
いやぁ。今なら恥ずかしすぎてて死んでまうわ。
普段あんなに素直に感情を表に出すことなんかしてなかったから、みんなも少なからず驚いたようで…
うん。そんなとてつもなく珍しいものを見た!みいたいな目で見ないでくれるかな。
このものすごい気まずい空気を変えたのは、マダムだった。
「うぐっ、すん、ぐすっ、ずるっ」
今まで空気と化していたマダムが急に激しい嗚咽をもらしながら泣き出したのだ。
そしてその嗚咽はどんどん大きく酷くなっていき、マダムは過呼吸になったのだろうか。
バターン
突然倒れた。
「きゃーっ!奥様っ!」
バターン
部屋にいたメイドさんが倒れたマダムの姿をみて悲鳴をあげて卒倒した。
おいー!お前もかーい!
そのあとは阿鼻叫喚だった。
バンっ!
「何事ですかっ!?」
その悲鳴を聞いた屋敷の使用人が一挙に駆け付けてきて、倒れてるマダムとメイドさんを発見。
脇にいたわたしをマダムたちをコロコロした犯人と勘違いした。
「奥様を害したのは貴様らかっ!」
「おや、話も聞かずに勝手な憶測でそのような疑いを持たれるとは心外ですね。」
「なんだとっ!?この状況でしらを切るつもりか!おい!こいつらを捕らえるぞ!」
「しらを切るもなにも、私達はなにもしておりませんよ。しかし、そちらが実力行使されるというのならこちらもそれ相応の対応をさせていただきます。」
「我々をただの使用人と侮るなよ!かかれー!」
「警告はしましたよ。私達を相手にしたことを後悔しなさい!」
何故か使用人側とシルバくんたちの言い争いが乱闘へと発展。
いやいや、落ち着いて!
誰も死んでないから!
シルバくんたちも落ち着きなさいよ!
慌てて止めようしたわたしは果敢にも乱闘の中に突っ込んでもみくちゃにされボコボコに殴られた。
痛っ!痛いって!
おい、やめろって!
こら、やめろって言ってるでしょうが!!
ドガーン!
結果、キレて水魔法を発動して部屋を破壊した。
部屋が広かったので宿のときのように流されることはなかったが、突然の出来事に呆然とするみなさん。
「キャーッ!!!」
バタン
そんな中水がかかって目を覚ましたのか、マダムは部屋の惨状を見て悲鳴をあげてまた倒れた。
・・・
沈黙が支配し、部屋にいたすべての人の視線がわたしに突き刺さる。
わたしは倒れ込むように床に額を打ち付けて土下座した。
も、申し訳ごさいませぇんっ!!!
ちなみに、ゆみちゃんは魔法で防御したのか被害を免れていました。
感想をいただきまして、ありがとうございました。
これからも皆さんに楽しんでもらえるように頑張りますので、よろしくお願いします!