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"ユウリ!何処にいっておったのじゃ!"
部屋に戻るとアセナが慌てて近寄ってた。
あ、ジュリエットのこと忘れてた。
お子さんたちに解放してもらい急いでベットに向かう。
ここはわたしの破壊に巻き込まれなかった数少ないの場所の一つだ。
ベットでは上半身を起こしてジュリエットが窓の外を見ていた。
その姿に違和感を感じる。
とりあえず、痛いところなどがないが確認すべく話しかける。
「あの、どちら様でしょうか?」
衝撃の一言だった。
おう…まじか。
これは記憶喪失ってやつかな。
えーと、自分の名前は?
フルフル
ここが何処かは?
フルフル
ロミーナは自分の名前もここが何処かもわからなくなってしまったようだ。
わたしは慌てて部屋を飛び出してジュリアンを呼ぶと、ただ事ではないと思ったようでものすごい勢いで走ってくる。
あ、めっちゃ怖い。
わたしが慌てて部屋に入ったと同時にジュリアンが風のように脇を通りすぎてロミーナの元に到着する。
「っ!」
「ロ、ロミーナ…」
突然の来訪者に怯えるジュリエットの姿に愕然とするジュリアンが小さな声で名前を呼ぶ。
しかし、ロミーナは困惑するだけで返事はない。
「ロミーナ!僕だ!ジュリアンだよ!」
「キャッ」
現実を受け入れられないロミオはジュリエットの肩をつかみ必死に呼び掛ける。
それは突然だった。
「痛いっ!」
ゴッ
初めはジュリアンの勢い怯えていたロミーナだったが掴まれた肩が痛かったのだろう。
ジュリアンの顔面に拳をめり込ませたのだった。
ワァオ。
いい、パンチ。
「〜っ!」
ゴロゴロ
ノーガードで拳をくらったジュリアンは声にならない声を上げ、顔面を押さえ床に転がった。
その様子を氷点下の眼差しで見つめるロミーナ。
「人肩をいきなり掴んで無理矢理思い出させようとするとするなんてなんなのっ?!」
怒り心頭、かなりご立腹である。
ジュリアンとしては思い出してほしいという思いからの行動だったが、記憶がない人間には恐怖と迷惑でしかなかったようだ。
そして痛みを堪えながらよろよろと立ち上がったジュリアンは、無言のまま部屋から出て行ってしまった。
すれ違い様に見えた目には痛みからなのか、ロミーナの言葉によるものなのかはたまた両方か分からないがうっすらと涙が浮かんでいた。
ジュリアンがいなくなり、わたしとロミーナだけになった部屋には微妙な空気が漂っていた。
とりあえず掴まれた肩に『ヒール』をかけようと声をかけると、ロミーナがいきなり号泣した。
「うわぁーん!ジュリアンごめんなさい!」
なんと、ジュリアンの涙を見た瞬間に記憶が戻ったようで…
なんちゅうタイミングや。
しかし殴ってしまったことを後悔しながらも、自分を思ってだとしてもジュリアンには優しく記憶が戻るまで待つとか、なんなら記憶なんか戻らなくてもいいぐらいな感じでいて欲しかったと要望が止まらなかった。
うん、女心は複雑ですね。
こういう時はな。なんも考えずに寝るのが一番やで。
わたしの助言に頷くと、言うだけ言って少しスッキリしたのかはたまたいろんな事が起こって疲れていたからか、ロミーナは目を閉じて眠りに着いた。
アセナにまたロミーナを任せると、わたしは部屋を出ていったジュリアンの元へ向かうことにする。
もちろん、顔面に『ヒール』をかけるためだ。
ジュリアンは部屋を出てすぐのところで、号泣してみんなに慰められていた。
わたしはそっと近寄って『ヒール』をかける。
ジュリアンは無理矢理記憶を取り戻そうとしたことを後悔しながらも、いくら記憶がないからといっていきなり殴られたこと、氷点下の眼差しにどれだけ傷ついたかと愚痴がとまらなかった。
うん、よかれと思ったんだよね。
こういう時はな。なんも考えずに寝るのが一番やで。
わたしの助言に頷くと、言うだけ言って少しスッキリしたのかはたまた色々とショックで疲れていたのだろう、ジュリアンは目を閉じて眠りに着いた。
お願い。今は何があったかは聞かないで。
わたしも何にも考えずに寝たいくらいいっぱいいっぱいだから。