1、はるばるきたぜ異世界〜
まさか自分が奴隷を買うなんてこと想像もしてなかったわぁ…
でも生きていくためには仕方がないのよ、結織!
とりあえず必要最小限の知識というか、この世界の常識とか簡単に死なない程度の自分の身を守れる強さが得られたら解放してあげればいいんだから!
まぁ、それならそんなに長くかかるもんじゃないだろうし。
今さらあーだこーだ考えても、もう買っちゃったんだから仕方ない。
最後まで責任を持って面倒見ますよ!
あ、いや、私が面倒みてもらう立場か…
「これで契約は完了です」
一人であれこれ考えている間にあっという間に契約が終了したようで、私の前には二人の男性が頭を下げている。
実際は頭を下げているわけではなく、正しくは横たわってた。だけどね
さて、ここでなぜ私が奴隷を買うことになったのか経緯を説明させてほしい。
まず、一番重要なことをお伝えしたい。
ここは、日本じゃない。
なんなら地球ですらない。
じゃぁいったいここは何処なんだって?
正解は…
剣と魔法が基本のいわゆる異世界ってやつです!
街を歩けば色んな髪の色の人やら、ケモミミやらちょっと人とは言えないような人もいたり。
しかも話によれば一度町の外に出ればモンスターと呼ばれるものは出るし、盗賊もいるそうで…
なんなら最近は魔王なんてものが復活したらしい物騒な世界で、見た目の感じは中世ヨーロッパより少し発展してる感じだと思う。
そもそも中世のことをよく知らないんですけどね。
とりあえず今まで生活していた風景ではないことは確かなわけで…
現に、建物はコンクリートじゃなくて基本木造か石造りだしね。
聞けば、この世界では今からおよそ2000年前に、世界を我が物にしようと暴虐の限りを尽くしていた魔王の魔の手から世界を救うために4人の英雄が異世界より現れて、圧倒的な力で魔王を倒したあと、今に至るこの世界の礎を築いてくれたとか。
うーん。日本人でいったら日本書紀か古事記レベルの神話みたいなもんかな。
その平和が永遠に続くと思っていたところに、急に魔王復活の噂が出たそうで。
それを聞いて何を血迷ったのかユリアトルア大陸のベルニア帝国という国が魔王から世界を守るという名目で、この伝説の4人の英雄召喚の儀式を行うことを決めたそうな。
えー、ここまではいいかな?皆ついてこれてる?
ま、ついてこれてなくても続けますけどね!
なんやかんや言うても、流石に2000年前の神話の出来事を再現出来るわけなやろと誰もが思ってたけど…
信じられないことに成功しちゃったわけ
で、その召喚で呼ばれたのが私を含めて5人。
内訳はイケメン4人とアラサー女子1人。
なんとなくこの内訳で分かると思いますが、どう考えても英雄はイケメン4人で私は明らかに場違い。
いやぁ、あのときの空気、思い出しただけでも泣けてくるわぁ…
ま、泣いてないけど。
とりあえず、説明を続けさせてもらいます。
私たちを召喚したのはベルニア帝国のお姫様で、生まれもさることながら、魔法の腕も超一級。
そんでもって超絶美少女なアグリーナ姫。
「しょ、少々お待ち下さい」
ただ、4人の英雄を呼んだはずが1人おかしなもんが混ざってるもんだからその場にいた人達が部屋の隅に集まって緊急会議が開催されて、話がまとまった瞬間お姫様が泣きながら
「この世界を魔王の手からお救いください!」
と言うわけ。
こちとら状況も飲み込めてないのに、
何訳のわからないこを言ってんだと思ってたら…
「「「「任せてください!」」」」
男性陣からまさかの速攻でオッケーが出ましたよ。
いやいや、いくら可愛いお姫様にお願いされたからって二つ返事で何故そんなにやる気満々なのか、男ってのは本当にろくでもねーなと思っていると、とりあえず詳しい話をするのに場所を移動するということになったんですが、
「待て、そなたはこっちじゃ」
着いていこうと思ったら止められた。
そんで私だけ別の場所にって言われた。
えっ、なんで?!
焦りながら一緒に移動しようとしたが鉄壁のガードで動けず、出ていく人たちを強制お見送り。
だださ、振り返ったお姫様のお顔の悪いこと悪いこと…
その顔を見た私これはアカンやつだと確信したね。あたしの危機管理能力が。
ようは女のカンてやつですわ。30ピー年生きてきた今までの経験から本能がお姫様には関わるなと告げていた。
そうあれは勤めていた会社の後輩で小悪魔系トラブルメーカーのゆみちゃんがよくしていた顔だ。
あの顔をゆみちゃんがしたあとは大体ろくでもないことが起きて、何故かいつも私が巻き込まれていたもんですよ。
何度ゆみちゃんの替わりに謝ったり、怒られたりしたことか…
最後の方なんて刺されそうになったこともあったな…
さすがにそんな問題を起こしてしまったゆみちゃんは会社を退職することになりました。
色々巻き込まれて大変なことしばかりだったけど、私的にはなんだかんだで可愛い後輩だったし、好きだったんだけどね〜
「せぇんぱぁい、ゆみ悲しいですぅ。グスッ。あ、でもぉ、また絶対に会いましょうねぇ!」
うん。退職する最後の日もそんなこと言いながら実際は全然涙出てなかったし、最後はめっちゃいい笑顔だったしな…
そんなことを走馬灯のように色々思い出していると、
「ほれ、いくぞ」
おじいちゃんが声をかけてくる。
いきなり別行動となったけど大人しく従うことにした。
別におじいちゃんだけじゃなくて、兵士っぽい人にガッツリ囲まれてこ怖かったからとかでは決してないから!
連れていかれたのは執務室みたいなところで、私を連行していた兵士みたいな人たちが部屋を出ていくと、おじいちゃんがいきなり話始めた。
「あー、そなたの今後についてだが…」
色々話してくれた内容を要約すると。
今回の召喚はお姫様とお姫様お気に入りの呪術師とその他取り巻きによる独断で行われたことで、成功するとは誰も思ってなかったそうで。
お姫様がやるって聞かないもんだから、成功したらラッキーだし、失敗したら最近ワガママ放題のお姫様の色々を叱責する口実になるだろうってことで決行したら、結果はご存知の通り。まさかのまさかで成功。
私についてはお姫様的には直ぐにでもコロコロしたかったようだけど、呪術師をはじめとする色んな人達が一応異世界から召喚されたあたしを殺したらどんなことが起きるかわからないからコロコロは止めといた方がと言われて、近くにいたおじいちゃんに一任と言うなの丸投げをしたそうだ。
その際お姫様からお城に逗留させるようなまねは許さないって言われたらしい。
緊急会議ではそんな事話してたんだって。怖っ!
っていうか実はこのおじいちゃん、かなりの魔法の使い手で宮廷魔術師長なんていうそれなりに立場が偉い人だったんだけど、最近はお姫様が贔屓している呪術師おかげで肩身が狭いそうだ。
えーと、そもそも魔術師と呪術師ってなにが違うのさ。
そのあとはどっちも舌噛みそうだなとか、おじちゃんのヒゲ長いなぁとかどうでもいいことを考えて現実逃避しつつ、おじいちゃんの肩身が狭いっていう愚痴を延々と聞いていた。
ある程度愚痴ってスッキリしたおじいちゃんは、今後のことについては最終的に私の意見を尊重してくれると言ってくれたけど、明らかに関わりたくない様子が丸分かりだったからね。
実際愚痴に混じって
「儂としては関わりたくないんじゃが、姫様が~」
って本音がちょいちょい声に出てたからね。
ま、私としてもこのお城にいてもろくな事になりそうもないなって思ったので、お金くれればあとは自分でどうにかしてみますって言ったら、
「そうか!そうか!ではすぐに当分暮らすには困らないだけの金を用意しよう!」
と、まぁ喜んでお金くださいましたよ。
支度金ってことで金貨300枚をいただいて、めでたくわたしはお城から無事脱出した。
長居してお姫様とバッタリなんてことになったらどうなるかわかったもんじゃないのでお金を貰って速攻で城を出ました!