目指せ、就職!
まさかの二話
日を改めて、カイは異母兄弟と父を集めていた。
色々と小道具や服なども準備して、どこにどれだけの期間どの程度いるのか計画を建て終えていた。
「これから私達は、父上と付き合って人間界に向かいます。私達の事情に関しては、実際の立場以外は本当のことを言います。つまり父上の道楽で息子たちと一緒に、冒険者ごっこをするという事で」
神馬の顔がひきつっている。
確かに生活的余裕がある男が、小銭しか手に入らないような冒険者の仕事をするなど、冒険者ごっこであろう。
冷やかしみたいなもんである。
「名前も揃えましょう。全員苗字が違うのは無意味ですし、そもそも魔族の家名をそのまま名乗るのは無意味に諍いを起こすだけですし。つまり兄上は東日向、私は東甲斐、ノトは東能登、トカラはトカラ」
「カイ兄ちゃん、なんか俺だけぞんざいじゃない?!」
「冒険者として登録するには、職業というか役割を名乗る必要があるようです。兄上は戦士、私は魔法使い、ノトは僧侶、トカラと父上は遊び人」
「「ちょっとまて」」
人間の戦士らしい服装、武装を用意されているヒュウガ。
人間の魔法使いらしい服装、軽く長袖のローブを既に着ているカイ。
なにやら僧侶見習いらしい服を羽織ってみているノト。
それらに対して、道化者らしい奇抜な装飾のされている服を見て不満を顕にしている神馬とトカラ。
「なんでヒュウガとカイとノトはまともなのに、俺とトカラはネタなんだよ! なんの役に立つんだよ、遊び人!」
「父上、遊び人とはなんの役にも立たない人のことです」
「カイ兄ちゃん! 父ちゃんはともかく俺はもうちょっとは役に立てると思うぞ! 盗賊とかないのかよ!」
「お前に盗賊は無理だ。お前にはなんの価値も能力もない」
自分の父親と自分の異母弟を無価値と断じる次兄。
それに対して、長兄も四男も苦笑いである。
「お前はそれでいいのか?! 自分の父親が遊び人でいいのか?!」
「父上、ご自分の半生を思い返してください。遊び人以外のなんだというのですか?」
「……うん、そうだった。俺遊び人だった……遊び人以外の何者でもない、っていうか種馬だった……」
「そんなご自分を変えたいと思っていらっしゃるのでしょう。ご自分を直視してください」
自分の息子から言われた、自分の職業。
確かに種馬という職業がないのなら、遊び人が職業となるだろう。
直視したくない現実を前に、神馬は凹んでいた。
「カイ兄ちゃん、俺に盗賊が務まらないってどういうことだよ! 俺を盗賊に据えればものすごくいいかんじじゃん! 戦士魔法使い盗賊僧侶遊び人、ならいいかんじじゃん! 魔王とか退治できそうじゃん! なんだよ、戦士魔法使い僧侶、遊び人二人って!」
「魔王なら母上たちが既に退治している。それよりも、お前は盗賊という職業を理解しているのか? 盗賊とは宝箱の鍵を開けたりトラップの発見を行う役割だが、注意力散漫で集中力もないお前にそれができるのか。お前にそんな役割を押し付けるほど私が無能に見えるのか? 最初からなんの役割もない足手まといが二人いる、という前提なら私と兄上とノトで心構えが出来るからな。お前と父上の穴を埋めてなおあまりあるからな」
父親にもズケズケ言うが、弟にはもっとズケズケ言う次兄。
既に三男は涙目である。
「私と兄上が百人力として、ノトが一人前。お前と父上が負の要員と考えても、総じて百七十一人力ぐらいにはなる」
「俺と父ちゃんでマイナス三十人力ってどういうことだよ!」
「父上一人でマイナス三十だ。お前は正も負もない、無だ」
マイナス三十人力扱いされた父親は、冒険に出る前から精神的に敗北しかけていた。
冒険する前から家に帰りたかった、家から一歩も出たくなくなっていた。
「具体的にいうなら、私と兄上は三十人力ぐらいの労力を割いて父上を守らねばならない。ノトは自分の身ぐらいは守れる。そしてお前は死んでも困らない」
「俺放置?! 無ってそういうこと?! 死ねば無ってこと?!」
「母上たちからは父上のことを頼まれているが、お前のことは頼まれていない。妹たちの中には、気にしている者もいるが、まあ気にするな。私は気にしない」
「俺のことを気にしてくれ!」
しかし、三男は自分の無価値さを認めつつ、自分の保身に走っていた。
無価値でいいから、見捨てないでくださいと言っていた。
「まあそんなにいじめるなよ、カイ。トカラ、お前はノトと親父の近くにいればいい。そうすれば、結果的にカイも俺もお前を守れるからな」
「ヒュウガ兄ちゃん、それってあくまでも結果的じゃん! 俺のことを守ろうとは思ってないじゃん!」
「トカラ兄さん、そこは仕方がないよ。父さんは僕らと違って人間だから、すぐ死んじゃうんだよ。ヒュウガ兄さんとカイ兄さんは手がいっぱいなんだよ」
長男も四男も、父親のことを慰めつつ三男のことも諌めていた。
このままでは、冒険が始まる前に冒険が終わってしまう。
まさに会議質で冒険が終わってしまう、企画倒れに終わってしまう。
「それに、話がずれてるよ。トカラ兄さんは遊び人ってことでいいの?」
「……そうだな、そういう話だった……。親父はともかく、俺はなんか仕事が欲しい!」
トカラの訴えに、カイは蔑みの目を向けていた。
「お前には荷物持ちさえ任せられないからな」
「酷くね?!」
「お前のことだ、荷物が重くてしんどいとか、なんで一番力がある兄上が持たないんだとか、みんなの荷物なんだからみんなで交代で持つべきだとか、筋肉痛で動けないとかほざくに違いない」
異母弟のことをよく知っている次兄の、先回りした配慮に三男は言葉もなかった。
実際言ってしまうことが目に見えていたので、そこは黙ることしかできなかった。
「トカラ、まだ人間界に行くには日数がある。その間に練習でも修行でも出来るだろう」
「そうだよトカラ兄さん、現地で練習すれば遊び人を卒業できると思うよ!」
お前は無能だから、今から頑張ろうね。
兄と弟の温かい言葉は、熱いナイフとなって三男の心に刺さっていた。
「父ちゃん……俺、頑張るよ」
「トカラ……お前が一番俺に似てるってのが心に来る」
似たもの親子は遊び人卒業を目標にして、冒険に備えていた。