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雨が飴に変わる時

作者: 春野 尚弥

外はパラパラと雨が降っている。

相変わらず空は曇り空でココ最近太陽の光さえ

届いていない。

今の日本はどうやら気候がおかしいらしい。

テレビではその話で埋め尽くされている

ある一人の学者が「これは、もう日本の終わりかもしれない」とかなんとか言っていたが

本当にそうなのかは信じ難い。

信じたところで馬鹿馬鹿しいのも確かだ

「まぁ、終わってくれても構わないんだけどな」

彼は部屋から曇り空を見ながら皮肉混じりに呟いた

時計はちょうど昼を示していた。

彼は朝から何も食べていないので、近くのコンビニへと向かった。

外はかなり気温が低い為、彼の細身の体に似合わないごつい防寒服を着用する。

これは国から支給されるもので、外出する際は

必ず着用するように義務付けられている。

確かに防寒性能は非常に高いが、取り回しが悪く

着ていて不愉快になってしまう事が欠点だった

それゆえ、支給された時には大量のクレームが

殺到したようだ。

それらを踏まえて、企業は現在新型の防寒服を開発中と発表したがいつになるのやら...

そして、ようやく防寒服を着用できた彼は

同じく支給されたガスマスクを装着し

軽く舌打ちをしてドアを開けた。

外はやはり雨が降っていた。雫が金属に打ち付ける音が殺風景なマンションに鳴り響く。

昔は雨の他に「雪」というものがあったらしいが

ここ数十年、観測されていない。

もし観測されたなら間違いなく、その日の

トップニュースになるだろう。

そんなことを思いながら見慣れた風景を見る

天気が悪いのもそうだが、塵などが常に舞っていて

世界中は今、灰色に染まっている。

「地球は青かった」と名言を残しているある宇宙飛行士の言葉は今では考えられない。

現在の地球と過去の地球を見比べてみると

本当にこれが同じ地球なのかと疑うくらいだ

それくらい汚染が酷いのだ。

見渡せば工業地帯。煙突。吹き出る有毒ガス。

ガスマスクを装着したのもそのせいだ

尚、この防寒服もそういった危険から守る役目もある。

「相変わらず...汚ねぇよな」

愚痴を1つこぼして、近くのコンビニに到着した

コンビニや施設に入る際、入口付近に電話ボックスの様な形の装置がある。

これは「汚染除去装置」と呼ばれるもので

外から入ってくる人は必ず塵など防寒服に付いた

汚染物質を除去する為に導入されたものだ。

一通り除去を済ませ、店内へと入る

いつものコーヒーとパンを適当にカゴへ放り込む

そして手早く会計を済ませ店を出た。

帰り道、またつまらない事を考えながら歩いていると目の前に小さな少女が立っていた。

しかも、その少女の目は彼をじっと見つめていた。

「なんだ...このガキは」

よく見ると少女は防寒服もガスマスクもしていない

こんな環境なのにおかしい。

生身の体じゃ、1分も持たないはずだ...

不審に思っていると、少女は口を開いた

「ねぇねぇ、言葉はね凄いんだよ」

少女とは思えないほど落ち着いた声だった

「言葉?」

と少女に対してそう言い放った

「ほら、今は雨が降ってるでしょ?

こんな天気本当に嫌になってくると思わない?」

ニッコリと少女は答えた。

確かに雨がずっと続くのも正直嫌だな

「まぁ、そうだな。さすがに...な」

そう言った瞬間、少女はまたもやクスッと笑った

「じゃあ、今から私が雨を「飴」にしてあげる」

少女は手を上げ、指をパチンと鳴らした

その瞬間、頭上から雨音ではなく他の音が聞こえてきた。

彼は不思議そうに辺りを見渡すと

さっき降っていた雨ではなく色とりどりの「飴」が

降っていた。

緑、赤、青、白、橙、黄、とにかく色鮮やかな

飴がポロポロと優しく地面に落ちていた

顔を見上げると、あの灰色に染まった空が

綺麗な青になっているように見えた。

「どういうことだ...何を」

彼は驚きを隠せないまま、自然と口が動いていた

「私がこんな世界変えてあげるの。

この力でおばぁちゃんが好きだった青い地球に

戻すの...私は諦めない」

小さい手を握りしめながら涙を流し少女は必死に訴えかけてきた

彼はそんな少女を見てハッとした。

あぁ...そうか。この子は恐らく地球が青くなる事を願う人々の想いや感情を具現化した神様に

違いないだろう...。

ニュースやテレビでは青い地球に戻るなど有り得ないと諦めていたが、そんな人ばかりでは無かったんだな。

泣きながらも少女の目は輝いていた。

キラキラと光るビー玉の様な目で彼を見つめていた

いつしか降っていた飴は消え、さっきと変わらない

灰色の空に戻っていた。

そして、少女は最後に一滴の涙を流し

ニッコリと笑った後、振り返って歩き出した。

あまりの現実味の無さに彼は動くことが出来ずに

ただただ遠くなっていく少女の後ろ姿を見ていると

目の前に空間の歪みのようなものが現れ

彼は意識を失った。

:

:

:

目を開けると、見慣れた天井があった

どうやら夢を見ていたらしい。

彼の目には一滴の涙。

「変な夢見てしまったな...」と寝ぼけ眼で

テレビの電源を付ける。

そこには、一筋の虹が灰色の空を貫通している映像が映し出されていた。

「夢では...なかったのか。。」

彼は夢で見たあの場所に行けば、また

少女に会えるかもしれないと思い

急いで防寒服を着用しようとした時

ズボンのポケットの中に違和感を覚えた

ポケットの中に物を入れるのが嫌いな彼が

自分が入れるはずないだろうと疑問に思いながら

ポケットの中にあるそれを取り出すと

手のひらには、1つの色鮮やかな飴玉が

キラキラと眩しいくらいの光沢で輝いていた。


-END-

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