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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

赤い瞳

作者: おむらいす

オチは無いです。


 街の一角。太陽の街と呼ばれるこの光の都でさえ、影となる狭い小道が存在する。太陽を嫌う私は勿論そんな小道を主に歩いていた。

 そこで見つけたこの街に似合わぬ風貌の少女。髪は老婆のように白く、だらしなく伸びていて明らかに手入れがされていなくボサボサの頭。服装など乞食よりもひどい。辛うじて布一枚で秘部が隠れている程度の格好。

 少女を観察していると彼女はそれに気づきこちらを見上げた。その瞳は酷く濁っていて、人の目というよりは獣の目に近いと感じた。

「哀れむのであれば食べ物をください」

 少女は口を開いた。物乞いの言葉だ。それも機械的に発せられていて感情など読み取れない。いや、感情など等の昔から絶望の一色なのだろう。

 私は悩んだ。この少女を使えば金を稼げるかもしれない。エサを与え飼育し、見世物にして金を稼ぐ。白髪の少女など見世物には最高の出来であろう。

 それとも私が食すのも良い。どうせ死にゆく命だ。ならばせめて私の糧にするのも良いと思った。ちょうど予備の血液も切らしていたところだ。

 だが、それも抵抗があった。乞食の血液など飲めたものではないだろう。それに白髪の異人など聞いたことがない。いくら"美食家"と呼ばれる私でも、得体の知れないものを食べたいとは思わない。

 思案していると少女は私の装束に手を伸ばし、触れる。

「汚らしい手で私に触れるな!」

 とっさにその手を払い除ける。その怒声に驚いた少女は打たれると思ったのか必死に体を小さくし蹲る。その姿は追い詰められた鼠のように見すぼらしく見えた。

 怒声はこの小道全体に響き渡っていたようで。少女と同様に他の乞食と思われる老若男女がこちらを見ていた。

 目立ちすぎたと直感した。元より闇に生きる血族である私はこのような目立つ行動は謹んでいたのだ。完全なる失態。

 とりあえずここに居る者達の息の根を止める事を決めた。そう思った矢先、私に飛びかかってくる男が居た。それに吊られて数人が私に危害を加えようとする。

 最初に飛びかかってきた男。手には何も持っていない。素手で私に飛びかかってきたのだ。度し難いな。男の拳は私の頭部を目掛けて向かってきた。余りにも遅いその動きを私は視界の隅で捉え、男の拳を掴みながら受け流しで地面に組み伏せ腕を折る。乞食の腕だ。そう固いことは無いだろう。

 そして視線はつぎに迫り来る老人。手には小さな果物ナイフ。拾い物か酷く錆びていてとても実用は出来なさそう。それゆえ殺傷能力も高くは無い。高く腕を上げてこちらに振り下ろす。私は前進して老人とすれ違うようにして右手に用意したダガーでその振り下ろされる腕を斬りつける。そして振り向き、回るようにして左手に用意した短剣で老人の首を刈る。

 次に迫っていたのは若い女性だったが、襲いかかって返り討ちにされた二人を見て怖気づいたのか体を固まらせていた。その後ろで少年がこちらを見据え銃を構えていた。

 足元に先ほどの老人の頭が転がっていた。それを蹴り上げ、銃を構えた少年の方に飛ばす。少年は驚き咄嗟に発砲する。その銃弾は前方で身を固めていた女性の左肩に当たり、女性は悲鳴をあげる。

 余りに甲高い声は目立つ原因となる。即刻女性に近づき、その首を掻き切った。老人よりも多くの出血に少し驚いた。その血液は少しの甘さを感じた。美味である。

「ち、ちがう……そんなつもりじゃ……」と全身に血液を浴びていた少年は小さい声で自分の行動を否定していた。

 戦意喪失。私はダガーと短剣をしまい、ゆっくり少年に近づく。近づきその手に持った拳銃を優しく奪い、少年の頭部を撃ち抜く。

 カチッと乾いた音が響く。弾がもう尽きていたようだ。しかし、死を感じた少年は助かったという安堵からか体が膝から地面に崩れ失禁する。

 私は先ほどの拳銃に自らが所持していた銃弾を装填し、崩れた少年のアタマを撃ち抜いた。

 背後で先ほどの腕を折られた男がこの場から逃げ出そうとして居た。だが、焦って逃げ出した男は蹲る少女の体に足を引っ掛け転げる。滑稽な姿に私は苦笑した。しかし、当然男の近くに歩み寄り腰にしまっていた短剣を男の首に突き立てる。男は叫ぶことなく絶命した。

 短剣を首から引き抜き、一連の騒動が収まり静寂が訪れた。

 現在は夕刻。人通りが無いとはいえ、女の叫びに銃声。おそらく衛兵が駆けつけてくるだろう。この場に悠長に留まってはいられない。だが、私は動けずにいた。

 蹲る少女を見て立ち止まってしまう。ここ一帯には芳潤な血の香りが漂っている。それに先ほどの女性の血。現在は死血と化していて飲めるようなものでは無いが、首を掻き切った際に飛び散った血飛沫で生き血を口に含んでしまった為、血に酔ってしまった。今すぐに生き血が欲しいという衝動。蹲る少女の首筋から目が離れない。

 静寂で安心したのか少女はゆっくりと顔を上げる。そして私と目が合う。

 理性が働いた。逃げなければ。だが同時に衛兵の足音がこの場に辿り着いてしまった。

「おい貴様。ここで何をしている」

 衛兵は二人。両者とも小銃を携えてこちらを視認する。それと同時に血の匂いを嗅ぎ、小道の奥の惨状を目の当たりにする。

「うっ、な、なんだこれは! おい貴様がやったのか!」

 当然取り乱す。若い二人組だが、一人は私に問いかけ銃を構える。もう一人は惨状を目の当たりにした影響でその場で嘔吐する。

「殺人鬼め、近頃の事件も貴様が犯人だな!」

 弁明の余地がなかった。衛兵の言う事件など知り得ないが、この状況では何を言っても話は通じないだろう。このまま殺せば表の人通りに出てしまい、余計に混乱を招く。

 考えてる暇などなく衛兵の指が引き金に触れていたので咄嗟にダガーと短剣を取り出す。

「こ、この人は悪くない!」

 大きな声が響いた。声の主は先ほど蹲っていた少女。その小さな体からは想像出来ないほどの声量であった。そして私と衛兵の間に立ち、両手を広げた。そして再び口を開く。

「殺人鬼はそこで倒れている男性。私が襲われそうになってて、そこで倒れているお爺さんとお姉さんが助けてくれようとしたんだけど殺されちゃって。弟も銃を撃ったんだけど当たらなくて殺されちゃって。最後に私が殺されそうになった所をこの人が助けてくれたの」

 穴だらけの説明。殺人鬼に仕立て上げられている男には全く筋肉は無く、老人と女性は首を完全に切り落とされている。この男では不可能だろう。それに弟と称されている少年も、頭部を撃ち抜かれているが殺人鬼の男の手元には拳銃が存在しない。

 しかし、動揺した衛兵には充分すぎる説明のようでその状況を飲み込む。

「では、そこの君はこの少女を守ってくれていた訳か。それは済まなかった。我々がもっとしっかり警備していればこんな危険には晒されなかっただろうに」

 衛兵たちは安堵する。そして小銃を再び肩に担ぐ。

「だが、念のためにも取り調べをさせてくれ。万が一がある」

 素直に取り調べを受ける。日は陰り、闇が深くなる。闇は史実を隠蔽していく。

「おい、お前は奥の死体を調べてくれ」

 先ほどから必死に胃の中身を吐き出していた衛兵に呼びかける。指示された衛兵はゆっくりと死体の方に近づいていく。

 少女の身には当然何も見つからなかった。布一枚の体なのだから当然だ。衛兵は自分の着ているコートを少女に着せる。

「君は我々が保護させていただく。これを着て待っていてくれ。次は貴方の番だ」

 衛兵が私に近づく。そこで奥の死体を見に行った衛兵が声をあげる。

「うわぁ! 先輩、来てくださいこれ!」

「何だ。今向かうがあまりみっともない声を上げるな」

 呼びかけられた衛兵は私に「少し待っていてくれ」と告げ、奥の路地に入っていく。

「来い。行くぞ」

 取り調べを受けこの場をしっかりと調べられたら間違いなく犯人にされる。取り調べに付き合ってられる筈もなく。私は小さい声で少女に告げ、少女の腕を引っ張りながら小道を抜け出し人通りに出る。


 衛兵たちが現場の状況と少女の証言が一致しないことに気づき、振り返ってみるとそこには血まみれになった外套だけが残っていた。あまりにも上質なそれは、貴人のそれと似ていた。

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