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銃と乙女と遊戯世界 ~ゲームに浸食された現実で、乙女は想い、生き、守るために戦う~  作者: 小峰史乃
第四章 ペアリング・シンフォニー

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銃と乙女と遊戯世界 第四章 2



       * 2 *



 戦闘を避けるために民家の屋根伝いに、少し遠回りをしながら向かったのは、新宿。

 わたしたちの目の前、もうすっかり夏を感じる七時前の陽射しに照らし出されているのは、新宿新都庁ビル。

 現在の新宿都庁の後継として建造中で、来年落成予定のビルは、外から見る分にはもうすっかり完成してる。新宿にあるどのビルよりも高い新都庁ビルは、上の方の階は観光スポットになる予定だったりして、たぶんいまはそのための内装工事なんかが行われてるはずだった。

 そんなビルの正面入り口、大きな車でも楽々通り抜けられそうな開け放たれたままのガラスの扉には、現実では見えない、タクロマアプリを通してしか見えない表示が出現してる。

 それはここがダンジョンである表示。

「行くぞ」

「うん」

 緊張を覚えつつも、稔の声にわたしは一緒に入り口をくぐって、エントランスへと踏み込む。

 三階までが吹き抜けになってる広いエントランスの、稼働してないエスカレータの前を固めていたのは、剣と盾を持った鎧、というよりロボットみたいなもの。サイバー系ダンジョンによく出現するモンスター、アーマーボット。

「道を空けたら上に上がって索敵圏外まで逃げる」

「わかった」

 自動小銃を喚び出して徹甲弾を詰めた弾倉を装着しながら、両手にエンペラーナイフを構えた稔の声に応える。

 わたしたちの目的地は新都庁ビルの屋上。

 そこがワールドシフトの中心点。

 シティクライシスのクライマックス、すべての安全圏が無効化され、敵が侵入してくるようになるのは十二時。できればそれまでに、遅くともボスクラスのモンスターが安全圏に侵入してくるようになる十三時までには、わたしたちの目的を達成しないといけない。

 七〇階を超える新都庁ビルで、出現するモンスターと一々戦っていたらどれだけ時間がかかるかわからない。簡単な食事くらいはアバターの下に邪魔にならないようベルトポーチに入れて持ってきてるけど、たぶん体力が保たない。

 こちらに気づいて剣と盾を構えたアーマーボットに、わたしは自動小銃の銃口を向けた。

 片膝を着いて狙いを定め、引鉄を絞る。

 先頭のアーマーボットの身体に、斜め一直線の弾痕が穿たれた。

 わざわざそうなるように銃口を動かして撃ったのには意味がある。

 耐久力の高いアーマーボットは、その程度じゃ倒すことなんてできない。でもわたしは、怯みもせずに接近してくるそいつを無視して、次の標的に点線状に弾丸を放っていく。

 その間にわたしの横から風のように飛び出して行ったのは、稔。

 わたしの開けた弾痕から両方のナイフを突き刺し、鎧のような身体を引き裂いた。

 アーマーボットは耐久力だけじゃなく、防御力が高い。その上対物大型銃くらいになれば別だけど、小銃弾くらいじゃダメージにはなっても、相当弾丸を撃ち込まないと倒せない。

 斧槍みたいな大型の武器で叩き割るのでなければ、いまみたいに連携して倒すのが最良だ。

 一体目を泡に変え、二体目に襲いかかった稔を見ながら、わたしは三体目に弾痕を穿ち、四体目に狙いをつける。

「うわっ、と」

 引鉄を絞ろうとしたとき、稔の身体が視界をかすめた。

 ――やっぱりちょっとやりにくい!

 ワールドシフト後に稔と組むようになってからちょくちょくあったことだけど、連携をミスることがあった。

 ミノスと稔は同じナイフ使いで同一人物なのに、タイミングや次の動きを予測するのが、ゲームの中と現実じゃちょっとだけ違う。ミノスの動きもBGMでタイミングを取ってたから、戦闘音しかしないいまは、どうしても稔が動くタイミングと範囲を見誤る。

 ――仕方ないんだけどさ!

 三体目のアーマーボットを倒した稔が飛ばしてきた目配せに、わたしはエスカレータに向かってダッシュを開始する。

 ――いまはいまの稔に合わせてやってくしかない!

 そう自分に言い聞かせながら、近づいてきたアーマーボットに牽制の銃撃を加えつつ、稔と一緒に稼働してないエスカレータを五段抜かしで駆け上がった。



          *



「スネアロック!」

 茂みのような木々の間から現れた二体のモンスターに、綺更はマジックワードを唱えながら左手をかざした。

 青色の身体をし、二メートルを遥かに超える身体と柱のような棍棒を持つブルーオーガは、盛り上がった地面に足を取られ、左翼部隊のメンバーに到着する手前で二体同時に転がった。

「かかれ!」

 富岡の指示を受けた左翼メンバーは、長槍や斧槍でブルーオーガを串刺しにし泡へと変える。

 ――ずいぶん時間かかっちゃったな。

 いま綺更たちがいるのは、新宿御苑。

 稔や智香と違って、ファイターの多くは屋根の上を伝うなどの軽やかな移動ができるわけではない。人数も多いため、できるだけ私有地内を移動してきたと言っても、フィールドボスを含む六回の戦闘をこなし、かなりの時間をかけてここまでやってきた。

 ダンジョン化している新宿御苑内は、外よりモンスターの出現頻度が高く、強敵が多かった。

 ――それでも、ここまでたどり着けた。

 犠牲者はゼロ。

 思った以上に戦力としても、指揮官としても優秀な自衛官のふたりは頼りになった。

 そろそろ見えてくる一番大きな広場には、おそらくイベントボスがいる。

 時間は十一時を過ぎ、避難所が安全ではなくなるまで、もう幾らも余裕がなかった。

「行きますよ」

 足を止めた全員にそう声をかけ、綺更は広場へと出た。

 ――最悪、かも。

 すぐに見えてきたのは、二体のモンスター。

 岩を積み上げたような、五メートル近い巨体の人型は、ストーンゴーレム・ジャイアント。

 間隔を開けて立っている、手に槍と盾を持ち、金属の全身鎧のような、でも三メートルは軽く身長があるモンスターは、アイアンゴーレム・ナイト。

 そしてその二体すらも本当のボスの取り巻き。

 二体の奥にうずくまるような格好で、赤い目を光らせているのは、エンシェント・ドラゴン。

 シティクライシスのイベントボスはランダムで、強さもまちまちだが、その中でも最強で、最悪の組み合わせだった。

 討伐隊の全員には、出現するすべてのボスと取り巻きの情報を知らせてあったが、その中でも一番戦いたくない組み合わせが、いま綺更たちの前にいた。

「打ち合わせ通りに行きますよ」

 まだ充分に距離があるため、ボスは綺更たちに反応していない。

 三班に別れているパーティが打ち合わせ通り配置に就いたのを確認して、綺更は声を上げる。

「戦闘開始!」

 綺更が率いる支援班のメンバーが距離を取ったまま自動小銃で攻撃を加えると、反応したストーンゴーレムが接近してくる。

 それに対応するのは、富岡率いる左翼班。

 大型の武器を持った彼らは、充分に引きつけた上で、ストーンゴーレムに攻撃を開始した。

 ボスの討伐手順は戦術の基本中の基本、各個撃破。

 接近せずにこちらに引き寄せて一体を倒し、その後に同じようにもう一体を倒し、取り巻きのいなくなった本当のボスを叩く。

 時間はかかるが、いまの戦力に見合った、堅実で確実な戦法を綺更は選択していた。

「ナイトが!」

 そのとき、待機を指示していた右翼から声が上がった。

 反応する距離ではないのに、アイアンゴーレム・ナイトが左翼班に向かって走り始めていた。

 ――連動反応型!

 ボスやその取り巻きには、仲間が攻撃されると反応距離外でも動き出すタイプのものがいる。

 モンスター自体にも組み合わせにも関係なく希に付加されるその属性がある可能性も、綺更は考慮に入れていた。

「右翼班! 頼みます!」

 盾を持ちつつも、比較的スピードを重視したスタイルアバターで固めている右翼班が、アイアンゴーレムの行く手を阻み、素早い動きで翻弄する。

 魔法を使い、支援をしながら一番奥に控えるエンシェント・ドラゴンを見ると、目が合った。

 ――あいつも、連動反応型だ。

 長い首を伸ばしてこちらを観察するように見ているだけで、ドラゴンは動き出す気配はない。

 けれど明らかにこちらに気づいている様子に、綺更は悪夢を見ているような感覚に襲われた。

 ――やっぱり、あの人の意志が介在してるとしか思えない!

 最強の組み合わせで、それもすべてが連動反応型である可能性など、ゼロではないがほとんどあり得なかった。ワールドシフトを発生させただろう、源也が指定して配置したとしか思えない状況に、綺更は唇を噛む。

 ――お兄ちゃんも、智香さんも気をつけて!

 源也の元に向かった稔に心の中で心配の声を発しながら、綺更はいま目の前で行われている戦いに集中した。




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