よ〜〜く考えてみようー2
朝を迎えたものの現状はあまり変わらなかった。目が覚めたのは僕の部屋で、異世界からやって来た一人の男と一夜を共にしたという事実だけがそこにはあった。
しかも一人用の小さな布団に男二人(そのうちの一人は体格が良い)が無理矢理寝ていたので、体のあちこちが ギシギシと音を立てて痛んだ。僕の横で静かな寝息を立てているアランは、体の大きさとは真逆に、まるで小さな子供のように丸まって眠っていた。
実を言うと昨日の晩、あれから寝るまでが大変だったのだ。
まずアランの着ていた服が問題だった。どんな世界にいたのかはまだわからないが、とにかく埃っぽかった。なんなら靴も履いたままだった。
「逆だったら、僕は裸足で異世界に行ってたんだな……」
とにかくアランをお風呂に入れなくては。
……アランにシャワーを浴びさせるのが一苦労だった。服を脱がせるのは案外上手くいったので、とりあえず来ていた服は洗濯機の中に入れ、湯船の中に入らせた。まずお湯の出るシャワーに驚いて泣きそうになったアランだったが、なんとかジェスチャーで大丈夫だと伝え、ユニットバスや僕自身をビショビショにしながら入浴させた。シャンプーも石鹸も納得させるのに一苦労だった。
シャワーが終わると、今度はとりあえず僕の服に着替えさせた。が、どこもかしこも丈が足りない。
アランに貸す服が小さすぎるのだ。いや、僕は中肉中背なのだから、アランの背格好が立派過ぎるだけなのだけれども。
なんとかダンボールの中を引っ掻き回し、僕の持っている服の中で比較的大きめのシャツやズボンを履かせて、嫌がるアランの髪を無理矢理ドライヤーで乾かした。濡れねずみとなった僕は、とにかく外に出ないようにとアランに必死で伝えて、役に立つかわからないけど、引っ越しの時に使って残っていた養生テープでドアを目張りし、僕もシャワーを浴びた。
心配で大急ぎで洗って出てくると、アランは夢中でテレビを見ていた。心配のし過ぎだったようだ……。
「ぅあー、ん〜?」
まるで小さな子供の喃語のように声を出すアラン。
「まずは言葉が通じない事にはなぁ……」
僕は疲れてため息しか出て来なかった。
布団を敷き、テレビを消して、部屋の明かりを暗くすると、アランは少し落ち着かない様子だったが、すぐに寝息を立て始めたので、僕もそのまま隣で眠ってしまった。
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目が覚めて起き出してきたアランは、まずテレビをつけた。電源を入れる事やチャンネルを変える事は出来るようになっていた。
が、音量を触ったのは初めてだったらしい。
「◉◉◉◉◉◉◉◉‼︎」
ものすごい大音量が鳴り響き、音が割れて逆に何を言っているのか聞き取れないくらいだった。
僕は慌ててアランからリモコンを奪い取り、音量を下げた。
「これは音量だから、あまり触らないで!どうしても聞こえない時はちょっとずつ音量を上げて。あと、夜遅くは音量下げて!」
言ってもわからないだろうけど、言わなきゃわからないだろうし……。とりあえず音量ボタンを少しずつ押すところを見せながら、画面に表示される音量マークと実際の音の大小を体感させると、アランはうんうんと頷き、納得したようだった。これは、まだ喋れないくらい小さな子供に物事を教えるかのような感じで難しい……。アランは無邪気な顔をして、喃語のような声を発しながらずっとテレビを見ていた。