その日、僕は扉にアタマをぶつけてしまったんだー4
それからいったいどれくらいの時間が経ったのだろうか……?
痛む頭をさすりながら目を覚ますと、目の前には先ほど鏡に写っていた金髪碧眼のイケメンが、ファンタジーの世界でよく見かけるような服装で こちらの様子を伺っている。
痛む頭で僕は考える。
もしかして僕は死んだのか?
それにしては日本のあの世には似つかわしく無い風貌のお迎えだな……。
って、いや、そんなはずはない!
もしかして この展開は念願の異世界チートではなかろうかっ⁈
意を決して僕はイケメンに話し掛けてみた。
「あの……ここはどこですか?」
「%$〆#€¥‼︎」
「は⁈」
「%$〆#€¥‼︎」
「え⁈」
その金髪碧眼のイケメンは 言葉が通じないようだった。僕は頭を抱えた。
えー⁈ 異世界に飛ばされた時って、ご都合主義というかなんというか、なんとなくでも話が通じたりするもんじゃない⁈ それも含めてのチートじゃないの?
「き、君は誰⁈」
オロオロと話しかける僕を直視した 金髪碧眼のイケメンは、深い溜息をついたかと思うと、今度は比較的聞き取りやすい発音で、ゆっくりと僕に話しかけて来た。
「ア ラ ン・ドゥー クン」
「え?アラ……ン?」
「アラン・ドゥークン!」
アランって言うのか?このイケメンは。
「アラン?僕は幸多。大森幸多」
「……コー……タ?」
「そう!大森幸多。コータで良いよ」
そう言って僕はこの金髪碧眼……アランに握手を求めた。
するとアランは腹を抱え、僕の事を指差し、大笑いしだした。
いや、『大笑い』されたのかどうかはわからない。おそらく言葉が通じないのと同様に、文化も生活習慣も何もかもが違うだろう。でも、目尻にうっすらと涙を浮かべながら、イケメンには似つかわしくない大口を開けて、さらには腹を抱えて「HAHAHA」以外に聞こえない大声を上げているアランは、笑っているとしか思えない。どこの国の民族も、わりかし笑う時だけは共通して「HAHAHA」と笑う事が多いので、特にそう感じたのだろう。
少しして 一通り『大笑い』を済ませたアランが、息を切らしながら やり場を失っていた僕の右手を受け止めた。
その顔にはまだ引きつった笑みのような表情が残っていたので、本能的に(これって、きっと何かをバカにした顔なんだろうな)と思った。
「まあ、いいや。もしかしたら夢かも知れないし、異世界だったら、儲けものだし」
「コー……タ?」
アランが顔を引きつらせ、吹き出すのをこらえているような感じで僕の名前を呼ぶのには、少し気分を害してはいたが、異世界に来てしまった以上 アランを頼らない訳にはいかないだろう。言葉を覚えるにしても今は全く通じないわけだし……。
「アラン、君の住んでいる世界を僕に色々と教えてくれないか?」
アランは首をひねって不思議そうにした。
「ああ、言葉が通じてないんだっけ」
まあ、言葉の問題も、そのうちなんとかなるだろう。僕は期待に胸を膨らませて、思い切ってドアを開けた。こんにちは!異世界‼︎
「…………」
開けたドアの向こう側に広がる景色を、僕は目を擦りながら見渡した。
「ここ……」
「コータ?」
「ここ……僕の部屋やん!」
あまりの衝撃に 大阪弁になってしまっていた。
僕は大きな勘違いをしていたのだ。
異世界へ転移したのは僕じゃない。
異世界に来てしまっていたのはアランの方だったのだ……。