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その日、僕は扉にアタマをぶつけてしまったんだー1

「今日から一人暮らしかぁ……」


これから4年間暮らすであろう新居において、僕は初めての独り言を呟いた。

一浪して三流大学に合格した僕は親元を離れ、通う大学が窓から見えるほど近くの、学生向けの少し古びたハイツで一人暮らしをする事になった。花のキャンパスライフを夢見る 浮かれた気持ちとは裏腹に、部屋の中に高く積まれた大量のダンボール箱が 所狭しと並んでいた。

単身の引越しにしては荷物が多いと、引越し業者に散々嫌味を言われたのだか、原因はたくさん本が入ったダンボールで、ワンルームの部屋にはいくつもの山というか壁が出来ていた。

僕は小さな頃から友達が少なくて(断じていなかったわけではない)外に遊びに行くよりも一人で読書をするのが好きな、いわゆる「本の虫」だった。小難しい専門書から児童書や辞書やライトノベルまで、何でも読み漁る上に 本を手元に残したいタイプなので、引越しの時も荷物のほとんどが本という 引越し業者泣かせの事態となってしまった。

そんな感じで 今まで人付き合いが希薄な僕だったが、特にいじめられる事もなかった。中肉中背、顔も成績も中の中(より、ちょっとだけ上だと思ってる)だからなのかも知れないけれど、特に蔑まれる事も妬まれる事もなく、それなりになんとなく過ごした小、中、高校生時代。周りのみんなが大学へ進学するので、なんとなく進学を希望した。しかしあえなく撃沈。なんとなく引っ込みがつかず浪人して、なんとなく受けた大学になんとなく受かってなんとなく現在に至る。なんとなく、なんとな〜く。

そんな優柔不断な僕にでも夢というか、野望はあった。




『異世界に行って、チートな主人公になる事』



うん、言いたい事はわかってる。

立派な厨二病だよ(笑)

ラノベの読み過ぎだって言いたいんだろう?

そんなご都合主義で非現実的な現象が起こり得ない事くらいわかってる。

一浪してるから、年齢的には今年20歳だ。もうすぐ大人の仲間入りをする男が『異世界』だの『チート』だの言ってて、側はたから見ていてさぞかし陳腐で滑稽で薄気味悪い事だろう。

まあ、現実には起こり得ないだろうから、その妄想力を活かしてラノベ作家になる事が現実的な夢なわけだが。それでも厨二病をこじらせているには違いないだろう……。



ぐうぅぅぅぅぅう。


腹の虫が鳴った。

そういえば、引越しの忙しさで今日はまだロクな物を食べてない事に気が付いた。

「……腹減ったな。とりあえず飯でも食いに行くかな」

どうせ荷物のほとんどは本だし、山積みのダンボールの荷解きを放置して、何か食べに行こうと外に出た。

すると僕が玄関のドアを開けて廊下に出るとほぼ同時に、隣の隣、廊下の突き当たり一番奥の部屋のドアが開いた。

部屋から現れたのは、あまり化粧っ気がなく、少し小柄だがスタイルの良い、サラサラ黒髪ロングヘアの清楚系美少女だった。見るとゴミ出しに行くところらしく、自治体指定のゴミ袋を手にしていた。

「あ、こんばんは」

清楚系美少女がにこやかに声を掛けてきた。

想定外の出来事に、コミュ障気味の僕はテンパって挙動不審になった。

「あ、あ、あ、えと、こっ!こん!ばん!は!」

僕のあたふたとしたその様子がツボにハマったらしく、彼女はクスクスと笑いだした。

「初めまして。今日引っ越して来られた方ですよね?同じ大学かなぁ?すぐそこの」

廊下の灯りにフンワリと照らし出されて、白く透き通った肌がより一層引き立った。大学の方を指差す彼女に、僕は見惚れてしまっていた。


そうそう、こういう清楚系タイプや、ツンデレの美少女にモテモテの異世界チートでハーレムを……。

うんうんと、頷きながら顔がニヤけて来たのがわかった。


はっ!

危ない!

もう少しで妄想に耽って戻って来れなくなるところだった。同じ大学のご近所さんに、しかも美少女に厨二病全開の妄想を知られでもしたら終わりだ……。

我に返った僕は、少し不思議そうな顔をしながらこちらを見ている彼女に、声をうわずらせながら自己紹介を始めた。

「はい!あの、文学部1年の大森幸多おおもりこうたです!えと、あの、一浪してるから、19歳なんですけども……」

緊張し過ぎて口から心臓が飛び出しそうだ。

飛び出さないけど。

「あ、そうなんですか?私も1年なんですよ。国際学部ですけど。あ、私、山上遥香やまがみはるかです。よろしくお願いします。あ、そうだ。ちょっとゴミ、捨ててきますね」

会釈をしながら僕の横を通り過ぎる彼女とすれ違う時に、すぅっと風が吹き、サラサラの黒髪がなびいた。甘くて良い香りがふんわりと香って来た。

「遥香……ちゃん……」

ゴミを捨てに行く彼女の後ろ姿を眺めながら、僕はだらしのない顔で赤くなり、(こういうコが彼女だったらなぁ……)と、妄想に入り込んでいってしまった。

そうして周りが見えなくなった時の事だった。



ガンッ‼︎


デレデレと締まりのない顔で彼女を目で追い続ける僕の後頭部を、隣の部屋のドアが直撃した。

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