5
「チョコもらった?」
帰ると途端に妹にそう訊かれる。
珍しく、今日は帰りの部活も早く終わったようだ。
「……ん。」
優しい(?)女性(←自称)教師が今日講義を受けた学生全員にチョコを配っていて、それを受け取った。が、それは今言うべきではないと判断。
とりあえず曖昧に返事を返しておく。
その反応を見て、機嫌の良い妹は言った。
「ノッシングだけもらったんだ」
「うん。無いをもらったって、つまりもらってないってことだよな?」
「兄の分際でそんなこと知ってるんだ。」
「当たり前だろ。
……仮にも大学受験パスしたんだから」
「それもそっか。」
そこで納得されるのもなんだか複雑ではあるが、まあいいか。
妹様は今日なんだか機嫌が良いようだから。
テストもきっと大丈夫なのだろう。
……もしかして、告白成功?
バレンタインだからその可能性は皆無でない。いや、無きにしも非ず。
「……お前はもらったのか? 逆チョコ」
恐る恐る尋ねる。
「もらう筈ないじゃん。」
途端に真顔に。
「じゃ、あげたのか?」
「友達にはね。」
「男友達?」
途端に不機嫌に。
「……皆無。」
「……なんか不機嫌じゃないか?」
「気のせい。」
「そうか?」
「そう。」
まもなく母が返ってきたので夕飯を3人で食べたが、その間中、妹は不機嫌そうだった。
食事を終えて子供部屋に戻る。
妹は食事の後片付けの手伝いもするから、まだすぐには来ない。
……。
‥‥‥。
・・・・・・。
…‥・!?
いや、驚いた。
枕元に、ベッドの上に、可愛らしくラッピングされていて赤い包装紙に包まれた四角い箱がちょこんと置いてあったのだから。
持ち上げてみる。
裏を見ると、
「兄へ」
「From妹」
……。
素直に自分の名前を書かない所が何だか可愛らしく思えてしまう。
包装を解いて箱を開けてみると、中身は既成品だった。
昨日楽しそうに作っていたあれらではないと思うと淋しいが、くれた気持ちは嬉しい。
一つ口に放り込むと、とても苦かった。
その後妹に「ありがとう」と言うと、無言で赤面しながら脛を蹴られた。