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バレンタイン当日。
朝、珍しく朝部はないようで、俺が大学へ出るときに玄関で見送り(?)をしてくれた。
「アンハッピーバレンタイン♪」
妹は、笑顔でそう言った。
少し考え、靴紐を結びながら尋ねる。
「……ハッピーじゃないバレンタイン?」
「……よくわかったね」
なんだか不機嫌そうだ。
「まぁ、……『H』は母音じゃないから」
「ま、いいや。
どうせ彼女とかいないんでしょ。」
笑顔が一転。急に真顔だ。
「……いないな。」
「もらえるといいね。」
「――嫌味か。」
「ううん。お兄ちゃんみたいな世界で一番素敵じゃない人にチョコあげるような暇人も、きっとこの世以外のどこかにいるんじゃないかな?」
さっきよりも完璧な、いっそ清々しいほどの作り笑顔だった。
「この世にはいないんだな。」
「たまたまこの世を訪れてるかもよ?」
「……だといいな。」