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バレンタイン2日前、朝。
目を覚ますと、きちんと制服を身にまとった妹がいた。
その顔はいつになく神妙そうだ。
「……なんかあるの?」
まだ寝ぼけながら、布団から顔だけ出して問う。
「──テスト。」
「青点か?」
妹はそんなに成績は悪くない。運動は壊滅的だが。
だから冗談だ。
青点とは、平均の半分の赤点のさらに半分の点数。それを下回ったら問答無用で追試験となる。
「……危ない。」
なのに神妙そうにそう呟かれては、いてもたってもいられない。
「マジで?」
「マジ。」
とたんに目が覚めた。
「……。」
だが、衝撃が大きすぎて動けない。
「じゃーね。学校行ってくる。」
校則どおりに膝丈のスカートの裾を舞わせて部屋から出ていく妹を見送った後になって、ようやく体が言うことをきいてくれるようになり、一言絞り出した。
「……いてら。」
おそらくこの後1階で朝食をとった後に自分で弁当を作ってから家を出るのだろうが、顔を合わせに行く気にはなれなかった。
どうすればいい。
あの妹にしてやれることは。
……悔しながら、無い。
妹は成績が悪くないどころかむしろ良いのだ。
運動音痴ではないが、成績はかなりではないと自称しているがほどほどに悪い俺にしてやれることなんて何もない。
いや、ある。
一つだけあった。
とりあえず、邪魔をしないようにしよう。
俺は空気だ。
空気だ。
airだ。