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8:男の子でありなさい

 階段を下りて、一階の廊下をまずは見渡す。


「……とりあえずは、何もいないようです」

 念のため、鼻で息を吸い込んで匂いも良く嗅いでみるけど、後ろの会長に瞬殺されたグールの腐乱臭と獣臭ぐらいしかしない。ちなみに、膝裏を切られたグールはまだ生きていたので、会長が躊躇なく脳天にどすを突き刺し、トドメを刺して僕を引かせた。


「そうかい。じゃ、先に進むよ」

 警戒する僕がバカに思えるほどあっさり、会長は先に進む。

 ……場慣れしすぎでしょ、会長。本当にヤクザの娘でもこの状況は非現実で、貴女は非常識ですよ。


「さて、扇歌くん。とりあえず今は当てもなく進んでいるが、これからどうしたらいいと思う?」

 どすを片手に暗い学校の廊下を歩きながら、会長は僕に訊いた。

 その質問は、自分に意見がないから僕に委ねているものではなく、教師が生徒に問題を解かせるようなニュアンス。


「校舎内をとにかく見て回って、他に誰かいないかの確認をしましょう。

 校舎の外には、とりあえずは出ない方がいいと思います。あの真っ暗な外じゃ、出ても何も見えませんし、真っ暗なだけであとは普通の状態だとも思えません」


「ん。同感だ。下から上に上がって行ったら、逃げ場が無くなってしまうけど、降りてきてしまった以上は仕方ない。一階から順に、教室を見て回るよ」

 僕の返答は、会長にとっての正答でもあったことにホッとする。


 ……会長のことを非常識とか言えないな。

 この状況でも僕が一番に気にすることは、会長に失望されないか、だ。


 あんな返答をしておきながら、僕は他の人のことをさほど心配していない。

 他の人が襲われたらいいやとか、他の人なんてどうでもいいと思っているわけじゃなくって、他の人も巻き込まれている可能性を、いまいち想像できていないから。


 何故だろう?

 ただ単にこの奇妙な状況下の校舎内で、まだ他の人たちに会ってないから、他の人は巻き込まれていないと思い込んでるだけ?


 それならそれで、危機感のない無根拠な安心だけど、嫌な不安で余裕をなくすよりはいいか。


 ……そう。あんなリアルな幻視、……会長が死ぬ瞬間、殺されていく過程を見てしまうよりは、ずっといいはず。


 ……何なんだ。あの幻覚は。

 現実の会長の武勇伝を見た後に思い出すともはや笑い話に近いけど、ただの最悪の事態の想像、その脳内映像にしては、あまりにリアル。五感全てに訴え、刻み込む絶望。


 あのグールに会った時に見た幻視なら、まだ嫌な予感で終わった。恐怖とパニックで嫌な想像をしてしまっただけで終わってもいい話だ。


 それで終わらないのは、奇妙なのは、生徒会室の扉を開ける前にみた幻覚。


 ……何故僕は、まだ扉を開けてもいなかったのに、あの時、あの廊下にいる化け物の存在、ムーン・ビーストまで幻覚で見た?

 あのおぞましい姿はもちろん、武器まで間違いなく想像できた?


 クトゥルフ神話はアメリカの作家が作った創作物だと会長は言ってたけど、僕はそんな神話を知らない。

 会長が暫定で名付けた、ムーン・ビーストなんて名前も知らない。あんな気持ち悪いカエルの化け物なんて、現実じゃもちろん、漫画やアニメ、ゲームに映画の世界ですら見たことない。


 なのに……、どうして僕は、あの存在を見れたんだ?




 * * *




「扇歌くん」

「!? は、はい!」


 ただの想像、嫌な予感の映像化とは説明のつかない幻覚について考えていたら、唐突に声をかけられて、僕はとっさに意味も状況もわからず返事をする。


「ちょっとこの教室の扉、開けてみてくれない?」

 傍から見たらぼーっとしていた僕を咎めもせず、会長が指さしたのは多目的室の扉。

 暗いけど、廊下側の窓からでも少しくらいは中が見える。僕が見た所、中は普段と変わらない2クラス分の人数なら収容できそうな、多目的室。


「? えっと、はい。わかりました?」

「うん。ありがと。あ、これ、中になんかいたら投げてぶつけて良いから」

 会長の頼みごとの意味が分からず困惑するも、とりあえず了承。すると会長が、念のためか僕に武器としてスマホを渡してきた。ちょっ、おい。


「良くないですよ! 連絡手段を何で壊そうとしてるんですか!?」

「いやそれ、初めに確認したけどメールもラインも電話も使えなくなってた。文字化けすごいから、時計の意味もないぞ。カメラは使えるみたいだけど。

 だから、もう投擲武器として使った方が有効だからあげるよ」


 文明の利器の代表が、石ころ並みの扱いを受けている。いっそ鍋敷きとして使った方が文明レベルは高そうだ。


「あー、もう。壊れたって僕、弁償できませんよ」

「渡しておきながらそんなもんを求める程、恥知らずじゃないよ」

 互いに言い合いながら、会長は僕と背中合わせになって立つ。僕が扉を開ける間、無防備な背中を守ってくれるつもりなんだろう。


 そのことにまた場違いな喜びを感じながら、僕はスマホを本当にいざとなれば投げるつもりで構えて、扉に手を掛けた。


「…………………………」


 埃と何らかの薬品が混じった独特のにおい。水道が付いた長くて大きな机がいくつも並び、棚には鳥の剥製やホルマリン漬けの蛙。


 そして、人体模型と目が合った瞬間、僕は速やかに扉を閉めた。


「どうだった?」

「ここ一階ですよね!?」


 会長の質問に僕は質問で返した。

 質問で返しつつ、僕は窓から教室の中と扉の上にかかっているプレートを確認する。


 何度見ても、窓から見える教室の中は折り畳みのイスと机が隅で重ねられ、ホワイトボートやらプロジェクターやらが反対側の隅に置かれている、プレートに書かれた名前の通り、多目的に使える教室だ。


 決して生物室じゃない。そもそもあそこは三階だ。


「あー、どこに見えたかは知らんが、やっぱり全然別の教室になってたか。ちなみに、私が見たのは美術室だったよ」


 僕の質問と何度も確認する様子を悪戯が成功したような笑顔で見ながら、会長は答える。どうやら、僕がぼーっとしてる間に会長は一回、多目的室の扉を開けていたらしい。

 そして中が四階の美術室だったことで僕と同じ反応をして、今度は試しに僕にも開けさせたのか。変な頼み事だと思ったら、そういう事か。


「え? ってことは、閉めて開けるたびに中が変化するんでしょうか?」

「シュレディンガーの教室だな」


 量子力学の有名な思考実験に例えて、会長がまた扉を開けた。

 中はまた変化していた。

 コンクリむき出しの床に古びた机や椅子、物自体は古いけどまだ未使用の箒やモップ、蛍光灯のストックなどがいくつも雑多に置かれている。一階だけど反対側に位置する用務員室隣の倉庫かな、ここは。


「ふむ。埃っぽくはあるが、絵の具臭い美術室よりはマシだろう」

 一人勝手に謎の納得をして、会長は中に入っていく。


「会長!?」

 僕が呼ぶと、会長はボストンバッグを持ち上げてにっこり笑う。


「扇歌くん。ご飯を食べよう」

「……はい?」


 普通ならまず出てこない提案が出てきた。いや確かに時間がさっぱりわからないけど、あの地震の直前が昼の一時少し前でしたから、ご飯時と言えばご飯時ですし、僕たちまだお昼ご飯を食べてなかったですけど。


「会長、状況わかってます?」

「わかってるよ。だからこそ、ご飯だ。腹が減っては戦は出来ぬ。敵に四方固められてやられるたり、大型地雷を踏んで爆死とかより、餓死の方が死んだとき悔しいだろう?」

「会長! ここは入るたびに地形が変わるダンジョンではありませんよ!?」


 あんたどこの商人、もしくは風来人!?


「似たようなもんになってるから、もうそれでいいじゃん」

「その通りですけど、ゲームと現実を一緒にしないでください」

「してないさ。ところで扇歌くん。大きなおにぎりと、大きなパン、どっちがいい?」

「してますよね!? それ思いっきり、主人公の風来人か、商人のメニューですよね!?」


 どこまでも余裕なのはいいけど締まらない会長に、ひたすら突っ込みを入れる僕だけど、僕に突っ込みを入れる資格なんて本当はない。


 その証明は、思いっきり突っ込みを入れた直後に鳴った「きゅるるる~」という情けない腹の虫の音と、


「相変わらず、君は腹の虫まで可愛いな。

 ほら、お食べ。元気が出るまじないをかけてあるから」


 差し出された、ラップに包まれた海苔もない大きなおにぎりと、某アニメ映画で白い竜の少年が、ヒロインの少女を励まそうとした時のセリフを思わせるもの。


 この人と、出会って間もない頃の再現。


 僕に、この人の言動を突っ込んだり、咎める資格はない。


「…………ありがとうございます」

 嬉しさで、喜びで、顔がにやけないようにこらえながら、そのおにぎりを受け取った僕に、そんなものは存在しない。




 * * *




 一応、扉には内側から鍵をかけ、ついでに部屋の隅にあった掃除用ロッカーを扉の前に置いてバリケードを張った。このバリケードがどれだけ有効かはわからないけど、した方が精神的にマシだろう。


「パンもあるから食べていいよ。あと、スープ」

 予備の机に腰掛けて、会長は自分のお弁当を広げる。量が多いので、元々花見を兼ねて生徒会メンバーと食べるつもりだったようだ。

 僕のお昼は初めに鞄ごとムーン・ビーストにぶつけたから、会長の好意は素直に感謝して遠慮なくいただくことにした。


「ありがとうございます。……けど、何でこのメニューなんですか会長?」

 本当にありがたいと感謝してるけど、またこの人は訳わからんことやってるなと思った。


 本日、会長が昼食に持ってきたのは、具のない大きな塩おにぎりが二個と、目玉焼きを乗っけたトーストがこれも二つ。重そうな水筒から出てきたあったかいスープはどろりとしたトマトスープで、肉団子が具に入っていた。

 ……どう見ても、さっきネタにした某アニメ映画会社の作品内メニューですよね、これ。特に、パン。


「先週、金曜ロードショーで天空を見たら、久々にはまってDVDを見まくった結果だ」

「わぁ、予想通り」


 棒読みで答えながら、僕はその場にしゃがみ込んで会長からもらったおにぎりを齧る。

 海苔も貼っていない、具もない、ただ塩を多めに使った塩おにぎり。

 確かこれを初めてもらった時も、この人がこのおにぎりを作ってきた理由は金曜ロードショーだったはず。


 進学校私立なので、うちの学校は土曜も授業がある。だから前日見たものの影響を、ダイレクトに受けたのだろう。


『お食べ。扇歌くんが元気になるように、まじないをかけて作ったから』


 あのセリフも、映画を真似て言ってみただけのはず。


 けど、その頃の僕は知らなかった。

 あの国民的なアニメ映画を。

 森の中で出会った大きくて不思議な生き物との触れあいも、少年と少女が天空に浮かぶ城を探し求めるロマンも、荒廃した世界で生き抜く青いお姫様の物語も、僕は知らなかった。


 家族との団らんの代表作を、僕は知らなかった。


 だから、その言葉をそのまま真っ正直に受け取った。


 今でこそバイトをして、たいていのものは自分で何とかできるけど、当時の僕は思考停止に近い状態で、バイトして自立という発想はなかった。


 二、三か月に一回、思い出したように祖父が厭そうに、でも自分で何かを買い与えるよりはマシという顔で与えられるお小遣いなのか施しなのかよくわからない金銭で、学費や光熱費以外の自分に関わるもの全てを賄っていた。


 教科書や文房具代はもちろん、食べ物も物心がついた頃には自分で買って食べる以外に手に入れる方法はなかった。

 祖父母は残り物さえ僕に与えたくなかったらしく、ほとんど食べ物は残さなかったし、食材を勝手に食べたり使うのはもちろん、台所を使うのも許してはくれなかったから、コンビニやスーパーで割高な惣菜を買うしかなく、食べ物以外で必要なものがあるなら何食か抜くが当然のことだった。


 小・中は給食があったのでそれ一食で一日をしのぐことも出来たけど、高校に入ってそれが出来なくなり、そのくせ何かと入用でコツコツと溜めていたお金も底を尽きかけて、一日朝ご飯一食生活をしてる最中、会長がおにぎりをくれたんだ。


 教室でお弁当を食べるクラスメイトを見ていると余計にお腹がすくから、ご飯を食べない理由を聞かれたくないから、体育館裏の隅っこで膝を抱えて空腹に耐えてる時、当たり前のように差し出して、あの人は言ってくれた。


 ネタのつもりだったんだろう。たぶん、突っ込み待ちだったはず。


 でも僕は、元ネタを知らなかったのと空腹さも合わさってものすごく素直にその言葉も、おにぎりも受け取ってしまった。


 そして、一口齧って泣き出した。


 元ネタを知らないくせに、映画の再現をしてしまった。


 生まれて初めて食べた、「誰かが握ってくれたおにぎり」がそれほど美味しかった。


 僕の為に作ってきてくれたと思い込んで、泣いて食べる僕はどう見ても不審者だったはずなのに、会長は何も言わなかった。

 何も聞かず、何も言わず、ただ黙って笑って隣に座って、一緒におにぎりを食べた思い出。


「懐かしいな。学校で話したのは、あれが初めてだったな」

 スープを飲みながら会長が呟いた。


 覚えていてくれたんだ。

 あの日のことはもちろん、それがいつごろ、何度目の出会いだったかさえも。


 会長がどんな顔をしてあの日を懐かしんでいるのかを見てみたかったけど、僕は顔を上げられず、黙っておにぎりを食べる。

 さすがにまた映画みたいに泣いてしまったら、今度は多分、指さして笑われるのが目に見えたから。




 * * *




 おにぎりを一個食べてから、僕は呼びかけた。

「……会長」

「なんだい? お茶か?」


 机から降りて、ボストンバッグから保冷カバーを着せたペットボトルを差し出す会長。

 気が利いてありがたいけど、違います。


「いえ、そうじゃなくて。……すみません、会長」

「は?」

 僕にお茶を差し出したままの体勢で、会長は目を丸くする。この人を驚かせることが出来るのは僕にとって快挙に近いけど、さすがに今は喜べない。


「なんか……僕は本当に役立たずだなと、実感してしまいまして。

 ……男のくせに、男扱いして欲しいと普段吠えてるくせに、僕、あの化け物たちに何も出来なかった。会長に全部任せて、僕はただ怯えていただけだなと思って……そうしたら、もうなんか、ものすごく申し訳なひゃん!?」


 話の途中で会長が首筋にペットボトルを当ててきて、変な声が出た。わざわざ、保冷のカバーを外して当ててきたよ、この人!


「あははは! 扇歌くんの悲鳴はかわいーな。君は私が今まで見てきた人間の中で、ほんといつでも四六時中、可愛いな」

「嬉しくありませんよ、それ! っていうか、話の腰を盛大に折らないでください!!」

 僕が首を押さえて怒鳴っても、会長は痛くもかゆくないと言わんばかりにニヤニヤ笑って、机に腰掛け直す。


「そんな真っ赤な顔で怒られたって、可愛くて嬉しいだけだよ、扇歌くん。

 それと、何が怯えていただけだい? 君が今、何故私からおにぎりをもらって食べているのか、その理由を忘れたのかい?」

 言われて、思い当たる。忘れてなんかはいないけど、それは意識するようなことじゃなかったので、頭に浮かばなかった事。


「……あんなの、大したことじゃ」

「君が先に行動に移してくれなかったら、私のどすよりあの槍が早かったさ」


 蛙の化け物、ムーン・ビーストに鞄をぶつけたこと。

 それは僕にとっては本当に咄嗟で、特に考えなんかなかった。


 ただ、あの直前にみたあの幻影を否定したくて、あの光景だけは再現させたくなくて、悪あがきでやったこと。


 それを、貴女は評価してくれるのか。

 あの再現が起こらなかった理由にしてくれる。


「だいたい、男のくせにとか男扱いして欲しいとか扇歌くんは言うけど、本当にしてほしいか? と言うより、なりたいか? 男に?」

「はい?」

 しんみりじんわり感動してる最中に、何を言い出しますかこの人は。


「して欲しいに決まってるじゃないですか。何度も言ってますし、何度でも諦めずに言いますけど、僕は正真正銘、生まれた時からこれから先もずっと男です」

 もう本当に通算で億単位になっててもおかしくない程、昔から言い続けた宣言をする。

 して欲しいに決まってるでしょ。特に、好きな女性には男として頼って欲しいですよ。


 大真面目な僕とは対極に、会長の表情は何とも微妙だった。笑顔が消えて、困ってるようにも呆れているようにも、引いているようにも見える顔。

 会長? 僕の言ったことはそんなの変なことですか?


「何で? 男なんて古今東西、女にぜったいに勝てない生き物じゃん」

 漫画みたいに前のめりになって、ずっこけそうになる。

 表情の理由はそのセリフでなんとなくわかったけど、何だその発想!? どこから出てきた!?


「何なんですか、その偏見!? 言っておきますけど、世の中の女性に基準に会長は当てはまりませんからね!」

「君のセリフも偏見だろう……。まぁ、いいけどね。

 でも、生き物としてはオスよりメスの方が強いってのは、生物の基本だろう? 人間の平均寿命も、女の方がかなり長いぞ」


 かなり失礼なことを言ってしまったが、幸い、本人も自覚があるのか咎めなかった。

 ……いいことか? これ?


 しかし、言われて納得してしまう。

 確かに、社会、もしくは保健体育あたりの授業かなんかで見た日本人の平均寿命は、具体的な年齢は忘れたけど、女性が十歳以上は上だった記憶がある。


 そもそもカマキリやライオンの生態を考えたら、確かに生物は基本、メスの方が大きかったり強かったりするのが多い。

 ライオンはオスの方が強いけど狩りはメスの方が上手いから、やっぱり生物としてはオスの方が下なのかもしれない。メスがいなきゃ、餓死の可能性大ってことだもんな。


 勢いよく突っ込みを入れたくせに、丸め込まれて納得してしまう僕に会長は勝ち誇った笑みを浮かべて、さらに言葉を続ける。


「ほら、創作物でも男が大怪我負って、ぶっ倒れててもヒロインは男を助けようとして、壁伝いに配管の上をダッシュしたり、悪魔に髪を渡して時を渡ったりする度胸があるし。男は女に勝てない宿命さ」

「まだ引っ張るの、金曜ロードショー!」

 会長のセリフでどの映画かわかる僕も僕だけど、本当に好きだな、金曜ロードショーの定番かつ常連なアニメ映画!


「ははっ! まぁ、私が何を言いたいかと言うと、男でありたいと思うなってことさ」

 僕の突っ込みはからっとした笑いで流されて、会長は豪快かつ雑にまとめた。

 いや、会長。そのまとめはおかしい。何ですか、会長も副会長みたいに僕は可愛いと言われることを受け入れろってことを言いたいのですか?


 卑屈な僕の考えは、優しい手つきで髪を撫でられて、否定された。


「だから君は、男の子でありなさい」


 机に座ったまま、低い位置にある僕の頭を、体を折って、手をめいいっぱいに伸ばして、僕の頭を撫でながら、彼女は言う。


「扇歌くん。男は女に勝てない生き物だけど、男の子はな、無敵なんだ。

 男の子なら、好きな女の子を助けるついでに世界も救っちゃうんだ。

 だから君は、今も昔もこれからもずっと、『男の子』でありなさい」


 それも創作物の話でしょう? なんて無粋な言葉は浮かびもしなかった。




 * * *




「――はい」

 ただ、そうであろうという決心しか、僕には生まれてこなかった。


コメディが書きたいのか、シリアスが書きたいのか、作者も最近よくわからなくなってきています。

とりあえず、扇歌と会長は末永く爆発させたい。


それでは、ここまで読んでくださってありがとうございます!

感想もよろしければ、お願いします。

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