無意識
「わぁ、きれい!」
隣に居た、まだ小学生にもあがっていないような少女が、声をあげた。
きらきらと目を輝かせ、すこし遠くで光る火花を見つめている。
私もそれに、再びあがった花火を見つめた。
(きれい、)
いつからだろう。
こんな風に、美しいはずのものに、胸を高鳴らせなくなったのは。
頭の中でそう呟いて、私はフェンスの隙間にかけた指に、力をいれた。
「きれいね」
母がうっとりとした声をあげた。
私はそれに唇をかんで、「そうだね」とだけ、花火が散る向こうを見つめた。
まるで、自分が何の感情も持っていないようなロボットに思えて、寂しくて仕方がなかった。
赤、緑、青、黄。
それぞれの色を持った火が、各々別方向に向かって、
絵を作り上げていく。
それを作る職には凄いな・・・と、それしか思えなかった。
どう考えても、心を射抜くような感動は、
いつしか消えていた。
「あぁ、」
なんでこんなに濁ってしまったのだろう。
母でさえ、こどものように目を輝かせて、じっと花火を見ているのに。
私は、何も感じることなく、ただそれを映像を見ている気分でいた。
あのパソコンの画面を、見つめている感覚。
私はしゃがみこんで、前を向いた。
建物が邪魔をして、花火は見えなくなった。
(きれい、きれいだとおもえたら、)
私は普通の人間なのだろうか。
焦る心を抑えるように、父が立ったのに、目を向けた。
「もう帰ろう、明日学校だろう」
父が去っていくのを、弟がついていった。
母もそれにあわせてケータイをしまい、私に微笑みかけて、行こうと目をあわせた。
うん、とやるせない声をだして、私はそれについていく。
もう、自動ドアをくぐろうとした時だった。
どぉん
大きな花火が、あがった。
母はそれに振り向いて、あわてて元の場所へと戻っていく。
小さくなる背中を見つめながら、私はその向こうも見つめた。
どおん、どおん、どおおん
煙たい空に何発も連発された花火。
私はついそれに心奪われて、目を見張っていた。
きれい、
無意識にそう呟いたのも、知らないまま。