「この世界(ゲーム)を、おわらせよう。」
(…どうして、生徒会長はわたしなんか気にしたんだろう)
生徒会長こと柳孝仁を思い出しながら、わたしはぼんやりと帰路についていた。
帯人は昼過ぎから機嫌が悪く、放課後も私用があるとだけいってとっとと帰ってしまった。1人で下校するのは久しぶりのことだった。綾織はぼんやりと足元を見つめながら歩いた。
柳孝仁。
彼もまた、わたしの知識に残る箱庭のキャラクターだ。彼は転向して来た男の子があまりに破天荒なもので目が放せず、一方的に世話を焼くかたちで傍に寄り添っていた。
だから綾織なんかではなく、あのビニール袋も違う人間に与えるべきものなのだ。
(…未来が歪み始めてる? …わたしが、帯人に近づいたから、)
思いついた推測に、安殿溜息が零れた。
嬉しい。そう思った。それはつまり、綾織の死亡率が下がっているということだからだ。
(このまま…卒業しよう、大学にいけば…もう、自由だ)
綾織は鞄の中に入っている進路希望表を抱きしめた。
帯人や周りには、地元の国立に上がると報告している。だが、綾織は海外の大学に留学するつもりでいた。既に親も了承している。全てが終わって、わたしが生き残ることができたのなら…遠い場所に行きたい。誰もわたしを知らない場所へ。わたしも知らない場所へ行きたい。それが小さいころからの綾織の願いだった。
(もう少し…もう少し、だから)
もう少しで、全てが手に入る。
こんな生から解放される。
箱庭のエンドロールは、もうすぐそこだ。