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無口な天使  作者: ソルモルドア
孤独な幼女
9/78

僕のいる世界

まだ8話目ですが、段々と編集が追いつかなくなってきたので、隔日投稿に切り替えたいと思います(´・_・`)


お気に入り登録してくださった80人近くの方々、本当にすいませんヽ(´o`;


せめてiPhoneで編集できれば……



 


「……アルト、お前……それは本気で言っているのか?」



 鋭い視線。お父さんが静かに言う。

 僅かに声のトーンが下がっていた。



「当然。

 これが俺の家のやり方だ」



 平然と返す剣の貴族が当主、アルトの言葉には間違いなく棘がある。ここで一戦交えても構わん、そんな意思が僕には垣間かいま見えた。



「……」



 目の前で倒れているのは、まだ小さな白い女の子。展開されているのは、一触即発の事態。


 本能で危険を感じ取った僕は、固唾かたずを呑んで、お父さんとアルトのやり取りを眺める。



「……ライル、クリスを頼むぞ」


「ク、クリス…こっちに来て、下がるよ」



 お父さんの腕からゆっくりと下ろされた僕は、僅かに震えるライルに手を引かれて、お父さん達から距離を取る。


 僕らが十分に離れたのを見てから、お父さんは言った。



「……もう一度聞こう、アルト。

 お前は、自分の子をそこまで痛めつけて、心が痛まないのか?」



 まるで研ぎ澄まされた刃のような言葉。



「……甘いぞ、ライネス。

 いや、昔からそうだったな。今度もそうだ。


 他人の家の方針に口を挟まないで貰おうか?」



 凪いだような蒼い瞳。お父さんの視線を全く動じずに受けとめるアルト。



「「……」」



 彼我の間に流れる重苦しい沈黙。



 ……これが…殺気……?



 物理的に、魔法的に絶対の鎧を装備しているはずの僕が感じるプレッシャー。


 道場の中の空気に毒が混じっているような……少しでも身動きしたら殺されるかも、と思わせるような何か。


 繋いでいるライルの手が小刻みに震え、汗ばむのがわかった。



「……わかった。お前は本気なんだな」



 お父さんのその言葉と共に、更に高まっていく殺気。


 僕には二人の視線が、互いに火花を散らしているようにも見えた。



「だとしたら……そうだとしたら、どうするつもりだ?」



 どこか挑発的なアルトの言葉。



 ……一秒が何倍にも引き伸ばされているような、時間の流れがおかしくなったような……



 チャキリという金属音。共に武器に手をかけた二人……










「……そうか。


 ライル、クリス、帰るぞ」



 だがしかし、お父さんはクルリとアルトに背を向け、僕達の方を見て言った。



「……え……?」



 驚き、つい間抜けな声が出てしまった僕。



 ……一体、何があったの……?



 変わらずに真剣な表情をしたお父さん。


 よくはわからなかったが、きっと達人同士にしかわからない何かがあったのだろう。口を挟めるような雰囲気ではなかった。



「……邪魔をしたな」



 アルトにそう一声だけかけて、お父さんはドアの方へと向かって歩いていく。


 追いかけるべく足を進めようとして……僕はライルがその場から、一歩も動こうとしないことに気がついた。



「……?」



 クイクイと手を引っ張ってみるも反応がない。不思議に思った僕は、ライルの顔を下から覗き込む。



「……ライル……?」


「……(ぶくぶく)」



 殺気に耐えられなかったのだろうか。立ったままブクブクと泡を吹き、気絶しているライル。


 魔装を纏った僕でさえ感じたプレッシャー、流石にライルは耐えることができなかったようだ。



 ……どうしよう……?



 助けを求めようにも、お父さんは既に道場内にいない。

 迷っている僕の前で、ポタポタとライルの唾液が床に垂れる。



 ……ライル……



「……」



 僕はお父さんが気がついて戻ってくるまでの間、無言で立つアルトの前で小さくなる。


 結局、倒れたままの白い女の子には、何もしてあげることができなかった……









 …………

 ………

 ……

 …









「私の刀は、友に向けるためのものではないからな……」



 そう一言だけ言うと、それっきり黙り込んでしまったお父さん。


 あとはまるで会話をすることもなく、気絶をしたライルと共に、馬車に乗った僕は帰宅する。



 再び今日のことが話題に出たのは、何事もなかったかのように家族で夕ご飯を食べた後のことだった。



「ライル、クリス。

 あの子のことは私ができるだけ手を回して助けられるように努力をしよう。


 だから今日のことは忘れなさい、いいね?」


「……はい」


「……」



 不思議そうな顔をするお母さんの横で小さく頷くライル、無言のままの僕。



「ライルはあとで私の書斎に来なさい。

 これでこの話は終わりだ」



 忘れろ、とは一体どういう意味だったのだろう?


 でも、お父さんは小さく頷くと、この話しをそこで終わらせたのだった……











「お嬢様、これが世界地図です。


 当主様がまだ現役だった頃に測量そくりょうされたもので、当時の様子が、かなり正確に書かれた貴重なものなんですよ」



 食事の後、僕はいつも通りメノトに勉強を見てもらっていた。



「……」


「クリスお嬢様!」


「……?」



 耳元で多少大きな声をだされ、肩を揺すられることで僕は我に返る。



「クリスお嬢様、どうかなさったのですか?


 当主様とお坊ちゃまと一緒に、アルト様のお宅を訪問されてから、随分と疲れていらっしゃるようですが……」



 心配そうなメノトの声。



「……大丈夫……」



 心配させないようにと僕は、とりあえずそう返す。


 とはいえ、時折あの時の白い子供の姿が、僕の頭をよぎるのだ。あの子の無残な姿が、過去の僕と被るのだ。



「……大丈夫…だから……」



 ……痛くて、辛くて……熱くて、重くて……やめて欲しいのに……



「お嬢様!」


「……!?」



 再びメノトに呼ばれて我に返る僕。

 どうやらまた違うことを考えていたようだ。



「お嬢様……はぁ……」



 メノトも僕が余りにも使い物にならないと思ったのか、ため息をついて世界地図を突き出してきた。



「クリスお嬢様。これがこの世界の全てです。

 今日はお疲れのようですし、大まかに概要だけ掴んで終わりにしましょうか」


「……ん……」



 内心申し訳なく思いながらも、コクリと頷いた僕の前に再び広げられた地図。


 地形なんて早々変化するものじゃないだろうと思って、僕がそれを覗き込むと……



「……な、なにこれ……?」



 期せずして漏れてしまった小さな呟き。



 王国の土地に僅かに面した青い海。それはいい。

 だけど、この塗りつぶしたみたいな黒はなに?黒い海?


 茶色いところは一つしかない……他の国は……一体どこ……?



「……なんで……?」



 皇国は?帝国は?共和国は?

 他の国は一体どこにいったの?



「お嬢様、簡単ですよね?」



 どこか疲れた顔をしたメノト。

 でも、僕はメノトに半ば必死になって問いただした。



「……黒い…なに……?……王国…だけ……?」



 メノトは僕が質問をしたのを意外に思ったのか、片眉をあげて、僕の問いに頷いて答えを返す。



「はい、お嬢様。ようやく興味を持っていただけたようで、メノトはとても嬉しゅうございます。


 それでは、地図の上で黒く描かれているところですが、それは、通称暗黒の大地、暗黒大陸と呼ばれる地域です。

 魔に属するもの、一般的に魔物と呼ばれる邪悪なものたちが、活発に活動している土地になります。


 危険地帯ですし、実際はほとんど測量できていないので、かなり大まかな形しかわかっていません」


「……王国…ほかは……?」



 他の国があったはずのところが、黒く塗りつぶされているのはなぜ?

 そこにあったはずの国は、人達は一体どこに……?



 暗黒の大地、危険地帯。


 既に答えはわかっている質問ではあったけれど、僕はどうしても聞かずにはいられなかったのだ。



「……他の?国のことですか?」



 心底不思議そうな顔をするメノト。


 だが、それもそのはず。彼女が産まれた時から、世界にあるのは王国一つだけ。

 魔物に領土を奪われることはあっても、国土が広がったことなどないのだ。



「……」


「王国以外に他の国などありませんが……」



 暫く呆然と地図を眺めている僕を見たメノトは、きっと子供の勘違いか何かだと思ったのだろう。

 ふっと息を吐いて言った。



「お嬢様は今日初めて外出されましたし、おそらくとっても疲れているのでしょう。

 少し早いですが、これで今日のお勉強は終わりです」


「……」


「今日は早めに就寝の用意をしましょうか。

 それでは失礼しますね」



 明日は字を書く練習ですからね、と言って一礼と共に部屋を出て行くメノト。

 だが、暫くすればきっと寝る準備をして戻ってくるのだろう。



「……」



 僕は頭の中にもう一回あの黒い地図を思い浮かべる。


 可哀想なあの子の顔と共に浮かんだそれは、思っていたよりも遥かに人類が危機的な状況にあるということを、僕にわからせるには十分すぎる情報であった。

 非常に大きなインパクトを僕は受けていた。



「……かなり…危険……?」



 気がついていないだけで、もしかすると、今もどこかの地域で魔物と人間の領土争いが行われているのだろうか?

 大規模な命の奪い合いが起きているのだろうか?



「……でも……」



 思うところは多々あるが、こんなに広い暗黒の大地を相手に、僕に一体何ができるというのだろう?

 地形を変えるほどの魔法を連発したところで、それは先ほど見た地図に針の先ほどの穴を開けるようなものでしかないのだ。



「……どうする……?」



 この世界を救うのが僕の使命。僕は必死でない知恵を絞る。



 魔法の知識を広めようにも、お父さんやライル、メノトを見ていればわかる。恐らくこの世界の人々が持つ潜在的な魔力は、かなり少ない。



 マトモに魔法が使える人はほとんどいないだろうし……

 家族から変な目で見られるかもしれないし……



 でもだからと言って、何もしなければ僕一人で出来ることなんてたかが知れているのだ。



「……どうしよう……」



 ……今は力を蓄えるしかないの……?



 僕の纏まらない思考は、メノトが扉をノックして入ってくるまで延々と続いたのだった……



《人物紹介》


クリス……主人公。現在四歳。現幼女、元男の娘。お嬢様。

常時展開している魔装のおかげで攻撃力と防御力が馬鹿に高い。


メノト……クリスの乳母。実は脳筋。


お父さん……本名ライネス・エスト・アズラエル。

刀の貴族の現当主。厳めしい顔をしているが意外と子煩悩。


お母さん……本名マーチ・エスト・アズラエル。

クリスの容姿が問題で一時不倫を疑われていたが、二年経ってようやく認められた。


ライル……クリスお兄さん。七歳手前。お父さんとよく似ている。

わりとなんでもできる。


アルト……剣の貴族の現当主。金髪に碧眼、爽やか系で一人称が俺。

前世のクリスを殺した貴族にそっくり。


ボク……剣の貴族の長女。ライルと同じ歳だが戦闘力皆無。魔力(闘気)が一切ない。アルビノ少女。



誤字脱字、意味不明なところがありましたらご報告いただけると幸いです( ´ ▽ ` )ノ

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