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無口な天使  作者: ソルモルドア
王立剣術学園
62/78

捜索

短いです(・_・;




 


「ねえちゃん!ねえちゃん!ほかにもなんかだせないのかよ!」


「……材料、必要……でも……」



 廃材を利用した遊び道具を片手に、期待に満ちた瞳をクリスに向ける小さな子供達。

 そんな純粋な瞳に晒され、少し緊張しながらも、綺麗な水の中にわずかばかりに存在した果物の果汁を混ぜたクリスは、難しそうな顔をしながら氷の魔法を使う。

 加減が難しいのだ。



「……はい、できた……」


「お、おいしー!」



 小さな魔法陣が消失した後にできていたのは、アイスキャンディーと呼ばれるお菓子。

 もの珍しそうにそれを見た子供達は、恐る恐ると言った様子でそれを舐めると、嬉しそうに騒ぎながらトコトコと辺りを走り回る。


 可愛らしいその様子に、クリスからも思わず微笑がこぼれた。



「……見事なものだな」



 話しかけてきたのは、クリスにつけた手錠をとっても構わないと言った張本人。


 だが、一応念のための監視なのだろう。クリスの少し後ろに腰を下ろしていたギルド員は、言葉少数なくそう言う。その言葉からは、少なからず感心している様子がうかがわれた。



「……ありがと……」



 たいしてクリスはいつも通りにそう返す。

 最初は恐かったギルド員の男であったが、考えてみれば人を殺すのもまた彼らの仕事の一つ。嫌な仕事も生きるために仕方なく引き受けているのではないか、と考えてみれば避けるのは間違っているような気がしたのだ。



「……うむ」



 少しだけ顔を赤くした男はきっと熱いのだろう。周りの子供達がアイスキャンディーを食べているのであれば、それと対比して暑いと感じてしまっていても仕方ない。



「……食べる……?」


「……いや、遠慮しておこう」


「……そう……」



 クリスは少しだけ残念に思いながらも、アイスキャンディーを冷たく澄んだ水の中へと戻す。その姿だけをみれば、もうクリスは完全にどこかのアイス屋さんであった。



「……い、いや……や、やはりひとつ貰っても構わないか?」


「……?」



 一体どのような気持ちの変化があったのだろう。クリスが戻したそれを欲しがった彼は、どこかバツが悪そうにクリスからそれを受け取って言う。



「……ううむ、美味いぞ。……とても斬新だ」


「……ありがと……」



 誰であれ、やはり褒められれば嬉しいものだ。前世も今世も最低限しか料理や調理をしたことがなかったクリスであれば、大の大人からのお墨付きというのはなんとも誇らしい。



「このむっつりめー!」


「……むっ!」



 小さな女の子や男の子達にたかられるギルド員の男を見て、クリスは心底楽しそうに笑ったのであった。









 ………………


 《グレン視点》








「随分って治安があかんな」


「ああ」



 王都の中に網の目のようにはしる道路の一つ。馬車が一台ギリギリ通ることができるかどうかという程に狭い道幅。巧みな手綱たづなさばきで馬車を操るグレンの言葉に応答したのは一人の青年、ライルだ。



「こっちのほうまで来たのは俺も初めてだ。だが、まさかここまで酷くなってるだなんてな……」



 教会が作り出した繁栄の裏。国政にも一切反映されることないようなスラム街。馬車の荷台に体を預ける様にして休むリョウは、唇を噛むと辛そうにそう呟いた。


 彼とて両親を失った後にアズラエル家に養子として受け入れられてもらえていなければ、ユーリ共々こうなっていたのかもしれないのだ。きっと少なからず思うところがあったのだろう。



「すんまへん、この辺りで小さな銀髪の子を見まへんやったか?」



 険しい顔をしたライルと、傷の痛みもあって少しつらそうな顔をしたリョウ。

 その二人を後目に馬車を止めたグレンは、道端にうずくまるようにして座る小さな老人に一枚の銅貨を投げ渡して問いかける。



「……し、知らん!向こうに行けっ!」


「……またはずれかや」



 震える手でしっかりとお金を拾って懐に入れた上で怒鳴ってくるその老人。

 悪態を一つついたグレンは、落胆した顔のまま槍を担ぎなおして馬車をまた動かし始める。



「ライル、もうここのやたりにクリスはおらへんほなへんか?」


「いや、あと少しだけ探そう。僕にはなんとなくわかるんだ」


「さ、さよか……」



 少しだけウンザリした様子のグレンに真剣な眼差しを向けてライルは告げる。

 その瞳が内乱の時に見た瞳と全く同種のものだと気がついたグレンは、人知れず寒気を感じていた。


 頼りがいのあるライルだが、幼馴染でもあり、共に死線を潜り抜けたグレンは、ライルが被った冷静と言う名の仮面の下に存在する狂気に気がついていたのだ。



 ……こいつはあかん。ぷっつんって切れる寸前やがな……



 グレンから見てもいっそ清々するほど、敵と認識した相手の命を奪うことに何の躊躇いも持たないライル。彼は良くも悪くも強い覚悟を持った人間であった。



「そこ。そこを右に曲がって」



 グレンはライルに言われたとおりに馬車の進路を右に変更する。何の根拠もない言葉ではあったけれど、でも、こうやってライルについていくことが正しいような気がグレンにはしていたのだ……









 …………

 ………

 ……

 …









「グレン、止まってくれ」


「どないした?」



 最初に異質な雰囲気に気が付いたのはライル。彼の耳には、楽しげに笑う沢山の子供達の声が聞こえてきていた。



「子供の笑い声が聞こえないか?」


「……せやな。で?それがどないしたんや?」



 疑問に思ったグレンに説明をしたのは仰向けに横たわったままのリョウ。彼は少しだけ苦しそうな面持ちで語る。



「いや……確かにおかしいぞ。これだけ廃れたところだ。

 こんなに明るい笑い声なんかが聞こえるわけがない」



 リョウの言葉を聞いたグレンはハッとする。そう、確かに死んだ魚のような眼をした人間しかいないようなこの地域で、ここまで楽しそうに笑う声なんて聞こえるわけがないのだ。



「馬車を降りて歩いて近づこう」



 ライルの言葉に頷いた一同は、馬車を降りて徒歩で笑い声のする方へと警戒をしながら向かう。



「……ここか」



 そして辿りついた先にあったのは巨大な廃屋はいおく。かつてはおそらく倉庫か何かに利用されていたのであろうそれは、いかにも怪しげな雰囲気を醸し出していた。


 それなりの数の人の気配がすれば、子供達の笑い声だけが場違いに辺りに響いている……



「よし。これから僕らはここへ踏み込むよ。

 何もなければそれでいい。でも、もし万が一にでも犯行グループがいたら、ここで一人か二人を残して殲滅するんだ」



 至極しごく冷たい瞳で平然と言うライル。彼はそのあとでリョウの方を見て言った。



「リョウ、君はここに残って逃走する犯人の確保を頼む。中に入って戦闘するのにはおそらく耐えられないだろう?」


「っ……すまねぇ」



 おそらくは処方された痛み止めの効果が薄くなってきたのだろう。貴族の家柄であれば、遺伝的に毒を含めた全ての薬剤に耐性があるのだ。おそらくリョウはこの戦いについてこれない。



「グレンは裏に回って僕とタイミングを合わせて突撃だ。裏から敵を逃がさないということに集中して。いいね?」


「わかった。問題あらへん」



 頼もしいグレンの肯定を聞いたライルは一つだけ頷いて言った。



「僕は責任を持ってここから突撃するよ。陽が落ちる前には終わらそう。


 地形が見えなくなってしまったら、逃がしてしまう可能性も高まるし、地の利がある向こう側が有利になってしまうからね」


「……せやな。行ってくるわ」



 ライルの言うことはもっともだ。突入するというならば、最低限増援を待ちたいと思っていたグレンではあったが、彼は己の意見を呑み込んでライルに従う。


 いや、彼とて槍を扱うことだけに人生の八割を費やしてきた武人。久しぶりの実戦におそらく高揚していたのだろう。



「いくや、相棒!」



 裏口に回るかたわら、己の背に背負った槍に話しかけるグレン。命のやり取りを間近に控えているはずの彼の表情はどこか明るかった……


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