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無口な天使  作者: ソルモルドア
王立剣術学園
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波乱の予感 ②

 


「えっ?ボクが闘技祭に!?」



 本格的に学園の寮に住処すみかを移すに当たってギルドの自室に荷物を取りに来たボクであったがベガに見つかってしまったのが運の尽き。連れて来られた先のギルドマスター室、そこで謎の命令を受けさせられていた。



「ええ、勿論学生である貴女リスではなくて《銀の操者》としての参加要請よ」


「え〜っと……それってつまり?」



 ボクはベガの言葉に疑問符を浮かべる。


 そう、要人警護やら闘技場の警備の依頼ならばクエストボードの方でやりとりをしてくれればいいのだ。それが参加要請という形でわざわざベガを介してボクのところにきたってことは……



「そうよ。

 貴女は出場者として多くの人達の前で戦うことになるわ」


「うぇ…やっぱり面倒くさそうな内容だぁ」



 まるで思考を読み取ったかのようなベガの返答にボクは頭を抱えて悩む。


 ただでさえこの時期に闘技祭、不謹慎ふきんしんとは言えないまでもする必要性が皆無なお祭りを行うのだ。それにボクみたいなーー自分で言うのもなんだけどーーギルドの稼ぎがしらが出場するなんてことが許されるのだろうか?他のことをしていた方がよっぽど王国のためになると思うんだけど……



「……貴女が悩んでいることはわかるわ。自分が強すぎて周りに合わせられないんじゃないかとか、今はそんな時期じゃない。そう思っているんでしょう?


 でもね、これにはどうやら理由があるらしいの」


「うん……って理由?」



 聞き返したボクを尻目にベガはあたりに人がいないかどうを念入りに確認する。そしてきっと誰もいないことが確認できたのだろう。彼女はゆっくりと口を開いた。



「理由というよりは原因って言ったほうがいいかもしれないわね……。


 ええ、実は今回の闘技祭の開催も、貴女を含めた腕に覚えのある人達を参加させるように要請をしたのも全てがすべて勇者様の発案らしいのよ」


「はっ?」



 思わずと言った様子で聞き返したボクにほんの少しだけ苦笑を漏らしたベガは説明をはじめる。



「そうね……たとえば最近 ちまたで有名になっている魔王説、リスは聞いたことがあるかしら?


 魔物を統率している魔将。それをさらに纏めあげる上位の存在、魔王。その魔王を倒せば全ての魔物は活動を停止して人類は救われるっていうやつなんだけど」


「あっ、それ魔王説って言うんだ。うん、それならまぁ一応話しぐらいは聞いたことがあるけどさ……」



 ベガの言葉にボクは最近聞いたばかりの新説の存在を思い返す。ボクを含めた古参のギルド員たちの間では密かに馬鹿にされているような説ではあるけれど、まことしやかに教会が流布るふしているというだけあって信じている人は実のところかなり多いらしい。



「でもそれって闘技祭と何の関係があるの?できれば参加を拒否したいんだけど……」



 後半のボクの言葉を華麗にスルーし、前半の疑問にもっともだと頷いたベガは説明を続ける。



「魔王説と闘技祭、二つの共通点は異界より召喚された勇者。


 どちらとも勇者が提唱したことらしいのよ」


「へっ?」



 見慣れたギルドマスター室。驚くボクを尻目にベガは椅子の背凭せもたれに寄りかかりるようにして体を倒した。



「もうここまで来たら私にもよくわからないわ。唯一わかることと言えば、勇者様とやらが本当に異能を用いて調べたことで、提案すべきと思ったことならそれだけでもう私達に拒否権はないし、勿論文句を言えるようなことでもないってことだけ。


 はたから見れば教会が勇者をまるで神のように盲信しているようにみえたとしても、でもそれはもう私達に関与できる次元じゃないのよ……」


「そんな……」



 聞けばあの馬鹿でおちゃらけた感じの勇者は召喚されてから一日とたたずにこの王国がおかれた状況を察していたらしいという。他にも聞いてもいない人間の名前や大まかな境遇を当てたなどの異質な噂が絶えないらしい。



「もう勇者が一人いたら私達なんていらないのかもね……」



 ボクのまぶたの裏にまるで心の奥を見透かすかのような勇者の碧眼へきがんが思い起こされる。それは不快感以外に今度は恐怖までもをボクに感じさせた。



「「……」」



 そしてボクらはお互いに無言になる。



 最後にベガがポツリと呟いた魔王を一人を倒したら魔物が全部消え失せる、なら今まで私達が戦ってきたのは一体なんだったんだろう。その言葉がどうにもボクの頭の片隅にこびり付いて離れなかった……








 …………

 ………

 ……

 …








「ふ〜ん、銀の操者様ねぇ……」



 時は流れて一週間。


 ボクがとあるパーティー会場の警護の任をしている時にボクは銀の操者として勇者と二度目の出会いを果たすことになった。



「どうだ?これでも食べないか?」



 場所は王城のバルコニー。


 辺りで護衛をおこなっているギルド員達はボクを含めて皆がみんな背格好の違いわかりづらい茶色いローブに身を包み、素顔を隠す仮面を被っている。


 全員が全員古参のギルド員であれば、実際の実力に差はあれど立ち居振る舞いだけでボク一人を特定するのは不可能なはずなのに……



「間に合っている」



 明るい月夜、ボクは内心で動揺をしながらも骨付き肉を突き出してくる勇者に対して背を向けたまま極力簡素な対応を心がける。



 なぜ勇者はボクが銀の操者だとわかったんだろう?銀色の仮面だって見せていないし、極力貴族達から眼をつけられないように気配を消していたのに……



「普段からそうだが釣れない奴だなぁ。

 ツンデレっていうのはリアルでやってもモテないもんだぜ?」


「なっ……」



 何気ない風に言われた勇者の言葉にボクは仮面の下で大いに驚愕する。



 ……ふ、普段からだって……!?



 まるで何回もあったことがある、日常的に接している相手に対するような気軽な勇者の物言いにボクの背筋に悪寒が走ったのだ。



 ……名前や境遇を当てて変装を見抜く……これが異能?勇者だけがもつ力……?



「まぁいいか。


 何のために正体を隠しているのかはしらないけどよ、もう少し愛想良くしてくれてもいいんじゃないか?せっかく可愛いらしい顔をしてんだからさ」



 お酒でも飲んで大胆になっているのだろうか、ボクは後ろから頭を撫でようとしてくる勇者の手を咄嗟とっさに払い除ける。


 仮面越しに眼を合わせた瞬間から無性に湧いてくる好意的な感情がとてもとても恐ろしかった。



「に、任務にさし障る……」


「へいへい、わかったわかった」



 一足飛びに距離を取ったボクを見て笑みを引っ込めた勇者は表情を一転、つまらなそうな顔をしながら後ろ手に手を振って歩き去る。その様子から察するに別段ボクに対する個人的なこだわりがあったわけではないのだろう。興味本位の行動と言ったところか。



「嫌な気分……」



 仮面越しにあたる夜風は存外に冷たくいつの間にか火照っていた頬を撫でるようにして冷やす。


 一旦は勇者が去っていってくれたことに少なからずホッとしたボクではあったが、どこか寂しいような、悲しいような……そう、恐怖や不安とは別種の胸の高まりがまるで追撃をかけるかようにボクを不快な気分にさせていたのだ……









 ………………


 《ライル視点》









「おいライル、本当にいいのかよ?」


「……」



 どこか気遣うようなリョウの言葉。僕は衰えることなく続くリズミカルな連撃を交互に捌きつつ自問する。



 ……本当にいいのだろうか?僕のしようとしていることは正しいのだろうか……



「勝つにしろ負けるにしろよ、どちらにしたって無責任な民衆へいみんは揃いも揃ってお前を叩く」



 右下。すくい上げるようにして上半身を狙ってくる木刀を半歩下がって半身になることで避ける。すかさず木刀を横に薙ぐことで反撃。



「そんな中でお前は……っていや、俺が言いたいのはそんなことじゃねぇ」



 横薙ぎに振るった僕の木刀を弾いた後に突き出されたのは鋭い突き。半身になった僕の脇を狙って繰り出されたそれを僕は引き戻した木刀で叩いて逸らす。リョウの手に持った二本の木刀が独自の理論に従ってまるで別々の生き物のように動く様はおよそ優雅ゆうがさすらをも感じさせるものであった。



「何よりもまずお前に本当にクリスを見捨てる覚悟があるのかってことだっ!」



 右上、左下から同時に迫り来る木刀。およそ速度の乗り切っていないそれをまた少し下がって受けようとした僕の腹部に、しかし突如として鋭い痛みがはしる。



「あぐっ……」



 視界の片隅にうつったのはリョウの足。木刀に気を取られていたからか、はたまた会話の内容に心を惑わされたのか……


 少しだけ辛そうな瞳をしたリョウは両手に持った木刀の一本を僕の首にピタリとつけて言った。



「口で平気だって言うのは簡単だけどよ……でも本当に大丈夫か?」



 リョウにしては珍しく落ち着いた、気遣うような声色。僕は膝立ちの姿勢のまま木刀を掴んでいない方の手で首に当てられていた木刀をどかす。



「……ならリョウは……リョウはユーリを置いて行くことに何の躊躇ためらいもないのか?」


「俺か……」



 僕は卑怯かもしれないとは思いつつも逆に問い返す。


 しかしリョウは嫌な顔一つせずに木刀を下げ僕の言葉に目を瞑り、そして暫くの沈黙の後にゆっくりとその口を開いたのだ。



「俺も確かに心残りがないって言ったらそれは嘘になるかもわからんなぁ……」


「リョ……」



 だがな、と目を開いて僕の言葉を遮ったリョウは先を続ける。その眼光は鋭く、とてもじゃないが僕には彼が迷っているようには見えなかった。



「……知ってるか?俺もユーリお前らの家に養子に来る前まではしがない貧乏貴族だったんだわ。

 そこら辺にいる平民よりも貧しい飯を食って、穴が空きそうな粗末な服を毎日毎日擦り切れるまで着てた」


「……」



 僕は無言で彼の過去の話しを聞く。今にも沈みそうな夕陽を浴びるリョウの横顔はとても真剣で、それこそ口を挟めるような気楽な雰囲気ではなかったから。



「わかるか?いや、別段わかって欲しいわけでもないんだがよ、没落した名誉貴族なんて常識的に考えれば財産もなけりゃぁ何にもねぇのはわかるだろ?


 ……でもな、信じられねぇかもしれないけどよ、俺らは確かに幸せだったんだ。貧しい中にも誇りはあったし、ずーっと昔に親父がたてた戦功は確かに尊敬すべきもんだった。子供の頃から俺もユーリも親父に憧れてたもんだ」



 当時を思い出して懐かしく思ったのかほんの少しだけ表情を柔らかくしたリョウは僕に語りかける。



「ユーリは長い間俺と一緒に過ごした、同じ釜の飯を食ってきた兄妹だ。確かに心配はするが過保護にはしねぇ。

 俺はあいつを、あいつの誇りを信じてる。もうこんなダメな兄貴なんて必要ないだろうってな」


「そっか……」



 緩やかに落ちていく太陽。徐々に暗くなって行く辺りの景色。僕はリョウの決意に応えようと口を開く。



「わかったよリョウ……君の気持ちは、妹に対する信頼は全部とは言わないけど確かに僕の心を動かすほどには伝わってきた」


「言うんじゃねぇ、照れくせぇだろが……」



 まるで僕らの未来を暗示しているかのような辺りの暗さは、数歩先が見えないほどに僕らの視界を狭めている。でも、僕のこの思いは……



「僕はクリスを愛してる。正直に言えば常に手元に置いて悪い外敵から守ってあげたいって思うぐらいにはね」



 歪んでいるのかもしれないと自分でも思う。だが昔からこことは違う世界に生きているようなクリスは初めて会ったあの時からもう僕の心を掴んで止まなかったのだ。彼女クリスは戦うことと刀しかなかった僕にとっての唯一の癒し。闇を照らす光。



「……だから」


「?」


「……だからこそ僕は行こうと思うんだ。いくら愛や信頼があっても僕はクリスを危険な目に合わせて黙認するわけにはいかない。


 リョウはわかるだろう?君とは少し違う理由かもしれないけど僕は愛する人のために何の危険のない、それこそ魔物のいない世界を創りにいくんだ」


「……」



 暗闇の中でただ呆然としたように立ち尽くすリョウは何を思ったのか突如として大声で笑いはじめる。



「ははははは……こいつは傑作だ。

 愛する人、それも妹のために世界を変えるときたか!」


「……悪いかい?僕としてはこれ以上ないぐらいにいい考えだと思うんだけど?」



 闇夜に響く笑い声。釣られてニヤニヤと笑った僕を見てリョウは言った。



「いや!それでこそ俺が見込んだ男!恥ずかしくても前を向け、お前が勇者だ!ライル!!」



 カンカンと両手に持った木刀をリョウは打ち鳴らす。夜の闇に溶けこむこともなくその音は綺麗にあたりに響き渡った。



「わかるか?今の王国に未来はねぇ。このままズルズル奈落の底に落ちてくだけだ」


「……」


「わかるな。御伽噺おとぎばなしを一つ読めば子供ガキにだってわかる。世の中を変えるのは力を、意志を持った一人の勇者だ」


「……そうだね」



 頷く僕に向かってリョウは首を垂れる。彼の言わんとしていることがわかった僕は鷹揚おうように頷いた。



「僕、ライル・エスト・アズラエルはこれよりリョウ・アズラエルを旅の同行者と認めよう」


「有り難きお言葉」



 真面目な顔をしたリョウを見て僕は軽く噴き出す。やはり慣れないことをするものではなかったか。



「くくくっ……あっ、いや、別に真面目な顔をしたリョウを笑うつもりはなかったんだ……ぷっ…。


 ほ、ほら、もう大丈夫だろ?」


「ちょ、お前は俺が見込んだ勇者なんだからよぉ。最初からすんげぇ不安にさせられたんだが……」


「まぁまぁそんなに気にしないで」



 しょんぼりと肩を落としたリョウを見て僕はまた少しだけ含み笑いをする。さぁ家に帰ろうと彼を促して数歩彼よりも前に進んだ僕はそこで一言だけ告げた。



「出発は大会の後。今の僕が勇者を相手にどこまで戦えるのか知りたいから」


「……へっ、わかってるよ」



 この気持ちは、僕らがしようとしていることは、もしかしなくてもきっと青臭い、若気の至りからくるものなのだろう。間違った考え方と言われても仕方が無いのかもしれない。



 でもっ……



「「……」」



 言葉にしなくても真剣な思いは伝わる。暗闇の中を確かな足取りで歩く二人の青年はおおよそ15歳とは思えないほどに力強く、その背中はまるで何か守るものを背負ったおとこのもののように広かった……



申し訳ありませんがここで一旦更新を停止(10日程)させていただきます(´・_・`)


ついでに読み直して校正をするつもりだったりもしますが、やっぱり一番の理由は試験ですねorz

進級できるように応援していただけると作者はとっても嬉しいです(>人<;)

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