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無口な天使  作者: ソルモルドア
孤独な幼女
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大貴族!?

4話目です!



なんだか編集のレイアウトが勝手に変化して非常にやりにくくなりました(・_・;


中々手直しがうまくいかず、まだかなり早い段階で申し訳ないのですがゆっくり投稿になります(・・;)



 


「お嬢様、今日は奥方様と当主様が、お嬢様に会いにいらっしゃるそうですよ」


「……?」



 広い部屋、狭すぎる世界。鳥篭の中で生活すること早二年。

 夏が過ぎ、秋になった今日が、クリスの誕生日であった。



「ほら、お嬢様。バンザーイしてくださいね。

 可愛らしい着物にお着替えをしなくちゃいけませんから」


「……ん……」



 いつの間にサイズを確認していたのだろうか。

 僕の体からノリノリで服を剥ぎ取っていくメノトが持っているのは、可愛らしい色をしたドレス?



「……」


「お嬢様、これは袴というものです!

 きっと似合うと思いますよ」



 疑問が顔に出ていたのか、僕が喋らなくてもピンク色をした可愛らしいドレスについて説明してくれるメノト。



 ……うん……答えてくれるのは嬉しいけど……そんな可愛らしい服、僕は一応男の子だったんだから……



 どこか恥ずかしさを感じて下を向く僕。



「ほら、お嬢様。

 一般家庭では女の子が袴を履くことなんて絶対にないんですから、これは身分が高いってことの証明なんですよ!

 誇りに思って」



 ……そ、そんな……



 勿論僕に抵抗なんてできるわけもなく、いつになくテンションの高いメノトにされるがままに色々と着替えさせられる。


 きっと、前世では拝んだことすらない物なのであろう。クリスには価値を推し量ることさえ不可能なほどに高価な品。

 袴の肌触りは上質で、非常にサラサラとしていた。



「お嬢様?キツくはありませんか?」



 僕の顔をどこか心配そうに覗き込むメノト。



「……」


「はい、大丈夫そうですね。もう少し締めてみましょうか」



 いつもどおり無言を返事とした僕は、内心で考える。



 ……なんで二歳の今日まで、今世のお父さんとお母さんは僕のことを放っておいたんだろう……?



 この二年の間に幾分か心を許したとはいえ、まだ触られることにかなりの苦手意識がある僕は、人形のように固まりながら、必死に考察を続ける。



 ……メノトの反応を見ても、そこまで仲が悪そうには見えないし……今更会いに来るって、二歳っていうのが何かの節目なのかな……?




「まぁ!お嬢様!なんて可愛らしい!!」


「!?」



 考え事をしていたためだろう。急に出された大声に反応して、僕のノミの心臓がドキンと跳ねる。

 ジワリと目元に涙が浮かんだのは、おそらくこれが幼女の体であるからだ。



 ……流石に僕だってそこまで情けないわけじゃない……はず……



「あれ?お嬢様はお寝むですか?


 でも、あと少ししたら奥方様と当主様がいらっしゃいますから、頑張ってもう少しだけ我慢してくださいね」


「……ぅ……」



 僕の涙を眠いからと勘違いしたメノトは、柔らかいハンカチを持って僕の目元の涙を拭き取る。



「お嬢様!頑張っ……」



 コンコン



 ちょうどメノトの声を遮るようにノックが聞こえたのはその時のことであった。



「失礼するよ」



 執事風の男に扉を開けられ、中に入り込んできたのは、黒い髪に黒い瞳をした一人の男性。

 名前は知らないけど、この人が今生の僕のお父さんなら、たぶんなんたら・エスト・アズラエルというのだろう。



「当主様」



 慌てて礼をするメノト。当主様と呼ばれた男は、鷹揚おうように手を振ってその礼に応えた。



「いや、いい。気にするな。

 それとマーチだが、体調を崩してしまったようだ。残念だが今日は来ない」


「承知いたしました」



 再び礼をして脇にずれるメノト。

 マーチというのが僕のお母さんの名前なのだろうか。



「ふむ……クリス、今まで会いに来てやれなくてすまなかったな。

 色々と本家と分家の問題が……いや、こんなことを娘に言うものではないか」


「……」



 恐い顔に似合わず、意外と優しげな声をしているお父さん。



「生まれた時以来だが、随分と大きくなった……」



 きっと僕を気遣っているのだろう。どこか微笑んでいるようにも見えなくも無い顔で、彼はゆっくりと近づいてくる。



「……顔立ちはマーチだな。ただ、目元は私かも知れない」



 ベッドに浅く腰掛ける僕の顔をうかがいながら、お父さんは恐る恐ると言った様子で撫でてくる。

 でも向こうが恐る恐るであれば、僕の方もガクガクブルブルだ。



 ……恐そうな顔……そ、それに、なんでこの人も袴をはいてるの……!?



「……ぅ……」



 家の中なのになぜか長い刀と短い刀を腰に帯びていて、身長は目測でたぶん2mぐらい。

 体型は僕とは似ても似つかないほどにがっちりとしていて、筋骨粒々という言葉が相応しい。

 黒く鋭い瞳に、顔にある一筋ひとすじの刀傷がとても目立つ。



 なぜか僕と同じロングスカートのような袴というものを履いていて、そう意味でも危ない感じの人なのかもしれないし……とりあえず見るからに恐ろしい。

 僕にとっては絶対に近づきたくない人種の人間。



「メノト、この子はどうだ?もう喋れるのか?」


「はい、喋ることはまだできませんが、身振り手振りを加えた簡単な意思疎通ならば可能のようです」


「ふむ……随分大人しいようだし、まだ少し発育が悪いのか……


 まぁいい。ライルと比べるのは可哀想だからな」


「……」



 怯えながら、内心で涙を流しながら、それでも僕はお父さんの話しを聞き漏らさないようにと集中をしていた。



 ……ライル……発育……っていうことは僕のお兄さんか何かかな……?



「クリス、まだお前には理解できないかもしれないが、この家は代々続く刀の貴族と呼ばれる大貴族だ。


 髪の色も目の色も家族の皆とは違うクリスだが、この家に生まれ、その存在を認められたからには刀を持って、民衆のために生きなくてはならないぞ。


 たとえ女子供であってもそれは例外なくだ」


「……」



 しゃがみ、僕と視線を合わせて語るお父さん。

 その黒い瞳はとても鋭くて恐いけれど、そこに負の感情はなく、嘘をついているようには見えなかった。



「だが、先祖返りとはいえ銀色というのも本当に珍しいものだな……美しく、いい色だ。


 メノト、この子の体型に合わせた刀の作製を急がせてくれ。

 家訓に従い、これからは常に刀を帯びさせろ。


 それと、これからは一日に数時間ずつ勉学を教えることとする。

 ライルとの顔合わせも近いうちにおこなわせよう」


「はい、当主様」



 メノトに命令し、再び僕と顔を合わせるお父さん。


 いきなり鋭い視線に射すくめられた僕は、内心でかなりドキリしたが、なんとか悲鳴を飲み込んだ。



「ふむ、理知的な瞳だ。見込みはそれなりにありそうだぞ。


 クリス、私はこれからのお前の成長に期待しているからな」



 何を勘違いしたのか、お父さんは優しく、でも、ほんの少しだけ力を込めて僕の頭を撫でる。



「メノト。繰り返すが、ようやく正式にこの子は刀の家の子だと認められた。

 この部屋を出て、家の中を自由に歩く許可も与えよう。


 私の愛しい娘に少しでも広い世界を見せてやってくれ」


「はい、ご主人様」



 それはとても短い父、娘の出会い。



「では、クリス。

 また夕餉ゆうげの時に」



 僅かに微笑みながら、扉を閉めて出て行くお父さんと執事風の男。



「……」



 僕はなんとなく複雑な家庭環境を理解しながら、その背を見送ったのだった……










 …………

 ………

 ……

 …









 空を飛ぶ鳥も、良い子もみんな眠りにつく真夜中。

 とある大貴族の屋敷の一室。無駄に豪華で大きなベッドの上、ちょこんと腰掛ける幼女がいた。



「……貴族……」



 僕はそう呟いて、最近かなり生え揃ってきた乳歯で唇を噛む。



 ……貴族だなんて……しかも大貴族……



「……どう…しよう……」



 大大大っ嫌いな貴族ではあるけど、あのお父さんからはそこまで嫌な気はしなかった。



 ……少し見た目が怖そうな人だったけど、僕を虐めてきた貴族達とは、どこか雰囲気が違ったような……



「……悪い…人…じゃない……?」



 クリスは数時間前のことを詳細に思い出す。


 今生のお父さんは少なくても、僕に気を使ってくれていたのだ。



 ……何よりも僕を子供として認めてくれてたし……愛しいって…成長を期待してるって……



「……はっ、恥ずか……」



 頭を撫でられた感覚を思い出し、お父さんから言われたセリフを思い出し、しばらくゴロゴロと大きなベッドの上を転がるクリス。



「……いい人…いる…の……?」



 きっと貴族の中にもいい人はいるのだろう。僕は、きっと良い貴族の家に産まれたのだ。


 暫くもだえたクリスは、今日知り得た沢山の情報を羅列して整理する。



「……ライル…お兄さん…いて……

 ……偉い…貴族……お母さん…マーチ……明日…勉強……」



 でも、不思議なことは、大貴族の中に刀の貴族なんて言われていた貴族がいたということを、僕が全く知らなかったということだ。



 ……偉い貴族で、刀の貴族なんていう異名がついているのなら、僕でも少しぐらいは聞いたことがあってもいいはずなんだけどなぁ……



「……実は…有名…じゃない……?」



 なんだか情けないけど、自称有名な貴族ということなのだろうか?



 ……それはそれで、随分と恥ずかしい……



「……」



 何はともあれ、まだ情報が少なすぎた。

 いま、ここで何らかの結論を出すには早すぎる。



「……うん……今は…修行……」



 刀を学ぶことはそれほど悪いことではない。

 魔法だけでも問題ないかもしれないけれど、強くなる手段は多い方がいいからだ。



「……期待…されてる…なら……」



 期待されていると言うのなら、尚更頑張るべきだろう。


 夜、暗い部屋の中。僅かに白い頬を赤く染めるクリスはとても可愛らしく、愛らしい。



 果たしてこれは女神様の加護のおかげなのだろうか?


 彼女は大嫌いな貴族ではあっても、今、間違いなく幸せだったのだ……




 ちなみにこれは余談だが、袴が特に女性用の服装でないとクリスが気がつくのはまだ先の話である。



《人物紹介》



クリス……主人公。現在二歳。現幼女、元男の娘。お嬢様。



メノト……クリスの乳母。実は脳筋。



お父さん……現当主。厳めしい顔をしているが、意外と子煩悩。



お母さん……本名マーチ・エスト・アズラエル。

クリスの容姿が問題で一時不倫を疑われていたが、二年経ってようやく認められた。




誤字脱字、意味不明なところがありましたらご報告いただけると幸いです( ´ ▽ ` )ノ

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