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無口な天使  作者: ソルモルドア
世界を渡って
49/78

世界の違い



「そうだなぁ……俺達の世界にはこのぐらいの金属の箱があってだな……」



 大きく宙空に四角を描く俺の両手。その両手を無表情のままに銀色の瞳でしっかりと追う小さな美少女。



 それははたから見れば非常に可愛らしい光景であるのだが、不思議なことにそんな彼女の頭の上には金色の文字で、




【クリス:レベル?】▼




 と表示されていた。



「その箱は誰でも簡単に使えるんだけどさ、そう、実は遠くの場所をうつせる魔法の箱なんだ。

 わかるかな〜、こう指先一つでさ、好きな時に何でも遠くのことが見ることができるってのはどうだ?想像して見るだけでも凄いもんだろ?」


「……うん、すごい、とっても……」



 無感動に呟かれた言葉は小さくて、その外見と同じように儚いもの。初めてリアルで見た箸よりも重いものを持てなさそうな美少女クリスはどこかに感情というものを置き忘れてきてしまったかのように無表情で、喋ることがおそろしく得意ではなかった。



「あぁ。朝起きてテレビ、まぁその金属の箱のことなんだが、それに付いたボタンを押すとな、あら不思議。近くであった重要なことから遠いところであった些細なことまでなんでもわかる。


 改めて考えてみると凄いよなぁ。まぁこの俺が向こうの世界でよく世話になってたって言うぐらいなんだから当たり前っちゃ当たり前か」


「……そう……」



 声質や顔色は変わらなくてもきっと俺に前の世界への未練があると思ったのだろう。僅かに居心地の悪さを感じているのか彼女クリスは俯く。

 そんな彼女を尻目に金色の文字で描かれたクリスという名前を意識して眺めていれば、すでにもう見慣れたステータスがあらわれて……





【クリス・エスト・カタリナ・アズラエル:13歳:♀


 職業:聖女

 出自:刀の貴族アズラエル家



 Level:?


 力:2

 身の守り:3

 素早さ:2


 加護:???

 スキル:???

 特記事項:無乳、気弱】▲





 しかしそれはもう信じられないほどに虚弱体質であった。儚い外見とゲームの中のレベル1主人公も真っ青になってしまうほどのステータスの低さが合間あいまって、あまり優しい方ではないと自覚している俺が心配してしまうほどには。



「おっと、別に気にしなくていいんだからな。

 呼び出されたことを怒るつもりはないんだ。どのみちあんなつまらない世界には飽きてたんだからよ。


 ほら、わかるか?俺ぐらいになるとそりゃあもう嫉妬も凄いだろ?あぁ。周りからマトモな評価をしてもらえなけりゃ、結局どんなに頑張ったって金だってもらえない。全くロクなところじゃなかったってわけだ」


「……」



 少し悩み、やがて得心がいったかのようにクリスは頷く。端正な顔に尊敬の念がこもった銀色の瞳で彼女は俺のことを見つめてくる。


 前の世界でお世辞にも普通とは言えない容姿をしていた俺はそんな風に女性から見つめられたこともなければ少しだけ恥ずかしくなって目線を外した。



 ……命を狙われてるって言ったってよ…でも、それでも俺にはこっちの世界の方が生きやすい……



 照れた時に爪で引っ掻いたのは血色も良く、吹き出物の一つもない滑らかな肌。鏡に映るのは金髪で碧眼で、それこそアニメの中にしかでてこない勇者の如く整った容姿を持った青年。何よりも以前の俺のことを知っている人間が誰もいないこの世界。



 ……ここでならさ、やり直せるだろ……?





【ハセガワ・ノリヒコ:18歳:♂


 職業:勇者

 出自:地球



 Level:1


 生命力:255/255

 体力スタミナ:254/255

 力:255

 身の守り:255

 素早さ:255


 加護:地球神の加護(?)

 スキル:鑑定眼(レベル1)ニコポ(レベル1)ナデポ(レベル1)勇者補正(レベル1)

 特記事項:イケメン】▲





 ありふれた名前を持って生まれ、どこにでもあるような終わり方をするはずだった俺はひょんなことから生まれ変わり、年齢はおろか、存在そのものも以前とは比べものにならないぐらいに変えられてしまった。嬉しいことにもう以前の冴えない男の面影はもうまさに影も形もない。



 ……この力さえあればそれこそなんだって……俺がその気になれば……



 地球に住み、つまらない毎日を送っているような男達ならば誰もが一度は考えたことのあるような黒い欲望が俺の中で首をもたげる。



 ……そう、魔王を倒すどころか俺が魔王になることだって……他人を好きなように支配をすることだって……



「……いや」



 だがしかし、そんなよこしまな考えは目の前で不安そうに首を傾ける小さな女の子が眼に入ることで自然と霧散した。



 ……いや、そうだな……今の俺はもう昔の俺じゃない。

 今度の人生では卑屈に生きるもんじゃない。そぅ、やっぱり男なら夢を追うべきだよな……魔王なんてダメだ。可愛い女の子達に囲まれて…皆を幸せにして……あぁ、やっぱり狙うのはハーレム……



 眼の前にいる女の子の綺麗な銀の瞳は男を外見だけで判断するような浅ましい女達とは違った輝きを灯していて、その白い肌はまだ穢れを知らず、



「だからほら、元気だせ」



 感情の起伏が表情から読み取れない分、彼女の行動はどこか素直で愛嬌があった。



 ……貴族出身の聖女か……もっと阿婆擦あばずれってのをイメージしてたんだがなぁ……まぁクリスはともかく他人を見下して生きていそうな王族とか貴族やらとかとは絶対に仲良くしたくはねぇけど……



「俺は心が広い男だからな」



 俺はとりあえず一人目のハーレム要員作成のためにもナデポのスキルを発動させようと片方の腕をその美しい少女へと伸ばす。少し小さいが年齢的には問題は無い。俺は節操がないのだ。



 その掌が僅かに震えているようにも見える少女の頭を掠めて……



「っ!?」





【ライル・エスト・アズラエル:15歳:♂


 職業:アズラエル家次期党首、刀匠

 出自:刀の貴族アズラエル家



 Level:39


 力:122

 身の守り:45

 素早さ:117


 加護:???

 スキル:???

 特記事項:シスコン、天才】▲





 突如として視界に飛び込んでくる赤い文字で描かれた鈍く発光するステータス。



 異変を察知して視線を扉の方へと向ければそこにいたのは黒髪黒目、般若はんにゃのような顔をした一人の少年イケメンで……









 ………………


 《???》









 見渡すばかり、それこそ地平線の果てまで広がっていると思えるほどに美しい緑の草原。その中心で数え切れないほどの枝を四方八方に広げているのは幾千、幾万年ではきかないほどに老齢な大樹。



 太陽もないのに明るいその不思議な世界、大樹の根元には今ちょうど人型をした二色の光があった。



『私の世界に無断で干渉しましたね?』



 黒く淀み、その体の一部分だけが弱々しく点滅をしている光は問いかけるように、少し責めるような調子で言葉を発する。



『……それがどうかしたか?』



 不機嫌そうにそう返した強く青く輝く光はまるで抗議するかのように点滅を繰り返す。



『わかりませんか?私も他神の方針にとやかく言うつもりはありませんでしたし、別段言うつもりもなかったんですが……でも、それでも他人の世界にまで勝手に干渉をしてくるだなんて些か不愉快です』


『……』


『自分の世界で完結するならばまだしも、他人にそれを押し付けるのってどうかと思いますよ?』



 強く輝く青い光の正体は勇者に加護を与えてクリス達の住む異世界へと送り込んだ一柱の神。本来はクリス達の世界に関わるはずの無かった存在。


 便宜上男神、もしくは地球神と呼称されている彼は黒く淀んでしまった彼女を見てどこか悲しそうに呟く。



『……そうか』



 高エネルギー帯である彼らの死とは己が形作る世界の消失。本来寿命という概念のない彼らではあるが、魔物という闇、まるで癌のように浸潤し転移を繰り返すそれらに呑まれて淀み、最後には母なるガイア、緑の大地へと還ることになる運命なのだ。



『……もう消える私になら何をしても問題ない、そういうことですか?貴方はそう思っているんですか!?』


『……』



 淡く緩やかに点滅を繰り返し、今にも消えてしまいそうに儚く輝く彼女は寂しそうに掠れた声を出す。青く輝く男神はそんな女神を一瞥すると言い訳をするわけでもなく、無言のまま大樹のもとから去っていった。



『ふん……奇跡の力か……』



 かつて暇つぶしも兼ねて土から作り出した人間。自らの姿を模して作ったその生き物の発展を臨んだ多くの神々は暖をとるための火を、野生の中で生き抜くための魔法の力を彼らに与えた。


 しかしその与えた力が争いを過激にさせるだけの結果に終わってしまったというのは永劫の時を生きた神々にとっても誤算であったことで……



『思い通りにはならない……か……』



 いや、だからこそ面白いのかもしれない。

 変わらない神々の予想を超えて動く人間の命の灯火は酷く脆く、移ろいやすく、だからこそとても美しい。



『ふんっ……』



 遥か昔のことを懐かしみ、人における鼻を鳴らしたような音を立ててどこかへと消えていく地球の神。


 きっと未だに人の可能性を、命の輝きを信じている彼は消えてしまうその時まで変わらずに己の世界の人間を他の弱った神の元へと送り付けに行くのだろう。トラックにはねられた人間や突然死をしてしまった人間を一人また一人と、淀んだ世界を救う抗癌剤のように投与して回るのだ。



 それが唯一魔法の力を持たなかった夢の無い彼の世界の総意なのだから……









 ………………


 《イリス視点》









「〜♪〜♪」



 昔何処かで聞いたことがあった歌の覚えている部分だけを何度も繰り返し口ずさみながらイリスは上機嫌で町中を練り歩く。既に15歳として成人を迎えている彼女であればそう言った行動は本来自重すべきことなのかもしれないが、それをわざわざ注意するような暇な人も特にはいなかった。



 ……て、手を繋いじゃったし……



 イリスの頭の中で広がっているのはピンク色のお花畑。その真ん中にいるのは美しい銀色の長髪をした彼女クリスで、頭の中のイリスはそのすぐ横に笑顔で座っていた。



 ……い、一歩前進って言ったところかな……



 勇者召喚なんて言う大事の前にさり気なくクリスちゃんのことを名前で呼び、話すことに成功した彼女イリスは確かな手応えを感じている。

 それはもう、まるでストーカーのように影からクリスをひたすら見守っていたことが嘘であったかのように。



 ……後悔は、心残りは嫌だからね……



「おじさん!この梨、一つ貰えるかな?」


「まいどぉ!」



 少し離れたところでは今も戦争が起きており人類と魔物が生き残りをかけて戦っている。でも今はまるでそんなこと御伽噺のなかのことのように、それこそ嘘のようにも思える平和な昼下がり。一枚の銭貨と交換した梨を齧りながら彼女はギルドへ向かって歩みを進めていた。



 ……勇者様かぁ。たぶん勇者様も教会に所属してるんだろうし……ってあれ?もしかしてクリスちゃんと長い間一緒にいたりするの……?



 脳内に展開していたピンク色のお花畑に立ち込める暗雲。俄かに雷鳴が轟き雨が降りはじめる。彼女は居ても立ってもいられなくなったのかギルドへの進む足を速くする。



 ……も、もし手を出したりしてたら……



 ちなみにこのあと勇者関連の依頼が舞い込み驚愕することになるのだが、物騒なことを考えながら歩くこの時の彼女イリスはまだそのことを知る由もなかった……





【イリス・ノール・イスラフェル:15歳:♀


 職業:ギルド員、銀の操者

 出身:剣の貴族イスラフェル家



 Level:55


 力:115

 身の守り:35

 素早さ:135


 加護:???

 スキル:???

 特記事項:貧乳、捨て子】▲



残念なことに平均評価は落ちてしまいましたが、それでも多くの方々から評価や感想をいただくことができて作者はとても嬉しいです*\(^o^)/*


どうぞ今後ともよろしくお願いします!



神様のところの記述はずーっと昔に読んだきがする記憶を元に作成しました。もう出てくることもないと思うので流していただけると幸いです(;^_^A


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