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無口な天使  作者: ソルモルドア
世界を渡って
48/78

話し合い

 


「勇者殿、悪いが今すぐには結論を出すわけにはいかぬのだ」



 荒れに荒れた謁見の間。結局それを鎮めたのは、王様の発したつるの一声であった。



「考えてもみればまだそなたが本物の勇者かどうかも定かではない。


 検討する時間も必要であれば、今日のところはみなも疲れているだろう。

 うむ、下がって休むが良い!」


「わ、我が王がそうおっしゃるのでしたら……」



 それは普段教皇と話している時には見られなかったような、有無を言わさぬ威厳を纏った姿。

 無礼な勇者様に対する寛大な王様の処置に、これ以上教会側を責める口実を失ったと、無念の唸り声をあげつつも渋々(しぶしぶ)と従う大臣や貴族達。


 そして訪れた僅かな沈黙の後、勇者様は、先ほどまでの騒ぎをおこした当の本人は何、気なく喋り始めた。



「意外とケチ臭いんだなぁ……とはいえ、今日あったばっかりじゃ、まぁ妥当な提案ってとこかぁ……。


 はぁ、わかったよ。

 俺自身もまだイマイチ自分の出来ることを把握しきれていないみたいだし、そうだな……今日のところは言うことを聞いて下がっておくか」



 その言葉を聞いて無い胸を撫で下ろす教皇。

 敬語を使えないとは聞いてはいたけれど、まさかここまで攻撃的な態度に出るとまでは、聞いてもいなかったのだから彼女の安心も至極当然だ。



「ほら、退出するぞ」



 隣でひたすらに平伏を続ける僕の肩をしゃがんでポンポンと叩いた勇者様は、もちろん王様に一言断りをいれるなどと、気の利いたことをするわけもなく、ぷいっときびすを返して去って行く。



「……あっ……」



 行く当てがあるわけでもないのに背、を向けてズンズンと謁見の間の外に向かって歩いて行ってしまった勇者様。

 僕よりも先に、その後を追うようにして、幾人もの聖職者達が、慌てた様子で謝罪と一礼をしてから退出をしていった。





「我が王よ。かの者は強欲で、どうにも勇者の器ではないように思われます。

 幾ら危機的状況にあるとは言え、あのような者に我らの未来をたくすのはなんとも……」


「むぅ、今回ばかりは、余も大臣の言うことに賛成じゃ……。


 教皇よ、あやつは本当に……」



 少しだけ出遅れた僕は、礼をしている間に困ったような大臣達の小さな話し声を、僅かに小耳に挟んだのであった……









 …………

 ………

 ……

 …









「暗殺の危険性?」


「……そう、暗殺……」



 場所は変わって、王宮の中でも一際ひときわ豪華な一室。


 多くの調度品が、節度と調和をもって並べられたその部屋は、客間として王様から教皇が直々に借り受けたもので、そこで僕は勇者様に伝えて欲しいと教皇から託された伝言を伝えていく。



「いやいや暗殺って……あれか?

 俺は勇者で、必要だから呼ばれたってわけじゃないのか?


 呼び出されて命を狙われるだなんて、まっこと洒落にならないぞ……」



 首を傾げ、どこか不安そうな顔をした勇者様の言うことはもっともで、そのどこか責めるような口調に、僕は居心地の悪さを感じながらも説明をした。



「……貴族、教会、仲悪い……」


「……あ〜っ、そういうことか。

 つまりは貴族側の人間が、教会に召還された俺を、疎ましく思って殺しにくるかもしれないってことだな?


 ってかそりゃあそうだよなぁ。

 勇者の存在があるってだけで、教会は色んな奴からの支持を受けられるもんな。

 貴族側からすれば殺し得。勇者は偽物だったってことで、教会の権威もおとしめられるし、勢いを削げるってことか。


 まぁ大方有りがちな権力争いやら、発言力がどうたらってのが原因っぽい話しだな」


「……う、うん……」



 僕の言葉が流暢だったからだろうか。思っていた以上に早く伝わった内容。

 僕は自分の語彙能力が大幅に上昇していることを内心で喜びながら、教皇から言い使ったことを伝え切ろうと、張り切って先を続ける。



「……教会、護衛する……」


「あぁあぁ、そんなに心配しなくても大丈夫だ。

 護衛の方は確かにしっかり頼みたいところだが、まぁそれ以上に、俺にはもう誰が俺を暗殺する気かわかってるからな」



 僕の発言を切るようにして、片手をヒラヒラと振る勇者様。

 彼は何かつまむものはないか?などと呟きながら、気軽にとても重いことを言った。



「あれだろ?あの大臣。あいつのあの顔は間違いないねぇ。

 俺の経験から言えば、間違いなく黒だ。最悪魔物と繋がってる可能性だってあるぜ?」


「……えっ……!?」


「そうだなぁ、クリスはこの後また教会に戻って教皇と話すんだろ?

 ならその時にでも伝えておいてくれよ。間違いなくあいつは黒だ。調べてみてくれってな」



 驚く僕を見て、満足気に頷いた勇者様は、話すことはもう終わりか?と言って柔らかいソファーに寝っ転がる。



「……あ、あと、世界、情勢……」


「んっ?今度は世界情勢だって?なんだか随分と話しが飛ぶんだな」


「……そう……」



 大臣の悪人疑惑が浮上した驚き冷めやらぬままに、聖衣の胸元の隙間からゴソゴソと僕が取り出したのは、一枚の地図。


 王国の支配領域が書かれたそれは、最新版の世界地図で、悲しいかな、10年前に僕が見たものに比べれば随分と黒色でないところ、人の生活圏が小さくなってしまったものだ。



「なんて色気のない取り出し方を……なぁ、もう少し恥ずかしそうにしてくれれば……


 おっ?ってかなんだこの黒いところ?

 未踏破っていうか、まだ解明されてない土地かなんかか?

 それにしては広過ぎる気がしなくもないんだが……」


「……暗黒の、大地……」


「あ〜っと、なんとなくドヤ顔っぽい顔をしてんのはわかるんだが、そう、あれだな……全く意味わからん」


「……」



 全く意味がわからないと言われた僕は、内心で激しくショックを受けながらも、すぐに勇者様がこの世界の誰しもが持っている常識を持っていないのではないかという可能性に至り、なんとか持ち直す。



「……魔物、いる……」


「ああ、それはわかるぞ。

 人を襲うんだよな?そのぐらい常識だろ?」



 ……あれ?知ってるの……?



「……そう……

 ……暗黒の、大地、沢山……」


「あ~っと、ちょっと待て。


 ……わかったぞ。つまりこの黒く塗りつぶされたところには、魔物が沢山いて近づけない。

 何があるのかよくわからん、つまりはそういうことでいいんだな?」


「……う、うん……」



 よく喋り、息をつく暇もないほどの凄い速さで理解をしていく勇者様。

 その理解の良さに冷や汗をかきながらも頷く僕を見て、彼は得心がいったという風に頷き、そして唐突に驚いたような声をあげた。



「ってはぁ!?

 地図の9割近くが、魔物の蔓延はびこる危険な地域ってどういうことだよ!?


 もう後がねぇじゃん!国とかひとつしかねぇし、これじゃあ老後に旅行も何もあったもんじゃねぇ!」


「……っ……!?」



 大きな声にビックリした僕は思わず身を引き、恐々(こわごわ)と勇者様の様子を窺う。

 頭を抱えるようにした彼は、きっと困っているのだろう、しきりに独り言を羅列する。



「ほ、本当に大丈夫なのかよこれ?魔物のレベルにもよるけどよ……


 くそっ、老後の安定とかじゃ要求が少なかったなんてもんじゃねぇ……マジで最悪なところに召還されちまったみてぇだな……」



 ままならぬものよ、などとカッコイイ仕草で呟く彼は、宙空でなにやら指を動かし、僕の方を向いた。



「あぁ、そうだな……どうせもう頼れるような奴もいないんだろ?

 くっそ、しゃあねぇ。ならとりあえず今の状況を整理してもいいか?知ってることは何でもいい、片っ端から教えてくれ」


「……え……あっ、う、うん……」



 妙な気迫を纏った勇者様に詰め寄られながらも、必死で何か言うべきことはないかと僕は探す。



 ……勇者様が何を知ってて、何を知らないのかよくわからないんだけど、でも……



 女神様から言われたことを実行するためにも、勇者様の力を借りたかった僕は、何でもよさそうなことから、少しは重要そうに思えることまで、必死で言葉を繋げて説明をする。


 今のままじゃ近いうちに絶滅してしまうかもしれない人類だけど、でも、勇者様がいてくれればどうにかなるかもしれないのだ。



 ……僕だけじゃどうしようもないからっ……









「オーケー、大分理解した」



 話し初めてはや数時間。

 疲れ切って瀕死になった僕とは対称的に、どこかスッキリした様子で、艶艶とした姿になった勇者様は、嬉しそうに言う。



「この国は王を頂点に、4つの貴族がそれぞれ地方の管轄をしてて、その下に伯爵以下適当な貴族がワラワラいると。

 んでもって教会やら平民と貴族は敵対関係、つまりは相容れない関係なんだな。

 いいぞ、テンプレ通りな内容が目白押しで、かなりわかりやすい感じだ」



 時折わからない言葉が混ざる勇者様だけど、でも大まかに内容が間違っていないと思った僕は、疲れた顔のまま頷く。


 それをどういう風に判断したのだろう、勇者様は少し気の毒なものを見るような眼で僕を見て言った。



「わかるぞ、クリスは聖女でもあって貴族でもあるから、かなり微妙な立ち位置なんだな。

 まぁ元気だせって。大変かもしれんが、ほら、たぶんいいこともたぶんあるからよ」


「……うん……」



 ……もしかして慰めてくれたの……?



 疲れているのは喋るのが辛かったからで、別に自分の立場を思って意気消沈していたわけではなかったのだが、とりあえず勇者様のその心遣いが嬉しかった僕は頷く。


 先程の謁見の間での横暴な振る舞いを見ていただけに、少しだけ新鮮であったのだ。



「あとはそうだな……俺が魔力って呼んでる力は貴族達の間では闘気、教会の連中の間では聖法的ななんかで呼ばれてると……。

 ギルドやら公共施設もあるけど、魔法なんかはほとんど存在しない都市伝説レベルか。


 あぁ随分と助かった、クリス、ありがとな」



 僕の方を見て、その端正な顔立ちでニッコリと笑う勇者様。

 その笑顔を見た途端、また常時展開している魔装の表面がゴリゴリと削り取られていくかのような不快感が、僕の背筋に走った。



「……っ……!?

 ……ゆ、勇者様……」


「んっ?どうかしたか?あぁ、もしかして惚れちまったのか?」



 僕に向けられる邪気のなさそうな笑顔。

 反射的に出そうになった、今、僕に何か魔法で攻撃しましたか?なんて失礼な疑問の言葉を、僕は必死で呑み込む。


 召喚されたばかりの勇者様が、僕を攻撃するメリットなんてあるわけがないからだ。



「……ど、ど、どこから、来た……?」



 だから僕の口の中で迷った言葉は、咄嗟に思いついた違った音となって大気を揺らす。

 少し不躾ぶしつけで失礼な質問だったかもしれないと思った時には、もう後の祭りで……



「くっくっく、照れてるのが丸わかりだぞ。おっと質問は、俺がどこから来たか?だったか?」



 また満足気に頷きポツリと呟いた後、どこか随分と遠くを見るような眼をする勇者様。



「そうだなぁ……たぶん酷くつまらない話しになるぞ?

 だがまぁ、それでもいいなら聞いてみるか?」



 それは何だが歯に衣着せたような物言いで……



「……いい、なら……」



 僕は不安に思いつつも、純粋に興味をかれたのだ。



「そうだな……そもそも俺は世界の概念やら、時空を超えるとかそういった考え方は、よくわからないんだが……


 よし、初まりは地球って呼ばれてる世界の、日本って国の中の話しでなーー」





 暫く押し黙った勇者様は、ポツリポツリと驚きに満ちた異世界の話しを始める。


 僕は自己紹介をしていないのにもかかわらず、どうして勇者様が僕の名前を知っていたのだろうかと疑問に思うわけでもなく、いつの間にかその話しに聞き入っていたのであった……





クリスと勇者様が駄弁る回でした(^ω^)


誤字脱字、意味不明なところが多々あると思います。できれば教えていただけると嬉しいです(^o^)/


iPhoneで予約投稿したら失敗しました(´・_・`)

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