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無口な天使  作者: ソルモルドア
世界を渡って
47/78

勇者様は図々しい

 


「……ん?いったいここはどこだ……?」



 イリスの後ろに隠れるようにして、しゃがみ込んでいた僕が最初に聞いたのは、腹の底に響くような低音。

 僕の今世のお父さんのように、カッコイイ男の人だけが発することができる、渋くて、耳障みみざわりの良い声。



 ……低い男の人の声……し、召還は成功したの……?



「……?」



 光が完全に収まった後、イリスの影から、恐る恐る暗くなった魔法陣の中心を見やれば、そこにいたのは一人の男性。


 おそらく年の頃はライルよりもほんの少し上ぐらいだろうか。

 金髪に碧眼のその容姿は、前世で僕を殺した貴族にどことなく似ていて、色合いから目鼻顔立ちまで、その全てが剣の貴族の当主アルトさんを彷彿とさせるもの。


 これは僕の主観だけど、たぶんかなりカッコイイ部類に入るのだろう。羨ましい。



「ま、間違いない伝承の通りっ……!」



 勇者様であると思われる青年の姿を見た一人の聖職者が、思わずと言った様子で叫ぶ。


 そう。金髪に碧眼という僕らの前に立つ青年の容姿は、剣の貴族、かつて剣の勇者を輩出したことで有名な、あのイスラフェル家と瓜二つのものだったのだ……







「……勇者、さま……?」



 ロウソクだけではなく、大きなランタンに火が灯される。

 辺りを、勇者様の顔を明るく照らす。



 ……た、確かに剣の勇者様みたいだけど……あれ?何かがおかしい……?



 灯りに照らされた勇者様の顔を最初に見た僕が抱いた第一印象は、何か変、だろうか。

 頭の片隅に何かが少しだけ引っかかっているような、まるで喉に魚の小骨が引っかかっているかのような、些細ささいな違和感が僕を襲う。


 僕は小さな疑問符を浮かべながら、魔法陣の中心で佇む金髪碧眼の青年に視線を固定した。



「し、召喚に応じてくれた者よ!

 そなたはまことの勇者か!?」



 男の叫びで我に返ったのか、教皇がそう魔法陣の中央にいる男に声をかけ、その声でイリスを初めとした護衛の人達が我に帰り、再び各々の武器を掴む手に力を込める。



「あっ?コスプレ…?いや、それにしても俺が勇者……ってなんだこの声?


 って、うわっ!肌がすんごく白くなってるし髪も…ん?これってステータス……」


「……?」



 しかし勇者様の反応は非常に薄い。

 剣を構えた冒険者達を前にして、彼は全く動揺することもなく、宙空で何かを描くような不可思議な動作をし、思い悩むような仕草をする。


 そんな彼を不思議に思いつつも、律儀りちぎに返答を待つ教皇。首を傾げるイリスを含めた護衛達。

 僕にはまるで、勇者様が自分が誰であるのかすら理解できていないように見えた。



 ……一体何をしてるんだろう……?も、もしかして僕が詠唱を間違っちゃったのかな……?



 もしかしたら詠唱か術式のどちらかを間違って、変な人を召還してしまった、勇者様の精神を捻じ曲げてしまったのではないか、とひそかに僕は戦慄せんりつする。

 そんな僕に気がつくこともなく、宙空でぼんやりと指を動かし続ける勇者様。



 ……ど、どうか勘違いでありますように……



 そして僕の願いが変な風に届いたのか、暫く後に大きく頷いた推定勇者様は、イリスの影に隠れる僕の方へと迷うことなく視線を向けて言った。



「……完全には見えない?

 まだレベルが低いからか?それとも実力の差がありすぎると、全てのステータスを見れないってことなのか……?


 う〜ん、後者なら自分より遥かに弱い人間のステータスも見れない仕様になってるってことか。

 まぁそれだけ実力が離れてるんだったらわざわざ見る必要もないんだが……」


「……え……?」



 結局僕に話しかけるでもなければ、また何かを考え込む素振りを見せる勇者様。

 明らかにおかしなその様子を見て、召喚に失敗してしまったと愕然がくぜんとする僕。


 彼はまた暫くの沈黙の後に、今度は皆に聞こえるほどの大声で喋り始めた。



「おい、え〜っと教皇。それと護衛。

 安心してくれ、俺が勇者とやらで間違ってるわけじゃあないからな。


 あぁ、そこにいる聖女とやらも、そんなに恐がらなくても大丈夫だぞ」


「……?」



 ……え?恐がらなくていいって……も、もしかして勇者様はマトモなの……?

 そ、それに僕が聖女だってなんで……?



 両手をあげ、不可思議な動作をする勇者様。

 その動きからは殺気や魔力の動きは感じ取れず、別段こちらに敵対する意思はなさそうであった。



「ふむ……」



 まだ自己紹介すらしていないのにも関わらず、僕や教皇の存在を見抜いたその洞察力に感服したのだろう。

 やりにくいと思ったのか、それとも予想以上の洞察力に気圧されたのか、教皇は少々顔をしかめながらも勇者様に話しかける。



「確かに…その洞察力といい、容姿といい、貴方様が剣の勇者様であることは疑いないでしょう……。


 なれば勇者様、どうか一度我らが王にお目通りをしていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」


「あ〜王?

 召還からの王って…こういうところもかなりテンプレだなぁ……」



 教皇の言葉にまた意味不明なことを言いながら、僅かに思い悩む様子を見せる勇者様。



 未だにイリスの後ろに隠れたままの僕には、彼が喋り方には似合わず、とても思慮しりょ深くて慎重な人間であるようにも思えた。



「クリスちゃん……大丈夫かな?

 なんだかボクは、あんまりあの人のこと好きじゃないかも……」



 勇者様が悩んでいる間に小声で僕に話しかけてくるイリス。


 元々イスラフェル家の長女であった彼女イリスには、悲しいことだがきっと、金髪で碧眼という剣の勇者様の容姿に、トラウマに近いものがあるのだろう。

 幼い頃に受けた虐待のような記憶は、そうそう色褪いろあせてはいないのだ。



「……大丈夫……」



 少しでも彼女イリスを安心させてあげたいと思った僕は、彼女イリスの後ろからそっと出て横に並び、少しだけ僕の手よりも高い位置にある手を握る。


 慰め程度にしかならないかもしれないけれど、僕はイリスを守ってあげたかった、安心させてあげたかったのだ。



「うん…ありがとうクリ、せ、聖女様……。

 でもボクは護衛するためにここにいるんだから、なるべく後ろに下がっていてくれると嬉しいかな」


「……そう……」




 そして待つこと暫し。

 多くの護衛から未だに念のためということで、剣を向けられていた勇者様は、両手を上にあげたままの姿勢でおもむろに語り出す。



「……わかった。俺はお前らの言うとおり王の所に行くことは全然構わない。


 でもな、俺はいかんせん礼儀やらなんやらってことはよくわからない人間だ。

 敬語だってこの通り全然上手く使えないし、正直なところ、こんなんじゃ教皇が言う王のところに連れていけないんじゃないか?」



 スッと通った鼻筋に美しい顔立ちをした勇者様だが、確かにその口調は外見に似合わず粗野そやなもの。


 王宮においては不適と言わざるを得ないような言葉遣いを聞いて、僅かに悩む様子を見せた教皇は、暫く後に淡く微笑みながら告げた。



「……ええ、確かに勇者様の話し言葉は綺麗なものではないですが、でもきっと我らが王ならば許してくださいますでしょう。

 勇者様に誠意があって、私や聖女も付き添うのであれば、おそらくはそれほど問題はないかと」


「……そうか、教皇と聖女がついてきてくれれば……か」



 勇者様はチラリと僕の方を向いて、そのあとまた宙空に視線を移す。



「……教皇と聖女は、王に対して意見ができる程度の地位を持っていると……。

 わかった。なら頼もうかな」



 どうしてか最後に僕の方を見てニコリと笑う勇者様。


 まるで僕の内側を覗き込むようなその碧眼。



「っ!?」



 その碧眼に射すくめられたその瞬間、何故か攻撃を受けた時のように、僕の魔装に波紋が広がって、その一部が削り取られたのを僕は感じたのだった……









 …………

 ………

 ……

 …









 教会の地下に作られた、勇者召喚のための儀式場。

 薄暗く、お世辞にも居心地がいいとは言えないその地下室から、勇者様を連れて陽の当たる地上へと出てきた僕とイリスは、護衛という名目もあって、教皇や勇者様と同じ馬車に乗ることになっていた。



「今は暇なんだよな?

 色々聞きたいことがあるから、質問しても問題ないか?」



 思ってたよりもこの世界の馬車って揺れないんだな、などと言って関心しつつ馬車に乗った勇者様は、暇になった途端僕に質問を投げかけてくる。

 なぜか僕を庇うような素振りを見せたイリスに大丈夫だと目線で告げた僕は、無言で頷いて、勇者様にどのような質問かと逆に問いかけた。



「そうだな、まずは……


 よし、この世界の武器とかについてなんだが……」



 まずは自己紹介の類か何かだと思っていた僕は拍子抜けし、首をかしげながらも勇者様の変な質問に答えていく。


 聞かれたのは主に文明のレベルを問うような質問で、銃という名前の変な武器や魔法を放ったり、常に炎を纏ったりしているような魔法を宿した剣の有無など。



「……ない……

 ……灯り、蝋燭……」



 僕は少し首をかしけながらそう答える。

 炎を纏った剣ぐらいどこかにあってもおかしくはない気はしているのだけれど、でも少なくてもこの時代では見たことがなかったから。



「そうか……うん?魔法の存在はあんまり知られていないってことか?

 ギルドもなんだか思ってたのと違うし……」


「……横からすみません。もしかして勇者様のおっしゃっている魔法というのは、聖法のことでしょうか?」



 僕の答えに疑問符を浮かべる勇者様を見て、教皇が疑問を呈する。



「聖法?」


「ええ、私や聖女だけが使うことができる、神から授けられた至高の技のことです」



 聖法とはつまりは魔法のこと。奇跡をもって、事象を書き換える行為。


 闘気と魔力。この時代におけるその関係と同じように、同一のものを指してはいてもお互いの認識している名称に差があったのだ。



「魔法のことを聖法って呼んでるのか?


 う~ん、なんだがよくわからんが色々複雑っぽいな。

 …っともう着いたのか。あれ?向かってるのって王宮だよな?随分と近くね?」



 少し話していただけで王宮へと到着してしまう馬車。

 話を早々に切り上げて、美しい金髪を陽光に煌めかせながら真っ先に馬車から降りた勇者は言った。



「すげぇー。

 あれって金箔ってわけじゃないよな?


 教会っぽいあれも凄かったけど、王宮もかなり豪華じゃん」


「流石にこの王国の中で最も偉いお方が住んでいる場所ですからね。

 豪華でなくては人民に示しがつきません」



 笑顔ではしゃぐ勇者様を見て、苦笑をしながらも言う教皇。



「なんだか勇者様楽しそうだね?」


「……うん……」



 遅れて馬車から降りた僕とイリスは互いに顔を見合わせる。


 僕はどうしてだろう、笑う勇者様を見ていても、なんだかあまりいい気分になれなかったのだ……









「そっちの都合で呼び出したんだからさ、こっちだって少しぐらい便宜べんぎってもんを図ってもらわなきゃ困るんだよなぁ……」


「き、貴様聞いていればよくも抜け抜けとっ……」



 騒然とする謁見の間。


 怒り狂う大臣の方を向いて、まるでつまらないものを見たような顔をした勇者様は、肩をすくめて言葉を続けた。



「衣食住の世話、地位の確保、一生困らないだけの金に、命令に従わなくてもいい権利、あとは少し女やら嗜好品を融通してくれるだけで構わないんだって。


 勿論後から付け加える可能性もあるっちゃあるけど、別にそんな誰かに迷惑をかけているわけじゃぁないんだし、こんなの世界が救われる代償にしちゃあ、安いもんだろ?」



 王の前で跪くこともなく話すその仕草は、豪胆という他なく、ただでさえ教会側として貴族達から恨まれている僕は、もう生きた心地がしなくて……



 ……ど、どうしてそんなに強気でケンカを売るような言い方をするのっ……?



 正式な謁見の間。

 王の前であれば不用意に発言をすることもできず、オロオロとしながらひざまずく僕の横で、勇者様は呆れたようにまた喋り始める。



「ほら、俺を呼び出したってことは何かあるんだろ?


 んっ?他国との戦争か?

 それとも魔王か何かがそんなに驚異的なのか?

 言ってみなって。その程度のことならすぐに解決してやるからよ」


「そ、その程度だとっ!?

 ぶ、無礼者っ!我々をコケにしおって!!衛兵!その礼儀知らずをつまみ出せ!!」



 怒り心頭といった様子で騒ぐ大臣。

 不満を露にする僕のお父さんやライルを含めた貴族達。必死で王に何かを耳打ちする教皇。



 ……勇者様、誠意がないとダメだって言われてたのに……



 項垂うなだれる僕を後目に、謁見の間は、酷くカオスな様相を呈していたのだ……






評価をいただくことが出来ました!

こんな情けない作者の作品に高評価をつけてくださった方々、本当にありがとうございます(ノ_<)

やはり評価していただくとやる気がでますね!つまらない作品だとは自覚しておりますが、どうかこれからもよろしくお願いします( ´ ▽ ` )ノ

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