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無口な天使  作者: ソルモルドア
気弱な聖女様
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閑話 ライルとフォルコン


なんとなく書いてしまいましたorz

気軽な気持ちで読んでいただけると幸いです。





「ライルお兄様!

 天使を…いえ、ク、クリスさんを僕に下さいっ!」



 多くの生徒達が集まる食堂。


 そんな中でいきなり頭を下げられ、大声で叫ばれたのだ。

 非常に不本意なことだが僕らに視線が集まるのはたぶん必然というものなのだろう。



「リョウ……確か僕に弟はいないはずだよね?」


「んっ?

 実は知らないだけでガキの時にでも生き別れた弟がいたんじゃないか?


 お貴族様達の複雑な事情は俺には全くわからんけどな……」



 思わず現実逃避をしそうになった僕が横で秋刀魚定食をむさぼるリョウに話しを振れば彼は興味がなさそうに、面倒臭そうにそう答える。



 ……全く友達甲斐のない奴……



 僕の目の前で下座までしそうな勢いで僕の前で頭を下げ続ける推定後輩の男の子。



 ……普段なら相手にしないレベルの相手なんだけど……



 僕は辺りを見て適当にあしらうことがアズラエル家にとって得にならないのであろうことを確信していた。



 ……いや、こうなることを見越してこの場所を選んだというのなら頭は回るのか……?



「すまないんだけど、僕はまだ君のことをよく知らないんだ。

 良かったら自己紹介をしてくれないかい?」



 僅かに目の前にいる頭の悪そうな少年の評価を上方修正したライルはそう問いかける。



 一般人であるならば、平民であったならば、おそらく微笑むライルから僅かに発せられる力の片鱗に怯え怯んでいたかもしれない。

 だが目の前の少年は、自称歴戦の勇者はそうではなかった。



「これはこれは僕としたことが失礼しました!」



 まさか名を名乗っていなかったとは、と大仰な動作で驚き、そこまで整っているわけでもない顔をあげる推定後輩。



「ええ、僕の名前はフォルコン・アルマ・ターニッツ。

 今はまだしがない子爵家の跡継ぎに過ぎない者ですが、将来的にはライルお兄様の義弟、クリスさんの夫となるものです」



 推定後輩、もとい、フォルコンはそう言ってキラリと白く光る歯を見せて笑い、髪を掻き上げる。



 ……こいつっ……



 一見すると見た目通りにバカっぽいその動作、だがしかしライルはその数少ない動作の中からヒシヒシと相手の実力の高さを感じ取っていた。



 ……動作に淀みがない……まるで何回も繰り返してきたものであるかのように洗練されていて……

 いや、よく見れば体にも生傷が多いな……相当過酷な修行をしてきたということか……



 ライルの視線の片隅。

 チラリと目に入ったフォルコンの持つ刀も相当な業物で、到底学園に通うヒヨッコに持たせるようなものではなかった。



 ……既に親を超えているということか……?

 授業で使うことのできない真剣をわざわざ持ち歩いているということは、家族に認められ、預けられたと見るのが妥当……。



「フォルコンお坊っちゃま、急に押しかけてはなりません。

 相手方の都合も考えないと失礼になってしまいますよ?」


「アルフレッド、今日ばっかりは邪魔しないでくれないか?

 僕は今お兄様と大切な話しをしているんだ」


「なっ……」



 そして目の前の出来事にライルは瞠目し、驚愕する。

 まごうことなき天才であるライルをしてギリギリ気がつくことが出来たアルフレッドと呼ばれた執事の接近。

 だがあのフォルコンという少年は難なく、それこそ1ミリたりとも驚くことなく反応してみせたのだ。



 ……まだこの学園に僕の知らない凄い使い手がいるなんて……

 これは僕も手を抜いて戦える相手じゃないかもしれないね……



 片眼鏡モノクルをつけた執事の戦闘能力もさる事ながら、きっとその執事が仕えている目の前にいる少年の力はさらに恐ろしいものなのだろう。



 ライルはご飯もそこそこに授業で使ったばっかりの木刀を腰に履いて立ち上がる。



「フォルコン君、だったね。

 僕は君が相当な使い手だと思うんだけどね、いいかな?僕に君の力を見せてもらいたいんだ。


 今から少しいいかい?」



 天才と有名なライルがフォルコンを認めるような発現をしたことで驚いた声をあげる辺りの野次馬。



「構わないよ」



 フォルコンが機嫌良く頷いたのを確認したライルは、クリスを愛する兄として、一人の剣士として一行を先導するように歩みを進めた。



 ……クリスは渡すわけにはいかない……可能であるならばここでこの男を……



 少しだけ動機は不純であるけれど、でも、ライルは目の前のフォルコンという男を一人のライバルとして認識したのであった……



「お〜い、ライル〜

 お前の飯は俺が食べちまっていいんだな〜」



 ちなみにライルが置いていった昼ご飯の残りはリョウが美味しくいただいたらしい。









 ………………








 使いもしない家宝の刀を今日も腰に差したフォルコンは意気揚々と実技の授業に臨み、いつもの如くソプラノに木刀でタコ殴りにされる。



「な、なかなかなかなか、やる、じゃないか……」


「貴方もなかなか諦めない人ですわね……」



 溜息をつくソプラノの前でまるでボロ雑巾のようになったフォルコン。

 そんな生傷だらけのフォルコンを心配そうに覗き込むクリス。


 新学期、最初の剣術の授業以来この三人は剣術の授業では大抵の場合一緒に組んでいたのだ。



「…フォル…コン…死ぬ……」



 なにやら不吉なことを呟きながらフォルコンの傷をそっと魔法で癒すクリス。


 聖女として既に名高い彼女の横で酷い怪我を治されながらフォルコンは幸せに浸っていた。



 ……あぁ、なんていい気持ちなんだろう……流石は僕の天使……



「クリスさんダメですよ。

 そんな汚物に触ってはせっかくの綺麗な手が汚れてしまいますから」


「…フォル…コン……一応…人……」



 クリスは至極真面目な顔でそう言う。

 ソプラノはそんなクリスの隣に腰を下ろした。



「君はいつも僕に厳しいね……」


「自分の胸に手を当てて考えてみるといいんですわ」



 恨み言を言うフォルコンに何気ない様子で告げるソプラノ。

 クリスに癒される傍ら、鼻の下を伸ばしながらフォルコンはそっと自分の胸に手をおいて……



「それはソプラノ様にボコボコにされてばかりの弱っちいお坊ちゃまが、いつもクリス様のことを考えて鼻の下を伸ばしておいでだからだとアルフレッドは愚考致します」


「…鼻の…下……伸びる……」


「僕に恥をかかせるなぁあああ!」



 いつの間にか現れた執事アルフレッドの爆撃を受けて、血の海に沈んだのであった。









「むっ?あれは……」



 フォルコンがそれに気がついたのはおそらく運が良かったから。

 大勢の人がいる中で彼は食事を取っているお兄様の姿を目敏く発見したのだ。



「こ、これはなんと運命的っ!」



 ……新婚の挨拶に……い、いや、まだだった。とりあえず許可を貰いに行こう……



 常人からすれば理解不能な思考回路。

 だがそれはフォルコンからすればごく自然に導き出された答え。



 いつか夢で見たとおりにクリスは聖女になったのだ。

 なればきっとあれは正夢で、自分はこれから勇者となって魔王を倒し、最後にはクリスと結婚するのだろう。


 それを当然のこととして、フォルコンは1+1=2であるということと同じように考える。


 何度ソプラノに叩きのめされても不屈の闘志で蘇る彼には流石の現実といえども打つ手をもっていなかったのだ。



「ライルお兄様!

 天使を…いえ、クリスさんを僕に下さいっ!」



 将来の兄に対してフォルコンは殊勝な気持ちで精一杯の礼を尽くす。

 頭が床につかんばかりに腰を曲げる。



「……すまないんだけど、僕はまだ君のことをよく知らないんだ。

 良かったら自己紹介をしてくれないかい?」



 だが待つこと暫し、頭上からかけられた声には僅かに警戒の色が、困惑の色が混じっていた。



 ……ぼ、僕としたことがっ!?

 そ、そうだった、幾らクリスのお兄様と雖もただの人。僕のように特別な力を持っているわけじゃないんだ……



 そこでようやくフォルコンは気がつく。そう、神からの神託を受けられるのは選ばれたごく一部の人間、勇者だけであったということに。



「これはこれは僕としたことが失礼しました!


 ええ、僕の名前はフォルコン・アルマ・ターニッツ。

 今はまだしがない子爵家の跡継ぎに過ぎない者ですが、将来的にはライルお兄様の義弟、クリスさんの夫となるものです」



 相手を内心で何の力も持っていないただの人であると断じたフォルコンは精神的に優位に立ち、かなりの余裕を手に入れる。


 普段から行っている格好をつける動作も2割増しで輝き、格下相手であれば意固地になることもなく謝罪をすることにも何ら迷いはなかった。



 ……寛大な、余裕を持っているところを見せるのも悪くない。

 勇者になる僕のことを知らないのは確かに問題だけれど、でも、僕にはそれを笑って許すだけの度量があるんだ……



「フォルコンお坊っちゃま、急に押しかけてはなりません。

 相手方の都合も考えないと失礼になってしまいますよ?」



 しかし唐突に後ろから聞こえた声がフォルコンの思考を阻害する。



「アルフレッド、今日ばっかりは邪魔しないでくれないか?

 僕は今お兄様と大切な話しをしているんだ」



 剣士として後ろを取られて、それに気がつくことができないということはとても恥ずべきことだが、ことアルフレッドにおいてはそれは当てはまらない。

 色々な技能を高い水準で修めたこの執事アルフレッドはターニッツ家の自慢でもあるのだから。



 ……ただ、僕の邪魔をしないでくれると嬉しいんだけどね……



「フォルコン君、だったね。

 僕は君が相当な使い手だと思うんだが、いいかな?僕に君の力を見せてもらいたいんだ。


 今から少しいいかい?」



 ほんの僅かに感じた殺気、目線をアルフレッドからお兄様ライルに向ければ、そこには挑戦的な目をした一人の剣士がいた。



 ……腕試しというわけかな?一目で僕の実力を見抜くなんてなかなかどうしてやるじゃないか……

 いいだろう、この勇者たる僕が胸を貸してやるのもやぶさかではない……



 つい先ほどソプラノにボコボコにされたことを都合良く忘れ、コンバット軍曹に殺されかけたことを忘却の彼方に押しやったフォルコンの妄想は止まらない。



 斜め後ろでアルフレッドが頭を抱えている姿を尻目にフォルコンは堂々とした仕草でライルについて校庭へと向かったのであった……






 ちなみにこのあと手加減なしのライルの一撃で地に沈むことになったフォルコンだが、そこにはあまり触れない方がいいのであろう。



リアルが急がしいのに加えてどうにもスランプ気味な作者です。

まだまだ本編の執筆までには時間がかかりそうなのですが、どうか暖かい目で見守ってやってください……


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