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無口な天使  作者: ソルモルドア
気弱な聖女様
41/78

僅かなすれ違い

投稿するのが遅れてしまいました(>人<;)

飲み会でゲロの海に沈んでいまして……




 


 あたりに満ちているのは、どこか見慣れた漆黒の闇。


 初まりもなければ終わりもなく、どこからどうやって来て、これからどこへいくことになるのかもわからないような不思議な空間の中で、僕は静かに佇んでいた。



 ……ここはどこだろう……?

 ……僕しかいないのかな……?



 疑問に思った僕は辺りを見渡す。



「……」



 しかし僅かな光すらも差さない暗い世界で見えるものは何もなく、僕は闇の中で少しだけ孤独を感じることになっただけで……



 ……なんだか寂しいな……





 一体どれぐらいの間佇んでいたのだろう。


 幾度となく暗闇の中で頭を巡らして、僕はいつの間にか眼前で同じようによく見知った男の娘が佇んでいることに気がついたのだ。



「……?」



 ……あ、あの子は……?



 強烈な既視感。


 闇の中でも目立つ銀色の長髪に、平均よりも遥かに低い身長。

 女性のように、いやそれ以上に細くて肉のついていない体。気弱そうな雰囲気。僕に良く似た、見慣れた顔立ち。



 今の僕よりも少しだけ険しい視線に、疲れたような表情をした僕と僕は、お互いにじっと見つめ合う。



 ……そっか……きっとこれは夢……



 暗闇の中、前世の僕と対面したのはこれで確か二度目。


 一度目はイリスを戦場に送り出した時だったと僕はしっかりと記憶していた。



「……どうし……」


「……あり…がとう……」



 どうしたの?

 僕の言葉を遮るようなタイミング。何故か淡く、わからない程度にニッコリと笑った前世の僕は言う。



 ……お礼……?



 自分のことなのに何故か理解できなかった僕は、首を傾げて前世の僕に問いかけた。



「……お礼……?」


「……」



 前世の僕は無言でスッと視線を上に、光射さない空間の、果てし無く黒い空へと向ける。



「……?」



 釣られるようにして空を見た僕の瞳に映るのは黒。変わらずに同じ密度を保って広がる闇で……



 一体何を見ているんだろう?

 疑問に思って前世の僕へと視線を戻せば、いつの間にか前世の僕は無言でポロポロと涙を流していたのだ。



「……」



 白い頬を伝って地面に落ちた銀色の光の粒、まるで真珠のようなそれは暗闇の中に溶けるようにして消えていく。



「……泣く……?」



 見てはいけないものを見てしまったかのような背徳感。


 僅かに動揺を滲ませた僕の問いに、首を横に振った前世の僕はゆっくりと、それこそ消え入りそうな声で答えを紡いだ。



「……うれ…し…くて……」


「……うれしい……?」



 前世の僕はおうむ返しに問いかけた僕を見て、少し照れ臭そうに笑顔を浮かべる。



「……肯定…して……くれた……」


「……え……?」



 ……一体なんのこと……?



 首を捻る僕を見て前世の僕は何を考えたのだろう?

 彼は少しだけ微笑み、僅かに考えた後で小さな声で呟いた。



「……忘れ…たく……ないって……」


「……」


「……初めて…肯定……」



 そこまで聞いて僕はハッと気がつく。



 ……今まで僕は…過去の僕を……



 暗い夢の中で脳裏に鮮明に思い描くのは、魔法の仮面の力を使って弱さを隠していたことで……


 穢れていると嘆いていたことで……


 そう、自分を卑下していたことばかり。



「……嬉し…くてっ……」



 微笑みながらもポロポロと銀色の粒を闇の中に零し続ける前世の僕。


 精一杯、できる限り必死で生き抜いて……でも、それでも汚いものとして他でもない僕自身にいつも、いつも否定され続けていたもう一人の……僕。



「……ごめん……」



 それに気がついた僕は、頭を下げて真剣に謝る。



 自分が頑張って生きていたのを一番よく知っていたのは、他でもない僕だったのに……

 肯定して、受け入れてあげられるのも僕だけだったのに……



「……本当…ごめん……」



 イリスと悲しい二度目の別れをして、聖女として期待されて、激しい環境の変化に慣れなくて……


 そんな中で唯一変化のない僕自身の記憶が、本当に僕自身の証明のようにも思えて……



 罪悪感と少しだけ温かくなった心を持て余した僕は、顔をあげてそっと前世の僕を抱く。



 いつの間にか奴隷だった時のように汚くて、小さくて、折れそうで、弱々しくなっていた前世の僕は、それでも体温を、人の温もりを確かに持っていた。



「……辛い…人……沢山……」


「……出来る…だけ……」


「……救って…あげて……」



 前世で最後まで報われることのなかった前世の僕は、今世の僕に切実な思いで語りかける。



「……君と…僕……聖女…でしょ?」


「………………うん……」



 不可思議な空間、その空に一筋の銀光が射す。

 きっとその光は暗闇の中を進む一つの道しるべに、希望の光になるのだろう……










 …………

 ………

 ……

 …










 僅かに頬に当たる微風。


 ゆっくりと目を覚ませば、そこは寮の僕の部屋じゃなくて……



「……ぁ……」



 見慣れない天蓋が、柔らかい布団が僅かに滲んだ視界にうつって僕は気がつく。


 暗いから色はよくわからないけど、でもピンク色で埋め尽くされているここは……



「……そっか……」



 今の僕は聖女で……

 ここは教会で……

 あれは夢で……



「……うん……」



 僕は不思議な余韻が残る胸に手を当てる。



 ……あれは夢だったのかもしれないけど、でも僕の胸の中には確かに僕がいて……



 暗闇の中に響く小さな呼吸音。


 だが、変化があったのはそんな時。



「ごめん、起こしちゃったかな……?」


「!?」



 突然聞こえた僕以外の声。ビックリとしながら横を向けば、そこには銀色の仮面をつけた見覚えのある女の子がいた。



「……君…は……?」



 どうしてここにいるの?

 そんな僕の無言の疑問に軽く苦笑した彼女は、押し殺した声で言う。



「たぶん、きっともう初めましてだよね……」



 それはどこか自嘲めいた響きをはらんだ声。


 何が言いたいの?どうしたの?


 起き抜けの回転の遅い頭。

 僕が彼女の顔を隠す銀色の仮面と、そこから覗く紅い瞳を見つめていれば、なぜかそこに暗い影が一瞬映った気がした。



「い、いきなりで悪いんだけどボクのことを信じて欲しいんだ」


「……?」



 どこか緊張しているような……それでいて悲しいような……期待しているともとれるような声色で、彼女は僕に何かを訴えかけてくる。



「君はっ……ク、クリスちゃんは利用されてるだけなんだっ!」


「……利用……?」


「そう!

 クリスちゃんは教会の客寄せパンダで、ぷろぱがんだって言うので……聖女って名目で支持を集めるためだけにっ……」


「……」



 僕の顔を見て何を思ったのだろう、僅かに声のトーンを落とした彼女は、その平均よりも少し細い腕を僕の方へと伸ばす。



「もし初対面のボクを…こんな胡散臭くて情けないボクを……それでも、それでもクリスちゃんが信じてくれるって言うのならっ……


 も、もしボクと一緒に来てくれるって言うのなら……


 この手を取って!」



 紅い瞳に宿るのは真摯な光。


 言っていることの大半は理解できなかったけれど、でも、それでもその瞳は世界を見て回るって言った、変わりたいからって言って旅立っていったあの頃のイリスと酷似していて……



 ……イリスは変わってないのかな……?



 僕の中で幼かった頃の、まるで昨日のことのようにあの時の光景が再生される。



「……なんでっ……」


「えっ?」



 小さく、ほんの少しだけ漏れた僕の涙声に目の前の大きなイリスは、疑問の声をあげる。



『……ボクは行くよ。


 もしかしたら簡単に死んじゃうかもしれないけど……王都にだって帰って来れないかもしれないけど……』



 幼さの残る声。

 力を秘めた過去のイリスの言葉。



「……い、一緒に…来て…って……」


『だから止めないで。


 大丈夫。ボクは死なないから。

 だってまだまたまやりたいことがあるんだもん』



 ……あの時、イリスが一言でも、ほんの一言でも僕についてきて欲しいって言ってくれていればっ……



「……あの時……言って……」



 せめてイリスが行きたくないって言ってくれさえすればっ……



「クリスちゃん……」



 僕の方へと差しのばされた手は空中で所在無げに動き、やがてイリスの傍に収まる。



「ボクの思いは届かないの……?」



 寂しそうな、悲しそうな彼女の声に僕の胸が詰まる。

 僕の心の中でもう一人の僕が必死に叫んでいた。



 ……違う…違うよ……僕が本当にイリスに言いたいことは……



「今なら、今ならまだクリスちゃんは聖女じゃないんだからっ……」



 まだ引き返せる!ボクと来て!



 叫ぶようなイリスの悲痛な声。


 それに反応したからか半開きになった扉の向こう、廊下の方から聞こえてくる数人の足音と怒鳴り声が聞こえてきた。



「ボクの手をっ……」



 涙声で再び僕の方に伸ばされる小さな手、とっても小さな手。

 銀色の仮面を被ったイリスが、僕の中であの頃のイリスと重なって……



「……ありがと…ね……」



 僅かに震えるその手を見た僕は、ニッコリと笑って告げる。



 僕のことを覚えていてくれて……

 まだこんなにも思っていてくれて……





 かたや聖女、かたや凄腕のギルド員。


 敵対する相手は同じでも、目指すところは同じでも、かつて触れ合っていた時よりもその溝は遥かに大きくて……

 たぶん、今はまだ交わることはないのだろう……










 ………………


 《ライル視点》










「父様、クリスの件ですが……」



 アズラエル邸の中に少年の声が響く。



「またかライル。


 ……そのことはマーチも交えて何度も話したはずだぞ?」


「ですが、リョウもユーリも、勿論僕もあの説明では納得できません!」



 少年の声に応じてはぁと深く溜息をついたのは、クリスとライルのライネス

 どこか気だるそうで、その姿からは普段の覇気が欠片も感じられなかった。



「わかるかライル?


 クリスを聖女としてニクズク教に差し出すことで、アズラエル家と教会との間に強い繋がりが、パイプが出来るんだ」



 それは子供に言って聞かせるような、駄々をこねる子供に物をわからせるようなそんな言い方。



「ですが僕にはクリスがまるで人質のようにっ……」



 反論しようとしたライルを片腕をあげることで制したライネスは、広い書斎の中を一言一言ポツリポツリと話しながら歩き回る。



「ライル、お前はまだ子供だからわからないんだ」



 これは一体どうしたことだろう?


 ライルは父の豹変ぶりに驚愕し内心で叫ぶ。



 父様ライネスはつい先日まで、クリスを教会から連れ戻そうとしていたはずなのにっ……



「だが、頭のいいお前なら少し考えてみればわかることだろう?

 かたや国民からの支持も厚く、今流れに乗っている王家と教会。

 もう一方は伝統こそあっても落ち目の貴族」



 どこか濁ったようにも見える瞳でライルを見据えたライネスは、変わらない態度で、それこそまさに当然のことを話すように言った。



「どちらにつけば得か、そんなものは一目瞭然だろう?」


「父様はっ……」



 ライルは言葉に詰まる。



 父様は政治なんて……そんな判断をするよりも、クリスのことを心配するようなそんな人だったのにっ……



「そうだな……それに私も黙ってはいたが昔から心配していたんだ」



 思い出すようにしてライネスは語り始める。



「クリスは髪の色も目の色も私達とは違っていたし、鍛えても体に筋肉が一切つかなくてな……


 無意識のうちに出来の良いお前の妹だからと期待をかけ過ぎていたのかもしれん。


 あぁ、言ってしまえば、私はクリスに刀を学ばせたのを正直後悔していたんだ。

 こくなことをしてしまったとも思っているんだよ……」



 刀を教えるという選択も、この貴族社会の中で育てると判断したことも全て間違えで大、人しいあの子には苦痛だったのかもしれないと悲しげにライネスは首を振った。



「な、ならっ、尚更クリスに選ぶ権利をっ……」



 なおも言い募ろうとするライルの言葉を再びライネスは遮る。



「ライル、わからないのか?

 しっかりと考えてみなさい」


「……?」


「まだ小さいからいいが、そのうちクリスは常に周りと比べられることに劣等感を感じ、否応無く日陰に甘んじることになっていただろう。


 貴族社会でもあまり認知されていなければ、権力目的以外で婚約を結ぼうとする輩も少ない。

 それは分家であれば多くの子達が通らなくてはならない辛い道だが、私は愛するクリスにそうなって欲しくないんだ」



 どこか達観したようなライネスの物言い。


 父の若い頃に一体何があったのだろうか?

 でも、そんなことよりも……



「僕と比べられていつも劣等感を感じていたクリスはっ!

 貴族社会で生きて行くべきではないと!

 つ、つまりはそういうことですか父様!?」


「ライル、落ち着きなさい。


 私にもクリスのことが全てわかるわけではない……が、ただ確かなことがあるだろう?

 あの子は今、初めて多くの人から注目を浴びている。


 元々静かで人見知りの激しかったクリスは、聖女という曇った窓を介してだが、ようやく世間に認められることになったんだ」



 親として子の成功を喜ばない人間はいない、クリスはきっと幸せに暮らせるだろうよと言って微笑むライネス



 それを聞いたライルの胸の中には言い知れぬ痛みが走っていた。



 ……クリスが僕と比べられて……


 僕のせいで、クリスの未来が歪んでしまった……?



「ライル、お前が気に病むことではないぞ。


 だが……そうだな、お前がそこまで心配をするのならユーリの一人ぐらいならばきっと教会も受け入れてくれるだろう。


 うむ、もう聞きたいことは何もないな?」


「はい……お時間をとらせて……すみませんでした……」



 もうこれ以上の議論は無用。

 どこまでいってもきっと平行線。



 家族に対するものとは思えないほどに礼儀正しく礼をしたライルは、後ろ手に書斎の扉を閉める。



 その胸中はおよそ言葉にできないほどに複雑で、筆舌ひつぜつに尽くし難く……



 クリスの本当の幸せは……

 僕なんてっ……

 父様は頼れない……



 ライルの後ろ姿はいつもよりも遥かに小さく見えた……



元々回らない頭がお酒で錆び付いています。誤字脱字、意味不明な点が多いかもしれません(°_°)

ごめんなさい(^◇^;)

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