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無口な天使  作者: ソルモルドア
魔王の影
31/78

学園再開

大臣視点、少し明るくなったクリスちゃん視点、この章ではあまり出番のない新キャラ視点となっております(。-_-。)




 


 《大臣ぶた視点》




 壊れた建物の改修。人足の確保。兵士の補充。物資の輸送。

 勿論地方の領主達の監視も怠るわけにはいかないし、税の徴収は勿論、不明瞭な国境だって魔物どもから守らなくてはならない。


 やるべきことはそれこそ山のようにあり、改善すべき点は切りが無いほどに挙げられる。



「そこでこの命令か……」



 思わず肩を落としてうなだれた私を誰が責めれるだろう。

 平時から大半の脳筋な貴族共に影で豚と貶められ、王からも怒鳴られ、あの忌まわしい聖職者さぎしにも嗤われている私だが、こうやって多くの調整をおこない、酷すぎる国の経営を支えているのは何を隠そうこの私だという自負がある。


 だが手元にある命令書に書かれているのは、ニクズク教の公認及び全面的な支援、多数のニクズク教会の建設と神に仕える美しく高貴な巫女の選出、王の趣味でもある闘技場の再建を急がせよという無理難題。


 それも復興と同時進行で迅速に、可及的速やかにできないのであれば内乱の責任を取って大臣職を辞職せよ、というオマケ付きである。



「うぬぬ……」



 無理だと伝えるのは簡単だが、その場合はその無理なことをやるのがお前の仕事だろうといわれ、無能の烙印を押されたうえで本当に都市外追放だろうか。


 あの内乱以来私の扱いも随分とぞんざいになったものである。



「はぁ……」



 私は一つ大きく溜息をついて構想を練っていく。

 闘技場の再建を急がせるのは、何も悪いことばかりではない。国民の不満を和らげる意味もあるし、賭け事の元締めを国が行えばいい儲けになるだろう。


 だが、こと宗教に関しては……



「金の問題も、教義の問題もある……。

 まずはお金のほうだが、これは最悪、公的な施設の利用料を上げて……」



 大僧正さぎしの言うとおりに王の名の下でニクズク教を大々的に公布。強制的に貴族を入信させた上で、寄付という形でお金を吸いあげ、国に入る額と教会が受け取る金を折半すればなんとかなるだろう。



 一日も早い復興のためには、一銭たりとも無駄には出来ん。とにかく後で明細を作成せねば……



「後は教義の方なのだが……こればっかりは……

 ああ、私は一体どうすれば……」



 私は頭を掻き毟って、最近生き残りの少なくなってきた毛根をイタズラに殺していく。



 確かにニクズク教の内容は民衆受けが良さそうなもので、学の無い大衆にもわかりやすいものだろう。良い点だけで見れば、確実に王家の支持率は上がるだろうし、うるさい貴族の発言力は減るし、一般からの多額の寄付も見込めるはずだ。



「確かに、確かにそうなのだが……」



 だが、内容自体が今の貴族政治を根本から崩すようなものであれば、私の一存で簡単に布教を許可できるようなものではない。



 こんなものを公布した次の日には、最悪今度は貴族が内乱を起こして、国中が焼け野原になってしまう……良くても暗殺されるのは確実か……



 大臣ぶたは悩みに悩んだ末に、己の政治生命と今後の王国を天秤にかけて決断を下す。



「ああ、そうさ。私はきっと後世において酷く批判されることになるだろう……

 だが、どうせ私が大臣職を解任されたところで次に大臣になる者はもっと無能なのだ。

 ならばこのまま私が地獄まで王のお供を……」



 内乱が終結してから一ヶ月。

 こうしてニクズク教という名前の宗教が国教となり、数多くの教会が街中に立ち並ぶことになったのである。












 ………………


 《クリス視点》











 窓の外を緩やかに流れていく王都の大通り。所々に女神を模した胡散臭い像が立ち、十字架を掲げたお洒落なお店が立ち並ぶ。


 友達と一緒に笑顔でリンゴを買って食べる少年達に、くすんだ窓の中に飾ってある可愛らしい洋服をお母さんと眺める女の子。


 嬉しいことにそこにはもう一年前の内乱の爪痕など殆ど残っておらず、しっかりとした平和な生活風景が広がっていた。



「……」



 僕は馬車の中で上半身を斜めにし、片腕を窓枠にのせてぼんやりとその平和な景色を眺める。

 魔物とはいえ命を奪うのは決して楽しいことではなかったけれど、でも、それをしたことによって今の平和があると思うと、なんだか僕の胸が少し温かくなった。



 ……良かった、皆幸せそう……



 早いもので僕が覚悟を決めて多くの魔物を虐殺したあの時から、巨大な邪竜と壮絶な命の奪い合いをしてから、今日でもう一年。


 我が家には新しい家族ともいえる使用人も増えたし、あの日を境にほんの少しだけ強くなって、もう今では11歳になった僕は前よりもずっーとずっと明るい世界に生きている……と思う。



 僕はもう魔法の仮面に頼らなくたって刀を握るぐらいはできるようになったし、悪夢にうなされることはあっても、それで精神を病むような事態にまでは至っていない。



 勿論、今でも刀を握ることに忌避感はもっているし、人の命を奪うことはまだできそうにもないけれど……でも、それでも僕はもう守りたいものを守るためにはもう躊躇わないって決めたんだ。


 だから、だからこそこんなにも僕の世界は輝いているんだと思う。



「あれ?

 クリス、なんだか今日はご機嫌だね?」



 ゴトゴトと動く馬車の中。内心の気分の良さが顔に出ていたのか、僕が横に座るお兄ちゃんの方を向けば、ライルは生来から鋭い瞳を優し気に細めて言った。



「いや、なんとなくそう思っただけなんだ。

 もしかしたらクリスはこれから久しぶりに行く学校が楽しみなんじゃないかってね」


「……ほんの…すこし……」



 僕らが向かっているのは、あの内乱から一年たってようやく再会されることになった王立剣術学園。


 多くの貴族の子息達は、安全上の問題を理由に王都を離れ自分の領地へと戻ってしまっているため生徒の数はかなり減ってしまったようだが、今日からまた平民の子供達と王都に残った貴族のためだけに開かれることになったのだ。



「そっか。うん、学校が好きなのはいいことだよ。


 でももうクリスも今年から二年生だからね……楽しいだけじゃなくてしっかりとしなくちゃいけないんだよ?

 ふふふ、とは言っても去年はほとんど学校に行けなかったから実質まだ一年生みたいなものか」


「……うん……」



 小さく頷いた僕の頭を大きな掌で撫でながらライルは微笑み、その後に少し真剣な声色で言う。



「でもクリス、もう言うのは何度目かわからないけど本当に気をつけるんだよ。


 国が約一年前に取り入れた新しい宗教、ニクズク教のことは詳しく知っているね?

 声を大きくしては言えないけど、あの宗教のせいで貴族に対しても遠慮のない平民が増えてきているんだ。

 あいつらは聖職者や王族以外は神の名の元に平等だなんて言ってるし、少なからずクリスが嫌がらせを受ける事だってあるかもしれないんだからね?」



 内乱終結一ヶ月後から、何故か国中に公布され、一躍国教となったニクズク教。


 神の前においては一部の人間、王族を除いて皆平等だというこの宗教の考え方は、非常に平民や奴隷達からの指示が熱く、その信者を爆発的に増やしていた。



 勿論貴族側も既得権益を奪い取られるかもしれないという予感に、各々抵抗しようとはするが、元々纏まりが悪く少なからず内乱のせいでで疲弊している上に、国民の支持を受け早々にギルドを取り込んだ王族の力の前にはどうしようもなく、誰も表立って反乱を起こすことはできなかったのだ。


 実際、断固入信しないと先走って表明した貴族たちは、皆一様に神の名の基に処断され、内乱の責任を押し付けられた上で財産は勿論、貴族位までも奪われてしまっている。



 お父さんやお母さんは貴族の力を削いで、神に認められたという王様の権力を絶対的なものにしようと大臣と大僧正が企んだことだって言ってたけれど……



「クリス、不安になるのもわかるけど目を逸らしちゃいけないよ。

 今までの貴族への不満をぶつけてくる輩だって絶対にいる。

 簡単に知らない人に着いて行ったり、安易に武器を手放してはいけないんだからね?」


「……わか…った……」



 僕はライルに一つ頷きを返す。


 難しい宗教のことは良くわからないけれど、僕にだって今まで少なからず特権階級であった貴族がかなりの危機に瀕しているということはよくわかっているのだ。

 今は所謂、貴族VS王族、平民といった感じで冷戦状態なのだろう。



「ライル、クリス~そろそろ学園の方に着くぞ~」


「着きますです」



 話が一段落したところで、馬車の外側からかけられる陽気な声。幼さの残る高い声。馬車の御者が座っている部分から顔だけを覗かせているのは、一人の青年と幼さの残る少女。



「ん?もうそんな時間か。


 あぁ、わかった。

 じゃあ、クリスそろそろ降りる用意をしようか」



 さっき声をかけてきたのは、最底辺の貴族という扱いである元名誉貴族の子供達。親が宗教と内乱絡みの問題で処刑されてしまい、路頭に迷っていたところをクリスとライルのライネスに拾って貰ったという二人の子供。


 元が名誉貴族とはいえ、貴族の子息という過去があれば市井の平民に受け入れられるわけもなく、彼らはライネスの好意から既にアズラエル家の使用人で、今日から僕とライルの従者兼護衛という名目でこの学園で、一緒に生活することになっているのだ。



「クリス様はあたしが守るのですよ」



 重そうに荷物を引きずりながら僕のすぐ後ろをついてくるのは、これから僕の寮の部屋で一緒に寝食を共にすることになっているユーリちゃん。


 肩まで伸ばした黒いようで少し茶色っぽい髪に、大きくてクリクリとした瞳。

 僕よりも3つも年下でまだ8歳の女の子。

 でも、なんでかわからないけど身長は……うん、たぶん同じぐらい。



「…荷物…持つ……」


「あっ!せ、せっかくあたしが活躍できる場面だったのにぃ……」



 紳士としては小さな女の子に荷物を持たせておくわけにはいかない。完全に荷物に背負われているかのようなユーリちゃんから荷物を受け取った僕は、ライルとその従者、ユーリちゃんのお兄さんでもあるリョウ君から遅れないようにと歩みを速くする。



「やっぱりクリスは凄い……

 なぁ、一体どうしてそんなに細い腕でこんなに重い荷物を持てるんだ?

 ユーリよりも小さいはずなのに……」



 ライルと同じ年で13歳。ユーリと同じ茶色っぽい髪をしているのがリョウ君。

 背はライルよりも少し高くてかなりガタイがいい。



 ……距離感もなんだか近いし、ちょっと面と向かって話すのは恐い人種だ。



「クリスは僕の自慢の妹だからね。


 でもクリス、大丈夫?流石に僕少し手伝うよ。


 あとそうだ。

 リョウ、君はこれから僕の部屋で過ごすことになるんだからな?あんまり部屋を汚したりしたら怒るぞ」



 ユーリちゃんがもてなかった荷物を軽々と持って歩いている僕を見て驚いた様子のリョウ君。

 僕のことを心配をして半分ほどの荷物をもってくれるライル。



「……あり…がとう……」



 イリスのように心を通わせた友達というのとは少し違うかもしれないけれど、家族として新しく二人を迎えた僕は今、とても幸せだったのだ……










「お荷物の方をお片づけするのです」



 まだ小さなユーリちゃんは、ちょこまかと動きながら器用に僕と自分の私物を色々な場所に収納していく。

 必死になってやっている彼女にしてみたら失礼なことかもしれないけれど、その姿はどこか小動物めいていて可愛らしい。



「いいのです、クリス様は休んでいるのですよ」



 どことなく嬉しそうに僕の手から荷物を抜き取って片付けを続けるユーリちゃん。



 ……もし僕に妹がいたらこんな気分なのかな……



 自分より年下がいるというのはどこか新鮮で、クリスは前世と今世を通して初めての経験に淡く微笑む。



「……っ」



 ぼんやりと僕がリビングにある椅子に座ってユーリちゃんの行動を見ていると、なぜか彼女は顔を赤くして途端にギクシャクとした動きをし始めた。



「ク、クリス様……これ…どうしましょ…」



 尻すぼみに消えていく言葉。不思議に思った僕は、彼女が見ている物へと視線をうつす。



「…ユーリ……?」



 僕の下着を片手に彼女ユーリは何を思ったのだろうか。

 彼女は僅かに頬を赤くして僕のほうを向いた。



「あの…これはその……」



 キューという効果音と共に真っ赤な顔から湯気をだすユーリちゃん。



 ……なんだか和むなぁ……



 理由は良くわからないけれど、小動物のようなユーリちゃんが慌てているのをみるのは少しだけ楽しい。



「な、なんでもないです!」


「……?」



 結局何も無かったかのように顔を赤くしながらユーリちゃんは、僕の服や下着を木製の豪華な箪笥に入れていく。


 ぎこちなく動く彼女を見て僕はようやく納得がいった。



 ……あっ、流石に他人の下着を触るのなんてそれは嫌に決まってるよね。

 僕も気が利かなかったなぁ……ゴメンね、ユーリちゃん……



 僕は全てを仕舞い終えたユーリちゃんに近づいて、僕と大体同じ高さにある頭を撫でる。



「……?」



 疑問符を浮かべるユーリちゃん。

 僕はそんな彼女に一言だけ言った。



「……こ、これから…頑張…る……」



 気が利かなくてごめんね。

 これからはいいおにいちゃんとして頑張るから……

 だから…うん、これからよろしくね!



「ク、ク、クリス様!」



 顔を赤くして嬉しそうに彼女ユーリは破顔する。

 それを見て少し気分が良くなった僕は、彼女に一つ約束をした。



「……ご飯…後……勉強…見て…あげる……」


「は、はい!よろしくお願いするです!」










 ………………


 《ユーリちゃん視点》









 クリス様はとっても不思議な人なのです。


 普段は一言も喋らないぐらいに無口だし、表情が変わる事だって滅多にないのです。

 窓からよくお外を見るのが好きで、武器を持つことがあまり好きではないようなのです。



 あたしも最初に会った時は、等身大のお人形さんかと思ってビックリしてしまいました。

 ちなみに今でも、実は綺麗なお人形さんなんじゃないかと思っていることがあるのは内緒なのです。



「クリス様、そろそろお食事行きますですよ」


「……う…ん……」



 椅子に座ってぼんやりと本を読んでいらしたクリス様は、パタンと本を閉じてフワリと体重を感じさせない動作で立ち上がります。


 でも全く変わらない表情からは、あたしが言った事を本当にクリス様が理解しているのか判断がつきません。



「しっかり食べるのですよ?」



 あたしはしっかりと念を押します。

 あたしより年上のはずのクリス様は、どこか抜けていて、声を掛けなければいつまでもボンヤリとしています。色々と変なことをしていたり、ご飯をほとんど食べなかったりすることもあるのです。



「……ユーリ……も…食べる……」



 あたしに気を使ってくれたのでしょうか?

 銀色の綺麗な瞳であたしを見つめて言うクリス様は、とても可愛らしくてあたしの胸はなぜか高まりました。



「はい!勿論あたしは沢山食べるのですよ!」



 コクリと頷いたクリス様は、あたしが見とれている間に先ほどライル様から言われたことも忘れて、刀を身につけずに食堂へと歩いていってしまいます。



「あ!ク、クリス様!刀を装備するのです!」



 やっぱりとっても可愛いけど、どこか抜けているクリス様の面倒はあたしが見てあげないといけないのです!




……小説を読み直していると、どうにも日本語がおかしい気がしてしょんぼりな感じの作者です(>人<;)


そもそも話の展開が遅いのでしょうか?

どうにも上手い人たちの文章と違って私の文章は風景の想像がしにくい気がしてなりませんorz


もう少しマトモな文章が書けるように努力していきたいと思います……

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