晴天の霹靂
三章になります(。-_-。)
待ってたぞ!という方が万が一にでもいらっしゃいましたら、少し期待外れな感じかもしれません。
全体的に内容の推敲が甘く、上手く文章ができてない予感がしていまして……(・_・;
本当にごめんなさいです(>人<;)
膨潤な大地を彩る草花に、姦しく囀る小鳥達。
流れる小川は、サラサラと綺麗な音を立て、木の上では小さなドングリを片手にリス達が愛を語り合う。
それは一見してこの時代にあっては、信じ難いほどに平和な光景。まるで楽園のような、天国のようなそんな美しい光景。
だがしかし、悲しいかな。この平和も所詮は仮初めのもの。眼を逸らさず、耳を澄ませば不吉な前兆を捉えることができるだろう。少しずつではあるが確実に、この小さくも緑豊かな山に破滅が迫ってきていたのだ……
運命の日。最初の異変は空に輝く唯一無二の存在。つまりは太陽に起きた。
それは見る人が見れば感動し、涙を流すほどに美しい皆既日食という現象。
みるみるうちに陰っていく太陽。夜でもないのに光量を減らし、欠けていくその様は、まるで闇に呑まれているようにも見えた。
「……暗くなってきたべか?
いや……」
普段通りにこの山で狩りをおこなっていた老齢の猟師が、その異変に気がついたのは、辺りの動物達が皆一斉に血相を変えて、何処かへと走り去って行く姿を発見したからであった。
「……何が起こってるんだべ?」
そして野生の動物達から遅れること数十分、彼はようやく異変の原因を感じ取る。
それは長い間山に潜ってきた彼だからこそわかる、平時とは違った不穏な空気。
ベテランの猟師をして危険だと感じるほどの何かがいると風が彼に囁いたのだ。
これはもしものこと、言っても詮無いことだが、もしこの猟師が長年の経験に裏打ちされた絶対の自信を持っていなければ、本当に少しだけでも今以上に用心深い性格であったならば、きっと彼はこれから起こる悲劇に巻き込まれることはなかったのであろう。
おとなしく麓の集落に帰って、最近ようやく歩けるようになった小さな孫と遊んでいれば、いま少し死期が延びたはずだったのだ。
「こいつはぁ……こいつはぁ相当大物な気がすんべ」
だが、現実とは非常なもので、自身の腕に絶対の自信を持つ彼は、未だかつてない大物の予感に舌舐めずりさえしていた。
自分が殺られるとは、狩られるとは微塵も考えない。
村一番の実力者でもあった老齢の猟師はこの山の覇者であり、たとえ大柄な熊が、魔物が相手であっても常に狩る方であったから。
「ちっと行ってみるべ」
弓を左手に持ち、右手に鉈を持った彼は、動物達の流れに逆らうようにしつつも滑らかに動く。
好奇心という名の悪魔に囚われた老齢の猟師は、もう止まれない。
夜中のように暗くなった山の中。
小鳥の囀りはもうなく、川もまるで凍ってしまっているかのようにピクリとも音をたててはいなかった……
「……この辺りだべか?」
老齢の猟師が己の確かな勘に従って辿り着いたのは、山の中、不自然に開けた広場のような一角。
ただ、日食が進み既に太陽の光が地上を照らさなくなって久しく、星明かりを頼りに進んでいる今、いかにベテランの彼といえども、この広場の全貌を完全には掴むことができなかった。
「こんなところに空き地なんかあったべか?
そ、そでにこの変な音は……」
怯えを感じ、彼がゴクリと生唾を飲み込んだのは一瞬のこと。老齢の猟師は、即座に低い姿勢のまま野生の獣よりも遥かに大胆で素早く、より繊細な動きで低木や草花の間をぬうようにして進んでいく。
その間も何かがバチバチと弾け、グチャグチャと何かが押しつぶされているような異音が、引っ切り無しに聞こえてきていた。
「……」
俊敏な動きで一旦茂みの中に身を潜めた彼は目を凝らし、暗闇の中で今まで以上に感覚を鋭くする。
彼の長年の経験はここで獲物を待つ、もしくは不意を討つことが最良の選択だと言っていたから。
「……音がやんだべか……?」
しかしグチャグチャバチバチという異音は、唐突に止んでしまう。
ヒューヒューという自分の喉がたてる僅かな音だけが、やけに耳についた。
……も、もしかして気がつかれたんだべか……?
逃げるべきか?このまま待機すべきか?
最後の選択を迫られた彼の脳裏に浮かんだのは、ちょうど可愛い年頃の孫の笑顔。
……いや、まだ大丈夫だべ。なぁに、爺ちゃんが美味いもん食わしてやるから待ってろよ……?
老齢の猟師は汗ばんだ手で鉈を腰に仕舞い、弓に矢を番える。
辺りには動物の気配はなく、死んだように音のしない山の中。
一秒が一分、一時間がまるで1日でもあるかのように長く、いつの間にか額に浮かんでいた冷や汗が、皺だらけの頬を伝ってポタリポタリと地面に落ちた。
……まだ……まだだべか……
音が止んでから辺りには何の変化もなく、一向に姿を現さない獲物。
狩る側であるはずの彼が感じる言い知れない不安、焦燥。
ともすれば下げてしまいそうになる弓を懸命に構えながら、老齢な猟師は暗闇を凝視して……
『どうだ?
なにか良い獲物は見つかったか?』
「……!!??」
唐突に背後から聞こえたどこか面白そうな声。嘲笑うかのような響きを含んだその低い声に、老齢の猟師は心底驚愕する。
いつの間に?などと考える暇もなく襲ってくる圧力。まるで闇そのものが笑っているかのような、死が具現化したかのような力の波動に、彼はようやく自分が狩られるものだったのだと本能的に理解した。
『脆弱だな……』
引き際を見誤った猟師は己の命を対価として差し出す他なく、最後に人型に凝縮された黒い人影を一瞬だけ垣間見て、その思考を永遠の闇に沈めていく。
彼がもう大好きな孫に会えることはない……
『良いところだ……』
生き物の息遣いも、川のせせらぎも、風が葉を揺らす音でさえもない異常な山の中。
一切の音がないその世界を、底知れぬ闇が人型を保って歩く。
木々はまるでその闇を避けるかのようにして道を開け、闇が踏み敷いた草花は二度とその顔をあげることはない。
『……くくく』
闇はその様子に僅かに気分を良くしたのだろう。人間で言えば口角に当たると思われる部分が持ち上がった。
『……ふむ……しかしまだ半覚醒と言ったところか。
やはりこれだけ距離が離れているとやはり顕現するのも容易ではない……か』
奈落の底から響いてくるようにオドロオドロしい声。
闇は確かめるように、まるで長い間寝ていた人間が、体の動かし方を確認しているかのようにゆっくりと黒い右手を開き、閉じる。
バリバリとノイズがはしる闇の右腕は、そんな僅かな動きに対しても輪郭をぼやけさせ、端を僅かに霧散させていた。
『ふむ……』
長い集中の後に闇は、ゆっくりと輪郭がぶれた右手を天に掲げて……
『少々辛いが前祝いといこう』
唐突に、それこそ何の前触れもなく幾つもの魔法陣が虚空に描かれる。輝き回転をする魔法陣の中に闇が、右腕が丸々と吸い込まれて行く。
『散れ』
合図と共に炸裂する魔法陣!
互いに共鳴し、闇色に輝いていた魔法陣が、まるで轟音と共に破裂するかのようにして爆発を起こしていく。
連鎖的に発生した衝撃は、音速を容易く凌駕し、ソニックブームを巻き起こしながら空間を歪めて辺りに伝播。
周囲の大気を根こそぎ焼き尽くし、川を干からびさせ、生きているものを一瞬で灰にする。
山が轟音と激震をあげて崩れ、天まで土煙が立ち昇る。
何が起こったのだろう。疑問に思うことさえなく、麓にある小さな集落は跡形もなく消し飛んでいた。
それは到底信じられないような光景。
過去、緑豊かであった土地は、ものの一分とたたずに、その原型をとどめることなく分解され、塵へと帰していたのだ。
そこにはもう、かつて山だった名残すらなく、後に残ったのはただっ広い荒野と質量を半分ほどに減らした人型の闇だけ。
『……悪くない』
パラパラと砂礫が降り積もる中。乾燥し、赤茶けた大地から僅かに顔を出した一本の枯れ枝だけが、無念そうに風に揺れていた……
………………
内乱の後、迅速に解体再編され、無理なく国家の枠組みの中に取り込まれるとすぐに官僚達など貴族の文官の天下り先の一つとなったギルド。
色々な人々からの助言をうけた王様が国民全員の戸籍登録を出生時にギルドで行い、国民同士で助け合い、共に生きて行くという考え方から全国民ギルド員政策などを打ち出したのはもう一年前のこと。
時代や世界観が人の死を軽いものにしているからであろうか?
内乱からまだ一年しかたっていないにも関わらず、既に大半の一般人の人達にもギルドは概ね好意的に受け入れられ始めていた。
そんなギルドの中でも比較的豪華な一室。
素材が良さそうな木の机を挟んで、そこではギルドを纏める女性マスターと一人の子供が話し合っていた。
「ベガ、ボクに何か用?」
茶色の下地に銀の美しい刺繍がされたローブを着て銀色の仮面で素顔を隠した少年とも少女ともわからない子供が、堂々とした、物怖じしない態度で当代のギルドマスター、ベガ・アメンバーを呼び捨てにしている。
「ええ、わざわざ呼び出してしまってごめんなさい。
リス、実は貴方に調べて欲しいことがあるのよ」
外見からして一切の隙がなく、美しく、ピッシリとスーツを着こなしたベガは、呼び捨てにされていることなど気にも止めずにどこか悲痛そうな顔をして言った。
「本当は、貴方にこんなことを頼むつもりはなかったんだけど……
ごめんなさいねリス、勿論今更だってことは私だってよく…」
「ベガ、別に前置きはいいよ。
ボクは全く気にしてないから、ボクを呼んだ本題を教えてくれると嬉しいかな」
「……え、ええ。わかったわ。
リス、貴方にやってもらいたいのはこれよ」
口調は柔らかくとも、一年前よりも遥かに冷たく、どこか他人との関わりを避けるかのように刺々しい雰囲気を纏ったイリスを見て、ベガは悲しそうに顔を歪める。
幼くして沢山の人の死に触れ、親からも捨てられていた彼女は、12歳にして改めて愛する人との別れを経験し、今では少なからず他人との関わりを避け、心を閉ざすようになってしまっていたのだ。
生来の明るさもあって完全に塞ぎ込むことはなくても、もう昔のようにニコニコと笑うこともない。
「これがボクにやって欲しいこと?」
国から出された依頼書を指して問いかけてくるイリスに申し訳なそうに、辛そうに頷くベガ。
かつての秘書の、暗殺者の顔には心労からか、深い皺が色濃く刻まれていた。
「新しい魔物、いいえ、魔将が出現した可能性があるわ。
今回もまた後手にまわってしまったみたいでまだ詳しく確認は取れていないのだけれど……」
魔将、それは本来知能を持たないはずの魔物が突然変異を起こすことで生まれ、一度その存在が確認されれば、際限なく災厄を撒き散らし、人を絶望へと誘うとされる恐ろしい化け物。
一時は伝承の中だけの存在だと思われていた魔将は、一匹一匹がそれこそ一騎当千の実力を有しており、まさにその力は災害級。
内乱の時にその存在が初めて確認されてから、徐々に巷でもその存在が認知され始め、現在の王国が確認した固体は2体。
うち1体は邪龍とされ、その正体は定かではないが、神が使わしたとされる天使が討伐し、2体目は豚王と名称をつけられた人型の化け物で、何を隠そうイリスを含めた王国軍が総出でかかって激戦の末に討伐した。
もうおよそ半年ほど前のことだ。
「……」
なぜ今になって伝説のような存在が出てきたのだろうか?
多くの学者達が頭を悩ませているらしいがそんなことは関係ない。
現場では……イリス達はいつも生きるか死ぬかの狭間で必死に戦うだけなのだから。
「出現場所は、王国領の端の端、西側にある山岳地帯の一角よ。
少なくても山が一つ消し飛んだらしいわ」
「山が一つ……」
呟くようにボソリと言ったクリスにベガは一つ頷きを返した。
魔将とは魔物が進化したものであるため、元々予測不能であったその力はさらに多岐に渡る。
また個体によっては魔物との外見での区別も難しいようで、未だ二体しか記録できていなければ、詳しい情報もほとんどない。
つまり、一般人よりも遥かに力を持ったイリスであっても魔将の調査ともなればかなりの危険を伴うものになるのだ。
曰く、自分より格下の魔物を統率する力がある。
曰く、自然を意のままに操ることが出来る。
曰く、僅かながら人語を介し、相応の知性がある。
これは全て魔将の持ったデフォルトの力であると言われており、どれも眉唾ものではあるが、一度魔将との交戦経験のあるイリスはそれが決して嘘ではなく、誇張されたものではないということを知っていた。
「まぁ本当に魔将がいるんだったら、山ひとつで被害がおさまっているのは奇跡的だよね……」
「……ええ、貴方の言う通りよ」
ベガは悔しそうな顔をしながら続ける。
「魔将ならば必ずまた被害が起きるし、すぐに数多くの統率された魔物が確認されるはずだわ。
もし少しでも危険な雰囲気を感じたら撤退してちょうだい。
できるわね?《銀の操者》といわれる貴方なら」
ベガの真剣な言葉にイリスは迷い無く頷く。
半年前に起きた魔将討伐作戦の際に多大な功績を残した彼女に与えられた二つ名は《銀の操者》
それは銀色の仮面で顔を覆い、言霊という不可思議な力を操って魔物を倒している姿から畏怖の感情を持ってつけられた名。
仕方が無いことだが、一部の不可思議な力を認めないとする貴族達からの風当たりはかなり強い。
「……問題ないかな。やれそうだったらやってくるよ」
ギルド員は皆、ギルドマスターと仲が良かった子供と彼女のことを認識し、二つ名ではなくリスと呼ぶ。
だが、彼女はもう過去に親から捨てられ、戦場でお兄ちゃんに面倒を見てもらっていた情けないイリスでもなければ、路頭に迷っていたところを優しいギルドマスターに拾われたいたいけな少女リスでもない。
今の彼女はもう、慈悲をかけずに魔物をただひたすらに屠るギルドのエース、《銀の操者》なのだ。
「じゃあ行って来るね」
一つ軽く礼をしたイリス、もとい《銀の操者》はギルドマスターであるベガとの会話を辞し、一度も振り返らずに部屋から去って行く。
その後ろ姿は初めて会った時よりも遥かに大きくて、でもどこか寂しげであった。
「ままならないものね……」
一人ギルドマスター室に取り残されたベガは天井を仰いで涙を流す。
マスターの意思を継ごうと奔走したこの一年間。
気がつけばベガはかつて愛したマスターを殺した貴族の手先になって働いていた。
「私は…私はマスターのようにはできません……」
突如として現れた魔将という不可思議な生き物。
人類に降りかかる未曾有の危機。
夢を追う時間もなければ、マスターが目指していた世の中を作る余裕もなかったのだ。
「……」
足回りが軽く自由がきくリスにも無茶な仕事を任せ、かつて国を共に立て直そうとした同士を王国軍に推薦する。
加速度的に腐敗し、色濃く宗教色に染まっていく国内の様子がわかっていても彼女にはもうどうすることも出来なかった……
誤字脱字、意味不明な点、突っ込みどころが多々あると思います。
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