内乱 ④
これにて二章の本編は終了になります(^O^)/
内乱の話しではやはり練り込みが足りなかったのかお気に入り登録が減ってしまいました。
この次の章からは少し雰囲気を明るくして書けたらいいかな、なんて思ったおります(>_<)
比較的被害が少なく、綺麗な外観を保った謁見の間。
そこには生き残った貴族達が集い、主だった要人達と共に厳粛な面持ちで表彰式を、褒賞の授与を見守っている。
だが表彰式とは言っても露骨に嬉しそうな顔をする者はおらず、どうやら皆一様に死者への弔いをした後の厳かな雰囲気を引きずっているのようでもあった。
「刀の貴族が当主ライネス・エスト・アズラエル。
そなたの率いる王国軍は国内の一大事に際し真っ先に駆けつけ、暴動の鎮圧に尽力したことをここに評し、王の名の下に武勲二等を授与することとする。
今後ともより一層尽力するよう」
名を呼ばれ赤いカーペットの上で跪く長身黒髪の男。
覇気を纏い、堂々としている彼は真面目そうな顔をした貴族達から何気無い風を装っておくられる妬みや嫉妬の視線など意にもかえさない。
クリスとライルの父、ライネスは不遜な態度を崩さない。
「身に余る光栄」
凛として謁見の間に響くように発せられた声は彼と親しい者が聞けばわかるかもしれないが、まるで何かを隠しているかのように不自然に明るく力強いものであった。
全くと言っていいほどに厳粛な雰囲気を保ったこの場には相応しくない。
「うむ。
……剣の貴族が当主アルト・ノール・イスラフェル。以下同文。
今後ともそなたらの一層の活躍、王も期待していらっしゃるゆえ、頑張るがよいぞ」
「はっ。心得ております」
ライネス、アルトと続く戦後表彰。
多くの貴族が亡くなったことで、混乱する人事を立て直すためにも急な昇進や、過ぎた報償というのは別段めずらしいことではなかったのだ。
「槍の貴族が当主ゴウカ・ランスィ・ミーカル。
そなたはその類稀なる槍の腕を持って、反乱軍の一角、ロンドベル・マレットを討ち取った……」
延々と続く表彰。与えられる領地、役職、勲章。
そして大方の貴族たちが表彰された後に出てきたのは二人のまだ10代前半と思しき少年達であった。
「どこの家の……!?」
「まだ歳若いようだが……!?」
大半の貴族達はその子供達を物珍しそうに眺め……そして青ざめる。
「刀の貴族が次期党首ライル・エスト・アズラエル。
槍の貴族が次期党首グレン・ランスィ・ミーカル。
そなたたちは日々のたゆまぬ努力によって得た武力によって、反乱軍がリーダー、リゲル・レダクトを討ち取ったことをここに評し、それぞれ刀匠、豪槍と名乗ることを王の名の下に許そう。
未成年ゆえ領地や報奨金といったものは渡せないのだが、どうか容赦してもらいたい」
「おおきに」
大臣の言葉に嬉しそうに少しだけはにかみながらも快活に笑う少年グレン。
だが、大半の貴族達が驚いた理由はそちらではない。
誰もがグレンの隣にいる少年が刀の天才と謳われるライル・エスト・アズラエルだとは思えなかったのだ。
「……謹んで…お受けいたします……」
小さな呟き。
痩けた頬に、爛々と不気味な光を灯す瞳。
その表情からは悲しんでいるのか、後悔しているのか、負の感情以外のものが伝わってこない。
その様子は表彰している途中の大臣ですら、驚愕し、同情をしてしまうほどのものであった。
「う、うむ。ご苦労であった。
と、特にライル、その節はとても残念なことであったな……。
妹の捜索はまだ行われておる。そう悲観せずに待つがよい」
「……はい」
労わりの言葉にも反応の薄いライル。
たまらずに父であるライネスが横に進み、失礼を承知で声を上げる。
「怖れながら陛下、大臣様。
私の息子、ライルはまだ未熟。見ての通り命をかけた戦闘のあとで肉体的にも、精神的にも疲弊をしております。
どうか退出の許可をいただけないでしょうか?」
「……よ、よろしい、退出の許可をだそう。
ライルもライネス侯爵もよく休み、今しばらく英気を養うがよい」
「は!」
「……」
俯き加減のライルを連れて下がる父。
内乱が収まって今日でちょうど一週間。
多くの貴族の安否が明らかとなり、内乱の後の復興にようやく入り始めた王都。
だがそこにライルの愛するクリスの姿はなかったのだ……
「へ、陛下!」
「無礼者!すぐにそのものを捕らえよ!」
そして全ての表彰式と、命を失ったもの達への別れを済ませた頃になって悲劇はやってくる。
ライルが退出しようとしたところに合わせるようにして乱入してくる一人の兵士。
多くの兵達の制止を振り切ってきたのか、汗だくで傷だらけの彼は必死で大声をあげたのだ。
「ま、魔物の大群が!
東より魔物の大軍勢がっ!!」
………………
〔秘書視点〕
「マスター……ロンドベル……」
誰もこないようなところにひっそりと建てられた墓標の無い二つの小さなお墓。
素人が作ったのか、どこか不恰好で粗末とも言えるお墓の前で一人の女性がさめざめと泣いている。
その女性の意志を反映したかのように曇天の空からポツリポツリと降り注ぎ始める灰色の雨。
やがてそれは豪雨へと変わっていく。
「マスター……貴方が…貴方がいないと私は……」
雨の中、大地に打ち付ける雨粒の音の中に紛れた儚い一言。
彼女はゆっくりと震える手で懐から不思議な形をした笛を取り出し唇にあてて、そっと、恐る恐る息を吹きかける。
ヒィィーーンーー
透明感のある、まるで氷が割れるときに出るような綺麗な音が雨に混じって聞こえた気がした。
「私は、私は呼びました……早く、早く来てくださいマスター……」
雨に濡れながら笑うベガ。
今は亡きギルドマスターの腹心にして秘書を務めていた暗殺者。
「返事をくださいマスター……応えて…ください……」
そう願い、笛をせつない思いと共に胸に抱いて彼女は待ち続ける。
日が昇り、月が昇り、また日が昇る。
自分でもバカなことだとはわかっていた。愚かなことだとは思っていた。
そう、死んでしまった彼がもう私の前に来てくれることなんて永遠にないのだから……
やがて立つこともままならなくなくなった彼女の頭の中を照れたように、困ったように笑うギルドマスターの顔が過ぎる。
「マス…ター……」
彼女はゆっくりと小さなお墓に寄りかかるようにして眼をつぶる。
暗い瞼の裏に浮かぶのは、いつしかの会話。温かくて、まだ皆で幸せな夢を描いていた頃の記憶。
(ベガ、ロンドベル。
僕は生まれてきたことを否定されて、捨てられたような卑しい人間なんだ)
木製の粗末な椅子に腰掛けて少しだけ悲しそうな顔をして言うまだ歳若いギルドマスター。
そんなことはないと首を振る私に軽く笑いかけて彼は続けた。
(でも、同時にそんな僕だからわかることがあって、僕にしか出来ないことがあると思ってる)
(ほう、興味深い。
聞かせてもらおうじゃないか)
ニヤリと笑いながら片手に酒を持ったロンドベル。マスターと同じようにまだ若い彼の顔にはまだ生々しい傷なんてなかった。
(……改革だよ)
ポツリと呟き、徐に私の頭を撫ぜるマスター。
そういえばあの頃の私は、暗殺者から足を洗ったばかりでまだ上手く感情を外に表現できていなかったんだ……。
(そう、改革。
腐った貴族政治の改革。この非効率な軍隊の改革。荒んだ人の心の改革)
私にまた笑いかけ、ロンドベルを見た若き日のマスターは力強い声で言う。
(僕は…そう、貴族の中で暮らし、最底辺の生活も経験した僕は世界を改革したいんだ)
その言葉を聞いて眼を大きく見開き驚愕したようなロンドベル。
そして彼はその大柄な体躯を愉快そうに揺らして言ったのだ。
(はっはっは!
改革か。そうか改革か!
世界を憎む、嫌うではなくて改革。いいぞ!実にお前らしい意見だ)
馬鹿にされたと思ったのか少し不満そうなマスター。
だが、ロンドベルはその後に一言付け加える。
(いいだろう、このロンドベル一肌脱ごうではないか!
お前もだぞベガ!一緒にこいつを盛り立ててやろうではないか!)
酒を喰らうロンドベルに意味もわからずに頷く私。呆れたように顔を顰めるマスター。
(くっくっく。まぁそう嫌そうな顔をするな。
何もお前だけを矢面に立てるわけじゃない。
俺たちには数多くの戦友達が、仲間がいるじゃないか。
志半ばで倒れた仲間の意志を生きている奴が継ぎ、またその思想を他の誰かに伝える。
俺達が死んでも思いは生き続ける。
素晴らしいことだろう?皆で、全員で世界を改革していくんだ)
(ロンドベル……)
恥ずかしそうに笑ったロンドベルは最後にいった。
(お前は世界の前に俺たちの心を改革してたんだよ。
ふん、言わせるな、恥ずかしい。
とはいえそうだな……まずは一人称だ。
僕っていうのは貧弱だからな。せめて他の一人称に変えてみないか?)
(そうだね……僕は…私は………
「マスター……」
眼を開いて映るのは全く代わり映えのしない灰色の世界。
マスターがいないと私は……
涙がとまらない。
今日もずっと雨が降っているのだ。
虚ろな思考でベガは夢と現の境を彷徨う。
「……ベガ…聞こえるかい?
私の意志は君の心の中に消えずにいるよ。
だから寂しがらないで…君は君が思った通り……」
どこか遠くから呼びかけるような聞きなれた優しげな声。
ハッとして重たい瞼を持ち上げるベガ。
幻聴だったのだろうか?
空耳だったのだろうか?いや……
クリスの時代の魔法の専門家がいれば、これはベガが持っていた笛という道具に、クリスが過去イリスに渡した短剣の如く、ギルドマスターの魔力が、魂の一部が宿っているゆえに起きた奇跡だと分析するだろう。
だが、彼女にそんなことを知る由はなく、たとえ知っていたとしても関係の無いことであった。
「マスターが私の中に……」
いつの間にか止んでいた雨、彼女はそう呟いて青く透き通った空を仰ぎ見る。
「私がマスターの意志を……」
どこか軽くなった心。
彼女はマスターの形見の笛を優しく握って立ち上がる。
そこにはもう泣きながら墓石にすがる女性の姿はなかったのだ……
後に彼女はその技量を持って情報の改竄から、戦闘までを幅広くこなし、解体、再編されたギルドの初女性マスターとして一躍有名人になるのだが、それはきっとまた別の話。
………………
〔クリス視点〕
魔物ってなんなんだろう?
意志を持った魔力、もしくは魔力を持って凶暴化した生物のことさ。
じゃあなんで魔物は人を襲うの?
そこに理由なんてないよ。彼らはただやりたいように、ただ“本能”のままに動いているだけなんだから。
どこかで読んだ本の一節がクリスの脳裏に浮かぶ。
なんでそんなことを思い出したんだろう?
それは光の羽をゆっくりと羽ばたかせその場に滞空する彼女の視線の先を見れば自然と明らかになった。
「……魔物……」
眼下に広がっているのは一匹の巨大な龍がまるで統率するように千を軽く超えるであろう亜人、魔獣といった異形の化け物を引き連れて歩くという不可思議な光景。
そこには本能なんて原始的なものは一ミリたりとも関与しておらず、統制だった洗練された動きがあるのみ。
「……まず…い……」
魔物の群れが一歩歩くごとに震え、重く聞き苦しい悲鳴を上げる大地。
クリスは雪よりも遥かに白く、細い手で灰色に染まった空を仰ぐ。
このまま魔物の大群が進んだら、暗黒の大地と王都の領地との境界を守護する騎士達と凄惨な戦闘がおこなわれることになるのだろう。
それこそ僕が見た内乱よりも激しくて、残酷で……
「……僕……」
長時間つけていたからか、精神的に限界が近いからか、至る所に罅が裂傷がはいった仮面を僕は労わるように片手で撫でる。
もしあの魔物達と戦争になったら……うん、きっとお父さんやライルも……もしかしたらお母さんだって刀を手にとって戦うかもしれないんだ。
沢山の兵士の命が失われちゃうんだ……僕と変わらない歳の子だって、イリスみたいな貴族の子だってきっと……
彼女の脳裏を過ぎる決して短くない今世の幸せな記憶。悩んだ悲しい記憶。
世界を見たいと言って戦地に旅立っていった僕の初めての友達、イリス。
満身創意になるまで戦って、気絶しても刀を手放さなかったお兄ちゃん。
何の弱音も吐かずに最後まで家族の心配をしながら戦場に向かって行ったお父さん。
僕の目の前で首を刎ねられた名前も知らない仮面の男性。
内乱を起こした人達にだってたぶん、命を奪う覚悟があって……貫きたい信念があって……自分のことを二の次にしてでも守りたいものがあったんだ……
貴方には期待していますと言ってくれた女神様。
僕を愛してくれて、守ろうとしてくれる家族の皆。
僕なんかに気軽に話しかけてくれた同級生のソプラノ。
僕はそう、いつだって気を使ってもらって、守ってもらう立場だったんだ……
「……これから、僕……」
でもこれからはそうじゃない!
意志も覚悟もない僕じゃない!
今日からは守られるだけの小さなお姫様じゃない!
散々迷ってきた僕だけど、今日から皆を、お父さんを、お母さんを、お兄ちゃんを守れる漢に、誰かを守る側の人間になるんだ!
「……もう…逃げ…ない……」
力を込めて銀眼を見開き、決意を込めて僕は呟いた。
唸りをあげて高まり僕を取り巻くようにして波打つ膨大な魔力。
漏れ出る力の波動に気がついたのか、多くの魔物達が僕の存在を捉えて不恰好な木の矢を放ち、その口から聞き苦しい奇声と共に燃え盛る業火を吐き出す。
でも何千と放たれたその全ての攻撃は微風のように脆弱で、僕の前に辿り着く前に僕の纏った魔力の余波だけで消えていく。
……準備ができたっ!
僕の制御下にあってなお抑えきれない力に低く鳴動を繰り返す魔力の翼。
何も貫通することがないほどに分厚い魔装。
チラリと王都の方角を見て、もう一度真に変わることを決心した僕は翼を大きく羽ばたかせて急降下を開始する。
耳元で轟々と唸りを上げる風。
時間にすれば一秒にも満たない短い時間の急速落下という名の飛翔。赤茶けた大地が一瞬で近づいてきて、直後に大きな爆音と共に爆ぜる魔物の一角。
……!?
クレーターの中心で立つ僕ともうもうと立ち昇る土煙を隔てて絡み合う邪竜の赤黒く禍々しい視線。
感じる魔力の波動は途方もないもので、避けられない激戦の予感に爆心地の中心で大嫌いな黒い血のシャワーを全身に浴びながら僕はさらに魔力を高めていく……
《その日、王国は有史以来の滅亡の危機に瀕していた。
分厚い雲に遮られて常に暗い暗黒の大地。
そこから侵攻してくる知性を持った巨大な竜に率いられた総数数千にも及ぶ魔物の大軍団。
内乱により疲弊した王国にこれを防ぐ手立ては勿論なくて、誰もが手を取って神に祈るほかなかったんだ。
でもね、ここで奇跡がおきる。
そう、これが後世にも名高い天使の降臨。
暗黒の大地を覆う暗雲を裂くようにして降臨した神の使いは一週間以上にも及ぶ激戦の末に魔物の軍団を魔将もろとも壊滅させてしまったんだ。
でもね、とっても凄いことをしてくれた天使は何も言わずに去ってしまったのさ。
それで当時の人達はその天使に感謝する意味も込めてこう名付けたんだ。
[救国の天使]
ってね》
ここまでこんな駄作にお付き合いいただきありがとうございます(^○^)
また暫く時間をおいてから閑話、三章を投稿したいと思っておりますので、もし読んでくださるような心優しい方がいらっしゃいましたらどうぞよろしくお願いします(。-_-。)
ここまで読んで内容を非常に不快に思われた方も多いと思います。
力至らず本当に申し訳ありませんでしたm(_ _)m




