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無口な天使  作者: ソルモルドア
救国の天使
27/78

内乱 ③

26話です!


内乱編はかなり視点変更がおおくなっておりますが、今書いている閑話を含めてそちの方では少なめにしております。

どうかお許しください…>_<…





 闇を切り裂いて飛ぶ一筋の閃光。

 多くの人々の視線を集めながら飛翔したそれはやがて王宮の中へと吸い込まれるようにして消える。



 異常に明るい彗星か、はたまた王国側が開発した新兵器か……多くの一般人はどこか神聖な輝きを撒き散らしながら消えたそれを見てそう考えたことだろう。

 だがしっかりと眼を鍛えていた戦士達にとって、それはそう見えなかった。



「て、天使……」



 誰かがそう呟き、その意見が徐々に波及していく。



「……そ、そんな。

 俺たちが、俺たちが間違っていたっていうのかっ……」


「神は…私たちを……」



 光り輝く人型を見た多くのギルド員が絶望にその顔を歪め、地に膝をつき、



「神は我が軍に味方した!」


「怖れるな!加護は我らにある!!」



 対称的に大半の騎士たちは会心の笑みを浮かべる。



 真夜中の戦場、赤く不気味に輝く月と貴族の館が燃える火に照らされた人影を頼りに戦う戦士達にとって、今しがた空を飛翔していった輝く天使の姿は嫌でも眼につく。

 人が出せる限界を優に超える速度で神々しい光の残滓を撒き散らしながら飛翔し、王宮へと降り立ったその姿は多くのギルド員にとっては絶望の象徴以外の何物でもなかったのだ。



「ここは死んでも通さん!

 た、たとえ神が我らを否定したとしても!」



 青い顔をしながらも己を鼓舞するように叫び、破壊槌をより一層激しく振るうロンドベル。

 だが彼が倒れるのももう時間の問題だろう。



 天使の加護を得たと豪語する騎士たちと神から見放されたと思い込むギルド員達の士気の差は歴然としていて、もはやいくさの体すら為していなかったのだから。












 ………………


[ギルドマスター視点]










 第六感とも言うべき本能に近い超感覚が、必殺の拳を今、まさに振り抜こうとした私に最大限の警鐘を鳴らす。



「っ!?」



 本能に従ってあたりの気配を探り、安全を確認しようとしたその時、突如として大の大人でさえも吹き飛ぶほどの突風が薄暗い室内に巻き起こり、目がくらむような閃光が迸った。



「な、なにがっ……?」



 私があげた疑問の声に被せるようにして響くパリーンという奇妙な、何かガラスが割れるような高く硬質な音。


 どこから現われたのか、辺りに舞い散った無数の氷が神々しい光を受けて幻想的に、美しくキラキラと輝く。



「て、天使……?」



 そして謎の超常現象の全てが落ち着き、私が光に眩んだ瞳でようやく捉えたのは一人の小さな天使。


 私の半分強、10歳にも満たない程度の小さな身長。

 顔を覆うようにして装着された白い仮面から覗く美しく透き通った銀眼。

 背中から生えているのはその身長よりも遥かに大きな一対の銀の翼。

 唯一場違いに見えるのは辺りの闇に溶けるように同化している黒いローブであろうか。


 その黒いローブから突き出された透き通った肌をした白い腕はまるで何かを掴むように私の方に向き、その姿勢で止まっている。



 私の第六感は変わらずに警鐘を鳴らしているのだが、信じられないことに私は暫しの間、まるで金縛りにあったかのように動きを止め、その美しい天使に見惚れてしまっていたのだ。




「君は……」



 美しく儚すぎる存在に対して感じる本能的な畏怖。大いに緊張する体。


 天使と私の吐く息の音だけが聞こえた。



「一体……」



 そこで私はハッとまるで夢から醒めたように気がつく。



 いつの間にか私が作り出していた氷の空間が、力場が消えていると。


 少なくとも目の前にいる存在が味方ではないと。



「っ!?」



 無意識の内に萎縮する体。

 思考だけが加速し、目の前の状況を冷静に判断、分析する。



 ……て、天使?いや、そんなものが実在するはずがない!

 なら、この光は?この私が感じている焦燥は一体なんだ!?



 そしてようやく目の前の事象に思考が追いついた時。その時にはもう目の前に立つ子供の背に翼は既に無く、リスよりも遥かに小さな、本当に小さな子供がポツリと1人立っているだけであった。



「なっ……」




 そして私はいつの間にか掴まれていたらしい拳から伝わってくる少しだけ高い別人の体温を認識する。


 小さな子供が大の大人の拳を片手で受け止めている異様な光景と合間って、自分とは違った体温の存在が無性に私の恐怖心を煽った。



「うっ……ぅぉおおお!?」


「!?」



 このままじゃマズイと断じた私は声を上げ己を鼓舞し、震える足を必死で動かして掴まれていないほうの拳で全力で床を強打。


 爆音と共に弾け跳ぶ床の大理石。

 それは散弾となって目の前にいる子供の白い仮面にぶつかり、眼眩ましとなって私の腕を掴んでいた拘束が僅かに弱まらせる。



 ……よし!いまだっ!まずは距離を取る!



 腕を捻り合気の要領で振り払い、全力のバックステップにて安全圏まで距離をとった私は瞬時にして恐怖を排した思考で冷静に物事を観察し始める。



 その間にも無言でこちらを見つめてくる子供と絡み合う視線。



 そしてやはりというべきか、予想通りというべきか。

 仮面のせいで表情こそ読み取ることは出来ないものの、目の前の子供には大理石の破片がぶつかった事によるダメージなどなく、私が距離を取ったことに対しても全く意に介していないということがわかった。



「……」



 非常に不気味で、無口な子供。

 だが数多くの困難な戦いを乗り越えてきた私はそこに僅かな勝機を見出す。



 ……私の全力に近かったあの拳を受け止めるだけの力があるならば、あの一瞬で私は腕をへし折られていてもおかしくはなかった。

 もし相手に私を殺る気が、傷つける気がないというのなら、そこには確実に付け入る隙が……っ!?



 だが、私の思考はそこで一切合切全てが停止する。強制的に、無慈悲に、全てが止まったのだ。



「……あっ……」



 それは目の前にいる天使のような小さな子供から漏れた言葉か、はたまた私の口から漏れた言葉か。



「…ようやく…ぐっ…隙を見せたな…」



 聞こえたのはまだ年若く、苦痛に耐えているかのような声。


 私はズブリと不気味で、生理的嫌悪を感じるような鈍い衝撃を体の中心部におぼえて視線をゆっくりさげる。



 見えたのは私の鋼鉄の胸当てを貫いて斜めに飛び出す折れた刃。

 それは赤い何かを纏ってヌラリと不気味に輝いていて……



「き、君は……」



 ゆっくりと振り返ればそこには満身創意といった姿で折れた刀を握る一人の黒髪の少年。

 鋭い瞳に映っているのは貫かれた私の背中。



「ああ……」



 背骨を断ち、心臓を的確に貫いたそれははっきりと致命傷だとわかる一撃。


 刺されたことを認識しすると同時に痛みが走り、視界が霞み、私の命の炎が揺らぐ。



「これはっ……」



 何か大切なものが流れ出て行くたびに私の中で何かが音をたてて崩れていく。

 積み上げてきた何かが、この手に掴むその前に消えていく。


 笑うベガと、リスと、ロンドベルと、皆で作る幸せが私の手の隙間から零れ落ちていく……



「わ、わたしは…まだっ……」



 震える膝。

 閉じようとする瞳を無理やりにひらき刮目する。



 …あと少し…あと少し進めばあの光に手がっ……



 笑顔で横に並び立つ沢山の若い戦友達。

 暗雲立ち込めている空、ほんの僅かに顔を覗かせた太陽。



 それが唯一優しさの象徴で……わ、私が求めていた幸せの……



 数歩と進まない内に無造作に私から引き抜かれる折れた刀。

 口から胸からさらにドロリと大量の血が流れ落ちる。



 ああ……



「……リ、リ…「終わりだ!」…」



 最後に私が見たのはどこか呆然とし、その銀眼からとめどとなく涙を流す天使のような子供の姿だった。









 ………………


 〔クリス視点〕









 何かを掴むように、まるで救いを求めるかのように僕に向かって突き出された腕。

 段々と濁ってくる仮面の奥の瞳。

 壊れた蛇口から水が延々と流れ続けるかのように止まることを知らない赤い、赤い鮮血。


 終わりの近い死の行軍。

 命を削ってまで仮面の男はなぜか僕のほうへと近づいてくる。



 恐怖のあまり声がでない。

 僕は彼の後ろに死を幻視していた。


 かつての僕を連れ去った死が、今僕の目の前で別の男の命を連れ去ろうとしている……



「……あ……」



 そして死神の鎌は無常にも振り下ろされた。



 ザシュッ!


 鈍く、重い音。

 やけに耳に残る不快な残響と共に僕の目の前にコロコロと転がってくる男の頭部。



 僕が殺してきた魔物と全く同じで無機質な、何も映さない瞳が僕のことを睨む。



「……な、なんで……」



 本当に、本当に小さな疑問の声が僕の口から漏れた。



 ……こ、殺す必要はあったの?

 ……なんで、なんでライルは躊躇いも無く同じ人間を……



 ゆっくりと顔をあげればそこにあるのは見慣れた兄の見慣れない表情。


 警戒心を露にした彼は折れた刀を片手に僕のことを見ながら言う。



「……反乱軍では…ないようだが…ぐっ……貴様は味方か?」



 それは妹の僕でも聞いたことがないほどに冷たくて、感情の欠如した声。


 無意識のうちに恐怖からか僕の足は一歩、また一歩とライルから離れようと後退していく。



「……」



 鋭い瞳に力を、執念を込めて満身創意の体でなおも洗練された闘気を帯び続けるライル。


 どこか悲壮感漂うその姿に僕は心の中で叫びを上げる。



 ……な、なんで?なんでそんなにボロボロになってまで!?



 僕は仮面の下で激しく混乱する。



 どうして!どうしてそんなにボロボロになっても刀を離さないの!?

 そんなに弱ってて戦えるわけない!

 今度は自分が殺されちゃうかもしれないんだよ!?




 そして無言のまましばらくの時がすぎ、やがて唐突にその沈黙は破られる。


 フラリと揺れたライルの体が重力に引かれるようにしてゆっくりと前のめりになり、ドサリと床の上に倒れたのだ。



「……ラ…イル……?」



 僕はゆっくりと倒れたライルに近づきその安否を確認する。



「……ま、魔力…切れ……?」



 命に別状はなく、後遺症が残るほどでも勿論ない。

 でも僕は気絶してもなお血糊がべったりとついた折れた刀を離さないライルを見て、なんでだろう、なぜか恐いような、悲しいような、それでいてほんの少しだけ嬉しい様な不思議な気分になったのだ。



「……あっ……」



 ピシリピシリと音をたてて少しずつ罅割れていく僕の仮面。

 なぜか途切れることなく頬を伝う涙。


 その涙をゆっくりと指先ですくって僕はようやく気がつく。



 ……僕だけ……僕だけがいつまでたっても……



 遠くから近づいてくる複数の足音。

 重厚な鎧の音でそれが騎士団のものだと判断した僕は止まらない涙をそのままに光と風の混合魔法を発動させて光り輝く翼を作り出す。



 少しだけ一人で悩む時間が欲しかった。

 考える時間が欲しかった。



「……少し…一人に……」



 ライルの頬についた血を優しく人差し指で拭い、最後に名前も知らない男の人の瞼をゆっくりと閉じた僕は白み始めた東の空に向かって光の翼を羽ばたかせた……











 ………………


 〔イリス視点〕









「んっ?」



 ボクは剣を振りぬき、目の前にいた魔物の一匹を袈裟懸けに切り裂いて一足飛びに後退する。



「今誰かに呼ばれたような……」



 近くを見て、辺りを確認。

 目の前の薄闇の中にいるのはボクと同じような赤い瞳を光らせて荒い息を吐く数匹の魔物達。辺りに広がっているのは何も特筆すべきことのないような人気の無い鬱蒼とした森林。



「う~ん……誰もいないし気のせいだったのかな?


 でもちょうどいいや。

 走ってきたからもうすぐボクの任務はもうすぐ終わるし、少し早いけど王都に戻ろう」



 そこでボクの脳裏に何の意味もなくギルドマスターの笑顔が浮かぶ。



「べ、別にギルドマスターにも会いたいわけじゃないけど……うん、なんだか様子がおかしかったしお土産でも買って会いに行こうかな……」



 ボクはどこか震えた声で誰に聞かせるとも知れない言い訳を言う。



「うん!そうと決まれば早く終わらせなくちゃね!」



 僅かに白んできた東の空を一瞥したボクは何の問題もなく数回軽く剣を振るって与えられた仕事の全てをこなし終える。



「でもなんだか変な依頼だったなぁ。

 大したことのない魔物がほんの少しいただけだったのに。

 なんでわざわざこんな依頼をマスターはボクに依頼したんだろう?」



 その疑問に答えてくれる人はもういないということを、このときのボクはまだ知らなかったのだ……












『チガタクサンナガレル……ヒトノカズガスクナイ』



 暗黒の大地、突然変異で知性を持った魔物はその鋭敏な嗅覚を持って大好物の人間の血が多く流されていることを知る。



『オデ…ヒト…マルカジリ……』



 ニヤリと異形の口元を厭らしく持ち上げた巨龍はその醜悪な顔を獲物の苦しむ顔を想像して喜悦に歪ませた。



 一人の男を中心としておこった内乱を中心とした騒動はまだまだ収束する様子を見せてはいない……



誤字脱字、意味不明なところ、不快に感じたところなど多々あると思います。

もしよろしければ、感想かメールにてお伝えいただけると嬉しいです(>_<)



さらに欲をいえば、評価やお気に入り登録をしていただけるともっと作者は嬉しいです(≧∇≦)

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