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無口な天使  作者: ソルモルドア
救国の天使
26/78

内乱 ②

25話目になります!


視点はわかりにくいですが、大臣ブタ→グレン→クリス→ライネスとなっております(°_°)



 


 《大臣ブタ視点》



 豪華な装飾がなされた王宮の最奥。太陽の恩恵にあずかれない夜であっても惜しげもなくともされた沢山の蝋燭の火によってまるで昼間のような明るさが保たれている部屋がそこにはあった。


 そんな他の部屋と比べればお世辞にも広いとは言えないが、同じように狭いとも言えない程度の広さをもった室内に澄んだ声が響く。



「神がおっしゃっています。

 王はここで死ぬ定めではないと」



 キリっと造詣が整った美しい顔。女性のように肌理きめの細かい肌。

 おそらく一度も武具などを手に取ったことがないのだろう、荒れてる様子もなければ豆が出来た形跡すらない指先。


 同じ室内いるだけならばまだしも、ひざまずくことすらもなく同じ目線から我が王に話しかけたのは、神に仕えるものだけが着ることのできるという豪華な法衣を纏った一人の神官であった。



 しかしどこか不遜な物言いといい、王とまるで親しき仲であるかのように話すこの神官、一体何様のつもりなのであろうか?


 本来ならばそれは決して見過ごすことのできない無礼な行為。我が王とまるで対等であるかのように話すということは、この王国そのものとまるで対等であるかのように振る舞っているのと同じことになるのだから……。



「だ、大僧正よ、それは本当か?

 神が本当にそう言ってくれているのであれば安心なのだが……」



 だがそのことを知っているであろう我が王は何もおっしゃらない。何の注意もなさらない。


 悲しいかな、認めたくはないが我が王はこの詐欺師の甘言にのせられ、既に洗脳されてしまっているのだ。



 ……うぬぬ……何もできぬ我が身が口惜しい……どうにかしてあの生草坊主を処分できぬものか……



「大臣!そう殺気立つな!

 もしそなたのせいで神が機嫌を損ねてしまったとしたらどうするつもりだ!」



 我が王は叫ぶ。


 そう、私の思いは、忠告はもう随分前から我が王に届かない。



「……申し訳ありませんでした。

 どうかご無礼をお許しください」



 私は王のお叱りを受けて即座にひざまずき己の非を認める。


 胡散臭い宗教の神官など興味も無ければ、内心ではむしろ害悪にしかならないと思っていてもだ。



 ……今に見ておれ……この報いは必ず……100倍返しだ!……



 そして私を見てフンっと鼻を鳴らして嗤った大僧正とかいう位にいるらしい詐欺師兼生臭坊主は臆面もなく語る。



「王よ、どうか安心してください。

 我が神のふところは海よりも深く、その威光は空に輝くあの太陽よりも遥かに明るく人々の未来を照らします。


 何の取り得も無く、力を持たない矮小な人間ぶたが一人、如何をなそうとも気にすら止めないでしょう」



 ……ぐぬぬぬぬ……大臣である私に対してこの仕打ち……いや、この程度の侮辱、痛くも痒くもないわ!

 ぺっ、そんなに神が好きなら早々に神の元に逝ってしまえ!このクソ坊主が!……



「ですが……あのように俗に濡れ、心の眼を曇らせたぶたには我が神の声が届かないのもまた道理。

 よろしい、そう疑われるのでしたら一つ予言をいたしましょうぞ」


「おお、ありがたい!」



 歓喜の声をあげる我が王。ただひたすらに平伏しながらも生唾を飲み込む護衛の騎士、非戦闘員である女中。


 大僧正さぎしはたっぷりと間を空けてから短くこう言った。



「神は言っています。この内乱は神の課した試練であると。


 信じる心を忘れなければ次期に鎮圧されるでしょう。私も王も恐れることはありません。ええ、死ぬことは万に一つもないのですから」


「おぉ!おお!!

 余は、余は助かるのだな?」



 確信めいた大僧正さぎしの言葉に感涙する我が王。その感謝をたっぷりと受け、そこでまたチラリと私の方を見た生臭坊主さぎしは言う。



「おっと、そこの脂ぎった大臣ぶたはわかりませんけどね」


「ぐぬぬぬぬぅぅ……」



 意図せず漏れ出る心の叫び。


 こんな生臭坊主を信じきっている王の前では言うことはできないが、考えてみればこれは簡単なことだ。



 内乱が鎮圧されなかった時とは、要は王も、私も、この生臭坊主さぎしも揃って死ぬ時。死んでしまえば言葉なんぞはなんの意味も持たず、死にゆく者には何の関係もない。たとえ予言どおりではないと嘘つきと罵られようとも後は死ぬだけなのだから。


 ならば、生き残れた時のことだけを考えて恩を売ろうとこの生臭坊主は考えておるだけ!

 なにが予言か!

 根拠もなしに子供でも考え付くようなことを並べおって!この腐れ坊主が!



「やはり王よ。大事なのは信仰を形であらわすことなのです。

 善意から受けた寄付などで我々が集めたお金は教会がよりちまたに、下々の者たちに信仰を広めるために使われていることを王はご存知ですね?


 よく私利私欲のために使っているのではないかと言う愚かな者もいますが……ええ、そこの大臣ぶたのようにです。


 ですがぶたは知らないのですから仕方が無いのでしょう。寄付、俗にまみれたお金、最も神が嫌うものを我々神に仕える者達がどれほど忌避しているのか。私達も本当はお金など触りたくもないのです。


 私達は我が神と親しくしたいという王から仕方なくお金を、神が最も嫌う穢れを譲り受け、浄化するために嫌々やっているというわけなのですよ?どうかそのことをお忘れなきよう……」



 この詐欺師!言うことに欠いて、い、嫌々だと……国民の血税を?寄付を嫌々引き受けてやっているだと!?



「き、貴様!それ以上の…「大臣!」…」



 我が王がどこかヒステリックに叫ぶ。



「やめんか!貴様!それ以上口を開けばただちに打ち首にするぞ!

 余にもうその太って汚らわしい体で近づく出ない!」



 発せられたのは明確な拒絶。

 面白そうな、馬鹿にしたような視線が詐欺師から私に向かって降りかかる。



「も、申し訳ありません……で、ですがっ……」



 詐欺師だけではない、我が王からも、騎士たちからも、周りの女中からですらも私を咎めるような視線が突き刺さる。


 王宮の奥。避難しているこの状況では別の部屋に行くわけにもいかず、何とも居心地が悪かった。



 ……ぬぬぬ……この大臣一生の不覚。まさに後悔先に立たず……

 あんな害虫を王の傍に近づけてしまっただなんて……



「王よ。この現状を打開するためには勇者召還を行うのが最もいいでしょう。

 1000年前の古の聖書に乗っ取って闘気をふんだんに持った巫女を見定め、勇者を神の国より召還するのです。


 ええ、勿論そのためにも信仰心を広めるために学校の経営にも教会の者を派遣いたしましょう。巷からも寄付を募らなくてはなりません。一定以上の信仰がなければ召還は成功しないのですから」


「むっ……しかしこれ以上の増税となるとだな……」



 顔色を悪くする我が王。しかし詐欺師は微笑を浮かべたまま言う。



「辛い道のりになるかもしれません。反対するものも多いでしょう。

 ですが、それは我が神が王に課した試練。真正面からぶつかって時に知略を駆使して乗り越えるべきことです。


 勿論我々とて協力はいたしますよ。ええ、他ならぬ王のためですから……」



 次第に悪くなっていく治安。少しずつ増えていく税金。

 この時を一つの大きな境にして内乱以後、王都の人々の生活は水面下で加速度的に困窮していく。



 クリスやライル。

 大半の貴族の子弟を含め、市井の人間達は知らなかったことでもあるのだが、結局はこの宗教色に塗れた愚王こそが今回の内乱を引き起こした全ての元凶だったのである……











 ………………


 《グレン視点》










 所変わって王宮の奥へと続く大きな扉の前。

 月明かりと、僅かに焚かれた蝋燭の火の下で動く影が3つ。



 長身の男を模した影は素早く前進したかと思えば突如として引く。右に重心を移したかと思えば左に跳躍する。


 緩急をつけた拳が小さな二つの影、ライルとグレンを間断なく攻め立てていた。



「くっ!」



 苦しげな声。グレンはまた目測を誤り間合いを読み違える。


 相手の動きはまるで水面にうつった影のように捉えどころがなく、まだ未熟な彼の技量では対処の仕様がなかったのだ。



 宮殿の中に力強い響く踏み込みの音。


 その音で完全に間合いの内側に入られたことに気がつくグレン。



 ……やられるっ!



 走馬灯のように流れる半生、ゆっくりと自分に近づいてくる拳。だか、彼の人生はまだ終わらなかった。



「任せろ!」



 鋭く大きな声と共に危機一髪、グレンの懐に打ち込まれた拳を横から割り込んできたライルが刀を使って無理矢理に受け流す。


 目の前で舞い散る火花、ギャリギャリと金属同士が擦れる不快な音が辺りに響いた。



 ……ライルっ!



 そんな中でグレンの眼は驚異的な動体視力でライルの刀を捉える。そう、無理な使い方をし続けた反動か選りすぐりの玉鋼を使って作られたはずのライルの刀の刃がもうボロボロであることに彼は気がついたのだ。


 そして武器の耐久的にも、体力の問題からも徐々に勝てる見込みが減っていっていることにまで即座に思考が回る。



 ……わ、わいが足を引っ張って……



「っ…らぁ!」



 これで何度目かの九死に一生を得たグレンは、内心で情けなく思いつつもライルに激しく感謝をしながら今度は援護をするように仮面の男に槍を突き出し、一足飛びに距離を取る。



 ……焦るな……わいは間合いの外からライルの援護を……っ!?



 さらに急激に冷えていく室内の温度。


 仮面の男の速度が急激に一段速くなる。野生の狼のような鋭い眼光が仮面の下で瞬く。



「なっ!?」



 それはまさに一瞬の攻防。また数段ほど速度をあげた青い狼の仮面を装備した男がライルに拳を受け流された体勢のまま、突き出されたグレンの槍を反対の手に装備した手甲で器用に受け流したのだ!




「ふっ!」



 意表を突かれたライルの声を後目に仮面の男は短く息を吐いて床スレスレまで体を沈み込ませる。


 それは急激な、輪郭がぶれて見えるほどの加速。

 そのまま仮面の男はライルを躱すようにしてグレンに突撃してきたのだ!



 ……な、なんやこいつ!急に早くなりおった!

 勝負を決めにっ!?



 奇妙な動きに瞠目し、認知できるギリギリの速度に驚愕し、仮面の奥から覗く眼光に薄ら寒いものを感じたグレン。彼は焦りながらもせめて間合いの内側に完全に入られる前にと渾身の力を込めて横殴りに槍を叩きつける!



 だが、元々ライルよりも動きの遅いグレンはアウトレンジからの攻撃でようやく戦えていたようなもの。近づかれたら防御に徹してさらに下がるべき。

 つまりライルの壁なくして行われた自発的な攻撃は完全な悪手であったのだ。



「グ、グレン!」



 グレンの叩きつけるようにして横殴りに振られた槍。だがそれは仮面の男が突如としてあげた足によって容易く蹴り潰されてしまう。



「がぁっ!?」



 想像以上の、予想外の脚力。

 思い切り地面に向かって叩きつけられた槍を最後まで掴んでいたグレンはそれこそ素人のように体を前のめりにし、腕の筋を思い切り断絶する。


 そしてそれは致命的なものであった。



 ……これはアカンわ……



 なんとか追いついて横から割り込むようにして刀を振るうライル。

 だが良く見ればその剣速も最初の頃に比べると見る影もなく遅く、普段の精彩さが欠片もない。


 自信を打ち砕かれた反動、初めての実戦。理由は多々あれど、いつの間にかありえないほどに極低温になっていた屋内で武器を使うライルとグレンの体はもはや当初のようには動いていなかったのだ。



 ……レイス、すまん。わいはここまでや……せめて、せめていっぺんぐらい告白すればやかったなぁ……



 南の地を治める斧の貴族の謀反が疑われていた今回。

 グレンはここにはいない、誘うことのできなかった傲慢な幼馴染。片思いであった斧の貴族の長女レイスのことを思い出す。



 頼みの綱のライルも数合の打ち合いの後に刀を折られ、吹き飛ばされる。



 ……わいのせいでライルも……っ……短い人生やったなぁ……



 グレンがもはや動かない体で謎の仮面を被った男からの最後の一撃を貰う寸前。涙に濡れた視界で彼が見たものはなぜか天使のような羽を生やして白い仮面をつけた小さな、小さな子供であった……










 ………………


 《クリス視点》









 赤く禍々しく輝く月の下、光の残滓を撒き散らしながら王都の夜空を高速で飛翔する。巨大な魔力反応を感知してから僅か5分、馬車で1時間近くかかる王城までの距離をその短時間で飛翔した彼女は勢いを僅かにおとし、空いていた窓から王宮の中へと侵入する。



 しかし王宮へ辿り着く前に見えた光景のせいか比較的落ち着いていたはずの頭の中は混乱しており、眩暈や吐き気がクリスを襲っていた。



 ……ヒ、ヒトが沢山死んで……



 まるで良く出来た人形のように力のなくなった体。


 路上に投げ出された人形。水路に力無く浮かんだ人形。

 おそらくは10代であろうまだ若い顔立ち、虚空を向いたまま固定され、白濁した虚ろな瞳がクリスの脳裏に焼きついて離れない。


 気持ち悪さや吐き気が、まだ恐慌へと変わっていないのは一重ひとえに精神操作の効果がある仮面を装備にしているからであろう。そのおかげでまだなんとか正常に思考することができてはいるが、早くも彼女の精神は追いつめられていた。



 ……な、なんでこんなことが起きたの?

 みんな貴族が憎かったの?王様が嫌いだったの……?



 目の前で焼け落ちていく貴族の屋敷。壊され、無残な姿になった銅像。



 ……なんで…なんで……



 クリスから見た貴族は横暴でこそあれ、傲慢であれ、しっかりと義務を果たしているような人達ばかりであった。

 前世の貴族たちに比べれば遥かに良心的でいい人達ばかりといえるだろう。



 だがクリスは知らなかった。貴族に対する平民の先入観。そしてクリス達には見えていないところで多くの貴族が平民にしている仕打ちを。


 それは過保護なクリスのライネスのせいともいえるだろう。

 彼女は純粋培養、汚い部分をなるべく見えないようにと育てられてきた生粋のお嬢様。



 授業中、基本的に無口で無表情、無害なクリスでさえ、平民達からすれば下賎な人達とは話すことすらしたくないとお高くとまったプライドの高い貴族の長女にしか見えないということもまた知る由もなかったのだ……



「……どうして……」



 光の羽を小さく羽ばたかせ、無知な幼女クリスは王宮の中ですら高速で飛翔する。手に嫌な汗がたまり、嗅ぎなれない人の血の臭い、武器の鉄臭さに反応して少しだけ嗚咽が漏れた。



 巨大な魔力の反応の近くに今にも消えそうな小さな二つの闘気。

 クリスはついに問題の場所に辿り着いたのだ……











 ………………


 《ライネス視点》








「将軍!王都の空に赤い煙を確認しました!」



 時刻は深夜になるかならないか。


 辺りには僅かに聞こえる鳥の鳴き声以外の音はなく、時折風に揺れる葉のざわめきが聞こえるのみ。



 だが、突如その静寂をかき消すように部下の焦ったような報告が届いたのだ。


 そしてそれはあってはならないが、その実、待ちに待った報告。


 二日の間ゆっくりと南へと軍を進め、予定の行路の半分も進んでいなかったクリスとライルの父、ライネスは即座にそれに反応する。



「全軍に通達!これより私達は進路を180度変更。王都に帰還する!動けるものはすぐに出立しろ!国境を守る守備隊にも伝令を下せ!

 我等が王の危機だ!すぐに馳せ参じるぞ!」



 妻のマーチが焚いたのであろう狼煙のろしは、かなり離れたところからでも立ち昇っているのが見える通信用のもの。

 詳しい内容まではわからなくても王都でなにかしらの重大な危機がおきていることは明らかであった。



 ……マーチ、ライル、クリス。私が行くまで全員無事でいてくれ……



 己の駄馬に蹴りを入れてライネスは真っ先に走り出す。




 後に残されたイリスとソプラノの実父、アルトが恨み言を言いながら軍隊をまとめ、その指揮をとりながらその後を追うのだが、それはまた別の話……



流石に視点変更が多すぎたでしょうか?

読みにくいようでしたらご一報いただけると幸いです(^◇^;)


誤字脱字もあると思います。どうか寛大な心でお許しください(;´Д`A

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