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無口な天使  作者: ソルモルドア
救国の天使
24/78

遠征

23話になります!


視点はクリスからイリス(リス)へと変化しています。

わかりにくくてすいませんorz






「ライルの言うことをよく聞くんだぞ?なるべく一人では行動しないように。

 それと…そうだな、絶対に危ない所には近づくんじゃないぞ。


 いいかいクリス?私の言うことが聞けるね?」



 目線をかなり上に向ければ、妙に心配そうな顔をして僕を見下ろすお父さんの顔が視界に入る。



 長い刀を腰に履き重そうな鎧に身を包んだお父さんは僕達家族を王都に残して南の戦場に行かなくてはならないということをどうやらとっても心残りに感じているようだった。



 ……お父さんはいつも優しい……こんな僕のことを心配してくれるだなんて……



 胸の内にポッと浮かんできた喜びと罪悪感。


 暫く学校の寮で暮らしていたせいで軽いホームシックになっていたのだろうか、それとも自分でも思っていた以上にお父さんに依存していたのだろうか。


 僕の涙腺がなぜか少しだけ緩む。



「クリス。

 お前達をおいて行かなくてはいけない私を許しておくれ。


 お父さんはお前を愛しているよ」



 温かい言葉と共に脇の下にぎこちなく差し込まれる大きな手。急に視点が高くなったかと思った次の瞬間には硬い鎧がコツンと軽く僕のオデコに当たった。



「大丈夫だね?

 クリスは強い子、そうだろう?


 ほら、私を笑顔で送り出しておくれ」



 優しく頭を撫でられながらお父さんの少しだけ寂しそうな声を聞いた僕は必死で泣き笑いのような、そんな滑稽こっけいな顔を作る。


 不思議と恥ずかしさはなかった。



「……気を…つけて……」



 たどたどしい言葉でも長い間一緒に暮らしてきたお父さんはしっかりと僕の気持ちを汲んでくれる。


 一度強く僕を抱きしめたお父さんはゆっくりと僕を地面に降ろして微笑んだ。



「ありがとうクリス。

 私もこれで心置き無く行くことができるよ」


「……うん……」



 これからたぶんお父さんは沢山の魔物を殺すのだろう。怪我もいっぱいするのだろう。

 戦争というからには人の命も魔物の命も、きっと数え切れないほど多くの命が失われるのだろう。 でもそれはお父さんにとっても辛くて悲しいこと……だよね?



 ……お父さんは大丈夫なの……?



 クリスから見たライネスはしかしまるで気負った姿を見せることはない。



 家族の前だから?

 子供の前だから?



 マーチと抱き合い、家族全員と別れを済ませたお父さんはまるで体重を感じさせない体捌きで颯爽さっそうと馬にまたがる。



「どうだ?老いたりとは言え、私もまだ捨てたものではないだろう?」



 迷いを感じさせない力強さ、強固な精神。心残りはあってもそれを周りの誰にも感じとらせない強さはもしかしたら、ううん、きっと男らしさってやつなんだ。



 ……僕もいつかあんな風に……



 小さな幼女クリスはその日、戦場へと向かう父の大きな背中に憧れを抱く。



 ……うん、いつか…僕もいつかあんなおとこになりたいな……













 時刻は深夜。

 いつも通り雑多な人々で賑わう夜の王都。そのメインストリートととも言うべき大通りをクリスはおよそ5日ぶりに歩いていた。


 黒いローブに白い仮面、魔装の下に隠してあるのは美しい装飾がなされた刀。普段通りの装備にいつも通りの目的地。だが今日の彼女は普段とはどこかが違っている。



「……う〜ん……やぁ!やっぱりそこにいるよね!?

 うん、ようやくまた会えたね!


 ……ってあれ?なんだか雰囲気変わった?」



 お酒臭いギルドに踏み込んで暫く。色々と依頼を吟味をしていたクリスに話しかけてきたのは茶色いローブに身を包んで銀の仮面を被った推定少女。


 以前から思っていたことだがクリスの物凄く薄い気配に勘付いたことや、少しの雰囲気の違いに気がついたあたりからして只者でないことは明らかであろう。



「……ってまぁ無口なのは変わらないんだね。


 え~っとどう?今日もまた何かの依頼を受けに来たの?」


「……」



 銀色の彼女の好奇心を隠しもしない質問にクリスは無言で首を振ってそれを返事とする。


 なぜなら今日のクリスは依頼を受けに来たのではなくて依頼をただ見に来ただけなのだから。



「じゃあ次に受ける依頼の準備か何か?

 手伝えることがあったら手伝うよ?どうせボクは今暇だし」



 一度会っただけの相手に無償で手伝いを申し出る優しい、心の広い推定少女。


 何を考えたのか、クリスは白い仮面の下で少しだけ苦い顔をしながら風の魔法を脳内で展開する。



『…じゃあ、南、南の方、出された、依頼……』



 空気が振動し、男とも女ともつかない不思議な声となる。


 口を通さないで発せられた声は違和感こそあるものの非常に滑らかで聞き取りやすい。

 人前で魔法を使うなど、普段のクリスなら絶対にしないような大胆なことではあるけれど、何が彼女をそうさせたのか、今日のクリスは心の持ちようが違っていた。とても行動的だったのだ。



「あれ?なんだか不思議な声……


 あっ、ゴメンね。

 え〜っと、南の方から出された依頼だったよね?ちょっと待ってて」



 遠慮の無いクリスの態度に嫌味を言うのでもなく、疑問を呈するわけでもない仮面の推定女の子。クリスは内心でとても感謝しながら、彼女の行動を目で追う。



 ……わざわざ受付の人にまで聞いてくれるなんて……



 二十歳ぐらいの女性と話して依頼を纏めて貰っているように見える仮面の推定少女。

 でもなぜか受付の人のほうがかなり緊張しているようにも見えた。



 ……精神年齢なら僕の方が全然上なはずなのに……なんて凄いコミュニケーション能力……



 お父さんとの別れをまだ引きずっているのか、多少興奮しているクリスはお酒臭いギルドの中で無駄なところばかりを観察する。

 彼女の中で銀色の仮面を被った女の子の株は急上昇中だ。





「お待たせ!」



そして待つこと数分。

僕の方に元気一杯といった様子で走り寄ってきた彼女は依頼の内容についての確認をしてくれる。



「え~っと、南の方から出されてる依頼は、作物の収穫の手伝いと木材の運搬作業の手伝い、食品の運搬の護衛とかに関連したのだけみたいなんだけど……


 もしかしてこの中に受けたい依頼があったの?」


『…ううん、わざわざ、ありがとう……』



 精一杯丁寧に、感謝の意を込めて空気を震わせるクリス。わずかに緊張しているためか魔法の操作に多少の乱れが生じていた。


 どこか不思議そうな顔をしつつも、少しだけ照れた様子を見せた推定女の子は笑いながらどういたしましてと言って先を続ける。



「でも気にしないで。ボクはなんだか君とは気が合う気がするんだ。


 どう?こんなに遅い時間じゃなかったら今度ご飯でも食べに行かない?」


「……」



 好意的な言葉に前世から数えても初めての食事の誘い。咄嗟とっさのことで返答に詰まるクリス。


 照れくささよりも驚き。期待よりも不安が先行する。顔を隠しながらご飯を食べることぐらい魔法を使えば問題ないことではあるけれど、でも、いかんせん人付き合いの少ない彼女にはあまり場をもたせるような会話ができる自信がなかったのだ。



 ……つまらない奴だって思われたらどうしよう……



 必死で無い知恵を振り絞って返した答えは一言。



『…か、考えて、おく……』



 というその場凌ぎのものであった。



「そっか。


 うん、なら期待して待ってるからね」



 でも、たぶん悪い印象を与えたわけではないのだろう。

 少しだけ嬉しそうな雰囲気が伝わってきたのが何よりもクリスには嬉しいことで、



「じゃあ、僕はこれで。明日から少し遠くまで遠征しなくちゃいけないんだ。


 はぁ、地味に到着時間とかやることとか決まってるから大変でさぁ……

 まぁ、今度はいつ会えるかわからないけど君も元気でね」


『…う、うん…君、元気で……』



 僕らは軽く手を振りあう。


 気がつかないうちに硬直していた体の筋肉を精一杯動かしてお酒臭いギルドの中からコッソリと出るクリス。

 夜の冷気が仮面越しに火照った頬を冷やしてくれるのが無性に気持ちが良かった。





「……」



 ヨロヨロと辛うじて認識阻害の魔法を維持しながらギルドが見えなくなるところまで進み、辺りに自分を見ている人がいないことを確認したクリスは大きく息を吐きだし深呼吸をする。



「……な、長い…お喋り……」



 興奮してドキドキと鳴り続ける心臓。


 勿論仮面の精神操作や大気を震わせる魔法のおかげでもあるのだろうけれど、でも近い年齢の子供とこれほどまでに流暢に喋れていたことが今まであっただろうか?



「……なんだか……いい…気分……」



 クリスは確実に成長していたのであった……











 ………………


《イリス視点》











「大丈夫かいリス、準備はもういいのかい?」



 柔和な顔立ち、美男子然とした表情の中に僅かに不安や、寂しさといった感情を滲ませるギルドマスター。



「……?

 どうかしたの?なんだか最近変じゃない?」



 時刻は早朝。まだ人通りの少ないギルドの前の大通り。

 仕事を放って置いてまでボクを見送りに来てくれたギルドマスターと秘書さん。


 普段から長期の任務にボクが行くようなときにはわざわざ見送りにまできてくれていた二人ではあったけれど、今日はどうにも様子が変な気がするのだ。



「ううん、ただリスが心配だったんだ。

 もし悲しいことや辛いことがあった時、リスが一人でも大丈夫かどうかってね」


「……万が一、もし何かあった時はここを尋ねて。

 私やマスターの名前を出せば相当優遇してくれるはずだから」



 ボクのことを心配するような発言をするギルドマスター、秘書さんは名刺のような何かをボクの手の中に握りこませる。


 ボクは少し銀色の仮面の下で赤面していた。



「…別にそんな心配しなくても大丈夫なのに……」


「リス、遠慮はしないで。

 私達に出来ることなんて限られているんだ。

 リスはなにがあっても自分で後悔しない道を選ぶんだよ」



 そういってボクの頭を軽く撫ぜるギルドマスター。



 普段からいろんな人に愛想を振りまくギルドマスターのことを見てるとなんだかイライラしたし、ボクはこの人のことがあんまり好きじゃなかったはずなんだけど……



 仮面越しにボクの紅い瞳と、ギルドマスターの茶色がかった黒い瞳が交錯する。



 そして照れくさそうに笑ったギルドマスター。

 彼は今、ボクのことしか見ていなくて……ボクのことをこんなに心配してくれてる……。



「そろそろ出立の時間。

 マスター、名残惜しいですがそろそろ……」


「あぁ。

 リス、私は、いや、私達はいつでも君のことを大切に思っているんだからね。

 自分を大切に。悔いのないように生きるんだよ」



 ギルドマスターの言葉にボクは力強く頷く。

 彼は今度はとても嬉しそうに破顔した。



 たぶん大切に思ってくれているのは本当なのだろう。

 でも、それがたぶん親が子供のことを思うような、そんな愛情だというのが何故かボクにはどうしようもなく切なくて、悲しいことだった。



 ……あれ……ボク、いつの間にかこの人のことが……



 本で読んだことがあった。たぶんこれは恋。人を愛するってことなのかもしれない。

 そう、四年前、路頭に迷っていたボクに手を差し伸べてくれたあの頃から……



「……うん。


 い、行って来ます!」



 思いを振り切るようにそう叫ぶ。

 任務が終わって帰ってきたら少し甘えてみるのもいいかもしれない。あとはあんまり色んな人に愛想を振りまかないようにって注意もしたい。



「いってらっしゃいリス」


「気をつけて」



 最後まで笑顔で手を振ってくれる二人。

 そんな彼らに手を振り変えしたボクは南に向かって走り始めた……










「行ってしまわれましたね……」


「……」


「……まだ外は寒いです。マスター、このままでは風邪をひいてしまいますよ?」


「……」



 透き通るように青い空を一度仰ぎ見たギルドマスターはしばらく無言のままそこから動くことは無かった。



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