真夜中のデート
21話です!
ようやく拙いですが戦闘描写が入ってきました(^ν^)
イリス→クリス→イリスの順番で展開しております。
分かりにくくて申し訳ありません…>_<…
時刻は深夜。熟練の冒険者であっても躊躇うほどに暗い、一寸先でさえも定かではないほどの闇の中。
ボクの目の前にはまるで案内するかのように先行して走る黒いローブに身を包んだ小さな子供がいた。
サクサクと下草を踏むような規則的な足音。
小さな体で迷いなく、それこそ飛ぶようにして走るその子供は王都を出てからはや数時間。常識では考えられないようなハイペースを維持して走り続けている。
「……はぁはぁっ…『快足』」
これで何度目になるだろう。ボソリと呟き宙に溶けた言霊。
ボクの移動速度が王都から出た時の初速と変わらない程度にまで上昇。なんとか遅れないようにと先行する小さな子供に追いすがる。
……ボクが追いつくために必死になるだなんて……これでもギルドの中では1.2を争うぐらいには速いはずなのに……
背後に流れていく黒い木々。
迫ってくる障害物を避けながら必死で走るボク。
余裕を持って前を先行する小さな子供。
内心で自分の足の速さを自慢にしていたボクにとってそれはとてもショッキングな光景であった。
……今までボクは自分が特別な力を持っているって奢ってたのかな……?
勿論自分では奢っていたつもりはなかったんだけど、少し天狗になっていたのかも……
僅かに感じた悔しさからボクは少しだけ強く唇を噛む。
世界は広い。
ボクはそのことを知ってまた一つ成長したのであった……
「……んっ?」
王都をでてから数時間。
前を走る子供が徐々に速度を落としていき、ついにはその足を止めた。
……あれ?もう着いたのかな……?
疑問に思ったボクは星の位置を確認。方角と走った時間から大体王都からどのくらい離れた位置にいるのかを割り出す。
「……うん。確かにこの辺りが目的地みたいだね」
大体だけど目的地に間違いはないだろう。
一つ頷いたボクは荒くなった息を整えながらチラリと視線を無言で立つ小さな子供に、ターゲットに向ける。
「……」
視線を向けられていることを気づいているのかいないのか。黒いローブの子供は立ち止まったまま微動だにしない。
ボクには暗闇の中、どこに野犬や魔物が潜んでいるかもわからないような状況でその子がなぜかとても落ち着いているようにも見えた。
……一体この子は何を考えているんだろう……?
首を捻った僕はついでに月の位置と日の出までの時間も測る。
……あと2、3時間で日の出かな……?
空を見上げて月の位置を確認すれば、満月からは程遠く、かなりの部分が欠けた月が僅かに東の空から顔を出していた。
ボクの経験上あの形の月が東の空から出てきたってことは日の出までの後少しということなのだ。
「ねぇ、暗いとやっぱり危険だし、あと数時間もしないで朝になると思うんだ。もしよかったら日の出まで待ってから行動しない?
あとさ、二人でどうやって魔物を見つけ……っ!?」
ブワッ!と目の前の子供から突然噴き出す突風のような圧力。不可思議な力を受けたボクの茶色いローブがバサバサと激しくはためいた。
「な、何いまの……?」
一瞬、ほんのわずかな間だけ感じた殺気とも違う不思議な力。
でもボクがそのことについて考察する間もなく、まるでボクなんていないようにターゲットの子供は闇の中、灯りもなしに迷いのない足取りで歩き始めてしまう。
まるで魔物の位置がわかっているかのように……
「あっ!
ま、待ってよ!!一人で行くのは危ないって!」
野鳥の鳴き声はおろか虫一匹鳴いてる様子のない静かな、異質な雰囲気の漂う森の中。
無言で先をスイスイと歩く黒いローブの子供の後を躓きながらも追いかけることおよそ一時間。
もしかして闇雲に歩いているだけなんじゃないかとボクが疑い始めた頃になってようやくボクらの目の前に巨大な魔物がその姿をあらわした。
「あっ、あれは……」
……まさか本当に見つけちゃうなんて……
鼻をつく獣特有のどこか饐えたような臭い。生臭い血の匂い。
多くの木々が薙ぎ倒され、ほんの少し開けた場所にその巨大な魔物はいたのだ。
地味な色をした巨大な体を装飾するのは無理矢理別々の生物をくっつけたような不恰好なパーツ。
月の淡い光に照らされてキラリと煌めく鋭い鉤爪。
鋼の筋肉だろうと、鉄の鎧だろうと何でも引き裂いてしまいそうな程にギラギラとして尖った歯がズラリと並んだ口。
だが最も異彩を放つのはその背についた大きな二枚の翼だろう、それは本来自然に存在する獣の類が持っているはずのないものなのだから。
グリフォンだ……翔ばれると厄介だけど、まぁ今回は翼膜がビリビリに破れているみたいだからその心配はなさそうだね……でも……
「ず、随分大きい……」
流石にギルドの中でもかなり上位のグループしか受けることのできない依頼というだけはある。
幾ら国軍に羽を破られているとはいっても、背丈が数m弱もある魔物。真っ当な人間が相手をするようなものではないことが一目でわかった。
「す、少し下がっててくれないかな……?」
ボクは横に立つ小さな子供に小声で話しかける。
幸いこの暗さであれば、グリフォンは風上に立つボクらのことを発見できてはいない。最速で仕掛ければ先手が取れるはず。
……この子には悪いけど下がっててもらうおうかな……
ボク一人で戦うならば間違いなく勝てる自信はあるけれど、でも多少戦えそうだとは言っても小さな子供を庇いながら無傷で勝つのはいささか無理がある。
闇夜にくっきりと浮かび上がる白い仮面は不気味だけど、なぜか出会ってから数時間。
なぜか見捨てるほどにボクはこの子が嫌いではなかったのだ。
「ごめんね、ボクは君を守りながらたたか……へっ?」
でもボクの心遣いは白い仮面の子供の軽率な行動のせいで全部が無駄になってしまったのだ!
「あ、危ない!!」
闘気を纏うそぶりすら見せることのなく、まるで散歩に行くかのような気軽さでグリフォンの前へと歩いて行く白い仮面の子供。
即座にその子の存在に気がついたのであろう手負いのグリフォンは眼をカッと見開き、短く鋭い雄たけびをあげた!
……ま、間に合わないっ!
咄嗟に飛び出そうとするボク。
でもその前にグリフォンの漆黒の瞳に怒りの炎が灯って、その巨大な口から噴出された灼熱が小さな子供を捉えたっ……
………………
《クリス視点》
「あ、危ない!!」
仮面を被った僕は、どこか遠くからその高い声を聞く。なぜか懐かしい感じのするその声を聞いていると、どうしてだろう?不思議と心が穏やかで懐かしい気分になったのだ。
「……」
でも気持ちの良い感覚に浸っているほどの暇はない。
なぜなら僕の目の前には今、巨大な魔物が噴いた、地獄から直接召還されたかのような業火が轟音と共に迫っているのだから。
……よくあるブレス……
大気を焦がしながら迫る灼熱が僕にぶつかるその瞬間。僕は徐に右手をあげてその核を捉える。
常人であれば、火達磨になるよりも先に炭化してしまいそうなほどの高温に触れた右手。
でも魔装のおかげで僕は何の痛痒も感じなかった。
……引火させないように処理しなくちゃね……
山火事を引き起こすわけにはいかない。
巨大な魔物が放った灼熱のブレス、あえてそれを右手で受け止めた僕はそれに込められた魔力を直接乱して霧散させる。
「あっ!……あ、あれ?」
後ろにいる銀色の仮面を被った推定少女が狼狽の声をあげているのを後目に僕は素早く跳び上がる。
魔装による身体能力向上の影響を受けている僕は瞬時に数メートルの高さにまで上昇。
空中にまだブレスの残滓が漂っている間に魔物の視界から消えた。
完全に僕を焼き殺したと思ったのか首を傾け、虚空に向かって勝利の雄たけびをあげようとする魔物。
期せずして顔を空へと向けた魔物。その濁った黒い瞳と宙にいた僕の銀色の瞳が交錯して……
……
ザシュ!
断末魔はない。闇の中に響いたのは一振りの刀が組織を断ち切り、一つの命を消しとばした音だけ。
空中で抜刀。大気を足場代わりに蹴り、落下の勢いと共に速度を増した僕が刀を鋭く一閃したのだ。
魔力で強化された切れ味と腕力をもって放たれたそれは必殺の一撃。
たぶん、きっとこの魔物は痛みを感じる暇も無かったことだろう。
「……」
着地とほぼ同時にキンッという高い音と共に鞘に刀を納め、即座に僕はそれを魔装の下に隠す。
ゆっくりとずれていき、やがてゴロリと大地に転がる巨大な生首、胴体。
そこから黒い血が留め止めも無く流れ、大地に吸われていくのが僕の視界の端にうつった。
「「……」」
僕は変わらずに、そして銀色の仮面を被った少女もまた無言。
どのぐらい無言でいただろう。
全く何も感じていないつもりではあったけど、ふと視線を下にやれば僕の右手が無意識のうちにプルプルと震えて始めていた。
……そろそろ限界なのかな……
仮面の効果もそろそろ切れそうだし、そうなる前に急いで寮に戻らないと……
日の出も近いのだろう。段々と白み始めた東の空。
僕は女の子に背を向けて……
「待って!」
僕を呼び止める高い声。
反射的にビクリとした僕は去ろうとしていた足を止めてしまう。
「また……また会えるかな?」
どこか心細そうな、それでいて好奇心を隠し切れていないようなそんな声。
なぜか僕は心を抉られるような、そんな切ない思いに襲われた。
あれ……もう仮面の効果が切れてきてる?
精神的に限界が来ているの?
他人と話していることに強烈な忌避感を感じ始めた僕は力を振り絞って風の魔法で大気を震わせる。
『…たぶん……』
何も無いはずの虚空から響いた声は中性的で、年齢すらも窺わせない掴みどころのない声。
……なんでこんなことを言ったのだろう?
何の根拠があったのだろう?
僕は自分でも混乱しながら女の子の返事を聞く前に闇に溶ける様にして姿を消した……
自室に、寮の一室に帰った僕は震える両手で肩を抱く。
仮面の効果を失い、隠せなくなった体の、心の震え。
命を奪ったことでまた一つ僕が変質してしまったような、壊れて行くようなそんな強烈な不快感が僕を襲う。
「うぅ……」
……いつかは僕もあんな風に殺されるときが来るのかな……
あらぬところを見つめる虚ろな、空虚な視線。
命を刈り取られ、ただの肉になった生首が僕の脳内にこびりついて離れてくれないのだ。
……そ、そんなの嫌だ……僕はもう二度と死にたくない……
自分の意志で他の命を奪っておきながら、自分の命だけは奪われたくないと嘆く。
僕は昔からどうしようもなく臆病で卑怯者だった。
「め、女神…様……」
……でも、でも、これは乗り越えなきゃいけないことなんだよね……?
知らない少女と言葉を交わしたことによる緊張か、それとも空を飛ばないで地上を進んだり、長い時間仮面をつけて精神を抑制していた反動からだろうか。
夜が完全に明けて、周りの部屋に住む人たちが動き出した頃になっても僕の体の震えは収まらなかったのだ……
………………
《イリス視点》
「そっか……」
ボクの報告に浮かない顔で頷くギルドマスター。
よっぽど残念だったのだろう、彼のその端正な顔には少しばかり苦渋の色が漂っていた。
「……ごめんなさい」
怒られるだろうか?そう思って謝罪したボクにかけられた言葉はなぜか予想に反して優しげなものだった。
考えてみればあまり怒られたこともないんだけど……
「いや、気にしなくてもいいよ。
リスに出来ないことを他の人達が出来るわけないだろう?
それにリスにもしもの事がなくて良かった。
それに今回は完全に私がターゲットの実力を測り違えていたから……そう、謝るのはむしろ私の方だね」
深々とボクに向かって頭を下げるギルドマスター。
ギルドを纏める者の謝罪はそうそう安いものではなく、初めてそんな姿を見せられたボクは動揺を隠せない。
「え、いや……ボ、ボクのほうこそ……」
顔をあげたギルドマスターは言う。
「リス。今回のこともそうだけど、今まで色々本当にすまなかった。
今まで色々と辛い依頼を君にやってもらってきたことも、危険な目にあわせたことも全て私の責任。
全て私の力が足りなくてまねいてしまったことなんだ。許して欲しい。
……でも悲しいかな。私はリスにまた一つ任務を受けてもらわなくちゃいけないんだ」
嫌だったら断ってくれて構わないというギルドマスター。
優秀な秘書さんがしっかりと人払いが出来ているかを確認しているのが視界の隅で確認できた。
「今回、私が君に依頼しなくちゃいけないことは……」
ギルドマスタ-から聞いた依頼は別段難しくもなく、ボクなら多少時間はかかっても問題なく終われるような、そんな内容。
「……?
そんなことでいいのなら喜んで引き受けるけど……」
「うん、ありがとう。
リスならきっとそう言ってくれるって思っていたよ」
さっきまでとは打って変わって嬉しそうか破顔するギルドマスター。
ボクも面と向かってお礼を言われて喜ばれれば悪い気はしない。
そしてそのあと彼はなぜかその端正な顔を少しだけ赤らめて言った。
「はい、これが軍資金。
でだ、え〜っと任務の報酬についてなんだけどね?
ふふふ、どうだいリス?私と一緒に暮らす権利というのは……」
「えっ…そ、その依頼、少し考えさせてくれると……」
「いやいや、冗談だよ冗談!
はっはっは。疲れてるところに悪かったね。
ほら、もうリスは寝るといい。
昨日は夜まで任務だったというのに今の今まで付き合わせてしまって本当にすまなかったと思ってはいるんだ。
あっ!ちょっと言い忘れてたことがっ!
これで最後。
少し話は変わるんだけどね、私は君のことを本当の……」
「失礼します」
なんだかんだで長くなりそうなギルドマスターの話っぷりに呆れたボクは途中で退出をする。
少しだけ悲しそうな顔をした秘書さんの視線が妙に印象的であった……
現在色々と考えながら設定やら人物紹介の纏めを執筆しております。
明後日辺りにあげれるはずなので、もしこの拙い文章を読んでくださっている方がいるようでしたら、首を長くして待っていただけると幸いですヽ( ̄д ̄;)ノ
言い訳にしかなりませんが、あまり時間が無かったためかなり校正が適当になっていることと思います。
もし誤字や脱字、意味不明なところがありましたら、報告していただけると嬉しいです。
お気に入り登録、もしよろしければ評価もしていただけると作者はさらに嬉しいです(^O^)/




