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無口な天使  作者: ソルモルドア
救国の天使
21/78

君は誰?

20話です!

視点変更が多くなっております。

主人公→イリス→主人公→?だと思っていただけると幸いです(*^_^*)



 


 夜でも人通りの絶えることのないこの大通り。


 多くの篝火が焚かれの明るさが保たれているこの大通りでは、いかがわしいお店から帰る客や、昼間の鬱憤を晴らした酔っ払い。完全武装で殺気立った冒険者や、それを取り締まる厳めしい顔をした衛兵にいたるまで、昼間はあまり目につかないような人種ばかりが見受けられた。


 表に面した大通りでさえこれなのだから、裏の人通りが少ない地域の現状などは推して知るべきであろう。



 このご時勢、真っ当な神経を持った人間。ましてや女子供ならばいくら王都の中とはいえ、夜に出歩くのは賢いこととはいえないのだ。







 だがしかし、今日の夜の王都には珍しいことに早足で歩く小さな人影が一つあった。


 黒い漆黒のローブの上からでも何となくわかる華奢な体つき。

 年の頃はおそらく7〜8歳程度だろうか。闇の中であればいかんせんはっきりとはわからないが、少なくても一桁代。かなり小さいということだけは確かと言えるだろう。



「……」



 スタスタと淀みなく、一切の迷いを見せることなく暗い夜道を進むくだんの黒いローブを纏った子供。


 その姿は感受性や好奇心豊かな子供とはどこか一線をかくしており、もし武術の達人とも言えるクラスの人間がこの光景を見ていれば気がついただろう。この小さな子供には年齢に似つかわしくない異常な部分が多々あったのだ。



 風が吹いてもヒラリとも一切揺らぐことのない黒のローブ。まるで音をたてず、誰からも注目されない特殊な歩法。長いあいだ凝視してようやくそこにいることを認識できるかどうかというほどに薄い存在感。


 気配を消すとも、闘気を抑えると言った技術ともまた違う、自然と辺りの風景に同化しているような別の何か。



 普通ならこんな小さな子供が保護者も連れずに歩いているというのは、カモがネギを背負って無用心に歩いているようなものであるにもかかわらず、なぜかこの子供のことを気にかける人間はこの通りには全く存在しなかったのだ……








 燃えるように赤い太陽が地平線の向こう側に沈んでから早数刻。

 僕が自室で着替え、一人でギルドに辿り着いた時にはもう辺りには完全に夜のとばりが下りており、どこか危険な、昼間とは違った粗野な雰囲気が辺りには満ちていた。



 もう何度も繰り返してきた恒例のことだが、首を回して辺りを見て誰も僕のことを認識していないことを確認した僕は、誰にも怪しまれないようにギルドの木製の扉をゆっくりと開ける。



 僅かな抵抗と共にギィィという小さな軋むような音をたててゆっくりと開いていく扉。

 開いた僅かな隙間からは店内の騒音が、暖かさが、淡いランタンの光が零れてくる。



 僕は体を斜めにしてその隙間に体を押し込み、アルコールの匂いが充満する店内へと足を踏み入れた。



「……く、臭いっ……」



 途端に僕を襲うのは頭がクラクラするような匂いと煙草のけむったさ。お世辞にもいい臭いとは言い難い悪臭が充満した店内。


 冗談でも居心地がいいとは言えないけれど、でもギルド勤務の人達は大抵は荒っぽい人たちが多いらしいから仕方がない。



 平素ならすぐに逃げ出すような恐いところでも気にしちゃいけないんだ!

が、我慢するんだっ!



 僕の胴体ほどに太い足や腕を持った大男達の間をぶつからないように注意しながらすり抜けて、僕が必死に目指す先にあるものはギルドの壁に貼られた大きなクエストボード。


 詳しい仕組みも知らなければ、クエストボードのある意味すら知らない僕ではあるけれど、でもとりあえずこれが凄くいい情報源であるということはわかっていたのだ。



 ……す、凄い量……いっつも思うんだけど、これって全部誰かが依頼をしたことなのかな……?



 独り言も自重しながら僕が見つめる先にあるのは討伐クエスト?のようなもの。その内容の大部分が国境付近を守る王国軍が取り逃した魔物について。


 よくよく読めば人里からかなり離れたところに逃げ込んだりしているものが多く、危険性がかなり低いものが多いようだ。



 ……今日はとりあえずこれにしようかな。場所も近いし、明日から学校もあるんだから早めに寝ておきたいし……



 僕が目をつけたのは、クエストボードの左隅に貼ってあった少しだけ黄ばんだ依頼書。


 内容はよくある類のもののようで、およそ二週間前ぐらいに王国軍の包囲網を突き破って国内に侵入した大型の獣種魔物の討伐。



 どうやら国境付近で少なからず手傷を負わしているようだし、場所も最近使えるようになった飛翔魔法を使って移動すれば1、2時間でいけるような近い距離。


 前にも似たような種類の敵と戦ったことがあったと思い出したのが選んだ大きな理由だ。



「……うん……」



 僕はその依頼書を仮面の下の目を細めて凝視し、場所や魔物の特徴を頭に叩き込む。

 精神操作の効果を付与した仮面をつけていても、興奮からではなく抑えきれない恐怖から手に嫌な汗が滲むのを感じた。



 ……落ち着いて……もうかなり慣れてきてるんだから……僕はもう幾つも命を奪ってきているんだからっ……



 感情の抑制。仮面の出力をあげれば徐々に僕の中から恐れを始めとして、雑多な感情が消えていく。



「……!?」



 そして、ギルドの中で意識を戦闘モードへと切り替えた僕は何か不可解なものを発見した……









 ………………


《イリス視点》









 いつも通り騒々しいギルドの端っこ。仕事着に銀色の仮面という出で立ちのボクは木で出来たテーブルに座って寝惚ねぼまなこを擦る。

 不本意ながらギルドマスターの言う通りに昼も夜も張り込みを始めて今日で二日目。



 既に体力的にも限界であれば、ただ見張るだけだなんてもうつまらなすぎてつまらなすぎて、精神的にも随分前から限界が訪れていた。



「あ゛〜〜」



 ダラリと腕を伸ばして、オヤジくさいと自分でも思っている声をあげる。


 しかし当然ながら相席してくれるような友達がいるわけでもなく、同年代の話し相手すらもいなければ、こんなことをしたって何にもならない。


 壁に掛けられた幾つものタペストリーも見飽きるほどに眺めたし、酔っ払いしかいない店内であれば構ってくれる優しい大人もいないのだ。



「……眠いし早く来ないかなぁ……んっ?ってあれ?扉が開いてる?」



 ふと感じたのは店内に流れ込んでくる僅かな空気の流れ。

 顔をあげればちょうど小さな子供が一人通れるぐらい、なぜか中途半端に開いた扉が目に入る。



「……これってもしかしてもしかすると……?」



 疑問に思い、すぐにボクの体が緊張で強張った。



 ……風のイタズラ?いや……



「……一応試してみよう」



 とりあえず石橋を叩いて渡る精神でボクはまだ少し怠い体に力を入れる。



 もし誰かいたら……見張っていたはずのボクに気がつかれないで、いつの間にかギルドの中に入っている子供がいるとしたら……それはなんて恐ろしいことなんだろう。



「……『看破』」



 ボクはボソリと体の中にある不思議な力を介してそう唱える。


 小さいけれど、それでも確かに不思議な余韻を残しながらお酒くさい大気に溶けて消えていく言霊。


 そして暫く目を凝らしてあたりを伺っていれば、ボクの視界の中に先程までいなかった怪しい人影がぼんやりと浮かび上がってくるではないか。



 ……!?

 ……く、黒かな?かなり背丈が小さいようにも見えるけど……



 練りこんだ闘気ーー便宜的にボクがそう呼んでいる力ーーが少なかったのか、まだ曖昧にしかみえてこない不審人物。

 でも……



「ま、間違いない……あれが、今回のターゲットだっ!」



 初めてあの子の存在に気がついた人はかなり洞察力に優れていたのだろう。少なくても普通の人なら気がつくことなんてないはずだから。



「……とりあえず話しかけてみるしかないかな……」




 生唾をゴクリと飲み込みローブの下で握りしめる短刀。ともすればお化けのように不確かで、今にも消えてしまいそうなほどに薄く、奇妙な気配を放つ子供の元にボクは警戒しながらゆっくりと近づいて行く……









 ………………


《クリス視点》









「ど、どう?いい依頼は見つかったのかな?」


「……」



 唐突に僕に話しかけてきたのは不気味な銀色の仮面をつけて、茶色いローブに身を包んだ不審な子供。仮面のせいで顔立ちから判断することは出来ないが、おそらくは声変わりをしていない男の子か女の子であろう。



 ……?あれ?この小さな子が発してる感覚は……



 そして僕よりもほんの少し年上であろう子供から感じたのは辺りから感じる不可解な魔力反応と酷似した存在感。少なくてもこの生温い大気に満ちた魔力はこの子供から放たれているものと見て問題ないのだろう。



「もしかしてボクと話したくない?


 それとも、ここだと人目があるから話しにくいのかな?」


「……」



 どことなく返答に困るような言葉に僕はいつも通りに無言を貫く。


 どういう理由で話しかけて来たのかは知らないけれど、初対面でいきなり辺りに魔力を撒き散らすような危ない人間と言葉を交わすほど僕はフレンドリーではないのだ。



「う〜ん、じゃ、じゃあさ、もし良かったらボクと一つ任務にいかない?

 少し聞きたいこともあるからさ」



 言葉に敵意はなく、感じ取れたのは僅かな緊張と好奇心。僕は感情を極力排除した頭の中でリスクと利益を天秤にかけた。



「……」



 妙な格好をしていることはこの際おいておいて、この子は今生においては初めて見つけた魔力持ち。



 ……この妙に馴れ馴れしい子は一体……?



 僕は返事をする代わりにその子供の一挙手一投足に注目して実力をはかる。



「「……」」



 僕の目の前に立つ子供は、自然体で居ながらもそれでいてその実隙がかなり少ないように見える。すぐに抜剣できるだけの余裕もあるようだし、動作に無駄がなさそう。戦い慣れてるようにも見えるけど……



 僕の未だに未熟な刀術で測れることは少ないけれど、でも、それだけでもこの子供がこと体術においてはかなりの実力者であるということがわかった。



 ……一緒に行ってみるべき?

 かなり気まずいかもしれないけど……でも他に断る理由はないよね?



 精神操作のおかげか少しばかり大胆になっていた僕はコクリと頷いて、先程まで行こうと考えていた依頼をボードが剥がして無言で突き出す。


 足手まといになることはないだろうし、それよりも僕はこの魔力を保持している子供のことがとても気になっていたのだ。一緒に行動することで少しは何かわかるかも知れない。



「ん……わかった。

 う〜ん、って結構遠いけど大丈夫?


 あっ…!ちょ、ちょっと待ってよ!」



 僕の行動を理解したのだろう、茶色いローブを着た子供は頷いて、小走りで僕の後を着いてくる。



 どうしてだろう?

 これも仮面の副作用なの?



 どこか言い表せない懐かしさを感じていた僕は小さく白い仮面の下で笑っていたのだった……









 ………………









「……今更だが本当にいいのか?


 お前の理想とする世界は今まで築いてきた富も地位も全てを捨てでも実現するに足るものなのか?」



 野太くどこか荒々しい声がそう問いかける。



「……ふふふ、本当に今更だ。


 そう。誰かがいつかやらなくてはいけないことならば今を生きる私たち大人が。

 後世に夢を、希望を残すためにも汚れ役は私達大人がやるべきことだろう?」



 それに答える声は男性の声でありながら、どこかに優美さを感じさせる低音で構成されていた。



「……あぁ。お前の言う通りだ。

 だが何がお前をそこまで駆り立てる?


 やはり……今でもまだ出自しゅつじに縛られているのか?」



 薄暗い部屋に二人の男。

 一人は長身だが華奢。美男子という表現が最もよく似合いそうな男。頭の良さそうな外見をしており、かなりやり手であることがうかがわれる。



「勿論それも無いとは言えないけどね……


 ええ、私には娘……いいえ、娘のように可愛がっている子がいましてね」



 どこか自慢するような、得意そうな話っぷり。

 美男子の口元が柔らかく弧を描く。



「これが少し心に傷を負っている面もあるんですけど優しくていい子なんですよ。

 ふふふ、私はあの子には間違っても私のように血に濡れた人生を歩んで欲しくない。


 たとえそれが魔物の血であってもね。

 ええ、だから私ががんばる理由はあの子の明るい将来のために……そう、少しでもその輝かしい未来の基盤になりたいから、じゃだめかな?」



 美男子の言葉があたりに染み渡り……突如と響き渡る豪快な笑い声。



「がははははは、信じられん!信じられんぞ!

 あの孤高の氷狼と呼ばれたお前がここまで丸くなっているとはな!」



 その豪快な笑い声を発したのは、美男子と木製の机を挟んで座る大男。

 美男子という言葉とは対極に位置する、まさに幾千もの戦いを乗り越えてきた野獣と呼ぶに相応しく荒々しい外見。

 まるで筋肉の鎧を着ているかのようであった。



「ふふふ、今の私の夢はあの子の子供を、私にとっての孫の顔を見ることだからね。

 私も自分で随分と丸くなったと思っているよ」


「はっはっは……だが、もしやとは思うが牙の方までは抜け落ちてはおらんな?」



 大男の疑問にニヤリと笑みを返す美男子。

 その目に宿るのは強い意志の、憎しみの光か。



「私は長い間この時を待って来た。


 娘に関係していなくても、それこそ齢10歳にも満たない時に捨てられた時からね……」


「……」



 なぜか室内の温度が何度も下がったような不思議な現象が起きる。


 ロウソクの火がゆらゆらと頼りなげに揺らぎ、ゴクリと誰かが生唾を飲み込む音が室内に響いた。



「王家はついに超えてはならない一線を越えてしまった。


 拙い軍略に、決していいとは言えないまつりごと

 ギルドに対する差別的な意識に加えて一部の特権階級の傲慢な行為。

 その上で新たに宗教色も混ざってくるとなればもはやこれ以上の猶予は……」


「……わかっている。


 決行の日取りは追って連絡しよう。

 貴族の動向の調査もまだ一部が不十分。完璧をきすにはまだほんの少し時間がかかる」



 鷹揚に頷く大男にただの世間話をしているかのように柔和な表情のまま微笑む美男子。

 ただ二人の目だけが異様なほどに鋭くランランと煌めいていた。



「焦らず慎重にいこう。

 失敗は許されないからね」


「うむ。

 このロンドベル、一世一代の大博打。出来れば勝利で終わらせたいものよ」



 薄暗い室内で二人の男は血のように赤いワインがはいった杯で乾杯をする。



「……王国の末永い繁栄を祈って」


「……今を生きる子供達の未来が輝かしいものであらんことを……」



《人物紹介 二章》



クリス……主人公、ts転生者。数多くの心的外傷を持っており、過去を引きずるタイプ。

現在は10歳。夜更かしをし続けた弊害か体が同年代の子供達よりも遥かに小さい。



イリス……ギルドではリスと名乗っている。どうやら異名などもあるらしいが、それは後ほど。高密度の闘気を操ることができ、言葉で事象を改変する。現在12歳。一人称ボク。



ギルドマスター……若そうに見えて実は意外と歳を取っているイケメン。

基本的に紳士だがイリスからは余り好かれていない。昔はかなりの実力者だったらしいが……



ソプラノ……イリスの実妹、剣の貴族の時期当主。10歳ながらにスレンダーな体型をしている。過去にはイリスを見下してかなり酷いことまでしていたらしい。ちなみに一応主席扱いだがテストは受けていない。



ロンドベル伯爵……貴族で筋肉達磨。幼い頃にクリスとパーティーで出会っていたこともある。ギルドにおいては闘将という地位についている猛者。

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