力の覚醒
16話です!
主人公視点がありません。
かなりありふれた内容となっておりますが、ご容赦していただけると嬉しいです(・Д・)ノ
「マジかよ、あんな子供が……」
「ひでぇことしやがる……」
最前線からほど近く、そこへ向かう兵士達が最後に立ち寄る駐屯地。
だが、多くのむさ苦しい兵士達に混ざって馬車から降りて来たのは、この場に似つかわしくないほどに幼い子供であった。
「貴族か……?」
「厄介なことになりそうだ。
関わらない方が良さそうだぞ」
明らかな地雷。
それがこの場に居合わせ、初めてその幼い子供のことを見た大半の男達の感想。
「……」
無言で、弱音を吐くこともなく小さな体で綺麗な装飾がされた長剣を重そうに背負い、これはまた大層高そうな短剣を腰にさして歩く白い子供。
不自然に白い髪、日に当たったことが無いかのように白すぎる肌、血のように紅い瞳。
まだ第二次成長を迎えていない子供ならば当たり前のことなのかも知れないが、どことなく高貴さを感じさせる顔立ちはかなり中世的なもので、俺には男か女かの判別ですら容易にはつかなかった。
まぁ良くも悪くも大多数の、俺を含めた10台前半~10台後半の男達の中では、やけに目立つ、浮世離れした見た目だったと言うことがわかってくれればそれでいい。
多くの人間が避ける中、俺がそいつに話しかけたのは、同情からくる気まぐれか、それとも、故郷に置いてきた年の離れた妹と重なったからか……
「おい、何しけた顔してんだよ?」
俺の声にビクリと反応したそいつは何回か左右を見て、その後に自分が話しかけられているとようやく気がついたようだ。
「ボ、ボク……?」
声変わりもしてない高い声。鈍い反応。
思わず俺は頭を抑えたくなった。
「あぁ。
そういえばお前、初日は剣を担いでたよな?
どこにいっちまったんだ?」
「え、あ、あれは…そ、その……
大きくて少し偉そうな男の人が、重そうだから持ってくれるって言って……」
……マジかよ……盗まれてんじゃねぇか……
俺は実際に額に手を当てて、こんな小さな子を戦場に送りつけた親を心中で呪った。
「あ〜……そうか。
変なことを聞いて悪かったな。
じゃあどうだ、飯は?しっかり食ってるのか?」
俺の言葉にニッコリと笑ってその子は頷く。
「え〜っと、パンを優しい人から……」
「……後は?」
「あとは……はい、水も。
……あの…もしかしていけないことでしたか?」
「いけねぇってお前……」
笑い顔から一転不安そうにする白い子供。
一日の食事がパンと水だけっておい……
「あ〜くそっ、ちょっとこっち来い」
俺は手を伸ばしてその白い子供の細くて小さな手を取る。
強く握ったら折れてしまいそうな、そんな骨ばった感触が俺の涙を誘った。
「わっ!わわわ……」
とりあえずこいつに何か物を食わせて……軽めの武器を申請して……
「ボ、ボクでもいいの?」
「あぁ。
ほら、早いとこ名前を書いちまえ。
字は書けるんだろ?
今日中に申請しないとお前なんて最前線で使い潰されるだけだぞ?」
「う、うん……」
子供は焦りながらもイリスと名前だけを書く。
……結構字は上手いんだな……
不安そうに見つめてくるイリスに、一つ頷きを返した俺は告げる。
「あぁ、これで大丈夫だ。
こんなの何の意味もないような形式だけだからな。
でだ。
お前のというか、俺らの任務はこの駐屯地から最前線へ向かう兵士やら物資の護衛なんだが、隊長は一応俺が務める。
俺は一応10人長っていう……まぁ下っ端上がりみたいな役職なわけだが……ん?」
妙にキラキラとし瞳で俺のことを見てくるイリスという子供。
「あぁ〜……あんまり期待すんなよ?
別に強いわけでもなきゃ、偉いわけでもないんだからな」
「そうなの?」
少しだけしょんぼりとするイリス。
子供の夢を壊すような気がして悪い気がしなくもないけれど、俺は一つ頷いた。
「そうだ。
わるいが、お前がヘマをやった時に助けられるほどの力はないからな?
それと、明日には最前線へ向かう馬車の護衛につかされるはずだ。
まぁそうだな、後はこっちに俺らのテントがあるからそこで仲間を紹介するか。
着いてこい」
テクテクともう何の警戒もなく俺に着いてくるイリス。
……こいつを育てた親は今まで一体何を教えてきたってぇんだ……
「なんだ?寝れねぇのか?」
「……ううん……」
俺の言葉に恥ずかしそうに首を横に振ったイリス。
これは何かあるなと思った俺は、僅かに保持している闘気で視力を強化して、暗闇の中、なんとかロウソクに火を灯す。
「どうした?」
ロウソクの炎で闇の中に浮き上がって見える白い肌。
それの持ち主でもあるイリスは言いにくそうに小さな声で言った。
「その……トイレ……」
「はぁ?
そんなん外でしてくれば……」
そこまで言ってから俺は気がつく。
慣れないところで夜、暗い中、子供に一人でトイレをさせるのも偲びない。
まだ幼い外見であれば、親元から離れて生活をするというだけでも精一杯だろう。
「しゃあねぇ、着いてってやるから安心しな」
「ありがと!」
手を振ってお礼を受け取り、簡易天幕の中から外に出る。
星明かりと、幾つかの焚かれたかがり火のせいか、駐屯地はそれなりに明るくて、俺のように多少なりとも闘気を扱える者ならば、たぶん支障なく動ける程度には明るかった。
「ほら、フラフラとしてないでその辺でしちまいな。
早く寝ないと明日に響くからな」
「……」
「んっ?どうした?でなくなったのか?」
「ここ…丸見えなんだけど……」
恥ずかしそうに言うイリス。
「はぁお前、男同士だってのに何恥ずかしがってるんだか。
……まぁしゃあねぇ。
あんまり離れないんだったらほら、そこの草むらにでもしてきな。
迷子にならないように気をつけろよ」
コクリと頷き、白い肌を僅かに赤く染めたイリスは小走りに遠ざかっていく。
「あ〜、ありゃあ大の方か。
俺も気が利かなかったかねぇ……」
俺は頭を掻きながら一人でそう呟いたのだった……
…………
………
……
…
「あぁ……くそっ……」
目を覚ませば痛みが、肉が焦げる匂いが俺を包む。
一瞬だけ意識を失っていたようだった。
……少し懐かしい夢を見てぇだな……
俺は苦笑しながらユックリと傷口に手を這わせる。
「右肩から…げふっ…脇腹かっ……」
体に残っているのは、何か太い爪で抉られたような深い傷跡。
左足の感覚がないことから、たぶんそっちは炎のブレスでもくらって完全に炭化してしまったのだろう。
「くそっ…たれ……」
「そんな…死んじゃダメ……死んじゃダメだよ……
不死身なんでしょ?死なないって言ってたのにっ!」
泣きながら俺の体に取り付くのは小さくて白い子供。
「イリスか……?
怪我…ねぇか……?」
ブンブンと首を振るイリス。
……思えばこいつとももう一月以上の付き合いか……思えば色んな事があったよな……
「そいつはぁ……よかった……」
自然と笑みが浮かぶ。
だが、肺をやられたからか、俺の呼吸はか細く、口から発せられたのは聞き取りづらい掠れた声。
「良くない!良くないよ!!
なんで、なんでボクなんて庇ったのさ!!」
最初は耳障りに違いなかったこの甲高い声も聞きなれれば、可愛らしくて、愛らしい女の子の声のようにも聞こえるのだから不思議なものだ。
「なんで…だろうな……?
最初は……げほっ…同情……だったんだが…な……」
俺はゆっくりと腕を上げてブチリと首から下げていた首飾りをちぎり取る。
「俺の…っ…最後の…頼み……
聞いて…くれるか……?」
何度もうなずくイリス。
痛みを既に感じなくなった俺は、安堵のため息を吐く。
「これを……妹に……
兄は…最後まで……っ!?」
地面に倒れた俺の耳は、ズシンズシンと響く地響きを捉える。
最前線を崩壊させ、俺たちが護衛していた馬車を破壊した大型のドラゴンの足音。
「…行けっ!
今なら…間に合う!!」
「嫌だっ!ボク一人だけ生き残るなんてっ!
置いていかないで!!」
必死に首を横に振って泣くイリスに俺は言った。
「俺の死をっ…無駄に……しないで……くれ……」
「……そんな……」
「安心…しろ……
俺らは……仲間…だろ……?」
俺は最後の力を振り絞って首飾りをイリスにたくし、一呼吸。
俺の霞んだ瞳に映るのは、泣きながらコクコクと頷くイリスの泣き顔と憎いほどに青い空。
それが段々と黒くなって狭くなって……
……誰かに看取って貰えるだなんて俺はツイてたな……
「先逝くぜ……」
全てが黒くなった……
………………
《イリス視点》
「死んだの……?」
今まで頬を流れていた涙が止まる。
ボク面倒を見てくれて、仲良くしてくれて、本当のお兄さんみたいに優しかったのに……
「でも……まだ、まだ温かいし……」
「もしかしてまだ寝てるの?」
「早く起きないと任務に遅れちゃうよ?
ご飯が食べれなくなっちゃうよ?」
「ボクを一人にしないでっ……」
声をかけても無論のこと反応はない。
「置いていかないでよ……」
どのぐらい呆然としていたのだろう。
広がった血だまりが僕の足を、膝を湿らせていた。
「……?」
そしてボクは一つの大きな咆哮で我に返る。
「……」
ユックリと振り返ればそこには緑色をした、醜いドラゴンがいた。
至る所から青い血を流して、目も半分潰れているそのドラゴンは、とても、とても苛立っているようで……
大気を震わせる、まるで爆音のような咆哮をまたあげる。
とても耳障り。これじゃあお兄さんが寝れなくなっちゃう。
「君が……」
このドラゴンが最前線にいた人達を……
ボクの仲間達を……ボクのお兄さんを……
(ここにいる奴らは全員が全員最前線を一度は経験してるんだ。
安心しな。そうそう俺らの手に余るような化け物みたいな敵は現れないからよ)
「なんで…なんでこんなところにいるのさ……」
(あぁ?なんでお前を助けたかって?
さぁな……ただ、なんとなく見てられなかったからだな)
「君さえいなければ……お前さえ来なければ……」
(いやぁ、あと二ヶ月もすれば俺もようやくこの戦場からおさらばできるんだ。
あ?本職じゃなかったのかって?
いや、元はしがない火消しさ。わかるか?
火事とか、火を消す仕事をしてたんだ)
感じたことがないほどの怒りと悲しみ。
ボクの視界、全てが血のような赤に染まる。
そして、ドラゴンがボクを喰らおうと近づいてくるその僅かな間にボクの世界は一変した。
第三者が入れば驚愕しただろう。
およそ10にも満たない子供の紅い瞳が、不自然に爛々(らんらん)と輝いているのだ。
まるで抑えきれない力がそこから溢れてきているように……
『死ね』
ボクは短刀を抜き放ちドラゴンへと向け、そう言葉を紡ぐ。
あたりに満ちる不可思議な余韻。
彼女の体内で長い間封印され、抑えきれない怒りを引き金に放たれたその言霊は、絶大な力を持って少女の目の前に広がる世界を変革させるのには十分過ぎた。
「グォ?」
少女を喰らう寸前で狼狽の声を上げ、動きを止めるドラゴン。
食物連鎖の頂点に位置するドラゴン。奴は本来感じるはずのない原始的な感情に、戸惑いを隠せない。
恐怖を理解することができなかったのだ。
「……」
一匹のドラゴンを中心として魔力が渦を巻き、大気が甲高い悲鳴をあげる。
生えていた木々が徐々に腐り枯れ、飛んでいた蝶は前触れもなくポトリと落ちる。
地面の中にいた微生物から近くの草むらで息を殺していたウサギに至るまで、その全てが無差別に死に絶えていく……
それは細胞の自殺。アポトーシス。
それは少女の眼前に立つドラゴンですら免れることのできない絶対の死。
膨大な魔力の奔流に飲まれたドラゴンは、悲鳴をあげることすら出来ずに自壊し、静かに土へと還った。
「……」
全ての音が死に、全ての生あるものが生き絶えた後、赤茶けた大地の上に立っていたのは小さな少女、ただ一人だけ。
彼女は悲しそうに瞳を伏せると、すぐそばに横たわっていた青年の遺体と共に、どこかへ去って行った……
《人物紹介》
イリス……7歳と数ヶ月。精神的に不安定な状態、極度のストレス、抑えきれない怒りを引き金に今まで抑制されていた膨大な量の魔力を解放する。
闘気<魔力……闘気は純粋に魔力の下位互換。この時代(今世)において、魔力と呼べる量の闘気を保持している存在は極々一握りのみ。
そろそろ一章が終了する予定です。
ありふれた話に拙い文章でしたが、ここまで読んでいただけて作者はとても嬉しいです!
不快に思われた方も多々いらっしゃるとは思いますが、どうかお許しください´д` ;
感想や評価をいただけると嬉しいです(°_°)