表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無口な天使  作者: ソルモルドア
孤独な幼女
13/78

穢れた僕だけど……

12話です!


早く昔みたいにiPhoneでマトモに編集できるようにならないもんでしょうか……





 


「……」



 気がつけば僕はまた、あの牢屋へと続く階段の手前に来ていた。


 泥がつかないように寝間着の裾をたくし上げて、誰にも見つからないようにコッソリと。



「……どうして……?」



 僕自身、自分の気持ちがよくわからない。

 ベッドの上で一人、メソメソとしていたはずなのに、気がついたらここにいたんだ。



 僕の前には地下へと続く石で出来た階段。

 ヒタリヒタリと裸足で歩けば、その冷たさが体の、心の芯にまで伝わってくる。



「……僕……」



 ……僕はあの子と知り合いになりたくて……少しでもわかって欲しくて……



 家族だから、娘だから。

 そんな理由だけで愛され、受け入れられるのはやっぱり違う。



 本当の僕は汚くて、穢れてて無償の愛を受けられるほどに純粋じゃない。



 そう。僕は家族を、皆を騙してる。



 なんでだろう、もう罪悪感しか感じないんだ……


 でも、だからあの子とは……



「……」



 そこまで考えて、ほんの少しだけ自嘲気味な笑みが浮かんだ。



 同じ境遇の子を見つけたから知り合いになって欲しい。本当の自分を分かって欲しい。


 なんて贅沢な悩みなんだろう。



 ……やっぱりこんな僕みたいな穢れた奴隷には……過ぎた望みだよね……



 内心で思っていることとは裏腹に、僕は石畳を降り、暗い地下牢の廊下をゆっくりとペタペタと歩いていく。


 淀んだ空気が僕に纏わりつく。



 ……僕と似ているあの子は、僕を受け入れてくれるかな……?こんな奴隷で、穢れてた僕だけど……



 息を殺して暗闇の中を進めば、昨日と同じで、やはり牢屋の奥から誰かの息遣いが聞こえる。



「……よかった…今日…も……?」



 感じたのは安堵。喜び。

 でも、そのすぐ後に、僕は彼女が地下牢にいるという事実を喜んでいるんだと気がついてしまう。



「……僕は……」



 片手で顔を抑える。

 隠せない自分の醜さ。



 ……あんな小さな女の子が牢屋にいるのがいいことなわけないのに!本当はいない方が良かったんだ……!!



 変わらない僕の内面。

 姿形が変わっても……時代が変わっても……



 涙が頬を伝った。



 僕はいつも卑屈で惨めで、あの頃となんにも……



「……ぁ……」



 こんな僕が……

 一体どんな顔をして会えばいいの……?



 牢屋で会えたことを喜ぶような……

 同じ境遇の人を見つけて喜ぶような……



「……きたない…僕は……」



 自分の白い小さな手が、体が汚い体液で穢されているような気がした。


 心までは…心だけは綺麗でいようと思っていたのに。



「……き、きたない……」



 幼い時に、前世で受けた傷跡は深く、僕の足を止めるのには十分すぎた。


 一度躊躇って止まってしまえば、僕の足はもうそこから一歩も進んではくれない。



「……」



 暗闇の中、僕と彼女しか存在しない世界で聞こえるのは、ドクドクと高鳴る心臓の鼓動。


 何も考えられなくなった白い頭でどのくらいの時間そこで立ち竦んでいただろう。


 僕を現実に引き戻したのはポツリと呟かれた一言。



「天使さん、今日は来てくれないのかなぁ……」



 牢屋の中に響く、高くて、可愛らしい女の子の声。



「……っ……」



 その言葉を聞き、意味を理解した僕の顔が熱くなってきたのが自分でもわかった。



 ……ぼ、僕のことだよね……?で、でも、天使さんだなんて……こんな僕のことを、も、もしかして待ってくれてるの……?



「……」



 嫌われてないのは純粋に嬉しかった。

 それだけで少しだけ救われた気がしたから。



 ……で、でも天使さんだなんて……ぼ、僕にあ、会いたいだなんて……



「……本当……?」



 言い知れぬ罪悪感に今度は恥ずかしさがプラスされ、頭が白くなってしまった僕は、またしばらくそこで立ち竦んでいたのだった……









 ………………









 遊びに来たという名目で、ただひたすらにボクのことをなぶって遊ぶ他の貴族の子供達。

 修行という名目で、ただひたすらにボクのことを虐めるお父さん。



「い、痛ぅ……せっかく天使さんが治してくれたのに……」



 足を引きずって歩くボクの目の周りは腫れ、青あざが幾つもできていた。



「お嬢様、なんとおいたわしい……」



 ボクのことをいつも通り牢屋にまで運んでくるように言われた執事、セバスチャンが目頭を押さえて言う。



「いいんだセバス、ボクが弱いのがいけないんだよ……たぶん……」


「お嬢様……」


「……」



 ボクを労わるように優しく包帯を巻き、軟膏をすり込んでくれるセバスチャン。


 その行動には、少なくともお父さんや他の人達にないような暖かさがあって、時折痛みに顔をしかめつつも、ボクにはその彼の優しさがとても嬉しかった。



「お嬢様、私が何か厨房の方から直接持って参ります。

 このように薄汚いところですが、どうか…どうか……」


「うん、ありがとうセバス。

 大丈夫だよ、ボクは我慢するからね」


「お、お嬢様……」



 ボクに向かって一礼をし、闇の中へと消えていくセバス。

 また今日も彼はボクのために、色々なものを持って来てくれるのだろう。



「でも、なんでボクなんかのために……?」



 ボクとしてはとてもありがたいけど……なんでセバスは、わざわざ父さんの反感を買う可能性があるようなことをするのだろう?

 酷い目にあわなければいいんだけど……



「……」



 ボクが考え込めば、途端に耳が痛くなるような沈黙が辺りに満ちる。



「わからないや……」



 結局、ボクには何もわからなかった。

 なんで自分が闘気扱えないのかも、なんでボクの周りには沢山のボクを虐める人と、ほんの少しの優しい人、その二種類しかいないのかも……



「辛いよ……」



 知らない、わからないということは不安でとても辛い。



「なんで皆、ボクを虐めるの……?」



 もう数え切れないほど考え、発した疑問は、今回もまた誰にも届くことなく闇に消える。



 ……ボクはやっぱり父さんの本当の子供じゃないのかな……?本物の貴族じゃないから、皆ボクを虐めるの……?



「……」



 チラチラと視界の端に散らつく白い髪。



「僕の髪は……なんで金色じゃないっ……」



 一人膝を抱えてうずくまる……鈍い痛みだけがボクの友達だった。



「はぁ……天使さん、今日は来てくれないのかなぁ……」



 一人で寂しく地下牢にいれば、虐められることはないから安心できるけど、でも、でも、できれば天使さんとも友達になりたいなぁ……



「……」



 あの可愛らしい天使さんなら、きっとボクを虐めるようなことはしないはずだから……









「そこにいるのは誰だ!」


「!?」



 いつの間に寝ていたのだろう。

 ボクの意識は聞いたことがないようなセバスの怒鳴り声によって、唐突に引き戻された。



「セバス!一体どうしたの!?」



 飛び起きたボクは鉄格子の方に目を向けて……



「銀……も、もしかして…天使さん!?」



 ボクが見たのは、宙に溶けて消えて行く銀色の残滓。

 僅かに残る、牢屋には似つかわしくない爽やかな匂い。



「天使さん…?

 もしかして今日も来てくれたの……?」


「お嬢様、いま人の気配を感じましたぞ!

 お気をつけて!!」



 安心し、嬉しく思ったボクとは対称的に、辺りを警戒しながら素早く牢屋の鍵をあけてボクの安否を確認するセバス。


 顔に警戒の色を浮かべた彼の手には、いつの間にか鈍く輝く短剣が握られていた。



「……賊?」



 ……もしかしてセバスは天使さんのことを言ってるの……?そんな大声なんて出したら、天使さんが恐がって帰っちゃうのに……



「大丈夫ですか!?お怪我は?」



 ボクの瞳を覗き込みながら問いかけてくるセバス。

 僕はそんな彼に優しく教えてあげた。



「ねぇ、セバス」


「お嬢様?」



 優ボクはクスリと笑って、彼の口元に人差し指をつける。



「セバス、静かにしないとダメなんだよ。


 天使さんはとっても優しいんだけど、恥ずかしがり屋で恐がりさんなんだ。すぐに逃げちゃうんだよ」


「ぉ、お嬢様……?」


「さっきまでいたでしょ?

 銀色の天使さん。

 ボクの怪我を治してくれる、とっても優しい天使さん」


「お、お嬢様……あぁ、セバスは、セバスは……」



 なぜかボクの前で目を見開いて驚愕し、そのあとでポロポロと涙を流し始めるセバスチャン。



「セバス、なんで泣くの?

 ボクはあの天使さんと、早くお友達になりたいと思ってるだけなのに……」


「……」


「セバス以外に初めて、初めてボクに優しくしてくれたんだよ?

 ボクは…!?」



 言葉の途中でなぜか抱きしめられるボク。



「……セバス?」


「お嬢様!お嬢様!

 本当に、本当に申し訳ありません……


 私の力が及ばず……」


「……セバス?」



 なぜか泣きながらボクを抱きしめて謝りつづけるセバス。



 ……一体どうしたんだろう?慰めてあげて方がいいかな……



 よく意味がわからなかったボクは、とりあえずセバスの頭に手を置いて撫でてみる。



「う〜ん、セバス。

 セバスは何も悪いことをしたわけじゃないよ?」


「……お嬢様」



 しかしセバスは泣きながら首を横に振った。



「セバスは取り返しのつかないことをしてしまったのです……


 お嬢様の、お嬢様のお心を守って差し上げられなかったっ……」


「……?」



 そんなことを言われても心当たりのなかったボクは、内心で首を捻りつつも、セバスに告げる。



「う〜ん……なんのことかよくわからないんだけど……


 そうだね、もしセバスが悪いことをしたって思うなら、ボクが天使さんと友達になれるようにお祈りをしておいてよ!

 うん、そしたら許してあげる!」


「……」



 ボクの言葉を聞いて少し顔を強張らせ、同時に悲しそうな顔をしたセバスは、でも、結局微笑んで言った。



「……わかりました。

 お嬢様がそれをお望みなら……」


「えへへ、ありがとう。

 今度はしっかりボクも起きて待ってなくっちゃね」



 それからしばらくセバスは、ボクの事を泣きながら抱きしめていたけれど、一体どうしたのかボクにはよくわからなかった……



《人物紹介》


クリス……主人公。現在四歳。現幼女、元男の娘。常時展開している魔装のおかげで攻撃力と防御力が馬鹿に高い。

特殊技能はないけどそこそこ魔法が使える。魔力はかなり多い。一人称僕。前世からの強い精神的外傷トラウマ持ち



メノト……クリスの乳母。実は脳筋。



お父さん……本名ライネス・エスト・アズラエル。

刀の貴族の現当主。厳めしい顔をしているが意外と子煩悩。一人称私。



お母さん……本名マーチ・エスト・アズラエル。

クリスの容姿が問題で一時不倫を疑われていたが、二年経ってようやく認められた。



ライル……クリスお兄さん。七歳手前。お父さんとよく似ている。

わりとなんでもできる。一人称僕。



アルト……剣の貴族の現当主。金髪に碧眼、爽やか系で一人称が俺。

前世のクリスを殺した貴族にそっくり。



ボク……剣の貴族の長女。ライルと同じ歳だが戦闘力皆無。魔力(闘気)が一切ない。アルビノ少女。

皆から虐められているらしい。一人称ボク。



誤字脱字、意味不明なところがありましたらご報告いただけると幸いです( ´ ▽ ` )ノ


小説家になろう、勝手にランキングなるものに登録していまいました!

良ければ、ご協力ください( ̄Д ̄)ノ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ