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無口な天使  作者: ソルモルドア
孤独な幼女
10/78

牢屋の中で

9話目です!

段々と話の展開が(良くあるものですが……)読めてきた方が多いのではないでしょうか?


飽きられないか不安ですヽ(´o`;




 


「それではお嬢様、メノトはこれで。

 おやすみなさいませ」


「……おやすみ……」



 手に持ったロウソクの火を、手で摘まむようにして消したメノトは、一礼をして僕の部屋から出て行った。


 就寝の挨拶と共に、ベッドの中から小さく手を振ってそれを見送った僕は、暗くなった部屋の中、小さな体を起こしてベッドに腰掛ける。



「……」



 一人になると途端に浮かんでくるのは、黒く塗り潰された世界地図。

 いま、この瞬間にも人が入り込めないほど活発に、邪悪な魔物が闊歩かっぽしているという暗黒の大地。



「……どう…しよう……」



 ポツリと呟いた言葉に含まれる、明確な焦りと混乱。



 ……一体どうするべきなの……?

 ……僕は…僕も戦わないといけない……?



 力はあっても、それを扱えるかと言うのは別問題。

 日々刀を振っているとは言え、殺しに忌避感が無いわけではないのだ。




「……」



 メノトが来る前から、地図を一目見たときから、変わらずに纏まらない考え。



 ……ううん、僕はきっと疲れてるんだ……今日は色んなことがあり過ぎたから……



 一旦頭を振って考えても仕方のないことを振り払えば、今度はあの可哀想な子供のことが頭をよぎった。



「……白い…女の子……」



 ないとは思うけどあのまま放置されていたら……

 あれ以上に痛めつけられていたら……



 道場で見た金髪で、碧眼で、僕を殺した貴族にそっくりな男。

 傷つけられていた、いじめられていた真っ白な子供。



 性別だってよくわからなかったけど……

 顔だってよくわからなかったけど……



 なぜか僕には、あの子の姿が前世の僕に被って見えていた。



「……見に…行く…?」



 魔法によるブーストを駆使すれば、馬車で一時間程度の距離、すぐに踏破することができるだろう。


 探知系の魔法も併用すれば、ピンポイントで発見することだって不可能じゃない。



「……どうしよう……?」



 それはたぶん初めて感じた気持ち。


 常に他人を恐れて、避けて、逃げてきた彼(彼女)が、初めて自分から他人を心配し、会いたいと思ったのだ。



「……行こう…行か…なきゃ……」



 思考をすればするほどに、深みに嵌っていく。

 彼女の中に、いつの間にか行かないという選択肢はなくなっていた。



「……きっと…待ってる……」



 いつしか思考は都合の良い妄想へと変化する。



 ……僕が行って助けてあげなきゃ……きっと僕を待ってる……



 彼女は間違いなく、自身でもこの感情を持て余していた。

 どうすればいいのかよくわかっていなかったのだ。



「……」



 僕は後先考えず、まるで何かに追われるかのように手を伸ばし、身長よりも高い位置にある窓を開ける。

 流れ込んできた冷たい風が頬に当たった。



 方角は……



 脳内に高度な技術をもって、無駄なく展開される術式。

 魔力を使って微弱な磁力を感知。方角を割り出す。



 ……こっちが北……



 目指す方角は北。剣の貴族の屋敷。



 ……王城を中心に、円を描くように進もう……



 準備なんて要らない。

 今世の僕ならできる。警備の目なんてあってないようなものなんだ。



 タンッ!


 いつも身につけている刀を片手に、窓の縁を蹴って躊躇ためらいなく跳躍ちょうやく


 僕は体制を維持しながら風を切ってかなりの距離をとび、無音で一本の木の上に着地する。


 体に来る衝撃はあってないようなもので、どうやら魔装は上手く機能しているようだった。



「……行く……」



 この時代に魔法的な防御、呪術的な警備なんて高度なものはもちろんなく、僕の行く手を阻むものはない。


 僕は家を警備している人達の遥か上空を跳んで、闇の中に姿を消した……









「……」



 正面にある門からではなく、家の周りに張り巡らされた高い柵を驚異的な身体能力でひとっ跳びに越える。

 音もなく着地をし、無事侵入を果たした僕は、キョロキョロと辺りを見回していた。



「……見張り…多い……」



 潜入のプロでもなければ、こういう経験をしたことすらない僕。

 極力足音を消して、辺りを警戒しながら探せばいいのだろうか?

 それとも天井裏とかをえずり回るんだっけ?



「……」



 やることが不明確になってきたことで、寧ろだんだんと冷めてきた頭。



 冷静になってきた僕は、なぜこんなところにまで来たのだろうと、内心で僅かに後悔しながらも、剣の貴族の屋敷の内部を徘徊はいかいする。



「……寝巻き…どうしよ……」



 庭を走ってきたためか、わずかに泥のついてしまった寝巻き。



 ……後で水魔法でもかければ綺麗にできるかな……



 僕は指で寝巻きを摘んで、手で泥を払う。

 自然と漏れる溜息を抑えることができなかった。



「……手がかり…ない……」



 なぜか僕の探知魔法にひっかからないあの子供。


 行き当たりばったりで動きすぎた弊害か、ここで僕はついに行き詰まってしまったのだ。



「……」



 屋敷の一階、二階、三階とくまなく回るも、いるのは使用人ばかり。

 幸運なことに、僕に気がつくほどの実力者はいなかったようだけど、でも、これでは効率が悪すぎる。



 ……だからと言って、しらみ潰しに歩く以外、他にいい方法もないんだけど……



「……」



 誰にも見つからないように辺りの風景と同化しつつ、極力気配を薄くするようにしながら歩き回ること約30分。


 慣れないことを続け、緊張し続けることに疲れてきた体を叱咤しながら、剣の貴族の屋敷をグルグルとグルグルと……



「……うぅ……」



 焦りからか、いつ見つかるかわからないというプレッシャーからか、情けないことに僕の瞳に涙が溜まってきたのがわかった。



「……ここ…どこ……?」



 似たような部屋の前を通り過ぎ、同じような廊下を曲がる。

 長い時間歩き回ってふやけた頭では、もう場所を覚えておくことなど不可能だった。



「……ん……?」



 たが、今にも窓を突き破って家に帰ろうかと考えている時になってようやく、状況に変化が生まれる。



 唐突にどこからか聞こえてきたガコンという不自然な音。

 何か金属の扉を開けて、閉めたような音が辺りに響いたのだ。



「……階段…裏……?」



 気配を殺して音がした方を見ていれば、そこから今朝僕達を誘導してくれた執事さんが、ランタンを片手に出てくるではないか。



 見るからに怪しい。まるで隠し扉から出てきたような……



「……なにか…ある……?」



 僕に気がつくこともなく、すぐ横を通って去っていく執事さん。


 彼が出てきたと思しき場所へ行けば……



「……木の…扉……?」



 別に隠してあるというわけではなかったが、そこにあったのは木製の扉。

 なぜか鍵は閉まっておらず、僅かに覗いた隙間から奥の暗闇が垣間見えた。



「……っ……」



 ゴクリと喉を鳴らして緊張と共にゆっくりと開ける僕。



「……か、かい…だん……」



 ギイィという嫌な音をたてて開いた扉の向こう側には、パッと見、表からではわからないようにされた階段がそこにはあったのだ。



「……」



 階段の下から吹き上がってくる冷気。少し湿った石畳。


 なぜか僕には、そこから先の空気の質が、世界が違って見えた。



「……ぅぅ……」



 無意識のうちに竦む足。


 でも今更引き返すわけにはいかないと、僕は一層濃くなる暗闇に怯えつつも、ヒタリヒタリと裸足で進む。

 石の冷たさが、直に足裏へと伝わってきた。



「……寒い……」



 薄い寝間着では防ぎきれない冷気が僕を苛む。



 ……こんなところに長い間いたら風を引いちゃいそうだよ……



 踏み入れたくない何かがそこにはあったけど、執事さんが出てきたということは、中に何かがあるということ。



 ……ただの物置って可能性がないわけじゃないけど……



 僕は静かに、なるべく音を立てないように石の階段を降りて行く。


 カビ臭い匂いが鼻についた。



「……牢屋……?」



 そして階段を降りきった僕が、最初に見たものは通路の両側に並んだ鉄格子。


 灯りは勿論なく、かなりの暗闇の中だけど、視力を強化している僕には、この空間がとてもじゃないけどマトモに生活ができるほど綺麗じゃないということがわかった。



「……」



 ……こんなに汚いところにあの子がいるの……?



 何も無いかな、気のせいだったのかな、と思いつつも無言で歩を進める僕。


 僕の耳が浅い息遣いを捉えたのは、まさにそのときだった。



 ……ま、まさか……!?



 次第に早くなる僕の歩調。高鳴る心音。


 小走りとでも言うべき勢いで進み、一番奥の牢屋を覗く。



「……あっ……」



 そこには死んだように眠るまだ小さな子供がいた……









 ………………









「よけてみぃ!」



 特徴的な声と共に、かなりの速度で突き出される槍の穂先。



「わっ……」



 あんなの当たったら洒落にならない!


 刃引きすらされていない槍の穂先を必死に体を屈めてボクは間一髪躱す。


 ボクを掠めるようにして、斜め上を死が通過した。



「やるやないか!ほな、次は足やで!」


「うぐっ!」



 声と共にお腹に突き刺さる足。


 大した速度もなかったはずのそれは、でも、闘気をまるで纏っていないボクには致命的な一撃で……



「うげぇ、げほっげほっ」


「う〜ん。

 自分あんなん当たるなんて随分もっさいやっちゃなぁ」



 肺から空気が押し出され、意識が薄くなる。



 堪らずに膝をつき、苦しむボクの首に槍の穂先を突きつけるグレン。


 特徴的な赤い髪に細い糸のような目。

 ボクをいつも虐めてくる槍の貴族の長男だ。



「ねぇってばグレン。そんな弱っちいゴミ、とっとと始末して私と遊びましょうよ」



 鼻にかかった甘い声を出すのは、斧の貴族の一人娘であるレイス。


 青い髪に侮蔑の色が浮かんだ碧眼。

 可愛らしくも、どこかあざとい彼女が担いでいるのは巨大な戦斧。



「せやな。


 よし、レイス!カッコイイわいの姿、しっかり見といてな!


 はぁあああ!こいつでトドメや!」



 槍を高く構えたグレン。頭上でグルグルと槍を回した彼は跳び上がって……



「ひっ!?」



 恐怖から硬直するボクに向かって放たれる、高速の一撃。


 体重の全てをかけ、闘気のブーストを受けたそれは、容易く生身の人間の反応速度の限界を超える。



 ……ボクは……死ぬの?そ、そんな……



 走馬灯のようにボクの人生が頭を駆け巡り、少しずつ胸に槍の穂先が吸い込まれていく。



「さいな……なっ!?」



 しかし、結局その光る穂先がボクに到達することはなかった。



「えっ……?」



 あたりに響くチャキンという硬質な音。クルクルと宙を舞い、地面に突き刺さる銀色の穂先。



「君達は馬鹿か?」



 いつの間に隣に来ていたのだろうか。

 刀を鞘に納めてこちらを向くのは、黒い瞳に黒い髪。鋭い瞳を持った少年。


 抜刀と同時に槍を切り飛ばして僕の命を救ってくれた男の子の名前はライル。


 歴代の刀の貴族の中でもトップクラスの才能を持つと言われている彼は、怒りをあらわに言葉を続ける。



「これで何回目だい?

 流石に命を奪ったら問題になるだろう。


 なんでそんなこともわからないんだ?」


「別に私がやったわけじゃないし〜」


「わいの槍がわやになってしもうた!

 何さらしてけつかんねん!あほ!ぼけ!いてまうどオラ!」



 泣き喚くグレンにため息をつき、レイスを無視したライルはボクの方へと急に向き直る。



「!?」



 急に振り向かれて、少しだけドキリとしたボク。


 でも、助けてくれた彼になんとかお礼を言わなくちゃと必死に口を開いた。



「あ、あの…ライル君……ありが…」



 でも、なぜか彼のボクを見る目は驚くほどに冷たくて……



「勘違いしないで欲しいけどね。

 僕は努力しない奴が、弱い奴が大っ嫌いなんだ。


 僕は君が闘気すらマトモに使えない出来損ないだっていうことは知ってるよ?


 でも、そんなゴミを殺して彼らが罪に問われるのが可哀想だからこうして毎回足を運んで守ってあげてるんだ」


「ひっ……」


「もう寝ていて。目障りだから」



 鞘に入ったままの刀を一閃するライル。





 なんで皆してボクを……








「起きろ、剣を取れ」



 頭からかけられた冷水。

 覚醒した意識で最初に捉えた父さんの声は酷く冷たくて、恐ろしいものだった。



「うぅ……」



 嫌な夢を見ていたみたい……いや、夢じゃなくてつい最近、ちょっと前にあった出来事……



 ……ただの夢だったら良かったのに……



 お父さんを怒らせないように素早く辺りを見渡せば、どうやらボクは道場の真ん中で倒れていたらしい。


 ポタポタと雫を垂らし道場の床を汚しながら、ボクはズキズキと痛む体を引きずって、近くに落ちた剣を手に取った。



「構えろ」


「つっ!?」



 命令され、剣を構えたと思った瞬間にはしる鈍痛。取り落とす剣。



 体の感覚が鈍くなっている?

 もう手に力がはいらないよ……



「……」



 無言の父さんを前に剣を拾いヨロヨロと構え、次の瞬間には床に強かに頭を打ち付けられる。



「構えろ」



 剣の峰で右肩を強打。



「構えろ」



 蹴りがお腹に突き刺さって……



「構えろ、構えろ、構えろ!構えろ!!」



 ボクはもう殴られているのか斬られているのかわからなかった。



「当主様!それ以上やったら本当に死んでしまいます」



 必死で父さんを止めようとする執事さん。



「本物の貴族はっ…力のある貴族は…そんなに柔ではない!!!

 立て!立って構えろ!!」



 だが、その甲斐なく激昂げっこうし、吼えるボクの父さん。


 グサリという音と共に、僕の掌に何かが突き刺さるのを虚ろに感じた。



「当主様!おやめください!!」


「くそっ……!お前は…お前は…なぜ……」



 ボクは…ボクは……



 たぶん、ボクの赤い瞳から涙が垂れたんだと思う。



「と、とう……」



 しかし父さんは目元を抑えていて、ボクには目も向けてくれない。



 ……なんで皆してボクをいじめるの……?



 言葉にならない疑問は口から出ることはなく、



「今日の訓練は……ここまでだ……」



 怒りからか、失望からか絞りだすような父さんの声。


 その声を最後に聞いて、ボクの視界はブラックアウトした……



《人物紹介》


クリス……主人公。現在四歳。現幼女、元男の娘。お嬢様。

常時展開している魔装のおかげで攻撃力と防御力が馬鹿に高い。


メノト……クリスの乳母。実は脳筋。


お父さん……本名ライネス・エスト・アズラエル。

刀の貴族の現当主。厳めしい顔をしているが意外と子煩悩。


お母さん……本名マーチ・エスト・アズラエル。

クリスの容姿が問題で一時不倫を疑われていたが、二年経ってようやく認められた。


ライル……クリスお兄さん。七歳手前。お父さんとよく似ている。

わりとなんでもできる。


アルト……剣の貴族の現当主。金髪に碧眼、爽やか系で一人称が俺。

前世のクリスを殺した貴族にそっくり。


ボク……剣の貴族の長女。ライルと同じ歳だが戦闘力皆無。魔力(闘気)が一切ない。アルビノ少女。

皆から虐められているらしい(´・_・`)



誤字脱字、意味不明なところがありましたらご報告いただけると幸いです( ´ ▽ ` )ノ

感想欲しいなぁー(´-`)

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