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おちんちんを取り戻せ  作者: 別次 孝
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村長代理アレグー その2

「行っちゃだめ! おねえちゃんが、こんなやつら、やっつけてくれるもん。前みたいに、なんとかしてくれるもん!」


 そんなケイコの声にするどく反応したのは、アレグーの妹ではなく、仟魔長セーティクトの方だった。


『いま、なんと言った? 前みたいに? やっつけてくれる? それはもしかして、行方不明になっている部下のひとり、佰魔長ピドキサーのことか? お前は、何か知っているのかっ』

 仟魔長セーティクトが、すさまじいドスの利いた声を出す。


「ひっ……助けてくれる……助けてくれるもん」

 ケイコは泣きながらも、懸命に立ち向かっている。


『しゃべらないと殺すっ』

 仟魔長セーティクトが、大刀を振りあげる。


 アレグーは、気がつけばケイコを抱き寄せて、かばうように地面に倒れこんでいた。

 どうしてケイコを助けようと思ったのか、アレグー自身にもわからない。


 単純に、自暴自棄になったから?

 抵抗するケイコの姿勢に、惹かれたから?

 自分が死ねば妹の足かせにならない、と思ったから?

 それとも、ケイコのことを、ミサキに頼まれていたから?


 こんな瞬間に、どんな理屈で自分が行動したのかなんて、理解などできないだろう。


 ただひとつわかったのは、仟魔長セーティクトの刀が落ちてこなかったこと。


「ぺろぺろぺろぺろ」

 という、少女の意味不明のつぶやきが聞こえたことだった。


 少女の黒い短剣が、黒い大刀を見事に受け流していた。


 仟魔長セーティクトは、自分の大刀を受け流した黒い短剣を、しみじみと見つめていた。


『人間で……魔術を使う……? そうか、わかったぞ。お前、魔族であるセンヨヨの使徒だな。あすこの人間牧場の一員だろう』


「およ? ヨヨちゃんのこと、知ってるんだ。だけどおねーさん、使徒じゃないよ」

 ミサキは、左手の剣の柄にある金環に指を入れて、短剣全体をくるくると回している。


 こんな状況なのに、少女はにこにこ顔である。


『まさか、お前が俺の部下の佰魔長ピドキサーを?』


「豚のような悲鳴をあげて、おもらししながら死んでいったよー」


『くひひひひ』

 仟魔長セーティクトの方も、笑顔を見せた。もっとも、こちらはとびっきり邪悪な顔である。

『どうやら手加減はいらない相手のお出ましのようだな。それに、ゲスな部下でも仇はとってやらんとなあ』


仟魔長セーティクトなんだから、当然タイマンはってくれるよね?」


『勿論だ。おいお前ら、手を出すなよ』


 言い捨てるやいなや、さきほどとは比べ物にならない速度で、仟魔長セーティクトは湾曲した大刀を撃ち込んでくる。

 ミサキもそれを平然と受け流した。さっきの戦いと同様に、『受け流し』で隙を作る作戦のようだ。

 だが、重い斧を大振りしていた佰魔長ピドキサーとはちがう。

 湾曲刀を、コンパクトに振りぬいてくる仟魔長セーティクトの攻撃は、『受け流し』をしても隙がうまれにくい。

 おたがいに攻撃の機会を見つけられないまま、大刀と短剣の打ち合いが続けられている。


「これ、どうなるんだ……向こうはすごいガタイだ、体格差がかなりある。彼女は大丈夫なのか?」

 緊張した様子の村人がいう。


 さっき、ミサキを村から追い出したことはすでに忘れているようだ。このさいミサキに勝ってもらうしか、村の女たちを守るすべがないのである。


「そもそも、魔術と魔術の戦いなんて初めて見るよ。さっぱり予測できない」


「そうでもないさ。人間同士が内輪もめのとき、聖法武具同士で戦うのと同じだよ」

 左腕を処置してもらいながら、その痛みにアレグーはあえぎつつ、答えた。


 アレグーは、困惑顔の村人たちに説明する。

「魔術装具というのは、武器をエンチャントするようなものだ」


 武具に黒い魔力を与えれば、攻撃力がアップした、黒武具になる。

 防具に黒い魔力を与えれば、防禦力がアップした、黒防具になる。


 基本的には、それだけのことである。

 ちなみに、黒で黒を攻撃すると、お互いのアップ効果が無効化される。つまり、通常の武具で戦闘するのと、同じになってしまう。

 ただし、黒と黒が緩衝材のように働くので、武具の損耗は避けられる。さっきミサキが、巨大な斧を短剣で『受け流し』たのに、剣が折れなかったのはそのためだ。


「人間の聖法武具についても、黒を白に置き換えるだけだ。理屈は変わらない」


「じゃあ、黒と白では? 魔術武具と聖法武具では、どうなる?」


「それはさっき、おれがやってみせた通りだよ」

 アレグーは痛みをこらえて苦笑した。


 黒い魔術武具と、白い聖法武具では、『弾き』が起こって、お互いの力が相殺される。

 もちろん、力が強い方が有利だ。十の魔力と、三の聖力がぶつかれば、差にあたる七の魔力だけが残るから、そのぶん黒が優勢になる。

 さっき、仟魔長セーティクトの攻撃を受けたアレグーが、『弾き』を起こしたのにもかかわらず、盾ごと吹っ飛ばされたのは、まさしくそうした理由による。


 さて、通常は、魔族VS人間、という戦闘がほとんどである。

 だからお互いに、固有能力である魔力と聖力を高めようとする。

 ところが、このミサキと仟魔長セーティクトの戦いは、お互いに魔術武具を用いている。


 つまりどういうことかというと、お互いの魔力を無効化されているから、単純な殴り合いになっているのだ。

 そうなると、体の大きく、体力の多いであろう、仟魔長セーティクトが有利になる。

 魔力についてはミサキが有利のようだが、それほど大勢に影響があるとは思えないのだ。


「おい、まずいんじゃないのか?」


「しかし、手助けはできないぞ、タイマンだからな。そんなことをすれば、向こうも佰魔長ピドキサーが参戦してくる。こっちの勝ち目がなくなるだけだが――」

 痛みに耐えつつアレグーが続けて口にしたのは、別のことである。

「――なぜミサキは、左手の剣しか使わないんだ」


 このあいだのように、右手にケイコがしがみついているわけでもない。現に、ミサキの右手は右腰の短剣に添えられている。抜くタイミングを計っているのだろう。


『なかなかやるな、だがこれはどうだ!』


 おおきくえた仟魔長セーティクトが、刀を振り下ろすと見せかけて、武器を持たないミサキの右側から鋭く切りつけた。


「それを待ってたかなー」


 あっけらかんとした口調とともに、ミサキが右手で短剣を引き抜く。


 独特の破裂音。

 黒い光と白い光が煌めいて、飛び散る。


 『弾き』によって、自分の湾曲刀を上方向に弾き飛ばされた仟魔長セーティクトが、唖然として、目の前の光景を見つめている。


「いっただきまーす」


 がらあきの胴めがけて、ミサキの左手の黒い短剣が打ち込まれた。

 

 腹から青い色の血を流しながら、仟魔長セーティクトは倒れた。

 自分の身に何が起こったのか、ミサキが何をしたのか、理解できていないようだ。

 祈るような気持ちで応援していた村人たちも、どこか呆然としてその光景を見つめている。


 ただアレグーひとりは、どこか納得していた。

 ミサキならば、やりかねないと思っていた。


 そのミサキの右手には、白く輝く、聖力を放つ短剣が握られていた。

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