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おちんちんを取り戻せ  作者: 別次 孝
36/39

   オマケ 困惑の団長

※今回はオマケ回となります。読み飛ばしても、本編に影響はありません。

※解説回ですので、無駄に文章が長い上に、ネタもほぼありません。長々とした設定解説などが苦手な方は、じゅうぶんにご注意ください。

※内容については、感想ページで指摘をいただいた、斬糸に関しての解説と、初期設定の甘さに関してのフォローが中心となっております。

 エキザーベは、困惑していた。

 司令部を動かしたあと、近くにある例の詰め所をのぞきこんでみたら、いつのまにか、公女さまと例の魔族がすっかり打ち解けていた。


 襲われていらい、公女さまは魔族に必要以上におびえていたはずであった。

 だから、目の前の状況は、にわかには信じられない光景であった。

 女性どうしとはいえ、公女さまが魔族に心をひらく、とは考えにくい。けれども、公女さまが自暴自棄になっている様子もない。どうも判断に困る状況なのである。


 ただ、そんなことは二の次であった。

 とにもかくにも、親衛隊の詰め所こんなところに公女さまがいる、と知られるのはまずいし、ここに魔族がいる、とばれるのはもっとまずい。さしあたって衛兵に立ち入り禁止の指示を出しておいたのだが、公女さまたちの話は、かなりはずんでいるようである。


「つまりセンヨヨさん、魔斬糸というのは、普通の魔術武具と原理は変わらないのですね。武具に魔力を流しこんで強化するわけですから」


『その通りですよう。ただ、装備をつかう目的が、微妙にちがうのですねえ』


「と、おっしゃいますと?」


『魔斬糸というのは、対人間ではなく、対魔族のための武具なのですよう』


 公女さまは、上品に首をひねられた。

「あの、具体的には、どうちがうのでしょうか……」


『では、わかりやすくするために、まずは基本的なことを再確認してみましょうかあ』

 センヨヨが、教師のような態度で説明をはじめた。


 そもそも武具に魔術をつかうのは、魔力で武具を強化することが目的である。

 魔術装具というのは、武器をエンチャントするようなものであるから、


 ・武具に黒い魔力を与えれば、攻撃力がアップした、黒武具になる。

 ・防具に黒い魔力を与えれば、防禦力がアップした、黒防具になる。


 基本的には、それだけのことである。


「家庭教師から聞いた聖法の講義で、おなじような内容を耳にしました。黒を白に、魔力を聖力に変えれば、人間の世界とちがいがなさそうですね」


『そうですねえ、そう考えてもらって大丈夫ですよう。では、つぎに「受け流し」と「弾き」ですがあ』


 まず、同色の場合。

 黒武具で黒防具を攻撃すると、同色なので、同質のものだと判断される。そこでお互いのアップ効果が無効化されるので、通常の武具で戦闘するのと、同じになってしまう。

 ただし、黒と黒が緩衝材のように働くので、武具の損耗そんもうは避けられる。それがいわゆる『受け流し』という現象である。


 つぎに、異色の場合。

 黒い魔術武具と、白い聖法武具では、異色なので、異質なものだと判断される。

 『弾き』が起こって、お互いの力が相殺される。

 もちろん、力が強い方が有利なので、仮に、十の魔力と、七の聖力がぶつかれば、差にあたる三の魔力だけが残るから、そのぶん黒が優勢になる。


 公女さまは、うんうんと何度もうなずかれた。

「それも、以前に学んだ通りですね。さきほどのお話では、魔斬糸は対魔族の武具ということでしたから、異色の『弾き』ではなく、同色の『受け流し』に重点を置いているのでしょうか」


『飲みこみが早くて助かりますよう。では公女さまにお訊きしたいのですがあ』

 センヨヨは、メイドから白墨チョークを受け取ると、石壁に丸っこい文字で書いてみせた。


 ・魔力が〇の魔族 対 魔力が一の魔族 の戦闘


『数字は、魔力量を数字化したものだ、と考えてくださいねえ。さて、どうなるとお考えですかあ?』


「それは、魔力があるほうだけ魔術武具が使えますので、後者が勝つでしょう。実際に、訓練されていない人間と魔族の戦いでは、まさにこのような状態になると思われます」


『ええ、まさにおっしゃるとおりですよう。簡単すぎて失礼だったかもしれませんねえ。では次はどうですかあ』


 ・魔力が百の魔族 対 魔力が百の魔族 の戦闘


「これもわかりやすいですね。さきほどのお話し通り、これは黒どうしの同色ですから、同質のものとみなされて、お互いが無効化されるはずです。あとは腕力や技量の勝負になるでしょう。ただ、『受け流し』だけは使えるので、武具の損耗そんもうは避けられそうですね」


 笑みをうかべた公女さまに、センヨヨもにっこりと笑い返し、白墨チョークを動かす。

『では、三つ目のケースはどうですかあ』


 ・魔力が一の魔族 対 魔力が百の魔族


「えっと……そうですね、同色ですから……同質、なのでしょうか」


 すこし真剣な顔の公女さまとことなり、センヨヨは笑顔のままである。


『では、もっと差をつけたらどうなりますかあ』


 ・魔力が一の魔族 対 魔力が千の魔族

 ・魔力が一の魔族 対 魔力が万の魔族


 公女さまが、すこし困ったようなお顔をされた。

「センヨヨさん、お話の腰を折るようで申しわけないのですが、現実にはありえない状況ではないでしょうか」


 話を聞いていたエキザーベも、こっそりとうなずいた。

 騎士団長として、人間同士の訓練戦闘をさんざん指導してきたから、エキザーベは断言できる。一対一の戦闘で、聖力が一万倍も差がつくことなどは、ありえない。


『ええ、たしかに人間であれば、そうなのでしょうねえ』

 センヨヨは、まるでエキザーベの心をみすかしたように苦笑した。

『ですが、魔族の世界ではありえることなのです。一対一の戦闘で、魔力に千倍以上の差がつくことは稀ではないのですよう』


 おどろいた顔の公女さまとエキザーベを、おだやかに見つめたまま、センヨヨはおっとりとした口調で続ける。


『どうやら、魔力のキャパシティ、とでもいいましょうか、貯蔵量……いや、保有量? とにかく使える量に関してですが、魔族は個人差がとてもおおきいのですよう。特に上限は、人間の聖力のそれよりも、はるかに高いと思ってもらって良いですねえ』


「その……つまり? 普通の魔族を一、としたときに、一千倍とか、一万倍とか、そういう量の魔力を使える魔族が存在する、ということなのでしょうか?」


『はい、まさにその通りですねえ』


「仮に、一万倍の魔力を使える魔族は、どのくらいいるのでしょう」


『具体的には、まあ五十人ですねえ』


「え? 五十匹……いえ、失礼しました、五十人ということは、まさか万魔長マズレンが、すべてそうなのでしょうか?」


『その通りですよう』


「……ふつうの魔族兵士の、一万倍の魔力を使える? センヨヨさんも、そうなのですか?」


『厳密に計算したことはありませんが、父である万魔長マズレンセンシアの死後、残った仟魔長セーティクトたちのなかで、いちばん魔力の保有量が高かったことは事実ですねえ。そのおかげで、ワタシは万魔長マズレン代行になってよい、と支持されたのですよう』


「そのお話の流れですと、仟魔長セーティクトというのは、魔族兵士の一千倍の魔力を持つと考えてよいのでしょうか」


 うなずいたセンヨヨを前にして、公女さまは呆然としていた。

 その視線が、エキザーベに向けられる。


「エキザーベ、人間の場合、聖力の保有量の個人差は、どうなりますか」


 その質問を予想していたので、すみやかに、かつ簡潔に騎士団長は答えた。

「三倍もあれば、かなり優秀です。仮に十倍あれば、一国を代表する聖法術師になれます。天才と呼ばれる方々でも、いいところ百倍くらいでしょう」


 公女さまと騎士団長の視線をうけたセンヨヨが、静かに説明する。

『まさにそれこそが、人間と魔族のちがいであり、個人戦闘力のちがいでもあるのですよう』


 たとえば、魔族の仟魔長(セーティクト)は、魔族兵士千匹と、『同等の』能力を持つ。

 つまり、魔族の部隊長である仟魔長(セーティクト)一匹と、部下の魔族千匹が『同時に』戦っても、互角の勝負になる。


 仮に、人間の部隊長である千騎長一人と、部下の人間千人が『同時に』戦えば、いくらなんでも千騎長は一方的に負けてしまうだろう。

 そこが、魔族と人間の部隊長の、最大のちがいである。

 まさに一騎当千、それが魔族の部隊長なのだ。


「つまり、人間と魔族でそのような差が生まれるのは、人間は聖力の個人差がちいさいのに、魔族は魔力の個人差がおおきいからである、と?」


『まさにその通り、と考えてもらってよいですよう。さて、そこでさっきの質問に戻って欲しいのですがあ――』


 ・魔力が一の魔族 対 魔力が百の魔族

 ・魔力が一の魔族 対 魔力が千の魔族

 ・魔力が一の魔族 対 魔力が万の魔族


『――どうなると、思われますかあ?』


「推測になりますが、おそらくは極端に差がおおきくなると、さきほどの――」


 ・魔力が〇の魔族 対 魔力が一の魔族 の戦闘


「――とおなじように、異色で異質だとみなされるのではないでしょうか」


 センヨヨは、こくこくとうなずいた。

『正解ですねえ。ワタシの個人的な判断ですが、差が十くらいなら同色で、差が千くらいなら異色になる、という感じですねえ。差が百前後だと、なったりならなかったり、というところですよう』


「つまり、佰魔長ピドキサーが境界線上になる、ということなのですね」

 かたちの良いあごに手を当てて考えこんでいた公女さまが、なにかに気づいた顔をされる。

「そういえば、魔斬糸は対魔族用の武具ということでしたね。それはどういうことですか?」


『簡単に言えば、魔力の差を、意図的につけるための武具なのですが……ええと、そうですね、公女さまは、聖法武具において、聖力を効果的につかう方法をご存じですかあ』


「いえ、わたくしは武術のほうはほとんど……エキザーベ、わかるかしら」


 今回は返答を準備していなかったが、エキザーベは、公女さまにもわかるようにシンプルな返答をこころがけた。

「一点集中、が基本となりましょう。限られた聖力を、剣の刃の部分や、槍の穂先の部分、あるいは弓矢のやじりの部分など、攻撃時に相手に当たる部分に集中するのです。上級者ほど、狭い部分に長時間、聖力を集められましょうな」


「一点集中……狭い部分に? もしかして、狭ければ狭いほど効率が良い?」


「ご明察でございます、公女さま。たといすくない量の聖力でも、極小の一点に集中さえできれば、期待以上の効果を発揮できましょう」


「ありがとうエキザーベ、わたくし、魔斬糸の目的を理解できたような気がします。糸は細いので、きっと魔力を集中しやすいのですね。……でも、不思議ですわ。糸ではなくては、ダメなのでしょうか」


 センヨヨが、すこぶる渋そうな顔になった。

『糸が良い、のではないのです。糸しか使えなかったのですよう』


「くわしく、お訊きしてもよろしくて?」


 センヨヨは、遠くを見つめるような目をしてみせた。

『そうですねえ、まず、ワタシの亡父の話からはじめましょうかあ』


 魔族は、徹底した実力主義なので、万魔長マズレンも世襲制ではない。

 それでもセンシアは、ひとり娘のセンヨヨに、個人戦闘技術を教えた。


 ちからがすべての魔界では、略奪は日常茶飯事である。

 残念なことに、金や財宝とおなじように、女も略奪の対象となる。

 万魔長マズレンの娘であっても、安全の保証はまったくない。

 自分の身は自分で守らなくてはいけないのだ。

 そこでセンシアは娘に教育を施すのだが……。


『剣を振るワタシを見て亡父はひとこと、「これはひどい」と』


 剣もダメ、槍もダメ、弓もダメ。

 とにもかくにも、センヨヨは運動オンチがはなはだしくて、武術のたぐいを習得できない。

 特に、一般兵士でもできる『受け流し』すらできないのは、かなり致命的だった。

 ただ、父親に似たのか、魔力の保有量だけは、ずば抜けて優れていた。

 この、無駄にあふれんばかりの魔力を、どうにか有効利用できないものか。


『そこに登場するのが、うしろに控えるシク姉妹の父親になるのですねえ。彼はもともと鍛冶屋で、「人間牧場」でも鍛冶などの金属加工をしていたのですよう』


 ――なにか良い武具はないのか、武具の加工はニンゲンのほうが得意だろう。自動的に魔力を一点集中できるよう、攻撃部分が狭いものがよいのだが。


 そう問われたシク姉妹の父親は、まずはレイピアを作り上げた。


 数日後、センシアは悲しそうな顔で帰ってきた。

『刃が狭くて細いから、魔力が集中しやすいのはよい。だが、折れやすく、防禦に難がある。それに娘の腕では相手に攻撃を当てられない。近接武器ではないものがよいかもしれん』


 つぎにシク姉妹の父親は、クロスボウを作り上げた。


 数日後、センシアは尻をさすりながら帰ってきた。

『娘のちからでは弦をひくのむずかしい。それに連射ができないし、防禦にも使えない。しかも手元が狂ったらしく、矢が自分のほうに飛んできた。魔力で黒防禦をしていなければ、自分の尻は終わっていただろう』


「あの、お父さまにむけて、矢を打ってしまったのですか?」


『ええ、まあ……手元が狂ってしまって。あのときの父の、「アァーーーッ!」という叫び声は、いまだに忘れられませんねえ』


 センヨヨの父の声まねが面白かったらしく、公女さまはお笑いになった。

 そう、お笑いになったのだ。


 エキザーベは、心底おどろいていた。あの襲撃いらい、公女さまは決して笑顔を見せようとはされなかった。それが、久しぶりに、あのような笑顔をお見せになったのだ。

 しかも、笑わせたのは魔族である。


 (これはもう、なにかの運命なのかではないか)


 そう、思わざるを得ない。

 興奮するエキザーベをよそに、センヨヨは、のんびりとした口調で話を続けている。


『刺突武器のレイピアもダメ、射出武器のクロスボウもダメ。それでも父は懲りずに、つぎの武具を作るよう指示を出しましたねえ』


 ・希望する武具の条件……近接武器ではないこと。魔力をうまく利用できること。連続攻撃できること。防禦にも耐えうること。運動オンチでも攻撃が命中すること。手元が狂っても尻に攻撃がこないこと。


「センシアさま、あまりにも条件がきつすぎませんか。無理ですよ」


『そこをなんとかしろ。そうだな、もし依頼を達成すれば、お前の双子の娘を、受胎実験の対象にしないで大切にする、と約束しよう。その旨を書面にして、くれてやってもよい』


 ふたりとも、娘を愛する親莫迦ばかだったようである。ともに必死になり、ああでもない、こうでもないと試行錯誤を重ねた結果、ついに金属の糸にたどりついた。


 まず、魔斬糸は、近接部器ではない。中間から遠距離で使用できる。

 つぎに、糸だからもともと細く、接触面も極小である。魔力をめれば、自動的に一点集中する効果が得られる。つまり、自然と『魔力が一対万』の一方的な状況がつくられる。結果として、非力な娘のちからでも、じゅうぶんな破壊力を発揮できるのだ。

 また、魔力で武具の損耗そんもうを防げるから、連続攻撃をすることもできる。

 同時に、糸を組み合わせて網のように結界をつくり、防禦にも有効利用することができる。

 指一本に糸一本としても、一度に十回の攻撃をできる。どんな運動オンチでも、十倍の手数ならば、なんとか攻撃を命中できる。


 さらに、センシアが歓喜したのは、糸にしっかりと魔力を流しておけば、自動的に『受け流し』にちかい状態が成立するのが、わかったからだった。

 たまに手元が狂って、尻に攻撃がくることだけは残念だったが、その程度は許容範囲である。


 実際に娘に魔斬糸を使わせてみると、そこは女の子、手先は父より器用なようで、上手にあつかってみせた。なにより、細い糸に大量の魔力を流してしまえば、『受け流し』効果で損耗しないので、耐久力が跳ね上がり、並の魔族では糸の切断すら容易にできなくなったのだ。

 現に、魔斬糸を習得してから、あっというまにセンヨヨは仟魔長セーティクトになることができた。


 センシアは、約束を守った。

 鍛冶屋の双子の娘を受胎実験の対象からはずして、娘と実の姉妹のように育て上げた。

 ふたりはセンヨヨとちがって運動神経が良かったので、メイド兼護衛ガードとして、なかなかに頼もしい存在になりそうである。


 それに安心したのか、センシアは、まったく病むことなく、この世を去ったのである。


「まあ、ではその魔斬糸は、お父さまの形見でもあるのですね」


『そうですねえ。ただ、この斬糸は人間にしかつくれないので、いまでもシク姉妹の父上にはお世話になっていますがあ』


「魔族では、作れないのですか?」


『そりゃあ、無理ですよう。公女さまも、装備の差はご存じのはずですよう』


 魔族と人間の一般兵士は、一対一ならほぼ互角の戦力となっているが、装備はおおきくことなっている。


 種族的に肉体が強固で、しかも魔術に対する依存度が高い魔族は、もともと武具にあまりこだわらない。たとえばただの棒きれでも、腕力に物をいわせたり、大量に魔力を流しこんだりして、それなりの武具として使ってしまうのである。

 実際のところ、ちゃんとした剣や鎧を装備しているのは部隊長クラスがほとんどで、雑兵は拾った棍棒に布の服一枚、下は素足ということも珍しくない。


 それに比べて、人間は脆弱だし、しかも聖力量がすくないので、肉体にも聖法にもそれほど依存できない。そこで、金属加工をふくめた武具製作技術が、はるかに魔族を上回っていた。装備の質によって、肉体的聖力的な不利を、おぎなおうとしたのである。


『この斬糸も、細さと耐久性の両立のため、そうとうに苦労して作っているようですねえ。上質の鉄に、適切な配合で微量金属を加えた上に、加熱したり冷やしたり、折ったり伸ばしたりをくり返して、相当手間をかけてつくっているようです。レシピは判明しているので、作り方はわかっているのですが、魔族は雑で繊細な作業はできませんから、誰もこの金属糸を複製できませんねえ』


 センヨヨは、おだやかな笑顔を浮かべた。


『ワタシが、人間に肩入れする理由のひとつがこれですねえ。優秀な人間がいないと、斬糸が確保できませんから、ワタシは魔界での立場を維持できないのです。受胎実験も中止して、人間牧場の人間を大切に扱っているのは、そういうことなのですよう』


 公女さまもそのお話を聞き、おなじように笑みをお浮かべになった。

 もちろん、エキザーベは笑わなかった。


 いまの話が本当ならば、いや、実際のところ真実なのだろうが、魔斬糸に対抗手段が無い。

 『対魔族用の武具』などと言っているが、人間相手でも十分に性質タチのわるい武器である。細い糸とはいえ、魔族一万匹ぶんの魔力を流しこんであるということは、糸を切るのが大変である。

 一万人ぶんの聖力を集めて、『弾き』で魔力の黒防禦を弾き飛ばさないと、糸が切れない、ということになるのだ。もしくは、センヨヨの疲労を誘って、魔力切れを待つしかない。


 ふたりに気づかれないように、エキザーベは、のんべんだらりとしているミサキに近づいた。

「貴公、いったいどうやってあの万魔長マズレンに勝ったのだ。糸はどう処理した?」


「へ? うーんとね、聖剣で切ったら普通に切れたけどなー」


「魔力が、一万匹分だぞ? 悪いが、信じがたい。嘘ではないだろうな」


「寝込みを襲ったから、魔力が抜けてたんじゃあないのかなー」


「それでは、起きているときは魔斬糸を切れないのか? もしいま敵にまわっても、貴公は勝てるのであろうな。断言できるのか」


「ねえねえ、『敵』あつかいとか、ちょっとひどくない? もうすこし、ヨヨちゃんに優しくしようよー」


「ぐぬぬ……。だが騎士団長として、最悪のケースは考慮せねばならぬ」


「敵はシギでしょ、ちがうかな、ね? ちなみにヨヨちゃんが敵にまわる確率よりも、魔力も使えるおねーさんが裏切る可能性のほうが、ずっと高いよー」


 エキザーベを絶句させると、ミサキはひらひらと手をふって、ぶらりと外に出ていってしまった。つまるところ、『自分が魔族の監視役をするつもりはない』という意思表示であろう。


 エキザーベは振り返り、いまだ和やかに談笑を続けられる公女さまと魔族を確認すると、詰め所の外に出て、断固たる口調で命令した。

「たといなにがあっても、この詰め所にひとを入れてはならぬ」


「はっ、了解であります。例外はないでありますか」


「例外はなし、公爵閣下もだ!」

・前書きでお伝えした通りの解説回です。

・最後までお読みいただいた方は、お疲れさまでした。

・今後も、必要に応じてこのようなフォローをいれるかもしれません。自己満足と言われればそれまでですが……。

・初期設定とプロットが色々と甘いので、申しわけないとしか言いようがないのです。が、あまり先のことを考えずに、気の向くまま書くのは、けっこう楽しいので、しばらくはこんな感じになると思います。重ねてすみませんです。

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