公女殿下親衛隊長 クロミィ その5
この作品はR15です。
お察しください。
「クロミィ、そこにいるのかっ!」
不意に、自室の扉が激しくたたかれて、クロミィはわれにかえった。窓から見える空は、すでに明るくなっている。
(寝ていた? いつのまに? いま、何時ころだ?)
もつれそうになる足をなんとか動かして、あわてて扉をあけると、そこには騎士団長エキザーベの姿があった。
「だ、団長……どうされたのですか」
「どうもこうもない。探したぞ。お前、いつもの早朝練習を休んだらしいな」
「も、もうしわけございません」
「それはいい。そんなことより、シギの部隊が国都に侵入してきた。兵士たちの指揮を……とれるか? ずいぶんと顔色が悪いが」
言われてはじめて気がついたが、外の空気はかなりざわついていて、走り回る音や、怒鳴り声が遠くから聞こえてくる。
「あ……いや……と、とります。とれます。ば、場所は?」
「侵入場所は国都の外壁周辺だ。数は不明だが、敵の一部は市街地にも来ているようだな。もしも指揮が無理そうなら、公宮周辺で警護にあたってくれてもいいが」
「だ、だいじょうぶです。行きます。行けます」
団長の返事を待たずに、クロミィは腰の剣に手をあて、外へと走りはじめた。背後で団長がなにかを大声でさけんだような感じもしたが、深く気にはとめなかった。
からだが、重い。ふらふらする。
それでもがまんして走り続け、ようやく前線らしき場所へと到着した。剣や槍を手にした兵士たちのほかに、避難してきたらしい民の姿も見える。
そこでへたりこんでいた、兵士のひとりを捕まえる。
「状況はどうなっているっ」
「わ、わかりません! さっきまで指示を出してくれていた、騎士のかたが倒されてしまいまして、動ける者だけ、なんとかここまで……」
「つまり、まだ先に兵士や民が残っていて、逃げ遅れているのだな」
「そうですが……あっ、待ってください、いまから行っても間に合いません、しかもそんな恰好でっ」
その声にかまわず、クロミィは外壁に近いほうへと、さらに走る。
たどりついたところは、地獄だった。
床石から石壁にいたるまで、真っ赤に染め上げられている。
人間だったとおぼしき、血と肉のかたまりが、ごろごろと転がっていた。
生きて動いているのは魔族たちだけのようである。
吐き気をがまんしながらクロミィが重い剣をかまえると、それに気づいた敵の一匹が立ちあがった。ひざをついて、うつぶせにちかい姿勢の魔族がからだを起こすと、その下から白っぽいなにかが姿をあらわす。
「おのれ、きさま……」
クロミィが口にできたのは、それだけだった。
魔族の下にいたのが裸の人間の女性で、まさに乱暴の真っ最中であった、と理解できたのだ。
その女性はぐったりとして、ぴくりとも動く気配がない。瀕死か、もしくは残念ながら死んでいるか、のどちらかだろう。
魔族が、下品なだけの笑みをうかべる。
『おいおい、若くて活きのよさそうなメスが出てきたな。こいつは上物で、身分も高そうだ。こんな庶民のババアよりも楽しめそうだぞ』
その声を合図にして、周囲にいた総勢五匹の魔族たちが、クロミィを包囲しはじめる。
(兵卒、ではないが、それほどの圧迫感を感じない。什魔長ていどの敵か)
クロミィの腕前であれば、まとめて相手にできないこともない。ミサキには一方的に負けたとはいえ、人間単体としてなら、クロミィは相当に腕がたつ。本人がそれを誇示しないというだけのことだ。
だから、本当であれば、クロミィは勝てた、はずだった。
仮に、万全の状態であったのであれば。
明らかに格下の相手だったにもかかわらず、クロミィは敵の先制を許した。余裕をもってかわすつもりが、間一髪のところまで押し込まれる。
からだが、とにかくだるい。思うように動けない。
腕も、鉛をぶらさげたかのように重く、いうことを聞かない。
クロミィの反撃は弱々しく、簡単にはじき返される。
逆に男の魔族が放つちからまかせの攻撃を、剣でまともに受け止めてしまう。足がふんばりきれずに、クロミィのからだが吹っ飛ばされ、壁にしたたかにたたきつけられた。
呼吸が止まる。
そしてここにいたって、ようやくクロミィは気づいた。
自分が防具を身につけていない、ということを。
あまりにもからだが重いので、てっきり鎧を着ていると思いこんでいた。まさかの布一枚という軽装であり、そうであると今まで理解できていなかった。
そういえばさっき、団長と別れるまぎわ、防具がどうとか指摘されていたかもしれない。
記憶がはっきりとせず、そのときのことが良く思い出せない。頭も打ったようだ。
にやにやと、いやらしい顔をした魔族の一匹が、クロミィのほうへと近づいてくる。剣を握りなおそうとして、その剣が、ない、と気づく。吹っ飛ばされたとき、落としたらしい。
(これはひどいな。自分の状況が把握できていないなど、騎士失格、だ……)
うちつけた背中はひどく痛み、息をするのも苦しい。後頭部もずきずきして、思考が定まらない。そんなクロミィに、魔族の男が、容赦なく手をのばした。
服が、左右に引き裂かれる。双丘がこぼれでた。直後に、今度は布地が上下に引きちぎられる。あっというまに、クロミィは生まれたままの姿になった。
「あ、ああ……」
なにをされるか直感的に理解したのに、声に出せたのはそれだけだった。
ほとんど本能的な恐怖だけで抵抗しようとしたが、五匹の魔族たちはいとも簡単にクロミィをおさえつけた。手慣れた様子で分担して、腕を押さえ、足を抱え込む。
リーダーらしき一匹が、うれしそうに一番乗りで覆いかぶさってくる。
「やめ……むぐっ」
クロミィの口が、魔族の男によってふさがれる。無理やりに口を開かされ、汚い紫色の舌が容赦なく口内を蹂躙した。魔族が臭い息をあらげながら、思う存分にクロミィの唇をむさぼる。
クロミィののどが、上下した。
狙い通りに、目の前のメスが自分の唾液を飲みこんだのを確認して、魔族が満足そうに笑みを浮かべた。
それが、クロミィのファーストキスだった。
(自分は、穢されたな)
もうろうとする頭で、クロミィは理解していた。
生まれてから十九年間、貞節を大切に守り続けてきた。
剣術ひと筋ということもあって、クロミィには男性経験がまったくない。
接吻も、抱擁もそうだし、裸を誰かにみせたこともない。それ以上の行為など、もちろんもってのほかだ。
その大切に守ってきたものが、いままさに、壊されようとしている。
それもいちばんひどいやりかたで、徹底的に。
つよい喪失感をおぼえて、
それが既知の感覚である、
とクロミィは気づいた。
おなじ感覚を、つい昨日も感じたではないか。
大切な主君が穢されたと聞かされて、絶望感をおぼえたはずだ。
クロミィは十四歳で騎士になって、すぐに公女さまの親衛隊になった。
当時十歳の公女さまは、とても愛くるしいお姫さまであり、
同時に、年下とは思えないほど、聡明でお優しいかたであった。
クロミィにとっては、ある意味あこがれの存在といってよかったから、
そんなかたを守れることが、クロミィはとても誇らしかった。
十七歳で公女さまの親衛隊長になっても、その気持ちはつよくなりこそすれ、まったく変わることがなかった。
だから、この五年間、主君を大切に守ってきた。
これからも、ずっと守り続けようと誓っていた。
自分の一生をかけるに、ふさわしい仕事のはずだった。
その、主君をひどく穢された。
取り返しがつかないことになった。
その事実と絶望に比べれば――
(――自分の貞操など、どうでもいいことだ)
と、クロミィは笑った。笑うしかなかった。そして、
(これで公女さまと、おなじ立場になれる。おなじ気持ちを共有できる)
奇妙な、満足感にも似た感覚。
それをなんと表現したらよいかわからなくて、ただただ、ひたすらにクロミィは困惑した。
そんな本人をよそに、魔族が容赦なく首に手をかけてきた。
『抵抗すれば、首をへし折って、殺す。死にたくはねえだろ?』
「……はい」
なぜうなずいてしまったのか、クロミィ自身にも、よくわからない。
ただ感覚的に、ここで死を選ぶことは、人生から逃げ出すことと同義だ、と認識していたのかもしれない。
(この時間を、受け入れなくてはいけない。これは罰なのだ)
騎士であり、親衛隊でありながら、主君を守れなかった罰。
主君が穢されたことに気づかず、のんきに無頓着であった罰。
そして、主君のかたきをとることすらできなかったことへの罰。
そう、これは罪深い自分への厳しい罰なのだ。
どんなあつかいを受けようとも、耐えねばならないだろう。
ちからをうしなったクロミィにむかって、五匹のけだものが、舌なめずりをしながら手をのばしていく。クロミィが無抵抗になった、と魔族たちは理解したようだ。人間の兵士が周囲にいないのをいいことに、たっぷりと時間をかけてメスを徹底的に味わう、と決めたらしい。
それは、地獄の時間のはじまりだった。
いっそ乱暴にされれば、ことは強引に進み、さっさと終了したにちがいない。だが、クロミィが上物で相応の身分だとわかった魔族たちは、必要以上に優しく、丁寧になった。
魔族たちの目的は、乱暴することから、陥落させることに変わっていたようである。肉体だけでなく、心までも標的にしてきたのだ。
色がどうだ、形がどうだ、反応がどうだ、とわざと聞こえるように大声で言いながら、クロミィの身体を、文字通りにあたまのてっぺんからつま先まで、堪能していく。
上も下も、前も後ろも、くりかえし、執拗に。
並の女性であれば、とうに恐怖と衝撃で失神していたにちがいない。
ところが、それすらクロミィには許されなかった。精神力が高く体力も豊富なクロミィの肉体が、無意識の世界への逃亡を許してくれない。
いつ終わるともしれない、屈辱と絶望の時間。
(もう、耐えられない……やっぱり、いさぎよく死のう……舌を噛みきれば……)
死を覚悟したクロミィが思うのは、やはり主君である公女さまのことであった。
もし自殺をしたら、公女さまはどうお考えになるのだろうか。
生きていてほしかったと、泣いてくださるだろうか。
それとも、死んで当然の役立たずだと笑われるだろうか。
逆に死なずに生きのびたら、喜んでくださるのだろうか。
それとも、自殺する勇気がない臆病者だと、お責めになるだろうか。
それを冷静に判断するだけの気力が、もうクロミィにはない。
ふっと心に浮かんできたのは、昨夕のことであった。
公女さまが『死にたくない』と泣きくずれた、その場面を、クロミィは思い出した。
だから、クロミィは、舌を噛み切ることが、できなかった。
「公女さま……自分も……死にたくないです……」
口にした瞬間、クロミィの目から、とうとう涙がこぼれた。ひとたび堰を切ったようにあふれてしまうと、もうとまってはくれない。
そこにいたのは、騎士団の副団長でも、公女殿下の親衛隊長でもなかった。
ただ泣きじゃくるだけの、ひとりの十九歳の少女だった。
『おい、ようやくこのメスが堕ちたぞ。そんじゃ仕上げといこうじゃねえか。オレが一番乗りだ、あとの順番は決めておけ』
魔族が下品な声で宣告すると、クロミィに覆いかぶさってきた。
その重さにうめいた口は、すぐ強引にふさがれてしまう。ついさっき初めて経験したはずのその行為は、もう何回くりかえされたのか、まったくわからなくなっていた。
クロミィは、涙に濡れる瞳を、そっと閉じる。
こうすれば、この過酷な現実を、すこしだけ見ないですむ。せめてもの気休めだった。
その直後、クロミィの顔に、臭くて生ぬるい液体が、大量にかけられた。その量があまりに多いので、息をするのもつらかったほどだ。思わずクロミィは咳こんで目をひらく。
そこに見えたもの。
自分にのしかかる、首のない魔族のからだ。
自分にふりかかる、吹き出す大量の青い血。
叫び声を合図に、魔族たちがクロミィから離れていく。
「まったく、手のかかるめんどうな女だねー。だが、それがいい(にやっ)!」
聞き覚えのある、少女の間の抜けた声がした。
視界のすみで、魔族たちが、奇声をあげてその少女に襲いかかっていく。
ぐったりとして身動きのとれないクロミィの裸身が、不意に布地につつまれた。
「大丈夫ですか? おけがは……ないようですね。よかった、ギリギリまにあったようです」
クロミィのからだをローブのようなもので包むと、バーテンダー姿の男装少女が、そっと壁によりかかるように、座らせてくれた。からだをぬぐい清め、水を飲ませてくれる。
「ご心配はいりません。敵の魔族はあの莫迦にまかせておきましょう」
「イヤッハー! 汚物は消毒だー!」
ガイドラインを読んだのですが、
R15とR18の境目がよくわかりません。
他の投稿者さまの作品なども参考にすると、
わたし自身は余裕でセーフだと思うのですが、
実際にはセフトくらいかもしれません。




