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おちんちんを取り戻せ  作者: 別次 孝
12/39

村長代理アレグー その5

 とりあえず、となり村まで避難する。朝が来たら、すぐ出発する。そう、決まった。


 となり村までなら、子供や老人の足でも、次の日の夜にはたどりつける。となり村には迷惑がかかるが、食料その他の問題は、改めて考慮すればよい。

 なにより、その条件ならミサキが同行してくれる、というのが、村人たちには大きかったようである。


 夜の間に、村の非常食が集められた。毛布や荷車なども用意される。

 空が白みはじめたときには、大規模な炊事の用意が始められた。すくなくとも、夜までの食事はまとめてつくっておかないと、移動があまりにも遅くなってしまう。


「ミサキがどこへ行ったか、知らないか?」


 すこし慌てて、アレグーは村人に話しかけた。

 約束を破られるとは思っていないが、姿が見えないと不安になる。なにせアレグー自身は、左腕を負傷しているので、戦闘に参加できないのだ。


 村娘に言われるまま、村はずれに向かうと、そこでは穏やかな朝の光のもとで、ミサキが剣を振るっていた。

 短剣はおなじような形状をしているが、どうやら練習用の銅剣であるらしく、白や黒の光は見えない。


 片手で、頭、腕、胴を狙う『型』に始まり、両手の剣での『組み合わせ技』、そして剣をつないだロープを利用して、もう片方の剣を振って打ちつけ、さらにロープの中ごろを持って、二本の剣を同時に振りまわす。


 一連の練習が終わったところで、背中をむけたままで少女が言う。

「いつまで見てるのかな、ね?」


 あっさりと、見つかってしまった。別に悪意があって盗み見をしていたわけではないが、すこしバツが悪そうに、アレグーは頭をかいた。

 近くにいたケイコも、どこか咎めるような視線である。どうやらすっかりなついたようで、ケイコはずっとミサキの近くにいるようだ。


「いや、ずいぶんと熱心だな、と思ってさ。それだけの技量をすでに持っていても、不安なのか?」


「そりゃ、とーぜんでしょ。おねーさん独り旅だし、いつなにがあるかわからないし、練習くらいは毎日やらないとね?」


「毎日? 一日もかかさずに、か?」


「だって、自分の命がかかってるんだよ、ね?」

 そのあと、小声で『命より大事な××も……』とかつぶやいていたが、アレグーはよく聞きとれなかった。


   *******


 危惧していたよりは、避難行はスムーズに進んだ。予定通りの距離を進み、水場で昼の休憩をとる。


 だがそこで、変化があった。

 アレグーたちの目の前に、大軍があらわれたのだ。

 数は、かるく千を超えている。

 はじめ、魔族兵士の一軍かと思って、アレグーは心臓がとまりかけたが、すぐに違うとわかった。


「公国軍だ! 公国の、正規兵が来てくれたぞ!」


 見張りの若者の叫びを聞いて、村人たちがよろこびの声をあげる。女たちの中には、安心したのか泣きくずれる者たちもかなりいた。


 ところが公国軍が近づいてくるにつれ、村人たちに再び緊張が走りはじめた。

 正規兵たちは、あきらかに『一戦まじえた』という感じのていだったのだ。

 傷をおって、赤い血を流している者。返り血であろう、防具や服を青く染めている者。戦いを終えたもの特有の、はりつめたような緊張感を、兵士たちはただよわせている。


 軍が村人たちの所に到着すると、代表者であろう、質素だが高級な鎧を身に付けた美形の騎士が、一歩前で出た。


「諸君らは、いずこの者か。代表者と話がしたい」


 よく澄んだソプラノがひびきわたる。アレグーはそこで初めて、この騎士が女性なのだと理解した。

 アレグーは、村長代理であることを告げ、そして兵役期間を終えた補充兵の身分であることを伝えると、おもむろにたずねた。


「……おそれながら、女性の身でありながら、これだけの兵を指揮されています。もしや、公国騎士団の副団長であらせられる、クロミィさまではございませんか?」


「うむ、その通りだが、貴公とは面識があっただろうか」


「兵役で国都に行きました際に、お姿を拝見し、噂をお聞きしました」


 うやうやしく、アレグーは頭をさげる。女だてらに騎士団にいるクロミィは、その美貌もあいまって、公国ではちょっとした有名人だった。たしかこの若さで、公女さまの親衛隊長もつとめているはずである。

 クロミィは、そんなおごりを全く見せずに、実直な態度でアレグーの報告を聞くと、


「避難の目標にしているとなり村、というのは、ウーソ村のことか?」


 と、尋ねてきた。アレグーが首肯すると、すごい返事が返ってきた。


「あの村は、壊滅した。男と老人はすべて殺されていて、若い女は全員が自殺していたのだ」


「……!」


 アレグーの背中を、冷たい汗が滑りおちていく。そういえば、それらしいことを、さっきの仟魔長セーティクトが口にしていたではないか。あれは、となり村のことだったのだ。


「ときに、ウーソ村には、什魔長ジクアスが百匹と、魔族の雑兵が千匹ほどいた」


「では、こちらの軍のかたがたが、戦闘後のようにお見受けできますのは……」


「無論、戦闘になった。敵はなぜか仟魔長セーティクト佰魔長ピドキサーがいなかったので、指揮統制が乱れていて、ほぼ無傷で殲滅することができた」


 すこしも誇らしげな様子を見せずに、事務的な口調でクロミィが続ける。


「しかし、部隊長の姿が見えないのは謎だ。もしも見かけたら、教えてほしい」


 さて、なんと説明したものか。


(ひとりの少女が、全部倒してしまいました、と報告するか?)


 実際に目で見た自分でさえ、未だに信じがたい部分もあるのに、はたして理解してもらえるかどうか、とアレグーは悩んだ。


 そんなとき、あっさりとケイコが言った。

「悪い魔族はね、おねえちゃんが、みんなやっつけてくれたよ」


 クロミィが、はっきりと顔をしかめる。

「お嬢さん、おねえちゃんというのは、誰のことだろうか」


「ええとね、おねえちゃんはね……」


 ケイコが指さす先、何故かミサキは逃げようとしていた。副団長であるクロミィが、それを見逃さずに叫ぶ。


「おい、そこのお前! ん? ……まさか、ミサキか? ミサキ=ウマガイだろう!」


「ちがいまーす」

 即答。


 捕まえてくれ、とクロミィに指示され、アレグーは言われるままミサキの腕をつかみ、思わず口にした。

「ミサキ、きみは騎士団と面識があったのか」


「まったくないですよー」

 ミサキの目が泳いでいる。

「そんなことより、おねーさんは急用ができたのですよー。お出かけですよー」


「おいおい、『村人たちをほっぽり出すほど、鬼畜じゃない』んだろ?」


「でも、そこの女騎士が鬼畜だからねー」


 どうやら無敵のミサキにも苦手なものがあったらしいな、とアレグーはどこかおかしくなった。

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