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おちんちんを取り戻せ  作者: 別次 孝
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村長代理アレグー その4

 仟魔長セーティクト一匹と、佰魔長ピドキサー八匹が倒された。


 最後に残っていた佰魔長ピドキサーが武器を捨て、脱兎のごとく逃げ出す。

 ミサキが振りまわす黒い魔剣により背中を切り裂かれるも、致命傷にはならなかったようである。


「ごめん、一匹逃がしちゃったよー」


 アレグーは慌てて、ぶるぶると首を振った。

 逃げられたのは、完全に腰が引けていて、退路を断つことができなかった村人たちの責任である。これだけの活躍をし、救世主ともいえるミサキを、責めるつもりはまったくない。


 ミサキが剣をおさめると、村の女たちが駆け寄って、口々に礼を言い始めた。それがひと段落すると、さきほど追い出してしまった謝罪をひたすらにくり返している。

 ミサキはさっきと同じ、あっけらかんとした感じで、いやいや、まあまあ、などと応じている。


(終わったな)


 アレグーは、思わず脱力してその場にへたり込んだ。緊張の糸が切れたせいか、左腕の痛みが増したような気がする。


 だが、アレグーには休んでいる暇はなかった。村長が昏倒したままである以上、村長代理の仕事が待っているのだ。

 あれだけの魔族を相手にして、被害は最小に食い止められた、と思っている。それでも、死者はゼロではない。永遠に失われたものもあるのだ。


「ミサキ! ひとつだけ、訊きたい」


「うにゅ?」


「どうして、はじめから白い聖剣で戦わなかったんだ? そうしていたら、村から追い出したりしないで済んだのに」


 ミサキが村に残っていてくれれば、死なずに済んだ者もいる、とは言わなかった。仟魔長セーティクトに夫を殺された妻は、臨月の腹を抱えたまま、起き上がることができずにいる。

すくなくとも、この夫婦に訪れた不幸は、防ぐことができたはずなのだ。


「だって、左側の剣しか抜けなかったからねー」


「え? ……左右で、色が決まっているのか?」


「そだよー。左は黒で、右は白。しかも、抜けばオートで魔術や聖法が発動するオマケつき。だから、コントロールのしようがないわけ、この短剣。まさに呪われた装備だよねー」


 ミサキの方も、ケイコがいなければ右側の剣が抜けたのにねー、とは言わなかった。


(たら、れば、には意味がないか)


 死んだ人間は、生き返らない。生き残った者のことを、考えなくてはいけない。


「これから、どうしたらいい、と思う?」


「それは、部外者であるおねーさんが、決めることじゃないよね?」


「うん、そうだな。……じゃあ、いつまでここにいてくれる?」


「夕ご飯を食べそこねたから、朝ご飯は食べてきたいかなー」


 わかった、とうなずいたアレグーは、村人たちの方に向きなおった。

 村の議題はひとつ。

 ここに残るか、よそに逃げるか。ゼロかイチか、白か黒か。そういう内容である。


 結論は、あっさりと出た。若者たちは逃げることに賛成したのである。老人たちも、一時的な避難だと言われて、しぶしぶ納得したようである。


 むしろ問題になったのは、逃げるタイミングの方であった。

 このまま朝が来たら出発するのか。それとも、準備の為に翌日の朝以降にするのか。

 八百人ぶんの食料をどうするのか、保存食だって量はそんなにないはずだ、子どもや年寄りは長い距離を歩けない、そもそもどこへ逃げるんだ――


 村人たちの議論は白熱した。

 白熱しすぎてしまった。見張りが、おろそかになるほどに。

 気がついた時、逃げたはずの佰魔長ピドキサーが戻ってきていた。

 アレグーが駆けつけたときには、魔族はひとりの女の子を腕にかかえこんでいた。


「そんな、ケイコが人質に……」


『さっきの女を出せぇ!』


 もちろん、ミサキのことだろう。

 さすがにこれ以上、ミサキに迷惑をかけるわけにはいかない。まして、再度侵入されたのは、完全に見張りの村人のミスなのである。


「ミサキはどこかに隠れていて……」


「はいはーい、おねーさんだよー。呼ばれて出てきたよー」


 アレグーの語尾が、能天気な声によってかき消される。


『おいメス、お前を殺せばオレは仟魔長セーティクトだ。このメスガキの命が惜しかったら、おとなしくオレに殺されるのだ。人間というのが、仲間をかばいあう、愚かで惰弱な種族であることは、すでにわかっている。このメスガキを見捨てられるはずはない』


「ビームサーベルを使うよー」

 その能天気な声が、ミサキの返事だった。

「ケイコちゃん、ごめんね。おねーさん、なるべく痛くないようにするから、ね?」


 ミサキが、右腰の短剣を引き抜くと、すぐに眩しいほどの白光を放ちはじめる。


『バ、バカな……このメスガキを、犠牲にする気か!』


「ビームサーベルって、知ってる?」

 続くミサキの発言は、完全に意味不明だった。

「ビームシールドの方が、技術としては新しいんだよー。それが使えるっていうことは、その前段階のビームサーベルが使えるのは当然だっていうのは、わかるよね?」


 佰魔長ピドキサーだけではない。アレグーも、その言動が理解できずに困惑した。


「ミサキ、ヴィクトリー、いっきまーす!」


 元気よく叫んだ少女が、前へ出る。そして、いささか遠い間合いで白い短剣を振りかぶる。


(あれでは、届かないだろう)


 そう思っていたアレグーは、直後に呆然とつぶやいた。

「剣が、伸び……!」


 ミサキの短剣が、長剣ロングソードなみの長さになっている。もちろん金属部分は変化しないから、伸びたのは白い部分だけで――


「……白い聖力だけで、剣の刃を形作っているのか!」

 理解したアレグーは、興奮して絶叫した。


 こんな技術は、冗談まじりの噂にしか聞いたことがない。少女の聖法コントロール能力は、いったいどうなっているのだろうか。

 ほぼ同時に佰魔長ピドキサーの方も事態を把握して、その攻撃をなんとか受けとめようとしたようである。だが、すでに遅いし、無意味だった。


「ビームサーベルは、ビーム装備じゃないと、防禦できないよー」


 聖力のみで構成された白い刃は、金属部分がない。だから佰魔長ピドキサーの金属斧を貫通し、ケイコの体ごと、魔族の体を深々と切り裂いた。


 当然のことであるが、人間固有の能力である聖法は、人体にはほぼ無害である。

 焼き切られた魔族だけがその場に倒れ、ケイコはびっくりした顔のまま、無傷でへたりこんだ。

 佰魔長ピドキサーが屍体になっているのを確認すると、ミサキがケイコを抱きしめる。


「ごめんね、ビリビリッとしたでしょ? 大丈夫かな?」


 まだ驚いたままのケイコは、丸い目のままで、こくこくとうなずいている。

 アレグーは、驚愕などというものを、飛び越えた感情をいだいていた。


(目の前の少女は、本当に人間なのか? もしや、神の使いか何かか?)


 そんなアレグーに、少女がささやきかけてきた。珍しく、深刻な顔をしている。


「ちょっといいかな、ね? さっきの技、前にちがう人に使ったら、失神して、三日くらい起き上がれなかったんだー」


 ありえないことではない、とアレグーは思う。

 薬も過ぎれば毒となる。いくら聖力が人間に無害だと言っても、あんな強い聖力を受けては、普通の人間には何かしらの異常が出てもおかしくない。


「だけど、ケイコちゃん、ぴんぴんしてるよねー。あの子、なにか特別な訓練でも受けてたの?」


「え? ……いや、そういう話は聞いたことがないが」


「じゃあケイコちゃん、聖法の才能があるのかもしれないよ、ね?」

 ミサキは、にこにこ顔に戻っている。


 どこか安堵してあいづちを返しながらも、アレグーは正直に訊いた。


「ミサキさま、このさいお願いしたい。朝までとおっしゃらずに、しばらくは避難に同行していただけないだろうか?」


「どしたの、急に? 別に、今まで通りタメ口でいいよ? おねーさん、部下の什魔長ジクアスと兵士の行方がわからないこの状況で、村人たちをほっぽり出すほど鬼畜じゃないよねー。 ただしおねーさんも妹探しの用事があるから、必要最低限だけだよ、ね?」

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