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おちんちんを取り戻せ  作者: 別次 孝
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村長代理アレグー その3

 ミサキの左手には黒い魔力の短剣、右手には白い聖力の短剣。


 しかも、並の剣ではない。

 黒い色はどこまでもどす黒く、万魔長マズレンクラスの魔力を放っている。

 一方の白い色もどこまでも透き通って白く、

「あそこまで白いのは、公国の高位の聖法術師でも、まず不可能だろう」

 と、アレグーが思わずつぶやいたほどの聖力を放っている。


 最高クラスの魔剣と、最高クラスの聖剣。

 それを同時に持つ者など、いるはずがない。


 その動くミステリアス、ミサキが、声高らかに宣言した。

佰魔長ピドキサーのみなさーん、いま、仟魔長セーティクトは弱ってますよー。下剋上のチャンスです、この機を逃す手はないですよー」


 周囲、特に魔族たちの周辺に、さっきとはちがう沈黙が満ちた。

 ミサキの口にしたことは嘘ではない。


 魔族には、世襲制とか、相続とか、血統とか、そういう概念は無いのだ。

 とにかく勝てばいい、という、完全に徹底した実力制なのである。


 部下は、いつでも上司の命を狙い、その座を奪おうとする。

 上司はいつでも、反逆的な部下を殺し、排除しようとする。

 魔族全員が、常に戦いの場に身を置いているのだ。


 だからこそ、人間と異なり、魔族特有の凄まじい個人戦闘能力が形成されるのだが、それだけに弱点もある。今回のように、責任者にあたる仟魔長セーティクトが倒されると、とたんに組織が破綻してしまうのだ。次の仟魔長セーティクトの座を狙って、内輪もめが起こってしまうのである。


 それでも、この仟魔長セーティクトは気転が利く魔族であったようで、ミサキの反逆の扇動を聞くやいなや、


『よし、こうしよう。この白黒双剣のメスを倒した佰魔長ピドキサーに、仟魔長セーティクトの座を譲ってやる。無条件でだ』

 と、すばやい保身を見せた。


 部下である佰魔長ピドキサーたちの目の色が、困惑から、欲望へと変わっていく。


「それはそれで戦いやすいから、まあいーけどね」


 ミサキの意味不明のつぶやきの意味は、すぐ分かった。

 仟魔長セーティクトの引退宣言に反応した佰魔長ピドキサーたちが、九匹全員集まってきたのだ。村を包囲する為に配置されていたやつも含めて、である。


「いまのうちに逃げといてねー」


 どこまでも呑気な、ミサキの声である。その声にハッとして、逃げ出した村娘もいたようだが、それはきわめて少数だった。

 多くの村人たちが残った理由は、おそらくアレグーと同じだったろう。


 ミサキはすでに仟魔長セーティクトに勝っていた。その十分の一の力を持つ佰魔長ピドキサーなんぞに、負ける道理がないというのが、当然の理由である。

 隠れた敵がいるかもしれない村の外に行くより、ミサキのそばにいた方が、どう考えても安全だというのが、ごく自然な判断だった。


「さすがに九匹は多いな。援護してやってくれ」


 アレグーの指示に、村の若者たちがうなずく。

 突然の引退宣言により、魔族の興味はミサキに集中している。しっかりと距離をとれば、背後や側面からの、効果的な援護が期待できるだろう。


 すでに、ミサキと魔族たちの戦闘は始まっていた。


 身の毛もよだつような叫び声をあげた、野獣のような佰魔長ピドキサーが、直線的に突撃をする。

 ミサキが左手の魔剣で攻撃を受け流すと、右手の聖剣を振り下ろす。

 聞き苦しい断末魔と共に、白い聖力で体を焼かれた佰魔長ピドキサーが、地面に転がった。

 すぐさま二匹目が襲いかかるが、〈黒で受け流し→白で致命傷〉の同じパターンで、地面に無様な姿をさらす結果となった。


 二匹の佰魔長ピドキサーが倒された所で、敵も実力差を悟ったらしい。

 我先に、という形から、ミサキを取り囲むように、と行動を変化させている。


 それに対してミサキが、意味不明の宣言をした。

「ビームシールド!」


 そのつぶやきとともに、短剣が放つ白い聖力が、ひときわ濃くなる。

 ミサキは、その白く輝く短剣の柄にある金環に指を入れて、くるりと剣全体を一回転させた。

 まるで、クレープ生地を焼き広げたときのように、白い円が空中に浮かびあがる。


「短剣から切り離された白い聖力が……その濃度が高いために……空中を漂っている?」


 アレグーは直感的に事実を理解したものの、それは初めて見る聖法の使い方だった。高位の聖法術師は、聖力を遠隔で使いこなせる、という噂をきいたことがあるが、どうやらこれはその類のものらしい。


 ミサキが、その白い円を、自分の右側に三個つくりあげる。

 うっかりその円に飛びこんだ佰魔長ピドキサーの一匹が、派手に顔を焼いて、悲鳴と共に白い煙を立ち昇らせた。


「なるほど、シールドというのはそういう意味か」

 アレグーは理解した。


 ミサキはそのビームシールドを量産して、上手に壁をつくると、敵に包囲をさせなかった。

 ミサキはおそろしいほど、戦い慣れしている。しかも、一対多の、集団戦においてだ。


 白い円は、十かぞえるくらいの間に消えてしまうようだ。だが、近接戦闘における十カウントというのは、相当長く感じるはずである。ちいさな戦場は、完全にミサキのコントロール下に置かれていた。


「こんなこともできるよー」


 にこにこ顔のミサキが、白い聖力でできた円を、黒い魔力の剣でつついた。

 直後に破裂音。『弾き』が発生した合図だ。


 聖力と魔力は、お互いに相殺されるが、その際に少なからず衝撃が発生する。

 『弾き』が起こるときの破裂音もその衝撃の一種であり、そしてその衝撃は、ぶつける聖力と魔力の強さに比例するのだ、というのは、アレグーも頭ではわかっていた。


 それにしたって程度問題である。

 強すぎる聖力に、強すぎる魔力をぶつけたら、一体どうなるか。


 その答えが、これである。

 雷が落ちたのではないか、と思われるような、かなりの爆音。

 それが、『弾き』発生時の破裂音を強力にしたものだ、とアレグーが気づいた時は、すでに耳鳴りがしていた。

 村人たちの中から悲鳴が上がり、子供が泣きはじめる声も聞こえてくる。

 離れている自分たちでさえ、このざまなのだから、ミサキの近くにいた魔族たちは――


「勝負あったな」


 ――予想通り、耳を押さえて全員がショック状態にあった。


 その隙をついて、ミサキが攻勢に転じる。

 白い短剣を右手に持ったまま、黒い短剣を左手から離して、振りまわしたのだ。

 アレグーが、あっと思ったときには、二匹の佰魔長ピドキサーが重傷をおっている。


「どうやって? ……ああ、そうか、たしかミサキは二本の剣をロープで繋いでいたな」


 ミサキは黒い剣を振りまわし、離れた魔族に対して的確に遠距離攻撃している。

 どうやら、こういう使いかたをする武器らしい。

 異国の武器に、モーニングスターとかフレイルなる、振りまわす武器があると聞いたが、あんな感じなのだろうか。

 つないでいるのが鎖でないので、耐久性に不安が……と思ったのだが、ロープ自体が、いつの間にか真っ白に輝いている。


(あのロープも、聖法武具なのか?)


 案の定、ロープを切ろうとした佰魔長ピドキサーの一匹が、逆に聖力に焼かれてダメージを受けた。


 左手の黒い魔剣で、『受け流し』をする。

 右手の白い聖剣で、『弾き』をする。

 包囲されそうになれば、白いシールドをつくる。

 距離をとれば、黒い魔剣を振りまわす。


 まさに、変幻自在である。

 最後になると、ミサキは剣から手を離してロープの半ばをつかみ、そのまま器用に振りまわして、二本の剣でミキサーのように回転攻撃をしてみせた。


 アレグーは、村人たちに指示を出すのも忘れて、その戦闘を見つめていた。

 可憐な少女であるミサキが、月夜に白い聖剣と黒い魔剣を振るう姿は、この世のものとは思えない美しさがあって、目が離せなくなっていたのだ。

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