プロローグ
あまり上品ではない内容があります。
お察しください。
目が覚めたら、女になっていた。
それに気づいた俺は、『これは夢だ』と思った。
そして、夢の原因も想像がついた。
昨夜、悪友から借りたエロいマンガを読んだせいだろう。
そいつがやたらと勧めてくるので読んだのだが、エロいマンガの内容は、
『女の子になってしまった男の主人公が、あんなことやこんなことをされてしまう』
まあ、そんな話だ。
ちなみに、読んで後悔した。性転換ネタの、どこがいいのかサッパリわからんかった。
たとい女の体になったとしても、心は男のままだ。
男に掘られるのはご免こうむりたい。
なんであいつは、あんなに勧めてきたのだろう。不思議だ。
そんなことを思い出している間も、この『夢』は続いていたらしい。
女の体になった俺に向かって、誰かが近づいてくる。
気配を察知して視線を動かした俺は、思わずギョッとした。
それは、奇妙な人間だった。
頭に大きなツノが生えていて、口には長いキバがあり、手には鋭いツメがある。
おまけに肌の色は、具合の悪そうな紫色だ。まるで魔物みたいな人間だ。
というか、そいつを人間と呼んでいいのか、わからん。
コスプレや特殊メイクの可能性もあるが、妙に出来が良くてかなりグロい。
まあ、細かいことを考えても仕方がない。
だってこれ、『夢』だもん。なんでもありだろ。
そんなことを考えてる間に、その魔物人間が、何かをブツブツと言った。
言ってる内容は聞きとれんが、あまりいい雰囲気じゃない。
すくなくとも、世界平和を願ってるわけでは無さそうだ。
ちょっと迷ってから、その初対面の魔物人間に、声をかけようとした矢先のこと。
ずるり、と魔物人間の背中から、何かが飛び出してきた。
色はブラウンピンク。太さはソーセージくらい。なんだかウニウニと動いていて、すげぇヌルヌルとテカっている。
どうみても触手です。本当にありがとうございました。
現実には存在しない、その触手を目にして、俺は『これはやっぱり夢だ』と確信した。
しかも、この夢の原因も想像がついた。
一昨夜、同じ悪友から借りたエロいアニメを見たせいだろう。
そいつがやたらと勧めてくるので見たのだが、エロいアニメの内容は、
『淫獣と戦う主人公の女の子が、触手にあんなことやこんなことをされてしまう』
まあ、そんな話だ。
ちなみに、見て後悔した。触手ネタの、どこがいいのかサッパリわからんかった。
映像内で動く触手が、リアルすぎてグロかった。
ヘビやナメクジみたいに、足の無い生物が苦手な俺には、正直きついだけだった。
なんであいつは、あんなに勧めてきたのだろう。これまた不思議だ。
そんなことを思い出している間も、この『夢』はやっぱり続いていたらしい。
というか、ヤバイ。触手ヤバイ。まじでヤバイよ、マジヤバイ。
まずキモイ。もうキモイなんてもんじゃない。超キモイ。
限界だ。もう、起きよう。
決心する。
性転換ネタも、触手ネタもお断りだ。
だが、夢から醒めるのって、どうしたらいいんだ?
自分が夢を見てる、って自覚している状態から、どうすればいいんだっけ?
なんだ? 自分のほっぺたでも、自分で叩いてみればいいのか?
俺は困惑しながらも、自分の手で自分を叩こうとして、そして気づいた。
両手両足が、拘束されている。
ジャラジャラとした鎖と拘束具を目にして、俺は『夢以外の何物でもない』と宣言した。
残念なことに、この夢の原因すらも想像がついた。
二日前の夜、やっぱり同じ悪友から借りたエロいゲームをプレイしたせいだろう。
そいつがやたらと勧めてくるのでプレイしたのだが、エロいゲームの内容は
『サディストの主人公が、女の子たちを監禁して調教凌辱して……』
って! そんなことを思い出してる場合じゃない!
触手近い! 近すぎる!
キモイから! マジでキモイから!
それに例の魔物人間の表情も最悪にキモイ!
とにかく、このまま何とかするしかない!
夢から醒めるのは後回しだ。
とにかく回避だ。この最悪の状況から回避するしかない。
性転換も、触手も、調教凌辱も断固拒否!
闇雲に、体を動かす。
拘束されているせいか、手首と足首に鈍い痛みが走る。
だが、懸命に腕を伸ばしたその時、
腰のあたりで、何かが右手に触れた。
ほとんど反射的にそれを掴んで、振りまわす。
魔物人間が、何かを叫んだようだ。ありがたいことに、俺から離れていく。
首を動かして、手にしたものを見た。
剣だ。
刃が両側にあるから、刀では無いと判断できる。
もちろん、この状況下でそんなことは関係ない。
その金属製の武器を、手足を拘束する鎖めがけて叩きつける。どうやらうまくいったようで、二、三度試すと鎖は切れていった。
魔物人間が奇妙な叫び声を発しながら、再び俺の方へと向かってくる。
俺は最後に残った右足の鎖を叩き切ると、すべての拘束を断ち切り、すばやくバックステッポゥして、化け物からカカッと距離をとる。
不慣れな剣を右手で握りながら、無意識のうちに左手を動かすと、さっきと同じような感触があった。
つまり、二本目の剣。
ラッキー! 喜びのあまり、アヘ顔になりそうなのをこらえた。なんという幸運だ!
左手でも剣を抜き、両手に二本の剣を握った状態で、左手を前に、右手を上に構える。
二刀流である。
これでも俺は剣道二段だ。刀じゃなくて、剣なのが残念だが、それでも十分だ。
魔物人間が、触手を伸ばしてくる。
それを左手の剣であしらいながら、右手の剣で切り落とす。
敵の攻撃はくりかえし三回おこなわれ、それらをすべて撃退していく。
一連の攻撃が終わったとき、合計五本の触手が切り落とされていた。
魔物人間が、奇怪な声を発する。
言っている内容はわからんが、くやしそうなのは見て取れた。
ざまあみろ。
これが、俺が道場で教わっている二地一流なのだ。
二地一流は、二刀流を使う流派だ。
もちろん、稽古だって試合だって、竹刀二本でやっている。
他校と練習試合をするたびに、
「おい、あれ見ろよ。竹刀二本持ってるぜ。厨二病か? マンガかアニメの見過ぎじゃね?」
と、笑いものになる。
ちげぇ。ちげぇよ。もともと、こういう流派なんだよ。
俺の二刀流をさんざん笑いものにする癖に、試合で俺に負けると、
「いや、二刀流とか、普段から相手をしてなくて、慣れてないだけだから」
とか言いわけしやがって、自分の実力不足を認めやがらねえ。
ああ、ちくしょう、なんか思い出してムカついてきたぞ。
この怒りは、目の前の良くわからん触手魔物人間にぶつけてやろうか。
まあ、どうせ『夢』だしな。
女体化だか、異世界だか、魔物だかよくわからんが、
好き勝手に暴れても、そのうちなんとかなるだろうさ。
週二回くらいのペースで更新できれば、と。