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着鎧甲冑ドラッヘンファイヤー  作者: オリーブドラブ
第三話 束の間の休息
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おれはドラッヘンパイヤー

 世に云う、水着の美女達とのひと時。

 その開幕の瞬間は、ジェットストリームアタックで海中に沈められる、というなかなか悲惨なものだった。ビーチから、足が海底に着かない場所まで吹っ飛ばされるとは……。

「ゴボ、ガゴボゴボッ……!」

 俺の全身は潮の流れと救芽井・矢村・久水の三人にもみくちゃにされ、ほとんど身動きが取れない状態にある。この状況、世間一般の目から見れば、うらやましいと思える節も、まぁあるにはあるのかも知れない。

 ――だが、そのうらやましい状況ゆえに殺されそうになっている、という事実に直面しても、同じ考えを持っていられるのだろうか。……とりあえず、俺はノーと言っておく。


「さぁ龍太様、パラソルまで戻りましょうっ! そしてワタクシの全身にくまなくサンオイルをっ!」

「ちょっ……!? あなた龍太君に何させるつもりよっ!? まずは婚約者たる私を通して貰わなきゃっ!」

「マネージャーかあんたは!? そ、それよりど、どうや、龍太……? この水着、かわえぇなって思って選んだんやけど、おかしくないやろか……?」

 三人とも水面上で何か騒いでるけども! 現在進行形で海に沈められてる俺にはこれっぽっちも聞こえてないからね! つーかこのままじゃ、明日の朝刊には高校生の溺死体として華々しくデビューしちゃうからね!?


 彼女達は俺の腕を引っ張ったり胴体を抱き寄せたりしようとするばかりで、水没寸前の俺を「引き上げよう」とはしていなかった。自力で水面まで上がろうにも、約二名によるおっぱいバリケードにそのルートを封鎖され、身動きが取れない。


「ワタクシが先ざます!」

「私が先よっ!」

「アタシが先やっ!」

 そうこうしている間でも、彼女達は人の瀬戸際も知らないで好き放題に騒いでいる。ぐほっ、もう、息がッ……!


 ――こうなったら、やるしかねぇ……! 仮にも変身ヒーローがやっていいことじゃないかも知れないが……背に腹は代えられんッ!


 俺は女性型バリケード三人衆に弄ばれながら、海パンに忍ばせていた「腕輪型着鎧装置」を右腕にセットする。……我ながら、とんでもない場所に仕込んだものだ。

 やり過ぎ感は否めないが……「美女に囲まれて溺死」なんて天国に逝っても怨まれそうな死に方なんぞ御免被る!


「びゃぶぶぁい、びゃっびゅう……!」

 そして、俺は海中でも音声が伝わるように、腕輪に口元を近付けて精一杯叫び――紅の光、それが作り出すベールに包まれた。


「えっ……!?」

「な、なんやっ!?」

「これって、着鎧の発光――きゃああぁああっ!?」


 次いで、俺は真紅のヒーロースーツを纏いながら、酸素の在りかを求めて水を蹴る。もちろん全力で泳ごうとしたら、余波で三人を吹っ飛ばしかねない。

 それに着鎧した今なら、ぷにぷに角に仕込まれた空気が、いわゆる酸素ボンベとして働いてくれる。おかげで、水の中だというのに随分と生き返った気持ちになった。

 ただ、このままボケッとしてたらまた水に沈められるかも知れん。三人が呆気に取られてる今のうちに、水面まで浮上させて頂くッ!


 俺は水を「蹴る」というより「ゆっくりと踏む」ぐらいの気持ちで加減し、水上を目指した。

 ――が、それでも「救済の超機龍」の性能というのは凄まじいものらしい。普段泳ぐ時の力の三割も出していないというのに、青い空と照り付ける陽射しを拝めた瞬間、激しい水しぶきを上げてしまった。


「ぷはっ――も、もぉ龍太ぁ! いくらなんでも着鎧することないや……ろ……」

「あ、あぁすまん、やり過ぎた。――でも、お前らだって俺を水没させかけたんだからおあいこ……ん?」

 それをモロにぶっかけられた矢村から、予想通りのブーイングを喰らってしまった――が、どこか様子がおかしい。


 彼女は何かに気づき、次いで驚愕したかのように目を見開く。そして……みるみるうちにその愛らしい顔は、憤怒の桃色へと染まっていった。

 な、なんだ……俺が一体何を……?


 その変貌の意味するところを求めて、俺は視線を回し、彼女と同じく水しぶきを受けた救芽井と久水を見遣る。

 そして……目を疑った。


 ない。


 ないのだ。


 胸じゃなく、水着が。


「ぷひゃあっ! ……もー、龍太君ったら! こんなことに着鎧甲冑を使っちゃダメなんだから! 帰ったらまたお説教よ!」

「ぱはぁっ……。りゅ龍太様、急にどうされまして? 人工呼吸をして頂くにはまだ早いざましょ!」

 当人達は気づいていない。いや、気づかない方がいいのか?

 ……ダメだ。これはきっと、気づかせるべきだろう。彼女達自身の名誉に賭けて。


 水の滴る、つややかな曲線を描いた美の象徴。蒼く澄み渡る海に漂う、双丘のユートピア。

 両者ともそれらが全て、生まれた姿のまま――無防備に外界へと解放されている事実に。


「龍太君、なにポケッとして――え?」

「そ、それはっ……!?」


 ――だが、俺が自ら手を下す必要はなかったらしい。彼女達は、彼女達だけの力で、求められた答えを導き出してくれたようだ。


 俺のある部分に視線が集中し、次の瞬間に自身の胸元へ目を向ける。そして現実に直面し、条件反射で両腕ガード。この間、わずか二秒。

 それまで赤裸々にさらけ出されていた野郎共のエターナルドリームは、今や噴火秒読み状態の活火山のような顔色の当人達により、完全封鎖されてしまった。全力で自分自身を抱きしめるようにして、胸を隠そうとしている彼女達の頑張りは、双丘そのものが寄せ上げられるという痛烈な二次災害を誘発させてしまっているようだが。


「あ、あ、あっ……!」

 救芽井はこちらを見つめながら、自分のプライバシー全てを暴かれてしまったかの如く、顔を紅に染めて目に涙を貯めている。矢村だけは無事なようだったが、三人とも表情から訴えている雰囲気は近しい。


「な、な、なっ……! なんという、なんということだ! こっ、これが稀有なる運命をその身へ引き寄せ、全ての魂を救済する前人未踏の救世主……『救済の超巨乳(ドラッヘンパイヤー)』……! ――ひぎびゃああッ!」

「……あなたの魂だけは永遠に地獄をさ迷うべき……」

 なんか浜辺から悍ましい断末魔が聞こえたような……。


 い、いやそれよりも、ちょっ……ちょっと待って頂きたい。一体何がどうなってやがる!?

 俺はただ、着鎧して水面まで浮上したってだけなんだぞ! それがどうしてこんなトンデモ展開にッ……!?


「い、今はまだ、だ、ダメぇぇえぇえーっ!」

「こ、心の準備がまだ、まだ……! い、いけませんわぁぁぁあああーっ!」

「アタシだけ差し置くなんて……! りゅ、龍太の……龍太のバカぁぁぁぁーっ!」


 ――だが、現実とは非情なもの。弁明はおろか、原因の探求すら俺には許されていない。

 女性陣三人衆の、怒りと恥じらいの鉄拳。それは――着鎧甲冑の装甲を通し、内部の人間を直に破壊する、真の必殺兵器なのだ。

 俺は「救済の超機龍」に着鎧した状態のまま彼女達に殴り飛ばされ、再び激しく宙を舞う。……あの三人をコンペティションに出した方が早くないかね甲侍郎さん。


「あら、劇的ホームランね!」

 空高く舞い上がる俺を見上げ、所長さんはまるで他人事であるかのように笑っている。……Sだ。絶対にSだ!


 ――しかし、結局俺には何の非があったのだろう? わけもなく殴る彼女達ではないはずだが……?


 大空をノーロープバンジーで滑空しつつ、俺は彼女達がらしくない暴力に訴えた原因を思案する。しかし、俺一人で考えたところで、正しい答えなど出てくるはずがない。


 ――それに、全ては状況が教えてくれたのだから。


 俺が宙を舞い、(メンタル的に)散り行く中。視界に映る緑と茶色の物体が、俺に真実を教えてくれたのだ。

 その二つは、俺の頭から離れていくようにヒラヒラと潮風に流され、持ち主の元へと帰還していく。


 ……なるほどね。引っ掛かってたのか。俺のぷにぷに角に……。


 水上に上がる瞬間、俺の頭上を圧迫していた、双丘のバリケード。その上を目指して強引に浮上したがために、角が二人のビキニの隙間に引っ掛かり、両者の水着を奪取してしまっていたわけか。

 つまり、端から見れば「救済の超機龍」は、自分の角から水着を二つも吊していたことになる。こんなヒーローあってたまるか……。


 ――しかし、謎は全て解けた。自分が助かるためとはいえ、彼女達にはちょっと悪いことしたな……ん?


「…………」


 ……どうやら、俺がこのまま砂浜にドボンして終わり、とは行かないらしい。このままだと、四郷がくつろいでるパラソルに突っ込んでしまう!


「おい、早く逃げ――」

「……そんなシチュエーションで言われても、シュールなだけ……」

 しかし、彼女は他人事のように、読んでいる本から片時も目を離していない。空中にいる俺からも見えるくらいの角度にいる彼女は、近くでケツを突き出す格好で撃沈している茂さんを尻目に、読書に集中していた。


 ――だが、突っ込んで来る俺に対して、何の対処も取らないわけでもないらしい。彼女は本に意識を向けたまま、スク水姿の状態から背面のあの巨大マニピュレーターを出現させる。……あの格好からでも出せるのか!


 華奢な少女から出て来た――とは到底思えないような、図太い機械の腕。一本だけこちらに伸びて来るソレは、空中から迫る俺に向けて、大きく掌を開くような動きを見せた。

 ……おぉ、受け止めてくれるってのか! やっぱり心根は優しい娘――


「ボゲラァッ!?」


 ――だと思える日がいつか来ると、俺は信じたい。


 巨大マニピュレーターが繰り出す、手の甲からの痛烈ビンタ。その一撃で迎撃されてしまった俺の身体は、奇しくも茂さんと全く同じポーズで彼の隣に並ぶ運命に導かれていた。

 この瞬間、ダメージ過多と判断され、着鎧が強制解除されたのは言うまでもない。俺の傷心を象徴するかの如く、ね……フッ。



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