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ヒーローの終わり

 少女の目に映る世界が、町が、燃えている。

 焼け爛れた人々の苦悶の叫びだけが、この世界に轟いていた。


 夜の帳は降りているにもかかわらず、彼女を取り巻くこの周辺だけは、昼間のように明るい。まるで、この場だけが世界の理から外れてしまっているかのように。


「……」


 彼女は、何一つ喋らない。無言を貫き、もう一人の小柄な少女を抱いたまま、虚ろな瞳にこの世界を映していた。

 その抱かれている少女もまた、目を見開いたまま人形のように固まっている。だが、死を迎えたわけではない。ただ、「壊れて」いるだけなのだ。


 そんな彼女達を囲んでいるのは、瓦礫と死体。人間も建物も、全て一様に、粉々に砕かれていた。

 少女達の周辺に、家屋の残骸と共に転がっている肉片の数々は、全て黒い消し炭と化している。生前の肌の色など、判別出来ない程に。


 だが、少女達は知っている。この瓦礫の世界が、どのような街だったか。目の前に落ちた肉片が、どのような人々の成れの果てなのか。

 ――この国が、誰に滅ぼされたのか。


「……凱樹(がいき)


 今にも消え入りそうな声で、少女は誰にも届かない一言を呟く。もう一人の少女を抱く腕に、僅かな力を込めて。

 そして、彼女の死人のような眼は、紅蓮の炎の先に見える巨大な存在へと移された。


 そこに立っているのは――人を踏み潰し、焼き尽くし、拳を振るう異形の姿。

 形容するならば、「巨人」という言葉が相応しいであろうその異様な影は、自らを囲う炎の中で、踊るように全てを蹂躙している。

 怒り、喜び、そうした感情の数々が渦巻き、その動きに現れているようであった。後ろめたさなど、微塵もない。


 そう。巨人は、自らの行為に何一つ疑問を抱いていない。彼にとっては、自分自身こそが揺るぎない「正義」なのだから。


「……鮎子(あゆこ)


 そんな巨人の在り様を目の当たりにして、少女はさらに掠れた言葉を零すと、静かに視線を落とした。その先には、自らの腕の中で目を開いたまま動かない、例の少女が居る。

 彼女は、その小柄な娘に掛けられていた眼鏡を撫でると、啜り泣くような声で囁く。


「……ごめんね? お姉ちゃん、何にも出来なくて。あなたのこと、助けてあげられなくて。ごめんね。ごめんね」


 謝罪の言葉は、そのまま呪文のように繰り返された。

 夜が明け、火が消え、人々の叫びが止まるまで。巨人が勝利を、確信するまで……。



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