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平和な世界  作者: タフボーイ
第四章
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第七十話

 美咲は一つの部屋に案内された。

 そこは使用人や兵士の部屋らしく、家具は簡素なベッドと小さいタンスのみだった。

 壁にはクローゼットが設えてあり、窓からは日光が注いでいる。


「陛下の謁見が終わり次第、お呼びします」


 そう言い残して、兵士は扉を閉めた。

 これから恭輔とレイブンを部屋に案内するのだろう。


「兵士の仕事って警備だけじゃないんだ」


 廊下の足音が聞こえなくなると、大きくため息をついた。

 ベッドに腰掛けて天井を仰ぐ。


 いつ以来だろうか。

 最近は歩き詰めだったので、ゆっくりと休んだ覚えがない。

 天井を仰いだまま、ベッドに全身を預ける。


 体が沈み込み、疲れが癒されていく。

 ゆっくりと瞼を閉じて、息を吐き出した。

 美咲の意識はそこで途切れた。



 ☆★☆★☆★



「――さま、起きて下さい」


「んっ……」


 肩を揺すられ、美咲は目を開ける。

 目の前には若いメイドが立っていた。


「私、寝ちゃったんだ」


 美咲は目を擦りながら、窓に視線を向けた。

 空は紫色に染まり、城下町には明かりが灯っている。


「美咲様、陛下が食堂に来るようにと」


「あ、はい」


 美咲は手ぐしで髪を整えると、メイドに続いて部屋を出た。

 部屋の外には恭輔とレイブンの姿があった。


 恭輔も寝ていたのか、眠そうな顔をしている。

 反対に、レイブンは身だしなみをしっかりと整えていた。

 相手が国王なのだから当然かもしれない。


「それでは、ご案内します」


 メイドは三人揃ったことを確認し、口を開いた。

 美咲達は先導されながら、食堂に向かう。


 突き当りを右に曲がり、今度は左に曲がる。

 その後も右へ左へ何度か曲がり、ようやく扉の前に辿り着いた。

 案内されなければ、迷っていただろう。

 メイドが扉をノックし、押し開く。


「おお、ゆっくり休めたか?」


 長いテーブルを挟み、正面の椅子に座っていた父親が声をかけてきた。

 美咲は返事をして、食堂内を見渡した。


 王族の食堂というだけあり、豪華な造りだった。

 天井には複数のシャンデリアが吊るされており、壁には初代国王らしき古い絵が飾ってある。

 食堂中央の壁には暖炉があり、音を立てて燃えている。


「そんな所に立ってないで、座りなさい」


 その言葉で、三人のメイドが国王の近くにある椅子を引いた。

 美咲は父の右斜め前に座り、向かい側にレイブン、その隣に恭輔が座る。

 国王はテーブルに肘を突き、手を組んだ。


「さて、何から話そうか?」


「聞きたいことはたくさんあるけど、先に私がこの世界に来てからのこと話しておくね」


 そう前置きをして、美咲は今までのことを話し始めた。


 現代で魔王軍に襲われたこと。

 恭輔とレイブンに出会ったこと。

 魔王城に行き、レイムの目的を聞いたことまで伝えた。



「そうか、義母さんがレギノスに……」


 父は額に皺を寄せ、テーブルの一点を見つめている。

 その言葉を聞いて、美咲は何かを思い出したように視線を巡らせた。


「お母さんはどこにいるの?」


 城に入ってから一度も目にしていない母親。

 考えたくもない答えが頭をよぎる。

 まさか会うことができないのではないか。


 それを否定するかのように、父は微笑んで答えた。


「部屋で寝ているよ、こっちに来てから大変でね」


「大変?」


 美咲は語尾をそのまま繰り返した。

 父は頷き、それに答える。


「城に結界が張られているのは知ってるね?」


「うん、魔族が入れないようにしてるんだよね?」


「その結界を造っているのが美代子、美咲の母親なんだ」


 レイムが厄介だと言っていた結界。

 城を護るための要を担っているのは母親だったようだ。


「じゃあ、お父さんとお母さんは国を護るために、この世界に来たの?」


「ああ、国を助けて欲しいと義母さんに言われたんだよ」


 銀行員の父が一日で国を治める王になるとは。

 信じられない気持ちが強かったが、目の前には王冠を被った父親がいる。


 美咲が頭の整理をしている間、父は恭輔とレイブンに顔を向けた。

 自然に恭輔の背筋が伸びる。


「ありがとう、美咲を護ってくれて感謝しているよ」


「お褒めに与り、光栄です」


「そんなに畏まらなくていいよ、君達は娘の友人なんだからね」


 優しく微笑む国王。

 その笑顔だけでも人を惹き付けるものがある。


 国王は部屋の隅に控えているメイドに手で合図をした。

 メイドは頭を下げて、部屋から出ていった。


「さて、残りの話は食事をしながら話そう」


 その言葉をきっかけに、メイドが料理をワゴンに載せて運んできた。

 豪勢な料理が長いテーブルに並べられていく。


「今日は料理長に頼んで、腕に縒りを掛けて作ってもらったんだ」


 嬉しそうな父親を見て、美咲も自然と笑顔になる。

 娘と会えて相当嬉しいのだろう。


 父のグラスにはワインが注がれていく。

 そのまま恭輔とレイブンのグラスにもワインが満たされた。


「ちょ、ちょっと待って!」


 何事かと、その場にいた全員の視線が美咲に集まった。

 美咲の視線は恭輔に向けられる。


「恭輔って何歳だっけ?」


「17歳だが?」


 だからどうした?といった表情だ。

 美咲はテーブルに両手を突いて、身を乗り出した。


「未成年がワイン飲んだらダメでしょ?」


「あー、そのことか」


 父親は理解したように、何度も頷いている。

 不思議に思い、美咲は首を傾げる。


「この世界では15歳で成人として認められるんだ、だから美咲も飲んで構わないよ」


 構わないと言われても、一度も飲んだことがない美咲には抵抗がある。

 小さい頃は厳格な祖父母の元で育てられたので、しつけが厳しかった。

 とは言っても、祖父は美咲に対して大甘だったが。

 兄との二人暮らしをしてからは、飲みたいと思うことがなかった。


「私は水で結構です」


 ソムリエがワインを注ごうとしたので、きっぱりと断る。

 小さく頭を下げて、ソムリエはワゴンの上の水をグラスに注ぐ。


 気が付くと、テーブルの上には料理が綺麗に並べてあった。

 メインのステーキに始まり、ソテー、スープ、サラダなど美味しそうな料理の数々。

 それに加えて、目を輝かせている恭輔が視界に入った。


「それでは、頂こうか?」


 国王の号令で、待ってましたと言わんばかりに恭輔ががっつく。

 その光景にメイド達は目を丸くしている。


 それを横目で眺めて、レイブンはお馴染みの呆れたようなため息をついた。

 ワインを口に運び、ナイフとフォークを手にする。


 二人の様子を一通り眺めて、美咲は王族として初めての食事を始めた。


美咲の家族に関する設定は一通り書いたつもりなので、何か不明なことがあればコメント下さい。

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