第五話
お気づきの方もいらっしゃると思いますが、第四話が第七話となっていました。混乱した方々、申し訳ありませんでした。
「うん!すごい美味しいです!」
店の主人に店内に入れてもらった美咲は木製の椅子に座り、
嬉しそうにケーキを頬張っている。
「そうかい?店で作ってる自慢のケーキなんだよ」
主人は誇らしげに笑っている。
{まったく、余計なことをするなと言ったのに}
(まぁ、結果的に良いことしたんだからいいでしょ?)
{・・・}
美咲はあっというまにケーキを平らげてしまった。
「ごちそうさまでした、ホントにおいしかったです!」
「はは、あんなに美味しそうに食べてくれたのは君が初めてだよ」
「あ、あはは・・・」
そんなにがっついていたのだろうかと思うと、美咲は恥ずかしくなってしまった。
「でも、なんでケーキ屋さんに酔った人が来たんですか?」
美咲は話を逸らそうと、口を開いた。
「いや、うちはケーキ屋ではなくカフェなんだよ。
経営が苦しくなってきたから、お酒も始めたんだ」
主人の表情が少し曇ったように、美咲には見えた。
「なにかあったんですか?」
「おや、君はこの街の人ではないのかい?」
「はい、なのでこの辺のことがよくわからなくて・・・」
「この街はね、漁業で有名な街だったんだ」
主人は少しうつむき気味に話し始めた。
「でも、魔王軍のレギノスって奴が船を全部壊していったんだ」
「レギノス!?」
美咲の祖母を襲ったあの男だ。
「魔王の命令で船を壊しに来たんだ。
船は戦いの道具にもなる、反乱を抑えるためにもあってはいけないってね」
「そんな・・・」
「さっきの酔っ払いは漁師だったんだが、船が壊されて仕事が無くなってしまった。
だからやけ酒をしているのさ」
「そうだったんですか、それも知らないで私ひどいことを・・・」
「気にすることは無いさ。
そして、船が壊された影響で店に客もめっきり来なくなってしまったんだ」
「そうですか・・・」
話し終わると主人はため息をついた。
「そういえばまだ名前を聞いていなかったね」
主人は思い出したように、話を切り出した。
「あ、美咲といいます」
「美咲?変わった名前だね」
「そ、そうですか?」
「あれ、でも街はずれに似たような名前の人が住んでいたな」
「街はずれですか?」
「ああ、なんで街に住まないかは知らないけどね。
会いに行くなら街を出て、北に行けば家があるはずだよ」
「ありがとうございます、行ってみます」
もしかしたら自分の知り合いかもしれない。
とりあえず行ってみようと、席を立った。
「またいつでもおいで、ケーキを用意して待ってるからね」
「はい、ケーキごちそうさまでした」
「気をつけて行くんだよ」
見送る主人に手を振りながら、美咲は店をあとにした。