第五十六話
空が少しだけ青みを帯び始めた時に美咲達は出発した。
町まであと少しだということを村人から聞いたからだ。
早朝なら魔物に襲われることが少ないというのも理由のひとつだ。
「さすがにみんな疲れてますね」
美咲は後ろを歩いている人々を振り返りながら言った。
一日中歩き続けたことと慣れない野宿で顔に疲れが窺える。
中には薪を載せていた台車に座って移動している者もいる。
「まぁ仕方ないさ、あの集落から出ることは滅多にないだろうからね」
レイブンは疲れを全く感じさせない軽やかな足取りだった。
恭輔は周囲に神経を集中させているようで、慎重に歩いている。
「もう少しですよ、頑張ってください!」
美咲は元気づけるために声をかける。
その声に顔を上げた人々は周りと声をかけ合い、少しずつ顔に覇気が戻り始めた。
朝靄のかかる中、町を目指して歩き続けた。
☆★☆★☆★
「着いたー!」
美咲は町に足を踏み入れて、体を伸ばした。
集落の人々も長い旅路を終え、安堵の声を漏らした。
「思っていたよりも大きい町だな」
恭輔は町中に視線を巡らせた。
海に面した町は活気に満ちていた。
交易が盛んなのか、小舟に商品を載せたまま商売をしている者が多くみられる。
建物も立派な造りのものが多いようだ。
大勢で訪れたせいか、美咲達は町の人々の注目の的になっている。
「でも、これからどうすればいいのかな?」
美咲は町民の視線を気にすることもなく、疑問を投げかけた。
集落に住むことができなくなってしまった以上は、この町に移住するしかない。
しかし、この大人数では受け入れてくれるかさえわからない。
その問に答えたのは集落の長老だった。
「私に任せなさい、この町の町長とは知り合いだからね」
「それなら僕達も付いていった方がいいね」
レイブンは美咲に顔を向けながら、恭輔の肩を叩いた。
ゆっくり休めると思っていた恭輔はレイブンを睨みつけた。
見張りでの寝不足に加えて、神経を研ぎ澄ませて歩いていたせいもあった。
そんな恭輔を尻目に話は進んでいく。
「確かに私達もいたほうが話は進めやすいですね」
集落の人々は憑りつかれていたため、事情を詳しく知らない。
解決した美咲達がいたほうが話が早いのだ。
正確に言えばレイブンがいたほうが話が早い、なのだが。
「じゃあ行きましょうか」
美咲のダメ押しで長老と美咲・恭輔・レイブンの四人は町長の家に向かうことになった。